川村渇真の「知性の泉」

設計内容の把握


設計内容が複雑なほど把握技術が重要に

 コンピュータ技術の進歩によって、いろいろな製品が高機能になっている。製品の中にコンピュータを入れるだけでなく、設計自体にもコンピュータを活用することで、より高い機能を実現するのが容易になったためだ。
 どんな製品でも、機能が増えると中身が複雑になる。また、分野の異なる技術を組み合わせる機会も増加する。これらが総合して、製品全体での複雑さが高まる。内容が複雑になるほど指数的に設計の難しさは増し、成功の確率は下がってしまう。
 このような状況では、設計の内容を把握する技術が求められる。構成している各部の整合性は確保されているか、全体の構成は妥当か、安全確保やリカバリー機能が適切に組み込まれているかなど、いろいろな視点から設計内容を把握する必要がある。そうしなければ、設計の質を高く保てないからだ。
 まともな設計工程を採用している組織なら、設計した内容を別な人がレビューする。レビューによって設計の質を高めるのは、当然のことだからだ。設計内容が複雑な場合、きちんと把握できなければ、まともなレビューは難しい。レビューの質を上げるのにも、設計内容の把握が必須である。
 どの程度の把握技術が必要かは、対象となる設計内容の複雑さで決まる。内容が複雑なほど、より細かな把握技術が求められる。テクノロジーが進歩するほど複雑さは増すので、把握技術は今後ますます必要となる。それも、時間が経過するほど、よりレベルの高い把握技術がだ。

把握すべき項目を対象ごとに明確化する

 設計内容を把握すると言っても、対象となる分野によって中身は大きく異なる。機械装置、電子装置、ソフトウェアなど、対象にあった項目を見付けなければならない。とりあえず一般論として、把握すべき主な内容を挙げると以下のようになる。

設計で把握すべき主な内容
・全体の構成:部分の構成方式や整合性、必要な機能の過不足など
・部分の関連:構成する部分間の関連、関連の度合いや接続方法など
・補助機能の組み込み方:各種検査、エラー処理、各種記録など
・代表的な性質:信頼性、耐久性、安全性、単純性、柔軟性など
・使い勝手:機能と操作の関連、状態表示、操作容易性など
・技術以外:作業手順、承認方法、評価方法など

このように大まかな分類として表現するなら、たいていの設計物に当てはまる。これを参考にしながら、実際の設計対象に適応して考え、より具体的な把握項目を求める。
 挙げた項目を見て分かるように、幅広い視点で選んであるし、技術以外の項目も含まれる。その結果、設計で把握しなければならない項目はかなり多いが、一部を除外することはできない。該当する項目の全部をある程度のレベルで満たさなければ、安心して販売できる製品には仕上がらないからだ。それに、設計する側の不安も消えない。もし手を抜くと、最終的にはクレームとして表面化し、製品や組織の評判を落す。長い目で考えると、挙げた項目を良くする形で設計するのが一番なのだ。

把握しやすい設計手法を採用する

 設計内容を把握するためには、把握しやすい形で設計しなければならない。そのため、把握に適した設計手法を選ぶことになる。幸いなことに、把握しやすい設計手法は、進歩した手法のことが多い。設計の対象が何でも、新しい手法やツールとして登場する以上、以前よりも使いやすく効率的な点をウリにするからだ。
 先進的な設計手法を用いる際の注意点は、大きく分けて2つある。1つは設計者に関わる問題で、新しい手法を使いこなせなければならない。手法によっては難しく、基本的な概念からの理解が求められる。ソフトウェアの最近の例では、オブジェクト指向が該当する。もう1つは、設計手法を実現するツールの問題だ。ツールが新しいほど、実際の現場でもまれていないので、完成度が低くて使いにくい場合が多い。また、ソフトウェアで実現したツールだと、バグが多くて使いものにならないこともあり得る。実績の少ないツールを使う場合は、最低でも何例かで利用された後のほうが安心だ。もし待てないなら、小さな設計物で実力を試す必要がある。
 一般に設計手法やツールを選ぶとき、設計内容の把握しやすさという視点を考慮していない。しかし、設計内容を本当に良くしたいなら、非常に重要な検討点である。把握しやすさを重視して手法やツールを選ぶと、実際に効果のあるものを見付けやすい。
 もう1つ、手法やツールを利用する際にも、把握のしやすさを考慮する。どのように用いたら設計内容が把握できるか、そんな視点で使い方を検討してみるとよい。そうすれば、より上手な活用方法を見付けられるはずだ。把握しやすい使い方は、設計者自身が設計内容を理解しやすいことにつながり、設計ミスを発見しやすい。もちろんレビューの質も向上する。
 つまり、設計内容を把握する視点は、設計手法やツールの選び方から、効果的な活用方法まで幅広く役立つ。設計内容を良くするだけでなく、設計環境の整備にも貢献する。
 新しい設計手法は、把握技術を大幅に向上させる。しかし、それができない場合もある。その際には基本に立ち返り、設計方法を細かく改良することで、把握しやすい方法を見付ける。このような方法での改良も、把握しやすさを向上するほど設計の質が上がる。

把握する項目によっては一覧表も用いる

 設計内容を把握するのに、先進的な手法やツールだけを使うわけではない。もっと原始的なツールも活用する。その代表例が、項目の一覧表だ。
 耐久性や安全性といった性質の把握では、関係する要素を洗い出して、要素ごとに該当する設計個所を見付ける。その後、設計箇所ごとに条件を満たしているか確認し、当初の目標をクリアーできるか判断する。どんな要素があるか、要素ごとの設計箇所はどこかなど、一覧表の形でまとめるしかない(まとめる際に使うソフトは自由に選べるが)。その表は、性質の全体像を把握するインデックスとなる。また、クリアーするまでの進捗管理にも用いる。
 設計する対象によっては、関連図や組立図などの図を用いることもある。どのような図が適するかは対象ごとに異なるので、何種類かを試して見付けるしかない。何人かで検討しながら試行錯誤したほうが見付けやすいだろう。図を用いると描くのが大変なので、パソコン用の描画ツールが使える図を選んだほうがよい。

 設計内容の把握技術は、設計の質を向上するために必須の要素である。把握に適した設計手法やツールを選ぶとともに、それに合わせた設計を実施し、作業手順や設計体制を確立すれば、レベルの高い設計が実現できる。複雑な内容を深く見通せなければ、良い設計など不可能だ。

(1998年10月29日)


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