Newsletter: 日本音韻論学会

第1巻第2号 (通巻2号) 1997 年 8 月 12 日発行

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ご挨拶

日本音韻論学会の第2号のニューズレターをお届けします。今回は以下の資料を添付いたしました。お確かめください。

「音韻論フォーラム 1997プログラム」

 

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音韻論フォーラム1997

前回のニューズレターでお知らせいたしましたが、音韻論フォーラム1997が下記の通り開催される予定です。是非、ご参加ください。

【会場】神戸大学瀧川学術記念会館

【日時】9月4日(木)〜6日(土)

【参加費】無料(懇親会の費用は別途徴収)

【招待講演】各90分

4日15:35 原口庄輔 『日本語のアクセント』

5日15:55 Armin Mester “Sympathy in Prosody”

6日11:15 Junko Ito “Masked Phonological Patterns”

【研究発表】13件:各30分(+質疑応答15分)

【研究報告】4件:各20分(+質疑応答10分)

【懇親会】5日17:30-19:30 (会費2,500円(予定))

なお、研究発表、研究報告の詳細については、同封の「音韻論フォーラム 1997」をご覧ください。プログラムの最新版を 下記の URL で公開いたします。

http://www.st.rim.or.jp/~honmat/forum-97.html

プログラムに変更があった場合も上記の URL でお知らせします。

 

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関西言語学会ワークショップ

11月8−9日に行われる関西言語学会において、音韻論に関するワークショップが下記の様に行われる予定です。

【日時】11月8日(土)(午前中)

【場所】京都大学

【テーマ】英語における音韻論と形態論の

インターフェイスをめぐって

【講師】南條健助(甲南大学非常勤講師)

    中島直嗣(関西学院大学大学院)

    山本武史(京都大学大学院)

日時、会場などの詳細が未定のようです。次回のニューズレターに間に合えば、お知らせいたします。

 

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秋の公開講演会/研究発表会

今年も日本英語学会の前日(11月22日(土))の午後に公開講演会を下記の様に計画しています。

【日時】11月22日(土)13:30-17:00

【会場】東京都立大学

【講演者及び演題】

13:30-14:40 Philip Spaelti (神戸松陰女子学院大) “Reduplication without Templates”

14:40-15:40吉田昌平(横浜国立大) 「Government Phonologyにおける音韻的ライセンスとアクセント付与について: アラビア語カイロ方言の分析」

15:50-17:00清水克正(名古屋学院大) 「閉鎖子音の音声的特徴--有声性・無声性を中心にして」

吉田氏と清水氏から発表の要旨をいただいております。このニューズレターの末尾にまとめて掲載いたしました。なお、Spaelti 氏からも要旨をいただくことになっております。次回のニューズレターでお知らせする予定です。

なお、同日の午前に研究発表会を開催することも計画しております。研究発表をご希望の方は、8月末まで演題と概要を事務局までお送りください。

 

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秋のワークショップ

毎年、秋の日本英語学会のワークショップの一部としまして音韻論のワークショップが企画されています。今年は下記の様に予定されています。

 

【日時】11月23日(日)午前

【場所】東京都立大学

【テーマ】韻律現象と音韻理論  

【司会】岡崎正男( 茨城大学)

【発表者とタイトル】

山田英二氏(福岡大学):英語の第二強勢の配置メカニズムについて

片山素子(UC Santa Cruz): Release and Positional Faithfulness in Japanese Loanwords

岡崎正男(茨城大学):古英詩の半行の適格性について

 

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会費納入について

日本音韻論学会の発足に伴い、会費振込のために日本音韻論学会名義の郵便振替口座を新たに開設いたしました。これ以降は日本音韻論学会の会費は、下記の口座にお振り込みいただくようお願いいたします。

なお、前回のニューズレターでも1997年度分の会費(2,000円)の納入をお願いいたしましたが、未納の方は、下記口座にお振り込み下さい。蛇足ながら、音韻論研究会の1997年度の会費として、2,000円を既に振り込まれた方は、二重にお振り込みなさらないようご注意ください。

口座番号 00180-6- 402077

加入者名 日本音韻論学会

今回は会費未納の方に振込用紙を同封いたしませんが、前回お送りした振込用紙または郵便局に備え付けの用紙をご利用の上、お振り込みいただくようお願いいたします。

1996年度以前の分が未納の方は、その分もお願いいたします。振込口座は上記と同じです

 

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Phonology Calendar について (お願い)(再掲)

事務局では、Phonology Calendarをより役に立つものにするために、皆様からの情報をお待ちしております。学会の規模を問わず、音韻論に関連のある国内外の学会、集会、講演会などご存知の方は、事務局まで御一報ください。

本学会会員の西原哲雄氏より海外の学会の情報を入手する上で大変参考になる HIL News を紹介していただきました。ありがとうございます。

HIL News は、Holland Institute of Generative Linguistics (HIL)の発行する情報誌です。連絡先は、下記の通りです。

Holland Institute of Generative Linguistics (HIL)

P.O.Box 9515, 2300 RA Leiden, The Netherlands

hil@rullet.leidenuniv.nl

http://www.leidenuniv.nl/hil/

fax (31) 71-527 2125

phone (31) 71-527 2101

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音韻論フォーラム 1997 プログラム訂正

音韻論フォーラム 1997 の研究発表 13 の演題を次のように訂正いたします。

“Articulatory and Perceptual Factors of Consonant Deletion in English”

以上、事務局まとめ 1997 年 8 月

 

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秋の公開講演会・講演要旨

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Government Phonologyにおける音韻的ライセンスとアクセント付与について:アラビア語カイロ方言の分析

吉田昌平

アラビア語諸方言の母音脱落、母音挿入、閉音節の母音短縮、アクセント付与等の音韻現象は生成音韻論の諸理論的枠組みの中で盛んに研究されてきた。これらの研究では、音節のパターン/重さという概念が分析の中核的役割を果たしている。一方、Government Phonology (GP) の音節理論では、アラビア語は開音節しかない言語として分析され、音声形式において隣接する2子音の間と末尾子音の後には音声解釈を受けない空範疇があると見做される。GPの標準理論は、音声的解釈を受けないNucleusが適正統率をされていると主張している。しかし適正統率するポジションとされるポジ

ションが構成要素構造に取り込まれるかどうかについて、またそうした構成要素とメトリカル構造との関係についてはふれていない。更に適正統率で説明しきれない音声形式もアラビア語には存在する。そこで、GPにおける適正統率の紹介を行った上で、適正統率とメトリカル構造を包含する「音韻的ライセンス」の一モデルを提案し、上記の音韻現象の説明を試みる。

 

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閉鎖子音の音声的特徴--有声性・無声性を中心にして

清水克正(名古屋学院大学)

閉鎖子音の有声性・無声性は、音声学研究における主要な課題の一つであり、その音声的特徴は数多くの言語について調べられている。本発表では、英語、日本語およびアジアの主要言語における子音の有声性・無声性の音声的特徴を調べ、主要範疇の個別言語的および普遍的な特徴と音声理論の中での取り扱いについて考察する。

子音の有声性・無声性に関して、諸言語における対立は幾つかのパターンに分けられ、最も基本的な有声―無声の2範疇のものからそれらに出気―無気等の対立が加わる3範疇および4範疇の言語に分けられる。こうした2範疇から4範疇の対立をもつ言語について、音響分析に基づく諸特徴の調査を試みた。これらの特徴には、声帯振動の開始時間(Voice Onset Time, VOT)、基本周波数(Fo)とそのパターン、スペクトル分析および第一フォルマント(F1)の開始周波数などがあり、主に7言語の語頭にくる閉鎖子音について調査した。

音響分析の結果、VOTは有声性・無声性の弁別に関係する有用な特徴であり、有声無気音、無声無気音、無声出気音の主要範疇の弁別を行うことができる。ただし、韓国語の濃音と平音、ヒンディー語の有声有気音(Breathy)と有声無気音の弁別には他の要因が必要である。 また、各主要範疇について、言語の相違が如何に影響するかに関して調べてみると、無声出気音の調音にはその相違の影響が余り見られず、ほぼVOT値には大きな変化が見られないことが明らかになった。このことは、強い出気性を伴う無声出気音は声門上部と下部の微妙な時間的な関係を必要とし、言語間の相違が余り現れないものと考えられる。

次に、基本周波数とそのパターンについて調べてみると、有声性・無声性の弁別に密接に関わっており、一部の言語データを除いて、一般に予測されるように、出気・無気の相違に関わらず無声音は有声音より有意的に高くなることが見られた。Fo曲線についても、有声性・無声性の相違が見出されるが、韓国語の濃音とヒンディー語の有声有気音では特徴的なパターンが見出された。以上の要因のほか、スペクトル分析およびF1開始周波数についても調べたが、前述の特徴と関わっており、これらは第二義的なものと考えることができる。

前述するように、7言語の有声性・無声性に関する主要範疇の音声的特徴を調べたが、言語間において類似点および相違点が見出される。こうした言語間の特性についての理論的な枠組みは次のように考えられる。

閉鎖子音の有声性・無声性は、基本的には喉頭の現象であり、言語間の特性は喉頭素性の音声レベルでの顕現の度合いの差と考えることができる。調査した言語から、それぞれの範疇は声門に関わる時間的な要因、声門の拡がりおよび声門の緊張度の3つの要因から関連づけられ、これらには基本的な喉頭素性として/VOICE, ASPIRATED, TENSE, BREATHY/を設定することができる。個々の言語は音韻レベルで関係する素性を選び、さらに音声レベルにおいて選択された素性は個別言語的な特徴を担って現れると考えることができる。換言すれば、言語間の特性は、選択される素性の種類と音声レベルでの個別言語的な特徴の顕現の差として捉えることができる。 

 

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