川村渇真の「知性の泉」

ネットワークと知的能力向上が市民運動を強化する


市民運動が社会を進歩させる

 我々の住む世の中は、確実に進歩し続けている。もっとも急激に進歩しているのは技術分野だが、人間の意識、社会の仕組みやルールも少しずつは進歩している。一時的な逆行はあっても、長い目で見れば良くなる方向に進んでいる。このような進歩を後押ししているのが、実は市民運動である。代表的な成果を見てみよう。
 まず最初に挙げられるのが人権尊重だ。性別や人種による差別が減るとか、子供も一人の人間として扱おうとか、いろいろな形での変化が見られる。まだ差別はなくなっていないので、今後もいろいろな形で圧力をかけていくことになろう。
 2番目として挙げられるのが、地球環境の保護だ。改善すべき悪い現象として、ダイオキシンに代表される環境汚染、オゾン層や森林を破壊する自然環境破壊がある。環境ホルモン(内分泌撹乱化学物質)による生物への悪影響なども含まれる。このような破壊に市民運動が反対し、必要な規制を政府に作らせている。
 3番目は、社会の仕組みやルールの改善要求だ。政治家や役人の汚職の防止、役人の不正活動を発見するための情報公開、悪徳業者からの消費者の保護など、市民生活に悪影響を及ぼす心配がある事柄に対して、改善するための法律や制度の制定を求めている。
 その他として、納得できない活動への批判がある。遺伝子組み替えによる食物を区別しないとか、多額の税金を使って無駄なものを作るとか、欠陥住宅の被害に対策を打たないなど、きちんとしてない活動に対して文句を言う。この場合も、改善するための法律や制度の制定を求めたりする。
 このような市民運動が、我々の社会を進歩させてきたし、今後も続く。複雑化する社会では様々な問題が生じるので、市民運動の役割がますます重要となる。

ネットワーク活用で強い力を持つ

 以上のように社会を進歩させる市民運動だが、その意見が世の中に広まらなければ、せっかくの活動も実を結ばないし、世の中の改善につながらない。意見を広めるのも、市民運動の一部である。
 ネットワークが発達する以前は、世の中に広める役割をジャーナリズムが担っていた。多くのマスメディアが取り上げることで、多くの一般市民に知られ、関係する行政組織や企業に圧力をかける。ジャーナリズムに注目されるかどうかが、改善させる大きな要素だった。つまり、最終的な改善に結びつくかどうかは、ジャーナリズムに依存していたわけだ。
 このような関係だと、改善効果がジャーナリズムの質によって左右される。日本のようにジャーナリズムのレベルが低いと、せっかくの市民運動の成果を、社会が生かせない。悪いことに、市民運動を批判する雑誌までいくつも存在し続けている。非常に困った状態だ。こんな風にジャーナリズムに期待できない社会では、市民運動の力がより重要である。
 最近では、困った状況を変える道具として、インターネットに代表されるネットワークが現れた。市民運動家が自分でウェブページを持ち、一般市民へ情報を送れる道具として使える。ジャーナリズムに期待できない社会こそ、市民運動を盛り上げるためにも、積極的な利用が欠かせない。
 市民運動家によるウェブページは、既存のマスメディアにない魅力がある。文字数などの制限がないため、多くの説明を掲載できるし、基礎となるデータも豊富に含められる。その分野を追い続けている人が書けば、かなり突っ込んだ内容を書けるだろう。もちろん、一般市民に理解してもらうことが大切なので、内容を分かりやすく伝えるための工夫も求められる。それが成功すれば、既存のマスメディアより充実した内容に仕上がる。
 せっかく用意したウェブページも、その存在を知らなければ読んでもらえない。市民運動サイトが相互にリンクするなど、知らせるための工夫も必要となる。

知的能力の向上で反対勢力に打ち勝つ

 ネットワークを活用して自分の意見を広めようとするのは、市民運動家だけではない。市民運動に反対する勢力も、一般市民に向けて自分たちの意見を伝えようとする。
 両方の内容を読んだ一般市民は、まったく正反対の意見なので、どちらを信じたらよいのか迷うだろう。市民運動の側では、信じてもらえるように説得力のある書き方をしなければならない。外国も含めた様々なデータを用い、論理的かつ科学的に説明するのが基本だ。その際には、評価技術、設計技術、議論手法などが役立つ。
 市民運動の反対勢力は、非論理的をモットーとする人が中心なので、ウソでも何でも平気で書く。その内容への反論も論理的に行い、ウソを暴く必要がある。こうした反対勢力には、理詰めの説明で対抗するしかない。しかも、分かりやすい説明で。
 論理的で科学的に説明したり、相手のウソにきちんと反論するためには、市民運動家が知的な能力を高めなければならない。きちんと身に付けられれば、理詰めで相手を欠点を目立たせられる。自分たちの内容が正しいと伝えるためにも、身に付けることが大切だ。
 非論理的をモットーとする人々は、自分たちが不利になると、姑息な手段を用いる。その対処方法も身に付けて、きちんと反論しなければならない。これも、重要な知的能力の1つである。そうした能力も含め、反対勢力に邪魔されないほどの総合力を付けるべきだ。

市民運動の効果を最大限に引き上げる

 これからの社会は、複雑な問題がいろいろと出てくる。また、商品や情報が世界中に素早く普及するため、対処が遅れた場合の被害が増大する。こんな特徴があるからこそ、市民運動の役割や価値が今以上に大きくなる。
 その意味で、市民運動を上手に展開することが求められる。ネットワークを中心として情報ツールは、大きな手助けとなるだろう。もちろん、ただ利用すればよいというわけではない。上手な使い方を知り、幅広く活用して、市民運動の効果を最大限まで高めることが大切だ。
 今後の社会での重要性が増す市民運動は、新しい時代へと突入しつつある。社会全体で人々の意識が向上しているし、ネットワークを活用することで、参加者がしだいに増えていく。そんな傾向が強まって、市民運動の力が増大するだろう。
 こうした市民運動は、今まで以上に社会を進歩させる役割を担う。それに応えられるだけの方法や能力を身に付けることが、質の高い市民運動の基礎となる。もし成功すれば、社会の進歩に貢献できるのはもちろん、市民運動家たちも相当な満足感を得るはずだ。

(1999年11月26日)


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