「総合目次」にもどる |  「演奏会報告の目次」にもどる |  最終修正:2002-11-04(月)

2002年11月2日(土) 渋谷 ON AIR WEST 【人間椅子ライブ2002 「押絵と旅する男」】
18:00開場 19:00開演

【レポート】

 前回の2月3日以来、夏のベスト盤発表をはさんで約9ヵ月ぶりとなった今回のワンマン・ライヴですが、人間椅子のライヴにつきものの雨こそ降らなかったものの、すでに秋も深まり冬の足音が聞こえてきそうなうすら寒い渋谷の坂を上り、会場へ向かいました。開演20分前くらいに到着しました。
 物販コーナーはCD、ビデオ、Tシャツ類がありました。新製品はなし。新譜ツアーに期待します。
 場内に入ると、2階席を解放しているにもかかわらず、フロアはぎっしりと人で埋まって、かなりの観客が入っています。今回は「特撮」のようなバッティングするライヴがなかったからでしょうか。私は和嶋氏側のほうに陣取っていましたが、それを差し引いても男子率が高くなった感じ。
 開演前の音楽はローリング・ストーンズ。割と古めな'60年代頃の曲「Under My Thumb」「悪魔を憐れむ歌」「She's The Rainbow」「ひとりぼっちの世界」などがかかっていましたが、最近出たベスト盤『フォーティー・リックス』あたりからの選曲でしょうか。

 場内が暗転すると、意表を突く「Gメン'75のテーマ」が今回のオープニング。驚きと笑いに包まれる中、3人のメンバーが登場します。和嶋氏はSGバット2、鈴木氏はイーグルを手にしています。着席した後藤氏は客席に向けて上半身で気合を入れるポーズ、「Gメン〜」末尾のティンパニ音に合わせてタムを叩き、ライブがスタートします。
 開幕曲は「怪人二十面相」。不安と期待の入り交じった雰囲気を作り出すイントロから本編へ、9ヵ月のブランクを感じさせない唄と演奏です。中盤のテンポチェンジ部分の幻想的なギターソロでは、しばし感無量といったところです。

 本日のいでたちを観察すると、鈴木氏は前回と同じく黒地に白いクモが描かれた和服。後藤氏もいつものテリー・ボジオ風黒ランニング姿。前回までは宇宙服で度肝を抜いていた和嶋氏は、黄色地に桜(?)の花々がちりばめられている柄シャツという、比較的普通の恰好。ただし後のMCで鈴木氏に「ヤンキー風」と揶揄されていましたが…。

 2曲目は「幽霊列車」。前曲と同じくアルバム1曲目攻勢です。列車を模した後藤氏のドラムス音は今日も健在。次の列車は青森発-上野行き「りんごの泪」

 3曲を終えたところで最初のMCになります。9ヵ月のブランクで和嶋氏はかなり短髪になり、本人曰く「時代の年輪を感じさせる髪形」となりました。しかし鈴木氏はこれを上回る変貌を遂げており、体重はさらに10キロ増えて96キロ、相撲取りのように腹を叩かないと動けない体になったとのこと。見た感じではそれほど太ったとは感じなかったのですが…。
 続いては4枚目のタイトル曲「羅生門」。終末感のなかにも生に対する決意の感じられるこの楽曲は1993年発表の曲ですが、現在でも十分に通用するのではないでしょうか。鈴木氏と和嶋氏のツイン・ヴォーカル、ギターソロ、怒涛のような終盤など、聴きごたえ十分でした。
 そして『無限の住人』からのシングル・カット「刀と鞘」。シンプルな力強さと粘りのある曲、久しぶりのライヴでの演奏です。

 次のMCで「刀と鞘」は「各方面から評判が悪く、封印していた」という鈴木氏。調べてみたら、確かに東京では96年のアルバム発売ライヴ以来でしょうか? また「今だったらこんな歌詞(♪ただ〜の筒)は書かない」とのこと。
 続く話題は11枚目となる新作『修羅囃子』について。和嶋氏の楽曲については、前作の流れを受け継いでバラエティに富んでおり、恋の歌シリーズやフォーク「恐山」もあるとのことでした。鈴木氏の作品には、友人から「これじゃ踊れない」と評されたディスコの曲も。
 次の曲は、新譜から鈴木氏のスラッシュ系の曲「鬼」が披露されます。タイトル的には「地獄」に近い内容か?と思われましたが、より現世的な恐怖を表現したもののようです。
 続いて1枚目から「賽の河原」、鬼シリーズが続きます。

 次のMCは和嶋氏の担当。新譜からの曲紹介で、世紀末はあっという間に過ぎてしまったが、昨今の情勢を見ていると、やっぱり人類は滅びるような気がする、との思いから作った唄ということで、新曲「最後の晩餐」を演奏。後期フリッパーズ・ギターを思わせるおだやかな曲調、です・ます調の歌詞というソフト路線ですが、詞の内容は相変わらず含蓄のありそうな感じで、新譜の歌詞カードが楽しみです。録音も凝ったものが期待できそうです。
 次は近作『見知らぬ世界』から「甘い言葉 悪い仲間」。魔術的リアリズム!といった印象の演奏でした。ライヴで聴くのは初めてだったのでうれしい1曲。

 演奏後、鈴木氏は「和嶋君コーナーで楽ができました」と正直なコメント。
 ここまで鈴木氏と和嶋氏の新曲コーナーでしたが、極右と極左の対照的な選曲でした。 後藤氏が作曲して和嶋氏が詞をつけた「野球野郎」について、和嶋氏が「正岡子規(“野球”という語をつくった)に捧げる曲」であるとか、“野郎”は野球“やろう”と掛けているなどと紹介されましたが、お披露目はなし。リリースされてのお楽しみとなりました。

 楽器交換され、いよいよ1音半下げの重暗曲コーナーです。和嶋氏のギターはいつものグレコSGではなく、グレコ・ミラージュ。「村の外れでビッグバン」で使われていたブルーのものではなく、焦げ茶のサンバーストのギターです。鈴木氏は2年ほど前から使用しているナチュラル木目のミラージュです。
 鈴木氏によれば、今回のアルバムはまだ歌詞のないボツ曲が2曲ほどあったとのこと。収録については「10年後のベスト盤まで待っていてください」ということでした(笑)。 また3つ前のアルバム(『二十世紀葬送曲』?)のボツ曲「阿Q正伝」をサワリだけ披露。歌詞はありませんでしたが、リフがなかなかかっこいい曲でした。

 新譜と同時に7枚目の『頽廃芸術展』の再発も決まったそうで、折りしも季節は秋、惜しくもベスト盤からもれた佳曲「菊人形の呪い」が次の演奏曲。新しいミラージュの音はリフの低音がよく出るのですが、中・高音域はグレコSGの方が耳慣れている感じでした。和嶋氏は3曲連続でのボーカルはかなり苦しそうでした。

 和嶋氏のミラージュは、キッスのポール・スタンレーが使用していたことで有名でしたが、最近になってまた再生産されたとのこと。鈴木氏によれば「和嶋が弾くとどうもポールの音に聞こえない」。試しにキッスの曲を弾いてみよう、ということで後藤氏のドラムからアドリブ的に「ROCK'N ROLL ALL NITE」を演奏します。演奏後「自分の曲より楽しかった」というように、肩のこらない楽しい演奏でした。

 また本線にもどって、正統派ヘヴィ路線の「死神の饗宴」と、これもヘヴィな「黒い太陽」。重量感のあるハンマーで叩きつけられるような演奏でした。

 次のMCで、ライヴの時間が長すぎると苦情を受けているので、今後はどんどん短くしようと思っている、と鈴木氏が宣言すると、たまらず会場からブーイングが巻き起こります。「それでは、次にやる曲、『見知らぬ世界』の中でも特に地味な「魅惑のお嬢様」を聴きたい方は拍手をお願いします」との問いかけに、すかさず起こる盛大な拍手。まんざらでもなさそうな満足げな鈴木氏が印象的でした。
 「背景のスクリーンに松嶋奈々子ちゃんが映し出されているところを想像して聴いてください…」という導入で「魅惑のお嬢様」を演奏。ステージ上は白、赤、ピンクと可憐なライティングでした。
 この日は土曜日でしたが、次は「暗い日曜日」

 重暗曲コーナーが終了し、楽器をバット2とイーグルに転換します。ここからは皆さんお待ちかねのダンス・コーナー、まずは「幸福のねじ」。お客さんの動きでフロアが上下に揺れるのがよくわかります。東京では久しぶりの「大予言」。永遠の名曲「天国に結ぶ恋」と続き、最後は「地獄」で締め。和嶋氏、鈴木氏は久しぶりのライヴでやや厳しかったか?

 メンバー退場後ももちろん拍手は鳴り止むことなく、ほどなくアンコールで再登場します。和嶋氏は甚兵衛に着替え、昨年末から使用しているモダーンを手にします。鈴木氏はアンコール用と化した感のある黒のリッケンバッカー。
 アンコール1曲目は久々の「辻斬り小唄無宿編」。和嶋氏の三味線ギターにサーフのドラム、とどめは最後に後藤氏がビブラ・スラップを使ってカ〜〜ッ!(水戸黄門のイントロや時代劇でよく使う音)。2曲目はやっぱり、日本人なら好きだね「エキサイト」。文字通りエキサイティングな演奏となっていました。
 演奏終了後、鈴木氏は「CR西部警察は厳しいよ」という、パチンカーらしいつぶやきを残して退場しました。

 さらにアンコールを求める観客に、メンバーが再登場。和嶋氏はバット2に持ち替えます。鈴木氏が学ラン姿で登場しますが、上着の前が開いている状態。閉めないのではなく、太って閉まらない状態とのこと…。  このコスチュームでやる曲といえばただ一つ、腹を誇示した鈴木氏の三三七拍子の掛け声から「地獄風景」へまっしぐら。なお演奏中にバット2が不調に陥ったのか、和嶋氏は途中でモダーンに持ち換えていました。

 盛大な拍手に送られてメンバーが退場。場内が明るくなると、初のエンディング曲?「あゝ人生に涙あり」(印篭と旅する男「水戸黄門」のテーマ)が流れ、なんとなく和やかな気持ちで会場をあとにしました。

 総評としては、内容的には非常にいいライヴだったと思います。ベスト盤のレコ発ということで、ここからの選曲に偏るのではないかと思っていたのですが、フタを開けてみればいつもの人間椅子のライヴのように、新旧の曲から期待と裏切りがほど良くミックスされた内容で、満足がいくものでした。
 ただ演奏面では9ヵ月のブランクが大きかったような気がします。若干ぎこちない場面もありました。また欲を言えば後藤氏ボーカルの曲も演奏された方がよかったと思いました。このあたりは来年の新譜ツアーでは解決されるでしょう。

 音響、照明はともに申し分のない状態でした。音のバランスも良かったと思います。後藤氏のタムはロートタムではなく普通のタムでした。和風の曲の中で太めに鳴って、よく合っていたと思います。また特に照明は非常に美しく、演奏をより一層効果的なものにしていたともいます。たまに目に光が直撃してまぶしかったですが…。
 今回のライヴは大入満員、約500人とのことですが、こんなに観客が入っているのは10周年記念ライヴ以来でしょうか。乗りも非常によかったし、今後も平均的にこれぐらい入るといいですね。
 今年のライヴはこれで終わりとのことですが、2003年1月は新譜『修羅囃子』リリース、2月は全国7ケ所でのレコ発ツアーもあるし、しばらくは楽しみに待てそうです。

以上

【チケット】

チケット

【セットリスト】

SEQ. 曲名 使用楽器
ギター ベース
<オープニング Gメン'75のテーマ>
怪人二十面相 バット2 イーグル
幽霊列車
りんごの泪
<MC>
羅生門
刀と鞘
<MC>
賽の河原
<MC>
最後の晩餐
甘い言葉 悪い仲間
<MC> ミラージュ
(サンバースト)
ミラージュ(木目)
阿Q正伝(サワリのみ)
10 菊人形の呪い
11 ROCK'N ROLL ALL NITE(KISS)
<MC>
12 死神の饗宴
13 黒い太陽
<MC>
14 魅惑のお嬢様
15 暗い日曜日
<MC> バット2 イーグル
16 幸福のねじ
17 大予言
18 天国に結ぶ恋
19 地獄
<アンコール1> エピフォン・モダーン リッケンバッカー
20 辻斬り小唄無宿編
21 エキサイト
<アンコール2> バット2 →
エピフォン・モダーン
22 地獄風景
<エンディング あゝ人生に涙あり(水戸黄門)>
<備考>
 ベストアルバム『押絵と旅する男』収録曲
 アルバム『修羅囃子』収録曲(新曲)


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