「総合目次」にもどる |  「阿片窟の男」の目次にもどる |  最終修正:2000-07-02(日)



祝!新譜発売! 「練馬調査室」阿呆企画 第3弾

シャンシャラララー 『怪人二十面相』アルバム合評会


平成12年6月21日に、目出度く人間椅子9枚目のオリジナル・アルバム『怪人二十面相』が発売になりました。皆さん楽しんでいますか? 

さてこの慶事を祝し、当サイトでは掲題の企画を実施(出席者は諸般の事情により前回、前々回と同じメンツですが)、パッケージや各楽曲についての意見を交換しました。以下はその模様です。
興味のある方はご覧ください。
(↑以上、前回前々回の前振りの文言とよく似てますが、気のせいです。)


<出席者紹介>
い: 練馬調査室長いしー。つまり当サイトの主宰者。最近のマイブームは魚形水雷、略して「魚雷」。
嘉: 同調査員の嘉象。たまには旅に出たい帝都の地縛霊。「嘉象堂」ホームページはこちら。


[パッケージ] →<作品総覧>の画像

い: 『黄金の夜明け』『踊る一寸法師』に続いての大越孝太郎氏の起用ですが、良い仕上がりだと思います。色彩的にも、『頽廃芸術展』ほどではないにせよ、統一感がありますね。
嘉: 三大好きなジャケットには確実に入ります。
い: 「怪人二十面相」の文字が縦書きなのはいいのですが、フォントは単純なゴシックよりは、もうすこし味のある字体がよかったのでは。
あと、「人間椅子」の文字があまり目だっていませんが…。ただ、デザイン上配置が難しいので、仕方ない面もありますね。
嘉: 「怪人二十面相」がゴシックなのは、昔の少年探偵全集(全46巻の)と合わせたのでは。タイトル枠内の背景が新聞紙っぽくしてありますが、背表紙もこれと同じ背景でゴシックにしてほしかったな。
鈴木氏の目の色が左右で違ってたり、背景の月と気球で眼球になってたり、和嶋氏の耳がちょっと福耳になってたり、それから少女のブラウス襟の縁取りなど、見ごたえタップリの図像です。
い: 裏ジャケットもまた、フェティッシュな感じですね。
嘉: 実は買うときにレジのお姉さんに裏ジャケット見られるの、恥ずかしかったですよ。裏側にバーコード付いてるからしょうがないんですが。
パンフレットの裏表紙も同じ図の縮小ですが、こっちはフィギュアで同じ構図だったら、すごくウレシイ。
い: 確かに『踊る一寸法師』の時のようにフィギュアでも良かったかもしれませんね。
盤面デザインはBDバッジをあしらっていますが、これはシンプルなデザインながら良いですね。ピクチャーCDも捨てがたい魅力がありますが。
嘉: 横にして見るとウサギかキツネの邪悪な笑顔みたいに見えます。買ったときに、そういう位置に収納されていて、はじめはBDって気付きませんでした。
い: ジャケット内部のカットの「怪人二十面相 変身セット」が盛り沢山な内容です。アンケートの景品で出して欲しいです。
嘉: 私はもちろん、ジャケット図像含めた絵葉書セット希望ですよ。セット内容は4枚組で、…長くなるので止めます。

 壱「怪人二十面相」

い: 不安感を募らせるイントロから乗りのいいリフにかけては、定石ながら上手い導入です。
嘉: 犯行予告時間の到来を告げるような不安なベースね。
ギターの音が丸い感じに聞こえるのですが、新ギターを使っているのでしょうか。
い: なんとなくSGらしくない音ですかね?
これまでのアルバムに比べて、オープニング曲としてはインパクトは弱めですか?
嘉: アルバムのタイトル曲としては、とても良いと思うのですが、まとまりすぎていて、単体で聴くとどうかなって気も。
い: コーラスの掛け合い、鈴木氏に合わせた和嶋氏と後藤氏のデス声が微笑ましいです。
この曲は事前にプロモCMで流れていましたが、映像も雰囲気が出てますね。
嘉: もう曲とプロモーションビデオの映像がセットになってます。
ヴィジュアル的にもそうですが、跳梁する二十面相を活写してて、鈴木氏のヴォーカル、はまり役ですね。
有名な小説、キャラクターがお題ですし、今後、世間的には人間椅子の代表曲のひとつに上げられる曲になるのでは。


 弐「みなしごのシャッフル」

い: ユーライア・ヒープのパターンを借りながらも、全体の雰囲気は完全に人間椅子のものですね。
単純な表現になってしまいますが、いい唄です。歌詞、曲、構成などの全てが完成されています。和嶋氏のソング・ライティング能力の集大成と言っても過言ではないのでは。
嘉: 唄パートは、空ろな響きのベースとドラムの伴奏だけにして、ギターはほとんど休止。詞とヴォーカルを前面に出していますね。 詩的な対句とメロディー、聴きごたえのある曲だと思います。
テーマはいま・ここからのデラシネ、透明なフラヌール・遊歩者、でしょうか。 全体的にダークな曲調のアルバムの中でも、キラリと光る1曲です。
間奏の乾いた響きの口笛のようなギターソロが印象的です。 エンディングに顕著ですが、曲を通して、残響がポイントですね。
い: サビ唄メロの最後の音程が、未然形という感じでたまらないですね。過去/現在/未来にわたって、みなしごであり続けるという暗示なのでしょうか。


 参「蛭田博士の発明」

い: この唄は、単純なリフと構成なんですけど、すごく好きです。出だしのブルー・オイスター・カルト風のアルペジオ。インタビューによれば、全編にわたるリフは、「ビューティフル・サンデー」を短調にしたものらしいですね。
ライヴで初めて聴いたときは、あまり思い入れはなかったんですが。ツボにはまる曲、という気がします。
嘉: 個人的には展開がキツイんですけどね。「ビューティフル〜」なリフは、一度思い出すと頭から離れませんね。
い: あまり気負わずに楽しめます。街が大騒ぎになってるのに、何か緊張感が無いですけど。
嘉: 結構、町の人々のレクリエーションになってるんじゃないですか?(笑)
プラハを舞台に、マッド・サイエンティスト蛭田博士 + 錬金術 + ゴーレム伝説で、mad と mud の曲ですか。


 四「刑務所はいっぱい」

い: 「ギリギリ・ハイウェイ」「恋は三角木馬の上で」路線の、ストレートなハード・ロックですね。
嘉: あと「青森ロック大臣」ね。アメリカンロック・シリーズは鷹揚にザックリ行こう。
い: 後藤氏の「増えるぜ」コーラスもプリズンな雰囲気があっていいです。歌詞の内容は自己紹介ソング。
嘉: といっても、このアルバム、全編自己紹介的な詞なのでは?
い: 二十面相が自分の多様なパーソナリティを紹介しているということでしょうか?
中間部のブレイクはブラック・サバスの「トゥマロウズ・ドリーム」ですね。ギターソロの音色はレッド・ツェッペリンの「俺の罪」に似ています。
嘉: この曲でプロモーション・ビデオはどうでしょうか。「8時だヨ!全員集合」の監獄モノ風に。鈴木氏が看守で和嶋氏とマスヒロ氏が囚人、青や赤の縞の囚人服とボウシで。


 伍「あしながぐも」

い: ローチューニング曲らしいリフが嬉しい曲です。
嘉: バッジー曲ですか? コテコテな貫録と洗練を感じます。曲も詞も好きな曲です。
特にドラムが気に入っていまして。ムダがなくて美しいです。存在感があります。聴いていて気持ちいいです。
い: 歌詞はネガティブな「なまけものの人生」ですか? あるいは「憂鬱時代」?
嘉: 巣に籠っている「みなしごのシャッフル」という感じもします。
い: 終わり近くのコーラスも味がありますね。
嘉: 終盤の雰囲気には弱いです、私は。夕陽っぽい音が。


 六「亜麻色のスカーフ」

い: このアルバムの唯一の後藤氏作曲・ボーカル曲ですが、イントロから後藤氏らしさが全開ですね。
嘉: 「???」っていうクエスチョンマークをイメージさせるメロディーで。
い: 前作「不眠症ブルース」もツェッペリン風の曲でしたが、ギターの和嶋氏の奏法も影響してるのでしょうか。この曲の和嶋氏のギターですが、バッキング、ソロともにかっちょいいです。ギターソロではレッド・ツェッペリンの「胸いっぱいの愛を」の一節が出てきたりして。ピックスクラッチも入ってたり、「亜麻色のスカーフ〜」のところだけギターの歪みが無くなるなど、芸も細かいです。楽しんでますね。
嘉: “シャララ” は「魔女っ子メグちゃん」を取り入れているとのことですが、『黒い魔女』→盗賊→“あなたの心に忍び込む シャランラ…”(魔女っ子〜の主題歌)という連想でしょうか。苦しいな。


 七「芋虫」

い: この曲は最初は1音半下げかと思いましたが、違ってました。先入観があったんでしょうか。
メロディーや歌詞は叙情的というか、哀愁を感じますね。人間椅子にしては新境地という気がするのですが。
嘉: 前作「春の海」の、ささやき系のヴォーカル、そして今回と、鈴木氏はいろいろとチャレンジしてますね。お題としては、救いのない極限状態。
い: インタビューによれば、「ウィッシュボーン・アッシュ、ピンク・フロイドを意識した」とのことですが、そう言われてみると、イントロのスライド・ギターなんかはピンク・フロイド風ですよね。
この曲のギターソロがライヴっぽい録音です。ソロも1発録りかも。このあたりはピンク・フロイドの「エコーズ」を意識していると見ました。テルミン使用部分もありますが、ライヴでもテルミンでやってくれるかな?
後半部のテンポチェンジは「ブラック・サバス」かと思いましたが、むしろフロイドの「吹けよ風、呼べよ嵐」かもしれませんね。どちらにせよ、情念的な歌詞を引き立てることに成功しています。


 八「名探偵登場」

い: 8曲目でようやく登場ですね。しかし何か怪しい感じのする探偵です。二十面相が化けてるのか?
嘉: ニセモノっぽさと、“なのだ〜”がポイントかな。
い: 曲全体としては、オーソドックスなロック。ギターソロもそういう雰囲気ですね。
嘉: 80年代ニューウェイヴ風な雰囲気もあります。前後が深刻暗黒な曲ですから、軽妙な曲でバランスをとってるんですね。
この曲もドラムが気に入ってます。大仕掛けでない曲こそ面白いドラムが聴けるのではないか、とこのアルバムで気付かされました。
い: 演奏時間も手頃な短さなので、今度こそ「みんなのうた」を目指しましょう。アニメの絵で見たいですね。
嘉: 和田誠とか赤塚不二夫の絵で、3.5等身のデフォルメ・キャラでね。


 九「屋根裏のねぷた祭り」

い: 5月のライヴではイントロだけやってくれた人間椅子・伝統の重暗曲。歌詞もいいですね。7月のツアーでは、必ずやきっとハイライトとなる曲ですね。
嘉: こういう異界インプロビゼーションは「人間失格」からの伝統ですね。
ねぷたは鈴木氏の三大男の夢(ねぷた、ハードロック喫茶、羽根物専門パチンコ店)の一つですよね。こんなに暗黒に…
い: 構成はマンネリかもしれませんが。「ヤーヤドー」という掛け声が恐いです。
嘉: ハイ、たいへん怖いです。あっちの世界に引きずり込まれそうです。体調が悪いときに聴いたら魘される。とんまつりは行ってみたいですが、ねぷた祭りは、もはや怖くて行けません〜 観光客誘致にはなってない。


 拾「楽しい夏休み」

い: ちょっと意外でした。まさかこんな曲になるとは。和嶋氏のスラッシュ曲は珍しいですね。
嘉: タイトルから「アルンハイムの泉」のようなインスト曲と予想しました? 和嶋氏ヴォーカル、最速の曲ですね。
い: 忙しい夏休みに戸惑う子供の心理を投影したのでしょうか。サビの部分も半ばヤケになっているような。
嘉: この緊迫感、ヒトゴトではないです、私。絵的には、犬木加奈子さん。
歌詞は普通の小学生の夏休み行動を列挙していますが、これも和嶋氏の詞にしては異色。でも、ネガ・フィルムを見せられるような曲ですね。
い: 疾走感あふれる後藤氏のドラムスが凄いですね。笛も夏休み感を演出してます。
嘉: プールの休憩時間オワリを知らせる笛ですか? またみんな一斉にプールに飛び込む合図の。
い: 終盤の継ぎ接ぎな展開が面白いというか何というか、理解に苦しみますが、演奏自体は何の疑問もなくやってますね。
嘉: 次の「地獄風景」も速い曲なので、間合いを取っているのでは。私はダラダラ宿題パートと理解していますが。 うーむ、今年の夏は心も寒い… ラジオ体操も休まず行こうね。


 拾壱「地獄風景」

い: これはいい曲ですね。曲調と歌詞が完全にマッチしています。思わずサビを連呼してしまいます。
鈴木氏のスラッシュ曲には点の辛い私ですが、この曲には感服いたしましたよ。
嘉: 拡声器ガナり系ヴォーカルが最大限に活かされた曲ですね。この曲は特に天国の乱歩先生にきかせてあげたい。
い: 「人間花火」ってどんなのですか?
嘉: それは原作参照。ここではマスヒロ氏のドラムが花火です。「楽しい夏休み」と「地獄風景」の2曲で5曲分くらい叩いてませんか? 手数足数蕩尽大運動会ですね。和嶋氏のギターは、紳士淑女の狂態を早回しで見せてくれます。
い: 歌詞の「呂律が回らぬアナウンス」という一節が気に入っています。私も呂律が回らない時があるので。
エンディングがライヴの時そのままという感じですね。実際はもっと引っ張るかな?
嘉: お客さんと綱引きってことで…


 拾弐「大団円」

い: これまでのアルバムのラストを飾ってきた曲とは違い、かなり異質ですね。常套のローチューニング曲ではあるんですが。
嘉: 闇のカーニヴァルのフィナーレは、まずラテンで。このパートはキーボードの音が聞こえそうです。
い: この曲の構成は凝っているというか、前半の悲劇的な、必ずしも大団円ではない内容から、中盤のカーテンコールの楽しげな雰囲気へと、意図的に不自然さを演出している感じですね。
嘉: 次々と芝居の書割、舞台装置が変わっていくようなハッキリした切り替え。和嶋氏にしてはスペクタクルな歌詞です。
最後は、やっぱりブラックサバスで締めですか。 ライヴでは1回目のアンコールで聴きたい曲です。ちょっと長めになりますが。


<総評>

い: 全体としてまず感じるのは、「シンプル」ということ。音もほとんど重ねていないみたいですし。
コンセプト・アルバムのおかげか、全12曲でありながら、長さを感じさせないですね。『頽廃芸術展』も同じ曲数でしたが、それよりも短く感じます。曲も歌詞もシンプルになったので、聴き疲れがなくなったせいかも。それでいて、各曲の性格もはっきりしているし、コンセプト・アルバムとしては理想的な仕上がりですね。
嘉: 『無限の住人』もコンセプトものですが、これは外来のテーマで、今回のは内部発生的なテーマということもあって、曲と曲の緊密度が高くなりますね。
い: 今回のアルバムもメンバー全員が作曲ですが、ビジュアルな歌詞が生かされている鈴木氏の曲が特に良いですね。
嘉: そうですね。アルバム全体のレベルアップにつながっていると思います。
和嶋氏はアルバム曲全体の<図と地>のうち、テーマを重視した<地>的な曲が多かったかな。それにマスヒロ氏の多様なドラミングが、全12曲、よく楽曲を支えていると思います。
構成・演奏とも、スリーピースでこのアルバムを実現したということ、大きいですよね。
い: 和嶋氏の歌詞は本当にシンプルになったと思います。メンバーからも「解らない」といわれていたというし(笑)。「みなしごのシャッフル」のような普遍的な歌詞は、わかりやすさという点ではかなり評価できますね。新規ファンには入門しやすくなったと言えます。
嘉: 「楽しい夏休み」の歌詞の字面を見ると、小学生レベルの漢字だけ使っていて、これも芸が細かいですけど。
1アルバム中1曲は「黒猫」「菊人形の呪い」のような曲があってほしいとは思いますね。それは今後のお楽しみってことで。
い: 確かに、これまでの難解な歌詞や曲構成を好むファンはやや物足りない印象かもしれませんね。今後もこういう方向性で行くのかどうか?
ただ、より複雑でマニアックな方向に進むのが良いのかは疑問ですね。プログレになってしまいますよ(笑)。
嘉: 今回は、この合評会恒例の「三大好きな曲」を選ぶのが難しかったです。同時に「飛ばす曲」に該当する曲も思いつかない。
ジャケットなどパッケージも良いですし、トータルで満足度の高いアルバムです。
い: 同感です。新境地を開いた人間椅子のアルバムということで、重要な1枚になるでしょう。


<3大好きな曲>(アルバム収録順)
い: ◎ みなしごのシャッフル
◎ 蛭田博士の発明
◎ 亜麻色のスカーフ
次点)屋根裏のねぷた祭り、大団円
嘉: ◎ みなしごのシャッフル
◎ あしながぐも
◎ 地獄風景
次点)屋根裏のねぷた祭り、楽しい夏休み


以上、『怪人二十面相』アルバム合評会でした。
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