「総合目次」にもどる |  「阿片窟の男」の目次にもどる |  最終修正:2001-09-29(土)



祝!新譜発売! 「練馬調査室」阿呆企画 第5弾

わたしがすべて叶えてあげます 『見知らぬ世界』アルバム合評会


平成13年9月21日に、目出度く人間椅子10枚目のオリジナル・アルバム『見知らぬ世界』が発売になりました。皆さん楽しんでいますか? 

さてこの慶事を祝し、当サイトでは掲題の企画を実施、パッケージや各楽曲についての意見を交換しました。以下はその模様です。
興味のある方はご覧ください。
(↑以上、前回までの前振りの文言より引用しました。)


<出席者紹介>
い: 練馬調査室長いしー。つまり当サイトの主宰者。最近のマイブームは「駆逐艦」(ほんとは「水雷艇」)。
嘉: 同調査員の嘉象。最近のマイブームは「マイナー史跡めぐり」。「嘉象堂」ホームページはこちら。


[パッケージ] →<作品総覧>の画像

い:  今回は再び写真のジャケットに戻りましたが、色、構図、雰囲気、どれをとっても深みを感じさせる写真が使われており、好印象です。
嘉: 『二十世紀葬送曲』のジャケット写真は内容との関連がつかみにくかったのですが、今回の写真はアルバムの内容をよく反映していると思います。
 表ジャケット写真は、手前の椅子同様、奥のテレビに注目したいです。 この構図を、椅子に坐って13チャンネルの『人間喜劇』をご覧ください、と読みました。
い:  あるいは『木曜スペシャル』が受像されるのかもしれませんね。
 裏面は全面が家の写真(2階の窓にメンバー)なのは良いです。ただし、曲順が中ジャケを見ないとわからなくなってしまいましたが…。
 メンバーの写真は歌詞とともに中ジャケットに載っています。今回は前作『怪人二十面相』とは違い、特にコンセプトのない服装だと思うのですが、それにしても和嶋氏の銀色の宇宙服には度肝を抜かれました。 宇宙服の男が和室でお茶と煙草をのみながら読書する図は、ミスマッチが楽しいです。
嘉:  それも翻訳機背負って、アンテナ立てて。
 鈴木氏は修験者、後藤氏は野戦兵で、三人三様というかバラバラ。しかし、全員そろいの服装のほうが、かえって異様かも。
 服装はバラバラでも、表→中ジャケット→盤面→裏ジャケットと、一連のパッケージのデザインには統一感があります。パンフレットの写真も良いですし。
い:  後藤氏の服装はオートバイ兵でしょうか? デザインですが、『二十世紀葬送曲』からずっと同じ方が担当されているようですね。
 盤面には珍しくメンバー写真が使われていますが、鈍い銀の地色が大変良いと思います。ここまで来たら、次はピクチャー・ディスクをお願いします!

 壱「死神の饗宴」

い:  最初の曲は、鈴木氏ボーカル曲が良く似合います。モロに初期ブラック・サバスという感じの曲調と展開ですね。ギターソロ部分はトニー・アイオミが憑依したかのようです。
 アルバム1曲目から1音半下げ、という出だしは『頽廃芸術展』の「胎内巡り」以来でしょうか。
 歌詞はいわゆる難解・暗黒系ですが、実は比較的ポジティブな内容なのが新鮮です。暗い曲に明るい歌詞という組み合わせですね。
嘉:  アルバム冒頭から死神・鈴木氏に叱られてるような気がするんですが。
 私は何故か「メシ喰うな」を連想してしまいます。
い:  大槻ケンヂのソロ『ONLY YOU』に収録のバージョンですね。確かにあの唄はパンクの叱りつけ系の歌詞ではあります。しかしこっちの方は叱り方にも愛があるというか、思いやりを感じるように思うんですが。
 「盂蘭盆会の墓場来て」という下りは、やはり日本のバンドだなという思い を新たにしました。お盆に作った唄なのか?
 後藤氏のバスドラムが、死神を前にした者の心臓の鼓動を思わせます。
嘉:  しかし、キリスト教の死神はよく目にしますが、日本の死神がイメージできません。 宗派を問わない現代的な死神なのかも。


 弐「涅槃桜」

い:  2曲目はもちろん和嶋氏のボーカル曲。イントロはハードっぽいですが、曲はポップですね。
 その割には間奏でキング・クリムゾン風なソロやリズム回しがあって、聴くたびに発見がある感じです。
嘉:  1、2曲目とも比較的イントロが短めで、はやめに本題に入っていますね。
い:  ラジオでのオンエアを考えた対策でしょうか? イントロが長いと、唄に入ったところで切られちゃいますんで…。
 テーマは前作の「みなしごのシャッフル」を深化させたような曲でしょうか。
 歌詞もシンプルな言葉を使っていながら、深みのある表現に成功していると思います。
嘉:  私は「暗い日曜日」的な曲と思いました。 詞も曲も優柔な桜吹雪ぶり。聴いていると、ざわめきのなかでフッと気が遠くなりそうな曲です。
い:  やっぱり春の終わりに有線放送でリクエストしたい楽曲です。
 曲の終わり方はロビン・トロワー風でしょうか。そう考えると内容もブルーズですね。アンプラグドでやっても面白いかも。


 参「侵略者 インベーダー

い:  乗りがいいですね。6月のライヴですでにお披露目されてますが、それだけに完成度の高い曲だと思います。イメージが掴みやすく、必ずや人気曲になるでしょう。
 曲、詞、唄、演奏のどれもが素晴らしいです。テルミンソロの入り具合もパーフェクト。
嘉:  バッジーの「脳外科手術の失敗」風のリフが効いています。
 地球外へ向かう「天体嗜好症」のような宇宙シリーズとは違ったSF的な曲で、先例には「遺言状放送」がありますが、より洗練、パワーアップしています。
い:  外から中へ入ってくる形の宇宙ものですね。
 携帯電話持ってないんで、「異星人とメールのやりとり」はいまだにしたことないですが(笑)、歌詞の内容は、子供の宇宙人妄想がテーマでしょうか。ラヴクラフト的な展開では、自分が宇宙人だったりするオチなんですが。
嘉:  70年代の日本のSFジュブナイル的な世界ですね。福島正実の『真昼の侵入者』などの。


 四「さよならの向こう側」

い:  この唄も6月のライヴでお披露目されてました。この時は本作は一体どんな仕上がりになるのか、想像もつかなかったのですが、こうしてアルバムで聴くと、意外なほど嵌まっていて、安心して聴くことができました。
嘉:  いままでのアルバムには収録されないような曲ですね。新しい分野です。
い:  曲は人間椅子の演奏なのでアレですが、歌詞はそのまま読むと昨今のバンドが唄っていてもおかしくないような内容ですね。
 本作の和嶋氏の歌詞が前向きになっていているのは他の曲でも感じることですが、この曲はその頂点にあるものと言ってよいでしょう。
嘉:  この曲、ギターソロらしいギターソロが無いんですね。 間奏部も明朗な音を鳴らすくらいで。人間椅子の楽曲中、最もシンプルなギターソロか?  曲全体にいえることですが、潔いです。
 その分、詞とヴォーカルに重点が移りますが、明快に唄いきっていて成功していると思います。 今回のアルバムの和嶋氏のヴォーカルは、どれもいいですね。


 伍「人喰い戦車」

い:  私はこの曲けっこう好きです。この曲はコンセプトの勝利という感じです。
嘉:  唄メロディー前半はブラックサバスの「WHEELS OF CONFUSION」終盤部分でしょうか。
い:  「WHEELS〜」は幻想色が強かったですが、こちらはよりストレートな表現になっていますね。
 この唄の戦車は、ELPの『タルカス』のジャケットに出てきた恐竜戦車?を想像してしまいました。
 演奏ではドラムスががんばってます。昨今の世界情勢では、放送禁止曲になってしまいそうな歌詞ですが…。
嘉:  放送禁止じゃなくて“自粛”ですよ。なんだかタイムリーな。
 ドラムの硬質な音が印象的です。楽器の形態も戦車に近いですし。


 六「そして素晴らしき時間旅行」

い:  佳曲ですね。しかし時間旅行にはこんなに背徳的な香りがあるのか…と思わせるダークな曲調です。「阿片窟の男」の雰囲気に近いものを感じてしまいます。
 歌詞を読むと、こんな暗い曲になるとは思えないんですが。「死神の饗宴」と同じく、明るい歌詞に暗い曲ですね。
嘉:  タイトルからポップな曲調を予想していましたが、全然違いました。
い:  確かに、この歌詞で1音半下げというのは意表を突かれました。
 後藤氏にとってはこれが初めての1音半下げ曲になるのでしょうか? ヘヴィさよりは「不眠症ブルース」のような気だるさで勝負という感じです。ただし変拍子も使ってます。
嘉:  気だるいというより、私は頭の中にズブズブと重りを下ろされていくような感じがするんですね。 意識の中に沈潜していくような、けっこう過酷な旅行です。


 七「甘い言葉 悪い仲間」

い:  テーマは、別な意味での「時間を止めた男」でしょうか。ナルシスティックな友人を諌める唄か?
 楽曲としては、大いにチャレンジしている感じです。特に間奏のギターソロ部分が初期のピンク・フロイドみたいな響きに聞こえます。
嘉:  幻想的な曲です。 卑近な(失礼)詞ではありますが。その対比で悪酔いしそうです。 “甘い/悪い”が体感できる楽曲です。
 直前の重低な「そして素晴らしき時間旅行」の後、この高めの曲なので、落差が大きいです。


 八「自然児」

い:  最近(ここ15年ぐらいという意味)のキング・クリムゾン的なリフと構成です。「自然児」というより「肉食恐竜」という感じの力強いリフですね。
 ただ、歌詞の雰囲気と曲調はやや合いが良くないように思うのですが…。
嘉:  前半は少々ききづらいかな。あと曲の前半と後半がしっくりこないような。
 曲調からは「狂気山脈」「ダンウィッチの怪」のような、ラヴクラフト作品の詞がつきそうですが、曲からは<堕天使>をイメージしました。 とはいえ、この詞の<自然児>は、うらやましい存在です。
い:  芸術家的生活ぶりを連想します。和嶋氏や鈴木氏もある意味こんな側面を持っているのではないでしょうか。


 九「エデンの少女」

い:  唄の部分はアリス風のコーラスと中島みゆき風の唄で、イントロを除けば70年代後半のニューミュージックそのままですね。
嘉:  中島みゆきの「悪女」とかね。でもイントロが「人間椅子倶楽部」みたいなニューミュージックって無いのでは。
い:  その違和感に最初は戸惑いましたが、歌詞の内容からピンク・フロイドの「See Emily Play」のような唄だということがわかって好きになりました。個人的には、思い入れのある曲です。
嘉: 「See Emily Play」だとフにおちます。邦題は「エミリーはプレイ・ガール」。このタイトルだと結びつきませんが。
い:  さらにピンク・フロイドとニューミュージックも結びつきませんね…。この曲の歌詞もポジティブ路線だと思いますがどうでしょうか。
嘉:  私はポジティブ/ネガティブという区分にはこだわりませんで、このアルバム、特に7曲目からの数曲は、現代の人物像を描き出している曲が多くて、この曲もその一つだと思っています。


 拾「魅惑のお嬢様」

い:  正直言って、よくわからない曲です…。「お嬢様」っていう存在に、いまいち現実感がわかないんですが。
嘉:  ド庶民なもので、「お嬢様」の実物にお会いしたことないです。
い:  大越孝太郎氏に挿し絵やフィギュア製作を頼めば、うまくリアライズしてくれそうです。
 曲はブラック・サバス的です。「光輝け お嬢様」という部分がなんとなくユーモラスな感じ。
嘉:  私はファウルズの「コレクター」を連想しました。あと怒られるかもしれませんが、ツイストの「燃えろ いい女」とか。
 お嬢様が発するオーラのようなものの讃歌かな。


 拾壱「悪魔大いに笑う」

い:  T.レックスを思わせるイントロのギターでまず笑ってしまいました。しかしこの曲のギターは心憎い程にツボを押さえた演奏で、会心の笑みもこぼれてしまいます。
 最初のギターソロはSGじゃなくて、もっとメロウな音の出るギターを使っている音色でしょうか。
嘉:  その辺りはライヴで確認ですね。
(あなた)のコーラスとカウベルが効いています。
 このアルバムのこの位置で、剽軽さが光る佳曲。「ひるの歌謡曲」でもOKですよ。
い:  しかしお昼にこのシニカルな歌詞は大丈夫なんでしょうか。
「契約は一回限り」ということは、まだ契約していないんですよね。
嘉:  そろそろサインするところかもしれません。


 拾弐「棺桶ロック」

い:  毎度お馴染み、鈴木氏のスラッシュ曲ですが、今回は趣向を変えてきましたね。これまではストレートなスラッシュ・メタルでしたが、今回は曲の構成が面白いです。
嘉:  ストレートな曲は前作の「地獄風景」で窮めた感がありますから、今回は展開に変化をもたせたのでは。 この曲も詞と曲と鈴木氏の唄声がピタリと一致していて、よい出来上がりです。
 ライヴで演奏されるところが今から目に浮かびます。 もう頭の中でステージのライトが点滅してますよ。
い:  2バスドコドコの部分とか? しかし一部「カメラのさ○らや」みたいなフレーズがありますね。
 タイトルは某国首相もファンという歌手の持ち唄「監獄ロック」のもじりだと思いますが、内容はもちろん全然違います。ポーの「早過ぎた埋葬」ですね。
嘉:  ここでは火葬ですが。 やはり、こんな時に叫ぶ言葉は"Black Sabbath"


 拾参「見知らぬ世界」

い:  テンポチェンジもなく、特に複雑な構成ではないんですが、何度か聴いて、ようやく全貌が掴めるという感じでした。シンプルながら深みのある渋い楽曲です。
嘉:  荒涼とした拡がりのある音になっていますが、同時に眩い曲。特に間奏部はイメージ喚起力が強く、このアルバム中、最も好きな曲です。
い:  個人的には、『二十世紀葬送曲』の超ネガティブな「黒い太陽」と対照的にポジティブな楽曲で、安心してエンディングを迎えられて良かったです。「黒い太陽」はいつ聴いてもヘヴィ過ぎる曲です…。
嘉:  2曲とも簡潔にキッチリとアルバムの最後を締めくくっている曲ですが、内容は対照的。「黒い太陽」は体液的、鬱屈した感じの曲ですが、こちらは精神的に解放された曲ですね。
い:  解脱というか悟りをひらいたようなイメージです。
 結局、「見知らぬ世界」とは何なんでしょうか? 涅槃、エデン、あるいはユートピア?
嘉: “涅槃で待つ(死語)”ですか?
 イメージ的には、人工冬眠から醒めた男が、まっさらな状態で人類滅亡後の世界へ歩きだす、というのも一例ですが。歌詞を見ると“私は〜する”“彼らは〜”と、英文和訳調です。感覚と認識の軽い違和が表されていると思いました。まだ新しい自分に馴染んでいないような。
 ということで、テーマは<新生>かな。


<総評>

い:  今回は自由テーマでどんな感じになるかと期待半分、不安半分といったところでしたが、予想以上にまとまった作品に仕上がっていて驚きました。前作『怪人二十面相』はコンセプト・アルバムで、比較的まとめやすかったと思うので。
嘉: 『怪人二十面相』はテーマにバンドの持ち味を嵌め込んでいくような造りで、今回はそれとは逆に、外へ拡げていくような造りですか。
 やりやすそうなテーマから離れた自由テーマのほうが、今時点のバンドの在りようが見えやすくなりますが、そういう条件下でも今作は、とても満足度の高いアルバムです。
い:  各楽曲もそれぞれの良さもありますが、やはりタイトル曲「見知らぬ世界」がすべての曲を総括している感じです。この楽曲があったからこそ、これだけ統一感が出せているのでは。
 本作は文学からネタを取った楽曲が無くなった点が目新しいように思います。これまでもタイトルに引用している程度で、テーマは人間椅子独自のものでしたが、バンドとしてのコンセプトにこれまで以上の自信を感じさせます。
 歌詞はこれまでにも増して、わかりやすく前向きになってきているようです。まさにポジティブ。曲調もこれに対応してポップな面を強調しています。
嘉:  詞の題材は現代を扱ったものが多いと思います。この点は『羅生門』に近いかな。
 これからもメンバーの心境、環境から生まれる楽曲を聴きたいと思います。
い:  確かに、現代的なテーマを扱ったという点では、『羅生門』や 『踊る一寸法師』に近いという感じですね。
 演奏は全員がんばってますが、特に和嶋氏のギターはみっちりと練られている感じです。自分の曲のギターソロは作り込み、他人の曲では適度な即興で、という感じで、今回は作り込みと即興のバランスが良く取れているように思います。
嘉:  後藤氏が正式加入してから4作目ですが、このアルバムを聴いて、まだまだバンドの楽曲、音が生成変化していくように感じました。
 ところで、全13曲と曲数は多いですが、どの曲も外せないですね。
い:  サポート参加の『羅生門』を加えると計5作ですね。今後も期待できます。
 今回も「3大好きな曲」が選びづらいです。いろいろ考えましたが、あえて王道を外してみました…。
嘉:  私は、今回はスミマセン、どうしても3曲目が選びきれませんでした。ここは潔く2曲のままにします(次点はズルします)。


<3大好きな曲>(アルバム収録順)
い: ◎ 死神の饗宴
◎ 人喰い戦車
◎ エデンの少女
次点)涅槃桜、侵略者 インベーダー、悪魔大いに笑う、見知らぬ世界
嘉: ◎ 棺桶ロック
◎ 見知らぬ世界
◎ 
次点)涅槃桜〜侵略者 インベーダー〜さよならの向こう側(3曲連続)


以上、『見知らぬ世界』アルバム合評会でした。
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