「総合目次」にもどる |  「阿片窟の男」の目次にもどる |  最終修正:2004-10-14(木)



祝!新譜発売! 「練馬調査室」阿呆企画 第7弾

Singing!かわずの歌を Swinging!土偶のように  『三悪道中膝栗毛』アルバム合評会


平成16年9月29日に、目出度く人間椅子12枚目のオリジナル・アルバム『三悪道中膝栗毛』が発売になりました。皆さん楽しんでおられることと思います。
そして今年はバンドデビュー十五周年という目出度い年でもあります。

さてこの慶事を祝し、当サイトでは掲題の企画を実施、パッケージや各楽曲についての意見を交換しました。以下はその模様です。
興味のある方はご覧ください。
(↑以上、前回までの前振りの文言を二次利用してみました。)


<出席者紹介>
い: 練馬調査室長いしー。つまり当サイトの主宰者。最近のマイブームは「三脚」。
嘉: 同調査員の嘉象。好きな言葉は“健忘”。日日実践中。


[パッケージ] →<作品総覧>の画像

嘉: “道中膝栗毛”に関しては、たいへん解りやすいデザインのジャケットだと思います。
盤面が白地なのが意外でした。アルバムの内容からすると自分としては、白黒反転した黒地に白い線描のイメージかな。
あとはパンフレットの内側か、盤面に“三悪”的な図像を潜ませていたら、より面白かったかも。
い: 三悪の象徴図像は欲しかったですね。
しかし“道中〜”と来て、広重の「東海道五十三次」を持ってくるのは、かなり直球勝負という感じですね。アルバムタイトルやバンドロゴも、もうちょっとデザインしてほしかったです。
歌詞カードは裏面の浮世絵も含め、印刷がきれいです。しかし蛇腹型のパンフレットはあまり好みでないです。やっぱり通常のブックレット型がいいな……。
嘉: 蛇腹型でもブックレット型でも可ですが、ケースに仕舞いやすい形式が望ましいです。
写真は三人とも旅装ですが、広重の頃、鈴木氏のような白塗りの人って関所を通過できたのだろうか……と、ちょっと心配に。
い: メンバーが大きく写ってるのは、新しいメンツを入れたバンドとしての肖像を伝える意味でいいと思います。
このジャケ写真の股旅スタイルが今回のステージ衣装になると思われますが、前回のチンドン屋から見ると、かなり穏当になって、見るほうも一安心です。
嘉: 『修羅囃子』では和嶋氏は和服の女姿でした。ステージ上、その扮装で演奏する様子を目にしても、ちっとも疑問に思ってなかった自分が、あとになって可笑しかったですよ。

 壱「洗礼」

い: 前回に引き続き、ローチューニング曲での開幕ですね。
硬質なギターサウンドやサビのリフが、いい感じでトニー・アイオミしてます。 雰囲気としては、五枚目あたりのブラック・サバスかな。 ただし、サビの「せ〜んれ〜」のくだりは、人間椅子ならではの世界を現出しています。
嘉: 音も詞も“人間椅子のテーマ”的な終末図絵ですが、新規加入されたナカジマ氏のドラムスが違和感なく曲にとけこんでいて、安心しました。
しかし「道中」の出立(一曲目)にこの詞は“遺書の用意をしときな”(「天体嗜好症」)と云われているような(笑)。
滑らかな感じの音で、歌詞はピクチャレスク。続く「野垂れ死に」の、ささくれた音色と漢字が迫ってくる歌詞と対照的です。


 弐「野垂れ死に」

嘉: ひたれます。墨と金属光沢の世界。“墨は餓鬼に磨らせ、筆は鬼に持たせよ”、なんて関係ないか。
い: 二曲目も低音で押してきますか。しかしサウンド・歌詞とともにヘヴィ度はこちらが上では?
嘉: アルバム『無限の住人』にも嵌まるような曲ですね、「莫迦酔狂ひ」風のムードで。「蛮カラ一代記」以来(かな?)のハーモニカもよく鳴っています。“韜晦の庵にて”以降の落魄ぶりがいいんですよ。
い: ハーモニカには気がついてませんでした……。「蛮カラ〜」では、竿竹屋フレーズでしたが、今回は素直にブルースっぽいフレーズですね。
楽曲は似てませんが、世界観は「晒し首」の方に近いかな。真夏の抜けるような青空の下、ひとり斃れる、というような空漠たるイメージを持っています。


 参「意趣返し」

嘉: バッジー系の曲でしょうか。
い: この粘る演奏は初期バッジーの雰囲気を感じますね。演奏も唄も、復讐者のネチっこい感じがよく出ています。「リベンジ」などという軽い言葉でとても表せない、“怨念”のある楽曲です。
嘉: 『魔太郎がくる!!』を連想します。歌詞は辛辣ですが、曲は妙にくつろいで聞けます。
い: やっぱり魔太郎役は和嶋氏ですか?! 「外道になります〜」の和音が妙に開放的で明るいのが、くつろぎにつながっているのかも。
嘉: 安心して聴けるギターソロと、全体のゆったりしたテンポからそう感じるのかな。
でも、トっトっトっトっ……と刻むリズムが胸に釘を打たれているようで、だんだん効いてくるんですよねぇ。ライヴ時には、どんな態勢でこの曲を受けたものか。
い: 個人的には、意趣返しする側にもされる側にもなりたくないものです……。


 四「道程」

嘉: ゴキゲンなナカジマ氏の唄とドラムス。駆けぬけてますね。一直線です。 今年風にいうと“アテネから北京への道”かな。
い: ナカジマ氏の唄声は、人間椅子始まって以来のさわやかさがありますね。
曲調は前作の「愛の言葉を数えよう」みたいな感じでしょうか。ドラムスはもちろん、ギター、ベースも疾走感にあふれています。 人間椅子の新生面がよく出た楽曲といえましょう。
嘉: 人間椅子にはめずらしい、体温の高い曲ですね。
い: ギターソロは、和嶋氏がキャロルのコピーバンド「ルシール」をやった成果なのか、古典的ロックン・ロールのフレーズが満載。しかもソロとエンディング、2回分楽しめるのがお得です。


 伍「与太郎正伝」

嘉: 与太郎は先の「意趣返し」とは縁がなさそう。
一聴して、あまりの曲のサワヤカさに、これは食パンのCMソングに使える!と思いましたよ。ただし歌詞は一番のみ。
い: このファンキーなリズムと、ヘヴィなベースラインとのアンバランスがたまらない魅力です。
嘉: 「エデンの少女」(『見知らぬ世界』)のアンサーソングでしょうか。
い: それプラス、「なまけ者の人生」(『羅生門』)がミックスされた感じかな。
「Hey! 与太郎」の楽しげなサビは、頭の中でかなり回ります。 最後の方のギターはジミー・ペイジっぽいフレーズ(「ブラック・ドッグ」の終わりごろみたいな)です。


 六「悪霊」

い: イントロから一転して、スピーディーな楽曲です。
この曲では、ナカジマ氏初挑戦というツーバスドコドコとあわせて、鈴木氏の叫びとベースの音色に注目したいです。
嘉: 序盤の鈍重な雰囲気から転じては、シャープさが際立ちますね。
そして、悪霊大いに語る。
い: 歌詞は自分の周囲に潜む悪霊についてで、ホラー映画(あまり観たことないですが)を思わせる内容ですが、鈴木氏が唄うと、実は自分自身が“悪霊”なのでは……という、自己紹介ソングに聞こえてきます。
エンディングはライヴっぽい終わり方ですね。


 七「新生」

い: 三枚目あたりのレッド・ツェッペリンがやりそうな構成ですが、妙にさわやかな楽曲ですね。これも人間椅子の新生面なのか?!
途中の軽やかなパートとか、作曲者の持ち味が発揮されています。また、さりげないスライド・ギターのソロもいい!
嘉: 詞、曲、アレンジとも毅然として簡潔。まぶしい曲です。
もしシングルカットされるなら、ジャケット画は森薫さんにお願いしたいです。
い: イギリスのヴィクトリア朝のイメージですか。
嘉: 時代は限定しなくても、平明な光景がいいかな、と。
い: 「道程」の孤独な一人旅から、「新生」は気楽な二人道中、という対比で聴いています。
嘉: ストイックに絞りこんでいく「道程」と、未知のワンダーの予感にふくらむ「新生」と対照的で、それもいいですね。
私は「みなしごのシャッフル」(『怪人二十面相』)の系統として聴いています。あれから数年、みなしごも地に足がついたようだな、と。


 八「夜間飛行」

い: いきなりテルミン音が響くイントロには驚きました。
10拍子(4+4+2拍?)の不自然なリズムに、宇宙の深淵を垣間見るような歌詞がからむ。音程だけでない重さを感じさせます。テーマは「天体嗜好症」と同じく“宇宙回帰”?
要所要所のテルミン・ソロが聴きどころです。
嘉: 〈宇宙〉シリーズ随一の重厚さですね。
私の聴きどころは、間奏の10拍のリズムとギターの絡みかな。
シングルカットされるなら、ジャケット画は昭和40年代の石原豪人さん(故人)にお願いしたいです(彼なら「発射」も描けそう)。


 九「のれそれ」

嘉: まずドラムから始まるイントロに耳をそばだててしまいます。
日本人の耳底にこびりついているメロディーをコラージュした、飛び出す絵本のような曲ですね。
い: 最初のリフも長調とも短調ともつかない、不思議な感触。
ゼリーが溶けかけたような、ユルユルな雰囲気がたまらないです。確かにこれなら遮光器土偶も踊りだしそう。
「村の外れでビッグバン」(『頽廃芸術展』)みたいな感じの詞世界でしょうか。
嘉: この歌詞を外国語に翻訳して、外国人に理解してもらうのは不可能でしょうね。
い: ちょっと掛け合い風の津軽三味線ソロ、そして最後のテンポチェンジで、さらに土着っぽいリズムになだれこむあたりは、編曲の妙を感じました。
嘉: 実は複雑でつかみどころの無い構成の楽曲だけど、日常生活で不意にパーツパーツが頭に湧いてきます。
しかし「夜間飛行」で着いたところは本家の兄にゃの座敷、そしてダラダラ繰り広げられる酒席のような。
ライヴでは、終盤の“パパンがパン…”を皆の衆でぱしッと締めたいですね。


 拾「発射」

嘉: 曲のノリとタイトルは「夜間飛行」を継承しているのかな。
い: 曲調はそうですが、歌詞は鈴木氏らしいストレートさにあふれてますね。評価は真っ二つに割れそうですが……。
嘉: この歌詞からストレートさを感じ取れるのは何故でしょうね。
しかし“10、9、…、0発射!って、フェイント攻撃ですか? 「ケロロ軍曹」のカウントは“3、2、1、Fire!”ですけど。
い: 普通のカウントはそうですけどねー。たぶん拍数の都合では?
この曲もツーバスで、エンディングはライヴ形式。たぶん実際のライヴでは最後にやる曲でしょうね。


 拾壱「痴人の愛」

嘉: 「天国に結ぶ恋」から十五年、そして始まる「痴人の愛」…… 感慨深いです。
雰囲気としては“東京ボンデージ 2004”かな。幻影と不実が、より深く掘り下げられていると思います。
い: アルバム全体の中でみると、この曲と「野垂れ死に」に通底するものを感じます。
嘉: 奈落感。蟻地獄のような砂上の奈落をゆっくり滑りおちていく感触。坦々と連なるベース音が効いています。
また間奏部の抑制された色香がいいですね。
い: 短いですが、いいギターソロです。ジミ・ヘンドリクスの「ブードゥー・チャイル」を彷彿させます。このソロなら15分くらい聴きたいです。
よく聴くと、すごい曲です。特に最後の痛切な三連符が全体を引き締めています。手短に終わった感がありますが、重暗曲のいつものパターンをあえて外した手法として評価しています。
嘉: いつか実現するであろうライヴDVD「化人幻戯」の中心に据えてほしい曲です。
い: この曲のライヴ演奏を想像すると、リフに合わせて妖しく動く鈴木氏の姿が目に浮かんでしまいますよ。そういえばDVDの話はどうなってしまったんでしょうか……。20周年までにぜひ実現してほしいです。


<総評>

嘉: まずは、適材のドラマーが加入してくれて、うれしいです。ドラムスも唄も、闊達な感じがいいですね。
い: 私もナカジマ氏のドラムスには安心しました。ボーカルも、これまでの人間椅子にはない華やかさを持っているので、期待しています。
嘉: 今回は各曲のイントロがおもしろかったです。
い: ギターソロは比較的即興的なものが多く、過去の楽曲のフレーズあり、エース・フレイリーっぽいフレーズあり、となかなか楽しめました。ただ、前作の「愛の言葉を数えよう」「王様の耳はロバの耳」のような構築されたソロも聴きたいな。
ベースは、インタビューでは「いいサウンドで録れた」と満足されているようですが、もう少しライヴっぽい音圧が欲しかったかな?という気もしました。ただ全体のバランスもあると思いますが……。
嘉: ベースの音圧については同感。ライヴに比べて弱く感じられました。
い: テーマとしては“仏教的な世界観で彩られた人生絵巻”ととらえました。『見知らぬ世界』『修羅囃子』から、より深化した精神性が感じられます。
嘉: “うき世とメメント・モリ”かな。浮/憂き世の在り難さと、そこに生身を置きつつ死を想え、と。
全体的に、今作は“第一レグは無難に通過”といった印象ですが。
い: そうですね。しかしあえて厳しいことを言えば、アルバムを通して“核になる楽曲”が見あたらなかった。単体でみれば「野垂れ死に」「痴人の愛」が良かったのですが、『三悪道中膝栗毛』としての全体像がつかみづらかったように思いました。 そういう意味では、まだ過渡期のサウンドと言えるのかも。
嘉: “核”の有無は特に意識しなかったなあ。
収録曲どうしの対比照応がおもしろかったです。「洗礼」と「野垂れ死に」、「意趣返し」と「与太郎正伝」、「夜間飛行」と「のれそれ」とか。曲順もいいし、気楽に聴けるアルバムだと思います。
さて、この三人で次のアルバムあたり“不惑”=「四十歳」が聴けそうですね。楽しみです。
い: 次作はバンド・アンサンブルがより結束して、サウンドも確立してきそう。第二・第三レグでは全開で突っ走って下さい!


<3〜4大好きな曲>(アルバム収録順)
い: ◎ 野垂れ死に
◎ のれそれ
◎ 痴人の愛
次点)洗礼、与太郎正伝、夜間飛行
嘉: ◎ 洗礼
◎ 野垂れ死に
◎ 新生
◎ 痴人の愛
次点)道程、のれそれ


以上、バンド十五周年に敬意を表しつつ、『三悪道中膝栗毛』アルバム合評会でした。
ご意見・ご感想などありましたら、練馬調査室までメール、または楽曲愛好BBSでどうぞ!

情報・投稿・忠告・激励・罵倒メールは:こちら までよろしくお願いします。


「総合目次」にもどる |  「阿片窟の男」の目次にもどる