「総合目次」にもどる |  「演奏会報告の目次」にもどる |  最終修正:2003-12-07(日)

2003年12月3日(水) 高円寺 Showboat 【一夜限りの平成元年 〜帰ってきたねずみ男〜】
19:00開場 19:30開演

【レポート】

 平日の公演のため、仕事場を出て約1時間ほどで高円寺に到着。開演は夜7時半からと、いつもよりちょっと遅めで助かりました。気温は低めでしたが、雨が降らなかったのは僥倖です。
 今回の会場、高円寺Showboatへは初めての参戦ですが、駅前からやや猥雑な雰囲気の漂う道をしばらくまっすぐに進むと、すぐに見つけることができました。すでに入場が始まっており、入口には観客が列をなしています。そのまま列の後尾につき入場。近くの駐車場にも100番以降の方々が入場を待っていました。なお階段手前の受付で、コンビニ袋を下げた普段着の和嶋氏を発見。
 地下に降りて入場すると、すでに会場は半分以上埋まり、その後も観客が続々と入場してきます。ステージまでは奥行きがあり、さらに最近の若者はみんな背が高くて前がよく見えず、終演までステージとの距離感がつかめませんでした。ただし、壁面上部にモニターテレビがあったので、全体像は把握することができました。最終的には150人くらい入ったのでしょうか。開演直前の人口密度は、ついさっき乗ってきた中央線の車両内みたいな感じです。客待ちBGMは、唄声から判断して、たぶんオジー・オズボーン。鈴木氏の趣味でしょうか?

 開演時間を過ぎて、BGMはジャンルが変わったものの、特定のオープニングSEという感じではありません。実質前振りなしのまま、メンバーがステージに登場。鈴木氏は予告通り、頭頂部のとがった灰色頭巾の“ねずみ男”姿。和嶋氏と後藤氏の服装は、ほとんど見えず、結局よくわかりませんでした。
 演奏が始まり、3人のフリーなセッションから、ベースが重たいリズムを刻む「鉄格子黙示録」へ。最後のギターのワウの後、和嶋氏の唄が始まり、次の曲か?と思いましたが、後のMCで「鉄格子〜」のオリジナル・バージョン(唄つき)だったことがわかりました。
 今日の鈴木氏のベースは黒のリッケンバッカーです。いつものイーグルの太く丸みのある低音とは違い、ハンマーを叩くような硬い音質ですが、こちらも非常にいい音がします。和嶋氏のギターは、最近は引退していた「サックリのメンチ」ステッカーの貼られたSG。後藤氏のドラムスはほとんど見えなかったのですが、背後に銅鑼はなく、比較的シンプルなセットだったようです。
 2曲目は実質的なデビュー曲「陰獣」。このところ1音半下げの演奏が多かったこの曲ですが、久しぶりにオリジナルの通常チューニングの演奏で聴けました。しかしメイン部分はもとより、テンポチェンジ部分も粘っこい演奏で、平成元年当時とはまったく違った独特のノリを出しています。

 ここで最初のMC、鈴木氏が本日の公演の主旨を説明します。会場であるShowboatの開店10周年記念で、今日だけ平成元年のライヴを再現する企画、とのこと。セットリストはもちろん、「初期のショボさを再現するべく」楽器なども当時のものを使っているそうです。しかし「体型だけは当時の状態ではないですが……」と自嘲する鈴木氏。
 1曲目「鉄格子〜」は当時“独房シリーズ第1弾”と銘打たれていたそうで、次はその第2弾として、鈴木氏が唄う未発表曲「造反有理」。曲はバッジーの「脳外科手術の失敗」、歌詞は2ndアルバム『桜の森の満開の下』収録「太陽黒点」の一部が使われています。曲のアレンジは、ほぼバッジーのままですが、ギターソロが少し追加されています。

 次のMCは和嶋氏。当時のMCも再現するべく、いつものような鈴木氏との掛け合いは無く、当時のバンド紹介(日本語にこだわったロックをやっている、など)や曲の紹介をします。妙に初々しく作ったような口調で、ほほえましかったです。「次の曲は、谷崎潤一郎の小説から……」という導入で、ギターのアルペジオから「人面瘡」
 続いて鈴木氏による「古賀新一『エコエコアザラク』から……」という紹介で「マンドラゴラの花」を演奏。これも「陰獣」と同様、ねっとりとしたへヴィな演奏、さらに次も「人間失格」と、へヴィな曲の連発です。

 満員の会場で暑くなったのか、もう鈴木氏はねずみ男の頭巾を脱いでしまいます。「一夜限りのねずみ男」も、暑さのため6曲で退散してしまったようです(笑)。
 和嶋氏による「次は(当時の)新曲をやります」という導入で、これも未発表曲の「猿面冠者」を演奏。ボーカルは和嶋氏です。同行者は「ジミヘンが『桜下音頭』をやっている」と評していましたが、それプラス「憂鬱時代」という感じの、“音頭”っぽいリズムを持つ人間椅子らしい曲でした。

 次の鈴木氏のMCでは「会場の暑さは僕のようなデブには辛い」という切実な本音トークのあと、太った人の唄ということで「相撲の唄」の演奏。ただし当時演奏していたプロトタイプ・バージョン、歌詞とエンディングのアレンジが『桜の森の満開の下』収録版とは違っていました。相撲と男女関係とのアナロジーではなく、より国技を強調した歌詞、ちなみに歌詞の四力士の名は貴ノ花、北の湖、隆の里、出羽の花、といった70年代後半〜80年代初頭の関取でした。終盤には四股を踏みつつベースを弾いていた鈴木氏、演奏にも風格が出ていました。

 「たくさんの人が来てくれてすごいうれしいです」と白々しい和嶋氏のMC。先日行った初めてのホールでのワンマンライヴ(1989年12月19日、MZA有明)には2000人が集まった、ということでしたが、「思えばあれがピークだったんだなと……」とつい本音が出てしまい、私も思わずしんみり。
 曲は、そのときのライヴで主催者から「バラードをやれ」と言われて演奏、後で勝手にタイトルが付けられていたという「セピア色の思い出」。和嶋氏がシーモンキーズでやっていた「御伽姫」と同一曲で、当時はドラムスの上舘氏が唄っていましたが、今回は作者である和嶋氏がボーカルです。やや短めに終了。

 次のMCでは、ついに禁を破って鈴木氏と和嶋氏の掛け合い。「当時と音の外しかたが同じ」と鈴木氏が言えば、「ギターの音が大きいから唄の音程が不安定なのかな?」と、とぼける和嶋氏。「当時はどのライヴハウスに行っても、ギターの音がデカいと言われてた」とのことです。さらに和嶋氏は「音が大きいほうが気持ちいいじゃないですか」。
 もう一曲、未発表曲「わたしのややこ」。2002年のツアーでも演奏されていましたが、あのときの導入の語りはなく、今回はシンプルに演奏のみでした。
 次は「伊藤正則の名著から……」という鈴木氏の導入で「へヴィ・メタルの逆襲」。ノリのいい演奏で盛り上げたあと、ロックンロールのリズムが心地よい「神経症 I Love You」。観客も自然に体が動きます。

 セットリストも当時の再現ということで、13曲目で最後の曲。初期ライヴでは必ず最後に演奏していたという「桜の森の満開の下」。何度聴いても、最後を締めくくるのにふさわしい壮大な楽曲です。

 当然のようにアンコールの拍手が鳴るうちに、再度メンバーが登場。和嶋氏はメガネを平成元年のものにしていたと告白しますが、鈴木氏も後藤氏も、それについて何も言ってくれなかったそうで、さびしそうでした。ステージが遠いせいもあって、私もぜんぜん気がついてませんでした。
 アンコール1曲目は、「リクエストを取ろうかと思ったけど、(何をやるか)バレバレですね」という和嶋氏の唄で「猟奇が街にやって来る」。この曲も一部歌詞が違っていました。ギターソロを聴きながら、当時初めて聴いたとき、ロバート・フリップみたいなソロだな……と思ったことが記憶によみがえってきました。
 2曲目はハードかつスピーディな“最後に一発”の曲「針の山」。鈴木氏は頭を回転させ、歌舞伎役者のように髪を振り乱して熱演、観客もそれに応えるように熱狂します。
 エンディングのいつもの和嶋氏の歯弾きで締め、鈴木氏の「12月14日もよろしく〜」という挨拶でライヴは終了しました。
 開場時にはありませんでしたが、終演後には入口横で物販がありました。本日の記念にバンドロゴのステッカーと古銭デザインのカンバッジを買って、帰宅の途につきました。

 総評ですが、「平成元年の再現」というテーマがはっきりしていたことで、全体的にシンプルでまとまったいいライヴになったと思います。また曲数が少ないことで時間が短くなり、演奏する方も聴く方も集中しやすかったと思いました。会場が小さかったことも熱気が凝縮されて効果的でした。音も非常に良かったです。今回は使用楽器も当時に近づけるためか、ライヴ途中での楽器替えがなく、全曲メンチとリッケンバッカーを使っての演奏でした。中盤に楽器を替えて一音半下げの曲を演奏するようになって久しいので、いつもと違った趣きがありました。
 ただの懐古的な過去の再現ライヴに終わらないのが人間椅子。当時数回しか見に行っていない乏しい記憶との比較ですが、初期のライヴはどの曲もリズムが一定で、楽曲の印象が薄い感じでした。やっている音楽は15年間変わっていないのですが、ドラムスが違うということを差し引いても、サウンドはあくまで現在の人間椅子の音、演奏も楽曲に大きな広がりをもたせることに成功しています。そのあたりの表現力を支えているのが、これまで15年の経験なのでしょう。
 今回限り、という触れ込みですが、もし次の機会があれば、また行ってみたいライヴです。次は平成2年版でお願いします(笑)。

以上

【チケット】

チケット

【セットリスト】

SEQ. 曲名 使用楽器
ギター ベース
鉄格子黙示録(唄あり) メンチ リッケンバッカー
陰獣
<MC>
造反有理
<MC>
人面瘡
<MC>
マンドラゴラの花
人間失格
<MC>
猿面冠者
<MC>
相撲の唄(プロトタイプ)
<MC>
セピア色の思い出
<MC>
10 わたしのややこ
<MC>
11 へヴィ・メタルの逆襲
12 神経症 I Love You
<MC>
13 桜の森の満開の下
<アンコール>
14 猟奇が街にやって来る
15 針の山
<備考>
 未発表曲


情報・投稿・忠告・激励・罵倒メールは:こちら までよろしくお願いします。


「総合目次」にもどる |  「演奏会報告の目次」にもどる