「総合目次」にもどる |  「演奏会報告の目次」にもどる |  最終修正:2003-12-21(日)

2003年12月14日(日) 渋谷 O-West 【化人幻戯】改め【 】(無題)
17:00開場 18:00開演

【レポート】

 家を出たときは、人間椅子のライヴがあるとは思えないほどさわやかな天気でしたが、渋谷に着いた頃には、もう辺りは真っ暗でした。本日の会場、O-Westの前には、改築中だったO-Eastが姿を現していました。看板もかかっており、外装は完成状態に見えます。
 開演20分ほど前に入場します。まだ入場者は少なめでしたが、開演直前にはフロアがうまる程度に人が集まってきました。BGMはU2っぽい感じの曲(ライヴ盤?)でした。
 今回も物販ブースは場内右手にありました。『踊る一寸法師』『無限の住人』を除くアルバムとビデオがあり、購入特典のおまけもあったようです。この他、終演後に販売されたグッズ(後述の缶バッジなど)もありました。

 開演時間となり、会場が暗転するとすぐに「ぅふふふ…」という女の含み笑い。そして〈土曜ワイド劇場・江戸川乱歩の美女シリーズ〉のテーマ曲にかぶせて、「犯罪研究愛好会では…」など、男女の声でドラマの台詞・ナレーションが。このオープニング・テーマに乗ってメンバーがステージに登場します。後藤氏は、なぜか奇妙なダンス(後述)を踊りながらドラムセットへ。
 全員が定位置に着いたところで、ステージに赤い照明がともり、後藤氏のホイッスルでおもむろに出発進行! 最初の曲は哀愁を帯びた「幽霊列車」

 本日のステージ衣装ですが、まず後藤氏はGUESSの赤いTシャツにベージュっぽいパンツ。首にホイッスルを下げています。ドラムセットは緑のTAMA。最近は2バスにしないことが多いようです。和嶋氏は前回の【地獄と極楽】の時と同じく和服、上は細かい模様の入った白の袷(裏地は水色)、下は遠目にはグレーに見える細い線の入った袴です。今回は桜色の紐でタスキ掛けして袖をまくり、額には「國憂」と書かれた日の丸ハチマキをしめています。ギターはいつものバット2。予備のギターはエピフォン・モダーンとストラトを確認できました。鈴木氏は和服、銀鼠色の地に白で丸い紋のようなものがちりばめられていました。こちらもベースはいつものイーグル。

 二曲目は「怪人二十面相」、アルバム1曲目の曲が続きます。今日はいつもにも増して重厚なサウンド、単純に音がデカいというのではなく、すべての楽器から力強い音が鳴りだしてくるような感じです。特にこの曲では、イントロからパワフルなドラムスがバンドを引っ張っていきます。

 ♪お前は誰だ? で曲を終えた鈴木氏の「こんばんは、人間椅子です」というお馴染みの挨拶からMCへ。前回ライヴで告知のあったDVD収録は、残念ながら都合により延期。ツアータイトル【化人幻戯】もDVDタイトルのためにつけたので、「今回は無題ということで」。ただしあくまで延期なので、DVD撮りの時には再び【化人幻戯】で演るとのこと。

 このツアータイトルとなった江戸川乱歩の推理小説の話題から、犯罪が増加する昨今の状況についてひとしきり。「いつかみなさんと刑務所でお会いするかもしれません」と和嶋氏、次の曲は「刑務所はいっぱい」。ピカレスクな歌詞ながら、楽曲は軽妙な味わいです。展開部のカウベル、間奏のスライドギターなど、アメリカンな味わいをだしていました。
 続いて「侵略者 インベーダー。前回ライヴ【一夜限りの平成元年】で演奏された「造反有理」を連想します。同系列(バッジー風の曲、〈独房〉的な詞)の曲なのでしょうか。和嶋氏自作のテルミンを駆使したギターソロに陶酔。

 今日は風邪をひいているという鈴木氏のMC。唄や演奏にはそれほど影響は出ていないようですが、他のメンバーや職場の人たちにつぎつぎと風邪を感染させ、「スズ菌」と恐れられているとのこと。
 話かわって本日の和嶋氏のいでたちについて。憂国ハチマキは「気持ちだけ三島(由紀夫)」。しかし「世界の終わりの時には、やさしい気持ちで、他人への思いやりを持ちたい」という妙に殊勝なコメントを残しつつ、「最後の晩餐」が始まります。序盤のベースは唄に合わせて一つ一つ音を積んでいくように置かれ、ギターは全編通して様々な音色を奏で、♪チクタクタクチクタクタク 部では、アルバム・バージョン同様、ドラム席からビブラスラップがカ〜―…‥ シニカルな中に愛を潜めた唄と変化に富んだ楽曲で、地球を赤子に還します。
 そして一転、ヒマラヤへ飛び、鈴木氏お得意の邪悪な唄声で、この世の奥義を探求する旅へ。「狂気山脈」、東京では3年ぶりくらいでしょうか? 久しぶりに聴けてうれしかった曲です。前曲からこの曲の中盤まではスローな曲調で、会場の動きも落ち着いていましたが、終盤に入るとにわかに活気づき、♪狂気! で盛り上がります。

 次のMCでは、和嶋氏が今回のオープニング・テーマを解説。土曜ワイド劇場〈江戸川乱歩の美女シリーズ〉『エマニエルの美女〜江戸川乱歩の「化人幻戯」〜』のテーマ曲と本編を、和嶋氏がハードディスク・レコーダーでリミックスしたとのことです。しかし意外と会場の反応が鈍かったことに、筆者自身、ファンの世代交代の波を感じました…。
 江戸川乱歩のレンズ嗜好症(代表作の一つに『鏡地獄』、『化人幻戯』でも望遠鏡が使われていた)の話題から、次の曲は「天体嗜好症」。ステージ天井の鏡球が回りだし、唄の間には観客の“チャチャ!”という手拍子が入り、場内に緩やかなディスコ的一体感が漂います。中間の展開部では、いつもは一定のリズムを繰り返すベース、ドラムスも自由に演奏、ギターの方もスペイシーなソロを繰り出します。宇宙的恐怖を脱して、果ても限りもない宇宙へ戻ったところでライヴ序盤戦を終了。

 ここで和嶋氏と鈴木氏は1音半下げの楽器に持ち替え、お待ちかねの重暗曲コーナーが始まります。和嶋氏はいつものグレコでしたが、鈴木氏は一度白のミラージュに変えてから、何か間違いに気付いたらしく、茶色のイーグルに持ち替えます。このイーグルは『黄金の夜明け』ツアーでメイン・ベースとして使用されていたもので、こげ茶のボディに、中央部の木目部分には金色のメッキテープが貼ってあります。
 さて、最近はグッズ販売にも力を入れているという人間椅子、今回は鈴木氏の手作り缶バッジ限定50個をライヴ終演後に発売するとの告知が。バッジのデザインは和嶋氏で、“貨幣経済の中で蠢く人間を表したもの”とのこと。そしてやおらギターを弾きだし「よーく考えよー お金は大事だよー」とアメリカンファミリー生命のCMソングを唄う和嶋氏。「これがやりたかっただけでした」とのこと。

 コーナー最初の曲は、1音半下げにしてはポジティブな味わいの「見知らぬ世界」。続いて最新アルバムから「東洋の魔女」。今日の魔女は『化人幻戯』に登場する大河原侯爵夫人か?!

 ひと休みのMCコーナー。この頃「モンティ・パイソン」(「人間椅子倶楽部」の歌詞♪異端審問のスペイン人〜も「モ〜」から)に凝っているという後藤氏が、風邪の鈴木氏が舞台の袖でハナをかむ間、和嶋氏と“フリーメーソンの握手”を交わすパフォーマンス。入場時の謎のダンスも実は“シリー・ウォーク”なのでした。

 次の曲への導入で、鈴木氏が「人間椅子では、僕とマスヒロ君が鉄道好きで…」というと、すかさず後藤氏が立ち上がり、ホイッスルをを吹き鳴らし周囲を指差し確認します。さらに鈴木氏が、すごく印象に残っているという地元の(旧)国鉄職員の話、これも後藤氏が実演してくれます。ということで曲は鉄道シリーズ「ED75」を演奏。テンポはCDよりもゆっくりめ、中間部もていねいに聴かせます。久しぶりにライヴで演奏されましたが、家でじっくりCDを聴きこみたいと思わせる演奏でした。
 続いては「莫迦酔狂ひ」。和嶋氏が酩酊状態でステージをフラフラとさまようようにギターを弾くと、つられて鈴木氏も千鳥足に。とはいえ音は重い低い硬いと三拍子そろって、客席に強力な音圧をかけてくる演奏でした。
 ドラムとベース、コーラスが耳から腹に溜まっていくイントロで、和嶋氏はアンプの前でギターをひたすらフィードバック。曲は「相剋の家」。家族とのさまざまな情景をスプライシングしたような構成を持つこの曲、頭の中には歌詞の漢字が明滅します。最新アルバム最終最重の楽曲で、しっかり人間椅子・一音半下げサウンドを刻みつけられたところで重暗コーナーは終了。

 楽器替えとMCコーナーです。和嶋氏は5月公演時のMCで阪神の優勝を予言、みごと的中させたことに気をよくし、来年は中日優勝!と高らかに宣言します。「当たらなかったら丸坊主にしてもらいます」とクギをさす鈴木氏に、「それなら金髪の方が…」と返す和嶋氏。
 野球の話題なら、次の曲はもちろん決まってます。後藤氏の「打てるもんなら打ってみろ!」という威勢のいい掛け声から「野球野郎」へ。サビでは会場も待ってましたとばかりにストライクをカウント。後藤氏はボーカルの合間に「川端どこにいる?」「川端でてこい!」とローディーの川端氏を挑発します。これに応えて最後のサビでは、川端氏が舞台袖から走り出て、ドラムセットの台の上からアクション。ストライク、バッターアウト!
 次は意表をついて初期の曲「りんごの泪」。間奏部、和嶋氏「十五時…」のセリフの前に、鈴木氏がりんごを客席に放り込むサービス。視線と手先で落下点を定めながら、一つ一つ慎重に投球します。野球野郎は白球を握って生れてきますが、津軽人は赤い球を握って生れてくる? りんごは鈴木氏の実家から送られてきたもの、とのことですが、なんとなく幸運が授かりそうなりんごです。手に入れたお客さん、おめでとう。

 今日のライヴで人間椅子としての今年の活動も終わり、「皆さん良いお年を!」ということで、「幸福のねじ」「地獄」。客席の腕や頭にとってはなくてはならない終盤曲のメドレーです。
 これで公演は終了、満場の拍手の中、メンバーは退場していきます。もちろん後藤氏はシリー・ウォークにて。

 アンコールの拍手を受けて、再びメンバーが登場し、楽器を手にします。
 ここで突然鈴木氏から重大発表が!! 「今日でマスヒロ君は人間椅子を脱退することになりました」。和嶋氏も「マスヒロ君と演奏するのもあと2曲です」。あまりにも唐突な通告に、会場が驚きと戸惑いを感じる中「天国へ結ぶ恋」のイントロが始まります。
演奏中の観客は、いつものノリとはちょっと違い、今日の演奏を目と耳に刻みつけるかのように、ステージを見つめています。
 次はひたすら速い「ダイナマイト」! 後藤氏の高速バスドラムが聴けるのもこれが最後かと思うと、感慨深いものがありました。
 演奏後、観客のマスヒロ!コールが響き渡る中、後藤氏は鈴木氏、和嶋氏とフリーメーソンの握手。3人はそのまま舞台袖へ消えていきます。

 しかし、この状況で2曲で済むわけもなく、観客はアンコールの拍手と歓声を上げ続けています。ちょっとステージに姿を見せた川端氏も腕を振って、軽く客席をあおります。さらに続くマスヒロ!コール。これに応えて、再びメンバーがステージに登場します。
 鈴木氏の「後藤マスヒロの前途を祝して、三・三・七拍子〜!」という掛け声で、後藤氏のドラムに和嶋氏のギターが重なり、最後の曲は「地獄風景」
 演奏が終わっても、観客からは拍手とマスヒロ!コールが続きます。オープニングSEが再び流れた後、機材片付けが始まっても「マスヒロ! マスヒロ!」鳴り止まず… 

 総評ですが、なんといっても良い演奏でした。後藤氏最後のライヴということもあるかもしれませんが、特にドラムスには圧倒されました。他のメンバーの演奏、ボーカルももちろん良し。鈴木氏の風邪の影響はほとんど感じませんでした。和嶋氏のギターは「曲中で踏み間違えた」ほどのエフェクターを総動員させ、さまざまな音色が楽しめました。
 音響については、いつものO-Westなので不安はなかったです。前述の通り、音が大きいのではなく、豊かな音色で聞こえるのが良かったです。特にベースの音はよかったですね。各楽器の音のバランスも良く、個人的には申し分のないライヴでした。聴く位置によって変わってくるとは思いますが…。開演待ちのBGMの音がちょっとデカかったのが気になったくらいです。

 これで人間椅子の今年の活動も終わりました。新曲は? そして新ドラマーが加入する人間椅子サウンドはどうなるのか? 楽しみに待ちたいと思います。

 最後に後藤マスヒロ氏について。
 後藤氏は、本職のテクニックと力強さ、アレンジのセンスを兼ね備えたすばらしいドラマーです。ライヴ・パフォーマンスでも般若の形相とアクションで観る者を魅了します。1996年中盤に正式加入してから約7年、1992〜1994年のサポート時代も含めると約10年間にわたり、リズムセクションの要として人間椅子を支え、不動のオリジナル・メンバーと言っても過言ではないほどの存在でした。ドラムス、パーカッションのみならず唄も唄い、『頽廃芸術展』ではキーボードも弾き、人間椅子のドラマーとしては初の作詞・作曲もこなし、人間椅子の新しい魅力の発現に大きく寄与してくれたと思います。
 後藤氏のこれまでの功績を偲びつつも、いつの日かまた人間椅子に戻ってきてくれることを信じていたいと思います。ジェラルドやアルスノヴァでの活躍を祈っています。

以上

【チケット】

チケット

【セットリスト】

SEQ. 曲名 使用楽器
ギター ベース
<土曜ワイド劇場・江戸川乱歩シリーズ 和嶋慎治remix>
幽霊列車 バット2 イーグル
怪人二十面相
<MC>
刑務所はいっぱい
侵略者 インベーダー
<MC>
最後の晩餐
狂気山脈
<MC>
天体嗜好症
<MC> グレコ イーグル(茶)
見知らぬ世界
東洋の魔女
<MC>
10 ED75
11 莫迦酔狂ひ
12 相剋の家
<MC> バット2 イーグル
13 野球野郎
14 りんごの泪
<MC>
15 幸福のねじ
16 地獄
<アンコール1>
17 天国へ結ぶ恋
18 ダイナマイト
<アンコール2>
19 地獄風景


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