「総合目次」にもどる |  「演奏会報告の目次」にもどる |  最終修正:2003-09-29(月)

2003年9月23日(火・祝) 渋谷 O-West 【地獄と極楽】
17:00開場 18:00開演

【レポート】

 夏がズレ込んだような暑さから一転して肌寒い天候となった9月23日、渋谷の街は祝日とあって大変な人出でした。人波をかきわけるよう本日のライヴ会場“O-West”(8月より“ON AIR WEST”改め)に向かいました。しかし到着し看板を見上げると、まだ表記は“ON AIR WEST”のままでした…。
 開演30分ほど前に入場し、物販チェック。CD、ビデオ、Tシャツ、ステッカーなどのおなじみの品に加え、新製品として“人間椅子ロゴ入りライター”が並んでいました。黒、青、赤の3種類で、各1個300円です。率直に言ってロゴ以外はただの色違いの100円ライターですが、それを知りつつ3色全部買った私、“地獄の業火三点セット”のつもり。
 観客の入りはまずまずといったところで、2階席も開放されています。客層は男女比1:1くらいでしょうか。
 今日の客待ちBGMは、ザ・フーの『ライヴ・アット・リーズ』、収録曲の多いCD版の方だと思います。「サマータイム・ブルース」、「マイ・ジェネレーション」はやっぱりいい曲だね…。

 ホールが観客でいっぱいになってきた頃合から舞台にスモークが焚かれ、10分押しで暗転し、いよいよ開演。
 「ゴーン……」という重い鐘の音が鳴り、"HOW MANY MORE TIMES"(レッド・ツェッペリン)のハードロックの上に説教、お経の声明が被さるという破天荒なオープニング曲(「矢追純一UFOスペシャル」構造か?)にのってメンバーが登場し、場内は騒然。興奮がおさまらぬまま開幕曲「鬼」が始まります。鈴木氏のデス声ボーカル、そしてヘヴィかつノリのある楽曲に、1曲目から観客は熱狂興奮。
 今回の鈴木氏は白の和服で、前にはオレンジ色の人魂が描かれ、背中には何かの刺繍?がありました。ベースはいつものイーグル。後藤氏はいつもの黒ランニングとは違うスタイルで、アディダスの青い3本線が入ったオレンジ色の長そでシャツ。このところの寒さに対応したのでしょうか。さらにサングラスを着用し、ちょっとみうらじゅん風? 和嶋氏も和服で、上は細かい模様の入った白の袷(裏地は水色)、下は遠めにはグレーに見える細い線の入った袴。ギターはこちらもいつものバット2です。
 2曲目は、『頽廃芸術展』からスピーディな「戦慄する木霊」。和嶋氏のギターとボーカルが冴えわたります。
 次は『二十世紀葬送曲』より「暁の断頭台」。CDのアレンジにくらべ、最後のテンポが速くなる部分はよりストレートなノリに変質しています。

 あっというまの開幕3曲を終え、鈴木氏の「こんばんは、人間椅子です」でおなじみの最初のMCがはじまります。
 名前以外はまったく変わっていない会場のO-West、唯一変化したステージの張り出し部分に自腹で“すだれ”を導入したという舞台監督に報いるため、濃いライヴを展開する、という鈴木氏の宣言に客席が湧きます。和嶋氏はツアータイトル【地獄と極楽】の説明。秋分の日=彼岸の中日ということで、今日は「音楽による彼岸の法要」とのこと。この企画に合わせて、日ごろあまりやらない曲を演奏するため、和嶋氏は開演20分前にもCDを聞いてギターソロのコピーや歌詞の確認をしていたとの内情が暴露されていました。
 そして、地獄への入り口「賽の河原」。1st『人間失格』からの落ち着いた名曲をじっくり演奏します。
 うってかわってダンサブルな「九相図のスキャット」。イントロ、和嶋氏の「エビバデ・クラップ・ユア・ハンド!」というらしからぬアオリで観客もリズムに合わせて手拍子。『頽廃芸術展』よりシンプルなアレンジで、リズムも取りやすかったと思います。

 和嶋氏がアコースティックギターに持ち替えつつMC。元・マルコシアスバンプの秋間氏の体験談として、死んだお婆さんから電話があり、その背後にはゴーという嵐のような音が…。それと同様の話を「新潮45」編集の本(筆者注:『殺人者はそこにいる 逃げ切れない狂気、非情の13事件』(新潮文庫)収録の「『自殺実況テープ』の出してはいけない中身」)でも読んだとのことで、「あの世には嵐が吹き荒れているのでしょうか…」という和嶋氏。その言葉に続き、嵐の音SEを背後に、「恐山」を演奏。鈴木氏の掛け声、後藤氏の鈴の音で、会場は厳粛な雰囲気に包まれます。

 ふたたび和嶋氏はギターをバット2に戻し、そのまま鈴木氏とともにドラムセットの前に座り、後藤氏は退場。ステージの照明が落ちて、ギターのアルペジオから天上的な「アルンハイムの泉」。ギターとベースのみのアンサンブルで、ほぼCD通りのアレンジ。エンディングには流れる水のSEが入ります。この曲はほんとうに久しぶりの演奏です。99年の十周年ツアーでは名古屋で演奏されたようですが、東京では92年の『黄金の夜明け』ツアー以来、約10年ぶりではないでしょうか??

 後藤氏がドラムセットに復帰し、メンバー3人が揃ってハードかつ現世的な「自然児」を演奏。キング・クリムゾンの「レッド」を思わせるリフは、自然児の破天荒ぶりを表現しているのか?

 ここでMCが入り、鈴木氏と和嶋氏は1音半下げの楽器に持ち替え。和嶋氏のMCによれば、以上の3曲は〈山・泉・自然〉、テーマは「大自然シリーズ」とのこと。“〜の泉”ときたら、次は“素晴らしき”日曜日かと思いましたが…。
 矢沢永吉氏のCMの話題となり、「何を言ってもサマになる永ちゃんくらいのカリスマになりたい」と鈴木氏と和嶋氏の意見が一致。ライヴの矢沢氏は“気”を出し、観客から“気”を返してもらうとのことで、「僕らも“ドヨ〜ン”とした気を送りますので、お客さんも気を返してください」(鈴木氏)。ということで重暗曲の開幕は、特にへヴィな「死神の饗宴」
 つづいては珍しく「少女地獄」。『二十世紀葬送曲』でも白眉の曲だと思っているので、個人的にライヴで聴けてうれしい楽曲でした。

 間のMCでは、楽屋で皆の緊張をあおる和嶋氏についての話題。「息をするにもわざわざ“スーッ、ハーッ”などと緊張するような音を発する」と鈴木氏は憤慨ぎみ。
 その和嶋氏、最近のライヴのオープニング曲は自らがハードディスク・レコーダーで作成しているとのことで、前回のライヴ【ダダイズム宣言】で使用したのはレッド・ツェッペリン「移民の歌」にウルトラマンの宇宙人「ダダ」の声を重ねた「移民の歌 ダダ・バージョン」。聞きどころは会場では中断された後にくるそうなので、今回のオープニング曲も含め、ぜひ通しで聴いてみたいですね。

 『頽廃芸術展』の「胎内巡り」から演奏再開。ステージの赤い照明が『頽廃〜』のジャケットを思わせます。鈴木氏は2番の歌詞から歌いだしてしまいますが、演奏は途切れずに、もう一度1番の歌詞から歌いなおし。メンバーのコンビネーションの良さを感じました。
 続いて『怪人二十面相』から、沈鬱なベースから出囃子のリズムへと急変する「大団円」。さまざまな要素が力技的なアレンジで詰め込まれたこの楽曲も、地獄と天国のめまぐるしい転換を想起させます。
 そして休日限定? 人気の「暗い日曜日」。いつもながらの安定した演奏です。たまには中間部は昔のスピーディなアレンジのも聴いてみたいな…。

 ここで重暗曲はおしまい、鈴木氏と和嶋氏は楽器の持ち替えを行います。
 次のライヴのスケジュールが発表されます。期日は12月14日(日)、場所は渋谷O-West、ツアータイトルは江戸川乱歩の作品から【化人幻戯】(けにんげんぎ)。そしてこのライヴではなんとDVDリリース用の撮影があるとのこと。
 次の曲は、CDリリース時に中間部のハレルヤ部分で閻魔大王(鈴木氏)と罪人(和嶋氏)の掛け合いを消されたという「審判の日」。このところライヴでは演奏されていなかった曲ですが、人気は高いようです。
 続いて大いに観客を盛り上げる「天国に結ぶ恋」「地獄」の連発。場内の温度が、かるく5℃くらい上がったような熱気でした。演奏後、メンバーは舞台袖へ退場していきます。

 アンコールでは、和嶋氏は今回のライヴから導入したスポーツ用メガネ留めが調子いいとのことで、妙にご機嫌です。アンコール1曲目は「愛の言葉を数えよう」。もともとのノリの良さに加え、イントロのフィードバックで煽る! ドラムのリズムにあわせて手拍子を促して煽る! 途中のブレイクでも声援を促して煽る! と和嶋氏のエンターテイナーぶりが際立っていました。カリスマまであと数歩か?
 さらに鈴木氏の「和嶋さん、お願いします!」という導入から、和嶋氏のギターのイントロで「針の山」。愛の言葉の数だけ犬死に猫死に無駄死に… していられない、気を放ちつつ鈴木氏が「もっと気をくれー!!」と観客にアピールします。フロント2人がステージを縦横無尽に動き回り、最後は鈴木氏側マイクで2人のコーラス。

 2度目のアンコールでは、鈴木氏はリッケンバッカーを手に、上半身裸で登場。「どうです? オジー(オズボーン)のようでしょう」と太った腹を誇示します(笑)。いつもの学ランは持ってくるのを忘れたそうですが、最近見に行ったイエスのクリス・スクワイア、リック・ウェイクマンの太り様を見て「俺はこの路線でよかった」と納得の様子。
 最後の曲は、メンバーおよび今日のお客の地獄行きを祈願して(笑)「地獄風景」。最後の方は鈴木氏も息が上がり、ボーカルが苦しそうでしたが、なんとか完奏! 皆さん大満足で終演となりました。

 総評ですが、バンドはもちろん、名称などが変わった会場も相変わらず、これまで通りの充実したライヴで安心したというのが一番大きかったです。バンドも聖地・ホームグラウンドと自認する場所なので、とりあえず今後も安泰というところ。
 選曲はツアータイトルにあわせたものであったのはもちろんですが、やっぱり「アルンハイムの泉」をやってくれたのがうれしかったですね。あとは『頽廃芸術展』からの選曲が多く、このアルバムが好きな向きには良かったのではないでしょうか。欲を言えば「菊人形の呪い」もやってほしかったですが、前回ツアーでやったばかりですので我慢しましょう。が、後藤氏のヴォーカル曲が聞けなかったのも残念です。ツアータイトルに該当する曲が無かったせいでしょうか。とはいえ、底力あり機知にとんだドラミングには、今回も随所でハッとさせられました。
 音響はいつも通り良かったですが、特にベースが聞きやすかったように思います。ギターもよく鳴っていて、ギターリフ、ベースラインの良さを再認識した曲も。照明もがんばってました。

 さて、次回のライヴは人間椅子初のDVD撮影ということで、どんな選曲になるのか、またどんな演出になるのかなど、非常に興味があります。ファンとしても、たくさんの観客で盛り上げたいですね!

以上

【チケット】

チケット

【セットリスト】

SEQ. 曲名 使用楽器
ギター ベース
<HOW MANY MORE TIMES (LED ZEPPELIN) + お経 remixed by 和嶋>
バット2 イーグル
戦慄する木霊
暁の断頭台
<MC>
賽の河原
九相図のスキャット
<MC> アコースティックギター
恐山
アルンハイムの泉 バット2
自然児
<MC> グレコ ミラージュ(木目)
死神の饗宴
10 少女地獄
<MC>
11 胎内巡り
12 大団円
13 暗い日曜日
<MC> バット2 イーグル
14 審判の日
15 天国に結ぶ恋
16 地獄
<アンコール1>
17 愛の言葉を数えよう
18 針の山
<アンコール2> リッケンバッカー
19 地獄風景


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