「総合目次」にもどる |  「演奏会報告の目次」にもどる |  最終修正:2001-10-01(月)

2001年9月30日(日) 渋谷 ON AIR WEST 【ツアー2001 見知らぬ世界】
17:30開場 18:30開演

【レポート】

待ちに待った新譜『見知らぬ世界』レコ発ライヴの日がやってきました。
東京では、このところ美しい秋晴れの日が続いていたのですが、ライヴの日が近づくにつれて、天気予報が日曜日の雨を告げるようになり、当日の午後からはしとしとと雨が降ってくるという、人間椅子らしいライヴ日和となってしまいました。
移動する時間帯は幸い小雨でしたので、それほど難渋せずにON AIR WESTに行くことができました。しかしすっかり日が短くなって、まだ6時前だというのにすでにあたりは真っ暗です。

そそくさと入場しながら、グッズ類販売をチェック。新譜購入は<手拭い+ポスター>の2大特典つきでお買い得、ビデオ『涅槃神楽』、ピック、お札などの品揃えを確認しました。しかし今回のツアーTシャツが出ておらず、残念です。ただし『怪人二十面相』や10周年記念のTシャツはありました。今後のツアー地では新譜関係のTシャツが販売されるかもしれませんので、11月のライヴで再度チェックする予定です。

チケットはソールド・アウトということで、場内を見上げると2階席にも観客が鈴なりになっています。 客層はますます男子率が上がった感じで、私が陣取った和嶋氏側は、もう7割近いかな? 最近の若者はみんな背が高くて、前が見えないよ…などと嘆きながら、プログレ?ジャズロック?系のBGMが流れるホールで開演を待ちます。

この間、同行者と行った1曲目予想は、やはり新譜ツアーということで「人喰い戦車」か「侵略者 インベーダー」。アルバム曲順で言えば「死神の饗宴」ですが、1音半下げの曲なので確率は低いと考えられます。

ほぼ時間通りに客電が落ち、今年のオープニング・テーマ「矢追純一UFOスペシャル」が流れ始めると、すぐにメンバー3人が暗いステージ上に姿を現わします。 ささーっと客席も全体に3列くらい前進。
和嶋氏はSGを持って入場、なんと1音半下げのグレコです。鈴木氏も同じく1音半下げのミラージュ(木目)を手にしています。ア〜っ、これは1音半下げ曲で開幕ではないか…!

しばし音合わせの後、和嶋氏ボーカルの「見知らぬ世界」で開幕します。1曲目からタイトル曲とは私は予想していませんでした。さらに「見知らぬ世界」がローチューニング曲なことにも気づいておらず、個人的にはかなり衝撃的な開幕となりました。 今回ツアーのテーマ曲、さらにツアー初日ということもあってか、かなり力のこもった真面目な演奏です。

眩いステージの3人のいでたちを確認すると、ステージ向かって右から、和嶋氏は6月のライヴでお目見えの、新譜ジャケ写真にも使用された銀色の宇宙服です。被り物は、通気性に問題があったのか、ライヴ時のジェット型ヘルメットからジャケ写真に見られるダース・ベイダー型に改良されています。 後藤氏はモスグリーンのTシャツで、珍しく半袖。首にはオートバイ用のゴーグルを下げています。こちらもジャケット写真のイメージ通りです。 鈴木氏は金色の大小の星々をちりばめた、紫のサテンの着物に金の帯、という和嶋氏をしのぐグリッターなコスチューム。紫の着物は、照明の反射によってさまざまな色に変色して見えます。

音と色彩の洪水に茫然としていると、2曲目は重たい「死神の饗宴」。ボーカルは鈴木氏にチェンジ。鈴木氏のハードな歌唱はこの手の重暗曲には不可欠の要素です。
3曲目は一気に1枚目『人間失格』に戻って「悪魔の手毬唄」。この会場で3曲目にこの曲を予想できた人はまず居ないでしょう。1音半下げなので、アルバムのイメージとはまた違った表現で展開されます。

ここで最初のMCが入り、和嶋氏はバット2、鈴木氏はイーグルに持ち替えます。
鈴木氏らしからぬ、昨今の秋らしい気候についての穏やかなMCを突然和嶋氏が遮り、堰を切ったように新譜のタイトル曲「見知らぬ世界」についての解説を行います。和嶋氏本人の解説によると、<見知らぬ世界>とは<現実>のことであり、本作は現実に立ち向かう意味の唄である、とのこと。 「いま1stアルバム以来の新鮮な気持ちになっています」と非常にポジティブな発言も飛び出し、本作にかける意気込みの強さを感じました。

まだ夢の中にいるという唄、という和嶋氏の導入で、新譜から「涅槃桜」を演奏。 前作での「みなしごのシャッフル」でも感じられた和嶋氏のボーカルの力強さは、今回のこの曲でも十分に発揮されています。
次は4枚目『羅生門』から珍しく「なまけ者の人生」を演奏します。 人間椅子ではあまり類のない、鷹揚で雄大な曲調も、現在の澄み切った心境をよく表しているのではないでしょうか。

ここで再びMCが入り、前のMC権を和嶋氏に強奪されたかっこうの鈴木氏が担当。 鈴木氏の「和嶋君から借りた『宇宙人の死体写真集』をまだ返していないんですが… ところで宇宙人の季節は何時ですか?」という問いに、和嶋氏答えて「UFOとか多いし…夏かな?」。これに対する鈴木氏の「僕のMCのテーマは季節感ですから」という発言に場内に爆笑の渦が。

宇宙をテーマにした曲と言えば、次はもちろん「侵略者 インベーダー」。アップテンポの曲で、会場は再びノリノリ。 子供と大人の狭間の年代にありがちな、現実とも妄想ともつかぬ切迫感が良く出た演奏です。
SF怪奇シリーズか?続いては、前回レコ発『怪人二十面相』ツアーでも人気だった「蛭田博士の発明」。 サビの部分ではもちろん観客もメンバーと一緒に右に左に揺れています。鈴木氏による中間部の蛭田博士の笑いも増量され、マッドな雰囲気を盛り上げます。

次のMCでは、鈴木氏の「賛否両論の今回の新譜ですが、ブラック・サバスの『ネヴァー・セイ・ダイ』、キッスの『仮面の告白』のようなものでしょうか…」という発言に対し、「ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』と言って欲しいね」とあくまで強気な和嶋氏。
また、和嶋氏は最近、漫画『哲也』の影響で麻雀に凝っているそうで、「役は覚えた。あとは実戦あるのみ」とのこと。私は残念ながら麻雀はできないので、誰か対戦してみてください(笑)。

次の曲の歌詞は、和嶋氏の、親戚から疎外されている叔父がモデルだが、その人に「慎治君は無頼派だねぇ」と言われた、という紹介で、「自然児」を演奏します。 この曲は、アルバム中ではやや印象が薄かったのですが、フリーキーなギターとドラムスが入り、アルバムで聴くよりも深みのある演奏が聴け、見直した感じです。いつか三柴理氏のピアノ入りで聴きたい曲です。
1枚目から「りんごの泪」。こうした旧曲も、ライヴ時はドラムスが後藤氏であるせいか、いつも新鮮に聴くことができます。

この後、ギター、ベースとも1音半下げの楽器に持ち替え、重暗曲コーナーへ突入します。
今日は、人間椅子初代ドラマー(というより、人間椅子の前身・死ね死ね団のドラマー)トマサキツトム氏が来場しているとのこと。これで和嶋氏が緊張したか、次の曲「夜叉ヶ池」では出だしから歌詞を間違えてしまいます。一旦仕切り直し、歌詞を思い出して、もう一度最初から演奏をやり直します。
2枚目『桜の森の満開の下』バージョンは通常チューニング、これまでのライヴでも通常チューニング、ダブルネックのギターで演奏していましたが、今回は1音半下げで演奏となり、後半部分のテンポチェンジ後のサウンドはものすごい迫力を生み出していました。
なお、プレイヤーの方へのメモとして書いておくと、最初はカポタストを7フレットに付け、テンポチェンジするハードな後半部分でカポタストを外していました。外すタイミングがちょっと難しそうです。
次は新譜唯一の後藤氏ボーカル曲、そして後藤氏初の重暗曲作品「そして素晴らしき時間旅行」。 アルバムより荒々しいボーカル、そして演奏もギター、ベースの自由度が高いせいか、非常に良い雰囲気をかもし出していました。
そして浮かぶ心の空に〜前々作『二十世紀葬送曲』のエンディング曲「黒い太陽」。人の希望や良心を打ち砕くかのように、後藤氏の2バスが曲の最初から連打されます。「夜叉ヶ池」を演奏としたのと同じものとは思えない和嶋氏のギターなど、やるせない絶望感だけが残る曲でした。
これにて重暗曲コーナーは終了、通常チューニングのバット2、イーグルに持ち替えます。

6月のライヴで宣言されていた鈴木氏のダイエット計画の経過は、レコーディング中は87キロ、終了後に帰省して90キロと遂に大台に乗ったものの、帰京後のバイトでバイクを使わず自転車で配達していた結果、現在86キロまでの減量に成功したとのことです。「4キロの減量」と豪語していましたが、最初に比べると1キロしか減っていないのでは…。

次も前々作『二十世紀葬送曲』から「幽霊列車」。10周年記念ライヴで見たプロモーション映像の様子が幻視されます。最後の列車走行音を模したパートも決まっていました。
一転、ベースソロから、旧作『黄金の夜明け』収録の「審判の日」を演奏。一時期は私がライヴに足を運ぶたびに演奏していた曲ですが、久しぶりの演奏です。
続いて「火星」を思わせるリズムと特徴的なアルペジオで始まる曲、「天国に結ぶ恋」を演奏。デビュー時から人気をキープしている曲で、観客の温度は一気に上昇します。
前の曲からギターが鳴り止まぬまま、メドレー風に「ダイナマイト」に突入。 思わず後ろの観客もどっと前に詰め寄り、本日一番の盛り上がりを見せた曲でした。 しかし演奏は荒くなく、むしろ丁寧に弾いています。 鈴木氏はギター側に移動して熱唱。客席もさらに湧きます。 間奏中にホーム・ポジションに戻った鈴木氏ですが、次の唄いだしのタイミングを逃したか、少々延ばしていたようでした。が、些事には頓着せず、13連チャン目指して客席の気焔は上がっていきます。

ここでステージは終了し、メンバーは退場。しかしもちろんアンコールの声と拍手が止まるわけもなく、ほどなく1回目のアンコールとなります。
アンコールに出てきたメンバーは、鈴木氏はそのままの恰好ですが、和嶋氏は宇宙服を脱ぎ「DATSUN TRUCK」と書かれた灰色のTシャツに着替えています。後藤氏もモスグリーン色は変わらないもののランニングに。首のゴーグルも外しています。

「和嶋君の作風が変わってみんな戸惑っているのでは、ということで新曲は小出しにします」という鈴木氏の説明で、アンコール1曲目は、鈴木氏曰く「『浜省』と呼ばれています」という「エデンの少女」を演奏。和嶋氏によれば、現実とつながりを持とうという狂人の少女がテーマとのこと。確かにこれまでの人間椅子にはないタイプの楽曲かもしれませんが、和嶋氏の確信に満ちた唄と演奏を聴くと、作風の変化(?)など小さいことのように思えます。
2曲目はアンコールにふさわしく鈴木氏のスラッシュ「棺桶ロック」。 大いに盛り上がったところで、「『エデンの少女』聴いてくれてありがとう」という和嶋氏の謝辞とともに、メンバーは再び舞台袖へ退場。

2回目のアンコールでは、和嶋氏、後藤氏はそのままですが、鈴木氏は紫の着物にたすき掛けをして登場します。ベースもリッケンバッカーに持ち替えています。 「今日は学ランを忘れたので、金のたすきとフンドシで…」とのことでしたが、実際は学ランが着られなくなったからでは…とつい穿った見方をしてしまいます。 鈴木氏の「三・三・七拍〜子!」の掛け声から、凄まじい「地獄風景」を演奏。 ただし「ダイナマイト」と同様、丁寧な演奏。 腕を上げ脚を上げの鈴木氏と会場が気合を入れまくります。観客とバンドの前途を寿ぐ、お目出度いエンディングとなりました。
和嶋氏のギターソロの背中弾きの際に確認したところでは、バット2の裏には「人間椅子 和嶋慎治」と、マジックで記名されていました。

メンバー紹介をもって公演は全て終了。大混雑の出口から出ると、雨足は強さを増していました。これも「見知らぬ世界」の“雨の気配がする”という歌詞のおかげでしょうか。雨乞いソングだったのか?

総評です。今回はかなり充実したいいライヴだったと思います。全体の曲順の構成も破綻なく、素直な気持ちで楽しめた2時間でした。 今回は、どの曲がヤマ、というような起伏はあまり感じられず、高いテンションを維持したままアンコールまで聴けたな、という印象でした。あえて言えば、「自然児」、「黒い太陽」あたりがハイライトでしょうか。
11月のツアーファイナルでは、各地でさらに磨かれた楽曲が聴けるものと期待しています。バンドが新鮮な気持ちになっているというので、聴く側も初心に還って聴きたいと思います。

選曲は、新譜から8曲、過去の作品からまんべんなく11曲と、納得のいくものではなかったでしょうか?
今回選曲から洩れたのは『無限の住人』と『頽廃芸術展』収録曲ですが、6月のワンマンで「天体嗜好症」、イベントで「黒猫」を演奏していますので、まあ致し方ないかな、とも思います。11月にはこの2枚からも選曲されることを期待したいです。あと個人的には、まだライヴで通して聴いていない「屋根裏のねぷた祭り」も…。

サウンド面は、ON AIR WESTは何度も演奏してきた会場だけに、特に問題はなかったように思います。ただ、生音だと金属的な音がキツかったかもしれません。私はいつものように耳栓をしていたので気にならなかったのですが。

会場の雰囲気ですが、後ろから観察したところでは、鈴木氏側の観客は手を振り上げる人が多かったです。 2階が開放されていたせいか、1階は割と人が少な目に感じたのですが、正確なところはよくわかりません。 あと、全体的にMC前の声援がいつもより少なめだったでしょうか?

なお、MCで和嶋氏から「プロモビデオは富士の樹海で撮った…」という非公式な情報が出てきましたが、この件に関しては公式発表を待ちたいと思います。願わくば『怪人二十面相』のようにビデオ発売をお願いしたいところです。

以上

【チケット】

チケット

【セットリスト】

SEQ. 曲名 使用楽器
ギター ベース
<オープニング 矢追純一UFOスペシャル>
見知らぬ世界 グレコ ミラージュ
死神の饗宴
悪魔の手毬唄
<MC> バット2 イーグル
涅槃桜
なまけ者の人生
<MC>
侵略者 インベーダー
蛭田博士の発明
<MC>
自然児
りんごの泪
<MC> グレコ ミラージュ
10 夜叉ヶ池
11 そして素晴らしき時間旅行
12 黒い太陽
<MC> バット2 イーグル
13 幽霊列車
14 審判の日
15 天国に結ぶ恋
16 ダイナマイト
<アンコール1> リッケンバッカー
17 エデンの少女
18 棺桶ロック
<アンコール2>
19 地獄風景
<備考>
 アルバム『見知らぬ世界』収録曲


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