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2005年2月22日(火) 渋谷 O-West 【平成十七回忌巡業〜寒中膝栗毛】
18:00開場 19:00開演

【レポート】

 東京では久々の平日開催のライヴ。会社勤めの私も退社後にいそいそと出かけました。火曜日の夜では集客上は不利だとは思いましたが、開演20分前頃に入場したときは、観客の入りはけっこう多いように見えました。客待ちBGMは女性ボーカルのニューウェーブっぽい曲(詳細は不明)です。
 右寄りにある物販コーナーは、前回新譜ツアーに続き、今回も新作がありました。ツアーTシャツとステッカーで、それぞれ本ツアー【平成十七回忌巡業〜寒中膝栗毛】のイメージキャラクター(?)「うつろ舟」が描かれています。

 開演時間になり暗転。今回のオープニングテーマは、2002年の再来「木曜スペシャル 矢追純一UFOスペシャル」。うつろ舟の話にちなんでUFO物を持ってきたのでしょうか。メンバーが入場し、オープニング曲は「もっと光を!」。4枚目『羅生門』からの意外な選曲です。中間部のベースとギターの軽いインプロヴィゼーションがカッコいい。
 2曲目はハードなギターリフから軽やかなリズムの「恋は三角木馬の上で」。ナカジマ氏のバックコーラスがサワヤカに加わります。つづいて一転して陰湿な詞の「意趣返し」へ。詞とは対照的に演奏は鷹揚、重厚なサウンドです。通勤と仕事の日常から、次第に人間椅子の世界に引き込まれていくのが心地よいです。
 今日のメンバーですが、いでたちは和嶋氏とナカジマ氏は『三悪道中膝栗毛』ジャケットの通り旅装束、鈴木氏は坊主頭に袈裟がけ。鈴木氏の剃髪姿を見るのはまだ二度目ですが、すでにすっかり見慣れた光景、こういうお坊さんって居るよね…という感じ。楽器は、和嶋氏がバット2、鈴木氏がイーグルです。

 「コンバンワ―― 人間椅子デ〜ス……」で始まるいつもの鈴木氏の最初のMCですが、せっかく日程にゾロ目の2・22を選んだのに、いきなりO-Westでのライヴ最低動員を記録してしまった、との発表がありました。フロアも埋まっているように見えるが、実はステージ前を客席側に広げて狭くしているとのこと。確かに2階席も開放していないし、総勢だいたい200人弱くらいでしょうか? しかしナカジマ氏は元気いっぱい、「今日も120%で行くぜ! イエー!」。
 いろいろと意気消沈の鈴木氏、「ノブは前向きでいい」とナカジマ氏をやたら持ち上げ、和嶋氏にも「次の曲『夜間飛行』の歌詞はいい」と、鈴木氏による“ほめ殺しナイト”の様相を呈していました。ちなみに、「僕もノブのようにポジティブにならないと」という和嶋氏の今年の目標は「アルバムを作る」とのこと。
 次の曲は『三悪道中膝栗毛』から「夜間飛行」。ポーズも決まったイントロから中間部のテルミンソロ、そしてロバート・フリップのようなギターソロと和嶋氏が大活躍。ベースとドラムもガッシリとリズムを叩きこみ、鈴木氏が幽遠な詞を乗せていきます。照明もステージ上方に星々を映し出して宇宙度をたかめます。序盤をしっかり固めた好演奏でした。
 軽妙な「与太郎正伝」が後に続きます。後半のジミー・ペイジ風のギターリフは、和嶋氏曰く「難しかったけど、なんとかできた!」という熱演でした。

 MCでは、自宅の鴨居に頭を強打し、鼻血を出す事故に遭ったという鈴木氏、今夜が「鈴木研一さよならライヴ」になるのでは……との観測が出ていました。どの曲で斃れるか、などひとしきり雑談。
 次の曲は、ナカジマ氏強化月間の成果、難曲「羅生門」。ドラムのアレンジは簡潔になっていましたが難なくクリア。いつかまた12弦ギターで聴きたい曲でもあります。アルバム『人間失格』から「賽の河原」と古い曲が続きます。

 鈴木氏と和嶋氏はそれぞれグレコ、イーグル(茶)のローチューニング楽器に持ち替え、重暗コーナーの準備にはいります。
 和嶋氏が楽器替えする間、鈴木氏が「ノブのドラムは、母親に抱かれるようなやさしいリズムなんだよね〜」と言えばナカジマ氏、「俺はできるだけ極悪に叩こうとしてるんだけどね…?!」と、いまひとつ噛み合わない会話。するとグレコに持ち替えた和嶋氏が唐突にマイクをつかみ取って語りはじめます。鈴木氏の「ラッシャー木村みたいですね」という冷やかしにもひるまず、和嶋氏は前日に起こったハプニングについて力説します。
 大阪ライヴのあと、楽器車で東名高速を東京に向け移動中、浜名湖のガソリンスタンドで給油のため停車。後部座席でずっと寝通しだった和嶋氏がトイレに行っている間に、前席の鈴木氏とローディー川端氏は、和嶋氏の不在に気づかずに出発! トイレから帰った和嶋氏は、あまりの事態にガソリンスタンド前でぼう然……。車に連絡しようといそいでかけた携帯電話も、日頃のイタズラ電話癖がたたって、すぐには出てもらえず、散々な目にあった!と縷々訴えます。しかし和嶋氏をのぞくメンバー、そして会場の観客はただただ爆笑するのみ。
 「そんな風に、人間は一人になってしまう唄です」という和嶋氏の導入で「野垂れ死に」。重暗コーナー1曲目は、曲も歌詞も非常にヘヴィ。和嶋氏のボーカルマイクの横に立っていた2本目のマイクスタンドが気になっていたのですが、この曲のハーモニカソロ用でした。ソロの後、人生を象徴するかのようにハーモニカが振り子のように左右に揺れていたのが印象的でした。
 続いて2枚目『桜の森の満開の下』より「心の火事」。原曲と違い、ローチューニングでの演奏ですが、それほど違和感は感じませんでした。次は「洗礼」。最新アルバムの楽曲はナカジマ氏も慣れているせいか、どれもドラムスが良いです。

 MCでは、ナカジマ氏が「心の火事」を気に入っている話。しかしシャワーを浴びながら(火事が鎮火されないか?)この曲を口ずさむ、という氏が唄ってみせたメロディーは妙にポップに変質してしまっていて、ちょっと違う曲のように聞こえて可笑しかったです。
 鈴木氏が客席に、ノブのドラムソロを聴きたいですか? 終了時間が遅くなりますよ? と挑発して始まった「ナカジマノブ ドラムソロコーナー」。「嵐を呼ぶ男」を唄ったり、ソロを披露したりとナカジマ氏の熱いプレーの連続。そして「莫迦酔狂ひ」へと流れ込みます。次は「黒い太陽」。いつ聴いても、息苦しく閉塞感のある楽曲です。

 ベース、ドラムスが即興演奏をはじめる中、和嶋氏がギターを交換し、即興に加わります。ベースがローチューニング、ギターが通常チューニングといえば、導き出される楽曲は「どだればち」。青森出身のバンドならではのフレーズ、音色に歌詞。いつ聴いても人間椅子らしさにあふれた名曲です。
 和嶋氏が弾くギターは、通常チューニングながら、ステージでは初見のレスポール型のギター。後で調べたところ、グレコがゼマイティスと協同製作したGZシリーズで、ボディのインレイから判断して、GZ-2600IFのようです。グレコのサイトでは「09/29 人間椅子ニューアルバム完成!和嶋さんGZをプレイ!」という告知があり、「近い将来ライヴでGZを目にする機会があるかも知れません」というコメントがなされていましたが、今回が東京では初お目見え(たぶん)となりました。

 鈴木氏がイーグルに持ち替え、重暗曲コーナーは終了、ライヴは終盤に入ります。
 バンド内ではパチスロの話題が通じにくい鈴木氏、パチンコ好きのミュージシャン、美女丸氏(ex-カブキロックス)らと「777(スリーセブン)」というバンドを企画、曲ができたらすぐやりたい、とのこと。
 その鈴木氏から、「男と女の目と目が合えば、そこから始まる愛のカウントダウン〜」という前口上で、会場のカウントダウンから「発射」を演奏。
 大いに盛り上がったあとは屍態のカウントアップ、ダンサブルな「九相図のスキャット」、人間椅子を代表する「青森ロック大臣」へ続き、これまでのライヴでの終盤とはちょっと変わった選曲が続きます。
 最後の曲となり、和嶋氏がバット2に持ち替え、「桜の森の満開の下」を演奏。初期の代表曲を新メンバーでじっくりと聴かせます。古い曲には、GZの明朗な音色より湿潤な音のSGがよく似合います。

 観衆の拍手がつづく長い余韻のあと、メンバーが姿をあらわします。まず登場したナカジマ氏はグリーンのツアーTシャツ、和嶋氏はベージュのもの。鈴木氏は白い和服の死装束。ギターは再びGZ、ベースはミラージュ(木目)となり、アンコール1曲目はナカジマ氏のボーカルで「道程」。唄はもちろんドラムスでもドライブするナカジマ氏。
 続いて「愛の言葉を数えよう」。やたら楽しそうに唄い演奏する和嶋氏でした。これで1回目のアンコールを終え、メンバーは下手へ引っ込みます。

 2度目のアンコールを待っていると、突如場内にサンバ・ミュージックが流れ、ミラーボールが回転、そして「マツケンサンバ2」にのってメンバーが軽やかに登場。鈴木氏は金の和服で「松平健=殿様」、ナカジマ氏は和服を羽織って「家来」、和嶋氏は「修羅囃子」の時のかつらに着物を羽織って「腰元」、という配役? カラオケにあわせてメンバー全員で唄って踊り、ただしサビの部分では歌詞を変え「マツケン」ならぬ「スズケン(鈴研)サンバ」を熱演します。
 和嶋氏は慣れ親しんだバット2に持ち替えて、鈴木氏の音頭、ドラムの三三七拍子から「地獄風景」。ハードな音と演奏の後は、開運の鈴木氏頭皮撫で、メンバーとの握手などファンサービスのあと、なんと20曲も演奏したライヴは終了となりました。なお次回の東京でのライヴは夏ごろにしたい、とのことです。

 総評ですが、なかなか良いライヴでした。ナカジマ氏加入後のバンド全体のサウンドが固まってきた感じです。かなり馴染んできたようで、『三悪〜』の曲はもちろん、古い曲でもいいドラムスを聴かせてくれました。氏を交えてのMCも楽しく、そこで紹介された、開演前の鈴木氏を気づかってのナカジマ氏の言葉「研ちゃん、弁当食ったー?」に感銘を受けました。選曲でもバラエティに富み、特に「桜の森〜」で締める終盤の流れは、じっくりと聴かせるスタイルとなっており、好感がもてました。観客が少なめなのは残念でしたが、いつも後ろの方で見ている私にとっては見やすかったという面もあったので、個人的には微妙……。
 音質も慣れ親しんだO-Westならではの安定感がありました。前半、ギター?で変な共鳴があったような気がしましたが、それ以外は問題なかったです。今回和嶋氏が弾いていたGZは、個人的にすごく気に入りました。ボディが薄いせいか、ブライトで上品な音色ながら、SGっぽい軽さもあわせもつ、いい音のギターだと思いました。一言でいうと、CDで聴けるSGの音色に近い感じですね。今後のライヴでも、もちろんこれまでのSGも併用しつつ、GZも使い続けてほしいものです。
 照明もよかったですが、今回ちょっと眩しかったような気もしました。ただ、当日は仕事帰りで目が疲れていたこと、1曲目の「もっと光を!」から観客に向けてライトが当たる曲が多かったことが原因でしょう(前列の方で見ていた同行者は「なんともなかった」と言っていたので、ちょうど私の立ち位置にライトの角度が合ってしまったのかも)。

 バンドとして固まってきた感のある新生・人間椅子、そろそろ“新生”を取ってもいいでしょう。夏ライヴのほか、アルバム製作宣言もありました。座右の銘「Yeah!」(ナカジマ氏)、「禁酒・禁煙」(和嶋氏)、「ゴーイング・マイ・ウェイ」(鈴木氏)という三人の、次のアクションを楽しみに待つことにします。

以上

【チケット】

チケット

【セットリスト】

SEQ. 曲名 使用楽器
ギター ベース
<「木曜スペシャル 矢追純一UFOスペシャル」>
もっと光を! バット2 イーグル
恋は三角木馬の上で
意趣返し
<MC>
夜間飛行
与太郎正伝
<MC>
羅生門
賽の河原
<MC> グレコ イーグル
(茶)
野垂れ死に
心の火事
10 洗礼
<MC>
ナカジマノブ ドラムソロ
11 莫迦酔狂ひ
12 黒い太陽
13 どだればち GZ
<MC> イーグル
14 発射
<MC>
15 九相図のスキャット
16 青森ロック大臣
<MC> バット2
17 桜の森の満開の下
<アンコール1> GZ ミラージュN
18 道程
19 愛の言葉を数えよう
<アンコール2> バット2
20 地獄風景
<備考>
 アルバム『三悪道中膝栗毛』収録曲


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