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Morphology and Lexicon Forum のご案内

第4回MLFのプログラムが以下のように決定いたしましたのでご案内いたします。
今年も自由に楽しく討論のできる会にしたいと思っております。暑い盛りではあり
ますが、奮ってご参加下さいますよう、またお知り合いの方で形態論・レキシコン
研究に興味をお持ちの方をお誘い下さいますよう、お願いいたします。

日時:1998年8月25日(火)13:30〜16:40(終了後懇親会)
                     8月26日(水)10:30〜16:00

場所:津田ホール会議室一階101号室  (東京都渋谷区千駄ヶ谷)
交通:中央線(各駅停車)千駄ヶ谷駅下車、道路正面の建物
        (東京駅から中央線快速でお茶の水で各駅停車に乗り換えて約25分)

<プログラム>
8月25日(火)
        13:20〜13:30 受付
        13:30〜14:30 Locative Inversion and lexical conceptual structure
                           磯野達也(東京大学大学院総合文化研究科)
        14:30〜15:30 使役における形態と意味の対応について
                         金城由美子 (ATR 音声翻訳研究所)
        15:30〜15:40           休憩
        15:40〜16:40 動作主名詞の特質構造と概念構造  
         影山太郎(関西学院大学)

8月26日(水)
        10:30〜11:30 A dynamic approach to so-called phrasal compounds
                         小松千明(お茶の水女子大学大学院)
        11:30〜12:30 屈折と派生の順序付け −再訪−
                         西 原 哲 雄(長野県短期大学)
        12:30〜13:45           昼食
        13:45〜14:45 Come/go+V構文について
                         石原由貴・野口徹(東京工業大学)
        14:45〜15:45 状態述語の格パタン
                         外崎淑子(神田外語大学大学院)
        15:45〜16:00 事務連絡等


なお、25日(火)17:30より懇親会を予定しています。会場は津田ホール地下
の「ユーハイム」です。下記まで申し込みの上、奮ってご参加ください。会費は学生
3000円、一般6000円程度の予定です。また26日の昼食のお弁当(1050円)も手
配しますので、希望の方はお申し込みください。

お手数ですが、研究会のご出欠・懇親会のご出欠・お弁当の予約について8月15日
までにe-mailかFAXで杉岡までお知らせ下さい。(研究会の方は登録制ではなく飛び
入りの出席も歓迎しますが、会場の準備上、出席者数を把握しておきたいのでよろし
くお願いします。また懇親会は、準備の都合上、原則として申し込み制にしたいと思
います。)

連絡先:杉岡洋子 email: sugioka@sfc.keio.ac.jp /  fax:0471-85-4837


<発表要旨>

Locative Inversion and lexical conceptual structure     磯野達也

 本発表では、(1)のLocative Inversion(LI)に用いられる動詞の特徴が語彙概念構
造(LCS)で捉えられることを主張する。
(1) a. On the horizon appeared a large ship.
       b. Into the room walked a man.
(2)*On the top floor of the skyscraper broke many windows.
(3) In the bed slept Lucy.
 LIに現れる動詞には、(i)存在や出現を表す非対格動詞(1a)が多い、(ii)非対格動詞
でも状態変化動詞(2)は不可、(iii)移動動詞(1b)、活動動詞(3)も用いられる、等の性
質がある。これまでの研究では、LIは非対格 構文である、存在・出現動詞が用いられ
る、動詞と後置NPの間に意味的な つながりがある、等の分析がなされているが、いず
れも上記(i)から(iii)の 一部しか説明できていない。
 本発表では、影山(1996)等で提案されているLCSの合成や意味の磁場を 利用して、
LIに用いられる動詞のLCSが"AT z"を持っている、と考えること で上記の特徴(i)〜(iii)
が捉えられることを論じる。


使役における形態と意味の対応について    金城由美子

 本発表は,日本語における語彙的使役と生産的使役の考察を通して,事象記述 の基本
単位としての動詞の形態と,それに対応する意味の関係を明らかにする ことを目的とす
る。日本語の動詞には,「あく/あける」のように,語幹を共 有し,異なる項の表現形
式をとるものがある。本発表では,このような自他対 応を持つ動詞ペアにおける他動詞
や,「混ぜる/混ざる」のような二項/三項対 立を持つ動詞ペアにおける三項動詞が,動
作主を持たない動詞に動作主を付加 することによって派生する語彙的使役であることを
示す。その上で,接辞「させ」の付加による生産的使役との意味の違い,特に使役の下
位事象の独立性について検討する。そして,生産的使役が独立した下位事象を含意する
のに対し, 語彙的使役は独立した下位事象を持たないことを明らかにし,動詞の基本的
形 態が事象記述の基本単位となることを示す。さらに,事象の認知において,動作主の
果たす役割についても考察する。


動作主名詞の特質構造と概念構造     影山太郎

 英語のfirefighter, novelist, authorや、日本語の「執筆者、引き受け人、小説家」
などの動作主をあらわす名詞の辞書表記を、これらの名詞自体の意味的性質と、補語の
取り方や複合語の作り方などの統語的・形態的性質から多面的に検討する。Pustejov
sky:
The Generative Lexicon (MIT Press, 1995) と Busa: Compositionality and the
Semantics of Nominals (Ph.D. diss., Brandeis University, 1996) は 、英語の動
作主名詞をIndividual-level predicatesとStage-level predicatesに対 応するもの
に二分し、それぞれ、特質構造(Qualia structure)の目的役割(Telic rol e)と主体役割
(Agentive role)によって規定されると論じているが、本論では、主体 役割・目的役割
を用いた特質構造に加えて、述語の事態発生を示す概念構造の表示レヴェルが必要である
ことを、-er名詞における項の受け継ぎや、「シンポジウム:参加者」のようなpost-
syntactic compoundの現象に基づいて説明する。


A dynamic approach to so-called phrasal compounds                小松 千明

 一般に、語の内部に句が生起することは許されないと言われる(e.g. *[ドラえもんの
鉛筆]書き/*black-as-coal birds)が、この句排除の制限は絶対的ではなく、日本語
で も英語でも、語の中に句が入り込んだと思われる事例がしばしば観察される(e.g.[障
害をもつ子供の就学相談]ホットライン/the old get-married-by-25-no-matter-
what compulsion)。本発表では、このような一般にphrasal compoundと呼ばれる
表現につい て、その諸特性を明らかにし、これをKajita(1977,1997)で展開されてい
る動的文法理 論に基づき、言語類型論および言語習得の観点も入れながら、分析するこ
とを試みる。


屈折と派生の順序付け −再訪−           西 原 哲 雄

 音韻論と形態論の関連性を主張し、語形成過程と音韻規則を順序付けした語彙音韻論
がKiparsky (1982) や Mohanan (1982) などによって提唱された。この理論では派生
 過程と屈折過程が順序付けされており、Greenberg (1963) で主張された「派生接辞の
 内側に屈折接辞は付加されない」という原則を適切に説明している。しかしながら、諸
 言語を観察すると屈折接辞の外側に派生接辞が付加されるという現象が多く見られ、か
なら ずしも、「派生−屈折」の順序付けが守られていないことが分かる。本発表では、
Greenberg (1963) での主張は普遍的な制約ではなく、傾向にすぎない と主張する
Bochner (1984, 1992)、Rice (1985) の考えを、主に複合語の屈折接辞付加 を例に
挙げながら支持する。また Anderson (1982)、Perlmutter (1988) が提唱する分 離
形態論 (Split Morphology ) についても再検討をしてみたい。


Come/go+V構文について   石原由貴・野口徹

 口語的なアメリカ英語では、次のような表現が見られる。
(1)Go pick apples in the yard.
(2)You come help us in the morning.
この構文には、さまざまな統語的及び形態的特徴が見られる。例えば、come/go (V1)
にも、それに続く動詞(V2)にも顕在的な屈折語尾が見られない。
 (3)*He go(es) swim(s) every Sunday.
さらに、V1とV2との間には、いかなる要素も介在することが出来ない。
 (4)*You come seldom talk to me.
本発表では、このような特徴を、Pollock (1994)のように主要部移動を仮定せ ず、統
語的及び形態的原則の相互作用から導くことを提案する。具体的には、 come/goが統
語的下位範疇化素性に加えて、自由形態素であるにもかかわらず形 態的下位範疇化素性
をも持つと仮定し、 統語構造とは独立にV1とV2が形態的には語であることを主張する
 (cf. Zwicky 1990)。


状態述語の格パタン              外崎淑子

 状態述語の目的語は「が」格でマークされ、主語は「が」格と「に」格を許 すも
のと、
「が」格のみを許すものがある。
(1)a. 太郎 {が/に} フランス語が {できる/分かる/話せる/使いやすい}。   
      b. 僕 {が/*に} ファミコンが {好きだ/欲しい/買いたい}。
述語が「に」格主語を持つか否かは、Kuno (1973)以降、述語の個別的特徴で あるとの
み捉えられており、それがどのような語の内部情報に依存しているの かは考察の対象外
にされてきた。本研究では、(i)述語のゼロ主語の解釈と 「に」格主語の可否には相関関
係があること、(ii)難易文に用いられる「に (とって)」と可能形に用いられる「に
」の両
者は異なること、(iii)動詞派生形 の形容詞の格パタンは語の歴史的な派生にその傍証を
求められることを示し、 述語をdecomposeすることによって、これらの格パタンは捉え
うるということ を考察する。

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東京大学 言語情報科学
        伊藤 たかね

email: ito@boz.c.u-tokyo.ac.jp
tel/fax: 047-340-0755
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