雪はあちらへ揺れこちらへ揺れながら、私の周りに落ちてくる。空を見上げるとそこにはたくさんの雪の粒が漂っていて、自分の落ちる番を待っているように集まったり離れたりしていた。  降り方はどんどん激しくなったが、私に注ぐ雪は一つもなかった。ついに薄白く積もり始めた地面も、私の周りはまだ黒いままだ。  そんな状態が何時間か、それとも何日間か続いた。庭に干したシーツのように低く波打つ白い地面は、相変わらず私の周りだけぽっかりと黒く抜けている。  少しずつ、ゆっくりと、一日くらいかけて頭を上げると、私の額の上に、とびきり小さなひとかけらの雪があった。それは一瞬その場にとどまっていたが、突然地面に向けて落ち始めた。私がゆっくり目で追っていくと、それは私の鼻先あたりで急に向きを変え、くるりと回り込んで私の唇に触れた。  とたんに暖かくやわらかい感触が私の口から体中に広がった。それはまるでキスのような感じだった……。

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