「総合目次」にもどる |  「阿片窟の男」の目次にもどる |  最終修正:2003-02-25(火)



祝!新譜発売! 「練馬調査室」阿呆企画 第6弾

夜空に瞬くスタンド  『修羅囃子』アルバム合評会


平成15年1月22日に、目出度く人間椅子11枚目のオリジナル・アルバム『修羅囃子』が発売になりました。皆さん楽しんでいますか? 

さてこの慶事を祝し、当サイトでは掲題の企画を実施、パッケージや各楽曲についての意見を交換しました。以下はその模様です。
興味のある方はご覧ください。
(↑以上、前回までの前振りの文言をリスペクトしてみました。)


<出席者紹介>
い: 練馬調査室長いしー。つまり当サイトの主宰者。最近のマイブームは「スピットファイア戦闘機」。
嘉: 同調査員の嘉象。最近のマイブームは「しめじ」。


[パッケージ] →<作品総覧>の画像

嘉:  ジャケ買いした人がいたかも? 力作ですね。ジャケット写真、盤面、中敷とも。
い:  ジャケットは『二十世紀葬送曲』に似た感じですね。盤面は少ない色数でがんばってるデザインだと思います。
 表のメンバー写真はもうちょっと大きいほうがいいかな? 中ジャケで見て下さい、ということでしょうか。
嘉:  遠ざかっていくチンドン屋の後ろ姿も見たかったです。
 帯が両面印刷だったのに、ちょっと驚きました。
い:  ここに阿修羅の像が描いてあるのはなかなかいいアイデアです。
 初回特典「なつかしのおもちゃ」もジャケットの雰囲気に合ってます。

 壱「東洋の魔女」

い:  「東洋の魔女」の由来がわかる人は30代後半以上です。でも歌詞はスポーツ物じゃなかったですね。
嘉:  初回特典の紙風船で特訓して、オリンピックを目指すとか?
 「エデンの少女」「魅惑のお嬢様」から、グッと象徴的な女性の詞ですね。
い:  「魅惑の〜」が邪悪化したような感じです。でもコレラも治してくれるのでいい人かも。
嘉:  どことなくダンサブルな曲と思うのですが。
い:  「蛭田博士の発明」(『怪人二十面相』)のような系統の曲ですね。ライヴでもいい感じで盛り上がるのではないでしょうか。
嘉:  なるほど。そんな感じですね。
 アルバム1曲目からドラムが聴かせます。アルバム全体を通してですが、シンバルが気持ち良く耳に入ってきます。ドラムの音質が柔軟になったように思います。


 弐「鬼」

嘉:  これは“異人の歌”ですか。リフはレッド・ツェッペリン「移民の歌」に似ています。
い:  「鬼が島から大量移民」ですね。曲調は「蟲」(『二十世紀葬送曲』)にも似てますが、全体としては前作の「人食い戦車」の進化型と見ました。
嘉:  鈴木氏の唄が素晴らしいです。詞、声と、とても説得力のある唄です。
い:  私も冒頭の「もうだめだ」とか「さあ逃げろ 祈る前に」という絶望感あふれる唄が大好きです。
嘉:  1曲目の軽妙な節まわしから2曲目「鬼」の凄みのあるヴォーカルと、楽しめる構成です。それにしても鬼は子ども好きなんですねえ。
い:  子供は軽くて輸送しやすいからでしょうか?
嘉:  鬼ごっこで遊んでるし、近しい存在なのでは。とにかく、新月の「鬼」以来の佳曲ですね。“静”と“動”の両極端ですが。


 参「愛の言葉を数えよう」

い:  う〜ん、曲も歌詞もストレート! 特に歌詞はいままでにない雰囲気ですね。
嘉:  曲調は「地獄風景」に続く、応援歌シリーズともいえますか。一直線ですね。
い:  この曲のギター演奏はいいですね。特にブレイク後のソロがすばらしい! そんなに複雑なことはやっていないと思うのですが、シンプルな中にも味のあるプレイです。
嘉:  簡潔な力強さがあります。そこに載った深い歌詞。日常への没頭の果てにつかんだ真理のような。ある時、聴いていて、間奏部で涙しておりましたよ。「みなしごのシャッフル」(『怪人二十面相』)の兄弟曲としても聴けるのでは。
 このアルバムの中でも特に鮮烈な印象を受けた曲ですが、ギターとベースの応酬の背後で鳴り続けるドラムの多彩さに、ひかれました。
い:  演奏は歌メロとボーカルがかぶるあたりがジミヘンの"Fire"風かな。そう思って聴くとメンバー全員のアンサンブルが小気味良いです。


 四「月に彷徨う」

嘉:  発売前にタイトルだけ見たときは、「東洋の魔女」「鬼」と関連して“狼男”の曲か と思ったんですよ。
い:  たしかに歌詞のイメージはアメリカン・ゴシックホラー小説かな。ラヴクラフトの小説の舞台のような。バージル・フィンレイのイラストが目にうかびます。
嘉:  前曲から続く、この曲のイントロ、据わりがいいですね。
「狂気山脈」「ダンウィッチの怪」のような雰囲気的ですが、曲調はそれらより緩やかになっています。
い:  割とあっさりめに作っていますかね。そのせいか、前後のインパクトのある曲にはさまれて、最初に聴いた時は印象が薄かったですが、今ではよく練られた編曲が気に入ってます。


 伍「野球野郎」

嘉:  主題が明確で、輪郭がハッキリした曲。聴いていて気持ちがいいです。
い:  イントロから問答無用にかっちょいいですね〜。これまでの後藤氏の曲の中ではひねり度の少ない、ストレートなロックですね。
嘉:  曲は野球の本場、アメリカン・ロックですね。「刑務所はいっぱい」に続く。
 “ワン ストライク! … バッターアウト!”のバックコーラスが、決まってます。 このアルバムは「東洋の魔女」「王様の耳はロバの耳」「相剋の家」など、バックコーラスも聴きどころの一つかと。
い:  全員が唄えるバンドの強みですね。この一体感がたまらないです。
嘉:  ピッチャーの詞ですが、唄うマスヒロ氏はドラムスを叩く人だから打者。
 ライヴでは野球帽を被って演奏してほしいです。希望球団は広島カープか、千葉ロッテマリーンズ。
い:  「三つの頃には フォークを投げた」は食器にもかけてるのかな? スプーン投げとか。
 私の希望は浦和レッズ…ってサッカーですね… ちなみに私は野球やるのは苦手です。フライは顔で捕るタイプ(泣)。
嘉:  この曲は「みんなのうた」でもオッケーですね。いしいひさいち氏のアニメをバックに。「サッカーサンバ」(NHKおかあさんといっしょ)に負けるな!


 六「最後の晩餐」

い:  和嶋氏がよく取り上げる“世界の終わり”“終末”ネタですね。「遺言状放送」(『桜の森の満開の下』)「ギリギリ・ハイウェイ」(『踊る一寸法師』)の世界に近い。
嘉:  この曲の詞は、なぜ「ですます調」なのでしょう。
い:  愚かな人類に対するアイロニカルな味を出しているのではないでしょうか。
嘉:  終末に向かう地球と人を見せる、からくり人形劇場のような曲に、その口上のような唄なのかな。アルペジオがオルゴールのように聞こえますし。
 自分または地球の寿命まで、あと何回食事ができるかわかりませんが、最後の晩餐は、やはり人間椅子ディナーショーを希望です。
い:  その節は、鈴木氏がマスターの「ハードロック食堂」にてお会いしましょう。


 七「終わらない演奏会」

嘉: “学校の怪談”的な曲かと思ったのですが。
い:  歌詞を読んだだけではシンプル過ぎて怖さが伝わってきませんでしたが、スピーディな演奏がつくと雰囲気が変わりますね。
 人間椅子ライヴなら終わらなくてもいいんですが、メンバーにとっては悪夢でしかないですね。
嘉:  ギターはミック・ボックスが炸裂してますね。「エイズルコトナキシロモノ」以来かと。
い:  このギターが入っていることで曲が引き締まっていますね。


 八「王様の耳はロバの耳」

い:  最初に歌詞を読んだ時は、どんな暗い曲なのか…と思っていたのですが、いきなりディスコだったので、いい意味で腰がくだけました。
嘉:  テーマは“裏声で歌ふ”ですか。
 ディスコとはいえ踊れないかもしれないけど、聴いたり思い出したりすると、延々頭の中で廻り続ける曲ですね。この点の持続力は、アルバム随一。
い:  特にサビの♪ピロピロピロ…という細かいリフが頭で鳴っています。
 この曲もギターソロがいいんですよね〜。慌てず騒がずマイペース野郎ちゃん、という感じの節回しがこの曲のテーマにぴったりです。
嘉:  妙にくつろげるギターソロですよね。踊らない人にも居心地のいいディスコです。


 九「恐山」

い:  アコースティックギターのアルペジオが美しい曲です。12弦ギターの響きかと思いましたが、普通の6弦にカポタストを付けているんですね。
 唄い出しから「血の池地獄に〜」はなんとも凄惨な感じですが。
嘉:  なかなか無いですよね、冒頭からそういう詞の曲は。
 ギターは存在感ありますし、ヴォーカルは野外っぽい響きで臨場感があります。パーカッションが静かに雰囲気を盛り上げていますね。
い:  特にサビの部分の盛り上がりは泣かせます。
 あと地味ですが、掛け声もいいですね。
嘉:  青森県のテレビ番組や「Player」の譜面で存在が知られていた曲ですが、今回リリースされて、よかったです。


 拾「蛇性の淫」

い:  鈴木氏のこのベースのパターンは「審判の日」(『黄金の夜明け』)ですね。
 特にヘビは苦手ではないですが、「蟲」に通じる全身のむずがゆさを感じてしまいます。
嘉:  「恐山」の直後にこの曲というのは… 『修羅囃子』なればこそ、でしょうか。  ご参考まで蛇関連の写真を上げておきます。


 拾壱「相剋の家」

い:  最後はやはり和嶋氏のヘヴィな楽曲ですね。
 曲、歌詞ともに『修羅囃子』というアルバムタイトルにもっとも合致した曲です。
嘉:  「自然児」「死神の饗宴」(『見知らぬ世界』)を深耕したような詞ですか。“呪縛”という言葉を連想します。ベースとドラムの重音からも。
い:  本作はアレンジも葛藤中の雰囲気ですので、個人的には「黒い太陽」(『二十世紀葬送曲』)よりは落ち着いて聴けてよかったです。
 呪縛という意味では「黒猫」(『無限の住人』)も連想します。
嘉:  相棒の猫がいないせいか、自閉的に濃く煮詰まった内容になっているような。
い:  歌詞は久しぶりの難解系ですが、“家”への依存と反発という、相反する心情がうまく表現されていると思います。


<総評>

い:  まずは“音のいいアルバム”という印象があります。高音から低音まで各楽器・ボーカルのバランスが良く、過不足のないサウンドです。
 全体としてはうまくまとまったアルバム。11曲がバランスよく配列されています。
嘉:  クレヴァーな造りだという印象です。内容もパッケージも。
 バンド・メンバーの趣味・嗜好と、世間が認知している(と思われる)バンドのイメージやニーズが均衡しているのではないかと。
い:  『修羅囃子』というテーマでは統一されていないけれども、各曲に整合感がありますね。
嘉:  初心者から長く聴いている人まで、それぞれで楽しめる内容だと思います。
 初期の雰囲気の曲(「東洋の魔女」「相剋の家」など)も、賛否両論の前作『見知らぬ世界』の方向で推進した曲(「最後の晩餐」など)も含まれていますし。
 「ロッキンf」「BURRN!」「ギターマガジン」のインタビュー記事も、副読本として楽しめる内容でした。
い:  ただ今回のアルバムは安定している反面、チャレンジが少ないかなという気もしますね。
 前作『見知らぬ世界』の時は、次のアルバムでは一体どうなるのか!?というスリリングな面がありましたので、その意味で本作は無難にまとまったな、という印象です。こうなると鈴木氏のギャンブル系の曲が懐かしくなってくるのが不思議です。
 サウンド面でも、もうちょっとけれん味がある方が好みです。テルミンソロとか(笑)。
嘉:  『見知らぬ世界』の影響か、毎盤1、2曲、賛否両論系の曲を期待してしまいます。それから、今回ひさしぶりにアコースティックの曲が入りましたが、次はインスト曲も聴いてみたいです。「走れメロス」以後、ないですよね。
 和嶋氏作曲の4曲は、まったくタイプの違った曲ですが、そのなかで「愛の言葉を数えよう」は、革新的な曲だと思いました。
い:  インスト曲、賛成です。
 「愛の〜」は、確かにこれまでとは違って正攻法な歌詞ですね。
 和嶋氏の楽曲は、人間椅子のイメージからはずれるとの批判もあるようですが、私はそういうのも含めて“人間椅子”ではないか、と思います。同じような曲ばかりだと逆に不安。
嘉:  来年はバンド15周年ですね。新譜の制作のほか、旧曲の再アレンジなども聴きたいです。
い:  「陰獣」からもう15年ですか。年月が経つのは早いですね。ボックスセットの企画は…ないですよね。
 「3大好きな曲」は今回も選びづらいです。私はとりあえず作曲者3人から1曲ずつ選びました。でも次点とは僅差だと思って下さい。


<3大好きな曲>(アルバム収録順)
い: ◎ 鬼
◎ 野球野郎
◎ 王様の耳はロバの耳
次点)東洋の魔女、愛の言葉を数えよう、恐山、相剋の家
嘉: ◎ 鬼
◎ 愛の言葉を数えよう
◎ 野球野郎
次点)最後の晩餐、王様の耳はロバの耳


以上、『修羅囃子』アルバム合評会でした。
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