「総合目次」にもどる |  「演奏会報告の目次」にもどる |  最終修正:2000-10-24(火)

2000年10月22日(日) 新宿 リキッドルーム 【“地獄巡り”ツアー】
17:00開場 18:00開演

【レポート】

ニッポンの煩悩が凝縮された街・歌舞伎町を通り抜け、開演20分くらい前に会場の入口に到着しました。この時間ならエレベーターが使えるだろう、という読みも空しく、「階段を利用してくださーい」という係員のつれないご案内。最近知人の行ったテクノ系イベントではエレベーターが使えたという話だったのに〜 と言っても仕方がないので、7階まで地獄の螺旋階段を登ります。

ようやく辿り着いて、客入れBGMにブラック・サバスの曲が流れる客席でしばし安息。 前回のリキッドルームでの公演よりは、観客は若干少な目でしょうか。また、男子の比率が少し多めになった気がしました。
ちなみに物販の品揃えは前回のツアーとほぼ同じ。唯一『とんまつりJAPAN』のビデオが追加されていたようです。私見ですが、このビデオは人間椅子ファン必見と思います。また、CD購入特典はメンバーのサイン色紙でした。

ほぼ開演時間に、今回のツアーのオープニング・テーマ、マイク・オールドフィールドの「Tubular Bells」(ホラー映画『エクソシスト』で使われた曲)が鳴りだします。前回ツアー「ダーティ・ハリー」、前々回ツアー「ブレード・ランナー」と、最近は映画音楽からの選曲がお気に入りの模様。

赤いライトで逆光気味に照らされる中を、メンバーゆったりと入場。いつも通り和嶋氏はバット2、鈴木氏はイーグルを手にします。後藤氏のドラムセットは、今月初めに見たジェラルドのライヴと同じセッティングのようです。
地獄巡りは出発地・大阪、「幸福のねじ」で始まります。開幕曲には珍しい選曲です。 中盤<ねじ屋の親爺>パートでは、中年のいやらしさを表現するが如き、ねっとりとした演奏を聴かせます。 しかしテンポの速いところでは、リズムに合わせて会場の床が揺れ、船酔い気分になりそうでした。

ここで今日のステージ衣装をチェック。舞台向かって左より、鈴木氏は前回ツアーと同じく黒い和服に赤い帯、後藤氏は黒のランニングシャツ。ここまでは予想の範囲内ですが、和嶋氏は紺色の作務衣の上に、「おこせや」(で合ってますか?)と屋号の入った朱色のハッピを羽織り、腰には前掛けを締めています。ハッピの背中には、正方形の図柄が入っていたのですが、何が描いてあるのかは残念ながら判別できませんでした。

2曲目は久し振りの「遺言状放送」。『桜の森の満開の下』からの選曲は嬉しい限り。 曲中、電波を模したのか、「宇宙遊泳」「天体嗜好症」などで聴かれる宇宙音が入っていました。ということは後半に<宇宙シリーズ>を演奏するのでは?! と期待が高まります。
一転してスローな「暁の断頭台」。エンディングのギターは少々アレンジが変わったかな?

最初のMCが入ります。鈴木氏が「二十世紀最後の東京でのライヴへようこそ」と挨拶。が、10月29日(日)に青森の田舎館でライヴがあるので、そちらが本当の二十世紀最後のライヴになるとのことです。
“地獄旅館の番頭”という設定の和嶋氏は「旅館と言えば美人女将ですが、今日は閻魔大王の接待に出てますので、番頭の私が皆様をおもてなし致します」と宣言。
話変わって、鈴木氏の甥であるケンタロウ君は、鈴木氏の顔を見ると泣きだすとのこと。家の冷蔵庫に『怪人二十面相』のポスターが貼ってあるのが原因、という説もあるが、鈴木氏は「怖がるまではおどかし続けるつもりです」と意欲満々。

いつものように脱力系MCから、最新アルバムのタイトル曲「怪人二十面相」。前回のツアーが終わったら、しばらく聴けない曲だと思っていたので、ちょっと意外でした。何度聴いてもキャッチーないい曲です。和嶋氏がちょっと走り気味でしたか?
同じく『怪人二十面相』から「みなしごのシャッフル」。最新アルバムではベストと言っても過言ではない名曲、和嶋氏のボーカルにも熱が入っていたようにみうけられました。
そして後藤氏がボーカルを取る「亜麻色のスカーフ」を演奏。どうやら新譜からは各メンバーのボーカル曲を選曲、リレーしたようです。
後藤氏のボーカルとハードなドラミングの共演は今日も快調。さらに♪シャンシャラララ〜 のコーラス部では、鈴木氏が和嶋氏側に寄っていき、和嶋氏のマイクを使って2人でビートルズ的にコーラス。

ここでMCが入り、鈴木氏曰く「このコーナーを楽しめるかどうかが、人間椅子ファンの踏み絵になる」という、1音半下げ重暗曲コーナー、題して<長い曲地獄>の準備。和嶋氏はグレコ、鈴木氏ミラージュと楽器を持ち替えます。

今ツアーの移動で、機材車である「人間椅子号」(トヨタ ハイエース ハイルーフ)がローンを残して壊れてしまったことに触れ、「日ごろの行いが悪いのか…」と慨嘆。 その因果関係を絡め「善男善女は出られるが〜」という導入で、「胎内巡り」をちょっとテンポ早めに演奏。ライヴではあまりやってくれない曲なので、大変うれしいです。ゆったりとしたリズムながらヘヴィな内核を持った、現在の人間椅子ならではの曲。最後のお経パートでの和嶋氏と後藤氏の変拍子コーラスもきっちりと決めてくれます。
続いて「莫迦酔狂ひ」へ。これも久しぶりに聴く曲。この世と地獄の臨界地帯という雰囲気です。

演奏を終えて、暑さに耐え兼ねハッピを脱ぐ和嶋氏。ただし前掛けはそのまま。 和嶋番頭の説明によれば、地獄旅館には、焦熱地獄の間、阿鼻叫喚の間、鏡地獄の間などがあり、お食事は針の山づくしとのこと。 「女性専用の少女地獄の間を、今日は特別に男性の方もご案内いたします」という導入で『二十世紀葬送曲』から「少女地獄」。この曲は十周年記念ライヴ以来の演奏になります。比較的地味な曲ですが、和嶋氏の多彩な心象が物狂おしく表現されている佳曲です。
続いて「人間失格」。1音半下げでの演奏は初めて聴きましたが、最初からロー・チューニングの曲であるかのように違和感のない雰囲気です。中間部の展開では、赤い照明に照り映える和嶋氏のフリーなソロと、器材と時間を効果的に使いまわす後藤氏のパーカッションが、人間の揺れ動く心の狭間を描き出します。
突発的に、ヴェノムのカヴァー曲「Welcome to Hell」が炸裂、ストレートにガンガンきます。個人的にはKISSの「Hotter than Hell」あたりを予想してたんですが。
ガラリかわって「東京ボンデージ」。同じ都会を題材にしながらも「都会の童話」とは正反対の外観を持つこの曲をじっくりと演奏。偏執狂的に繰り返す恒例のギターソロのブレイクもしっかりあり。

これで<長い曲地獄>を終了し、通常チューニングの楽器に持ち替えます。しかし「次の曲からは<宇宙地獄>です」と、期待通りの展開。 鈴木氏が、歌詞の“楽の音をもて会話する”の意味を和嶋氏に問えば、言語による不確実なコミュニケーションを超越したものを表現したかった、との答え。
後藤氏のシンセドラムの宇宙音を合図に「宇宙遊泳」がスタート。同時に今まで待機していた天井のミラーボールも回りだし、音と光でコズミックな雰囲気を醸し出します。 間奏の遊泳部では、和嶋氏のテルミン・エフェクターまで駆使したソロを聴きつつ、しばし陶然。こんな地獄なら何度でも堕ちたい、いつまでも居たいです(笑)。

鈴木氏が、前回のツアーから復帰してきたリッケンバッカーに持ち替える間に、和嶋氏のMC。「天井から蜘蛛の糸が垂れてきました。私には見えます! この糸を昇って、天国を垣間見てみましょう」という導入で、「天国に結ぶ恋」へ。終盤の後藤氏の2バス連打には圧倒されるばかり。
そして“地獄巡り”ならばこの曲をやらねば。「地獄」。 山にも出かけよう、最後の曲はギターのトリルからおなじみのリフ「針の山」
演奏を終え、メンバーは逐次退場。鈴木氏が客席に一礼して去っていったのが印象的でした。盛大な拍手の後はもちろん「アンコール!」の掛け声。

歓声に応え、ほどなく3人が定位置へ戻ります。和嶋氏は見慣れないギターを持って登場。後藤氏所有、グレコ製の黒(濃紺?)のセミ・アコースティックギターです。「枯れたいい音がする」と、グレコ・モニター和嶋氏。
アンコール1曲目は、独特のギター・サウンドが光る「名探偵登場」。後藤氏ギターは少々ハウリング気味でしたが、それでも和嶋氏は雀躍とギターソロを披露。
続いて高速、鈴木氏熱唱の「エキサイト」へ。
再び退場したメンバーに対し、観客は手を叩き、足を踏み鳴らしてアンコールを要求します。

2度目のアンコールに登場した時は、鈴木氏は柔道着、和嶋氏は稲川淳二のイベントの物販で入手した白いTシャツに着替えていました。ただし下半身は作務衣+前掛けのまま。
柔道着姿の鈴木氏による「3・3・7拍〜子!」という掛け声から、「地獄風景」
正拳突きで気合い入りまくる鈴木氏から、「来年7月に新譜が出ます」とアナウンス。来月あたりからレコーディングの準備でしょうか。
最後のメンバー紹介では、「ギターの鬼、和嶋!」「ドラムの鬼、後藤!」「気合の鬼、鈴木研一!」と、地獄巡り案内役3人が、実は鬼であったことが判明しました。
ファンの声援によく応えながら退場。場内が明るくなると同時に、ブラック・サバスの「Planet Caravan」でお開きとなりました。

総評ですが、『怪人二十面相』からの選曲が意外に多かったということもあり、雰囲気や構成的には、前回のツアーを踏襲したような印象を受けました。良く言えば安心して聴ける、悪く言えば意外性に乏しいという気がしました。
選曲については、アルバム9枚分のレパートリーに対して演奏時間は限られており、2days公演以上でないと、多くを望むのはすでに不可能な気もします。あるいは、このあたりでライヴ・ビデオを出して頂けると、その収録曲以外の曲に絞って演奏できるようになるかもしれませんね。
しかし、人間椅子の楽曲テーマに“地獄”“葬”が頻出することを再認識しました。「九相図のスキャット」が入ってもよかったかな。
演奏は、和嶋氏・鈴木氏ともに荒れぎみな場面もありましたが、後藤氏が安定した演奏で引き締めていたように思いました。ベストなライヴではなかったですが、個人的には「人間失格」と「宇宙遊泳」の演奏には大満足でした。
リキッドルームは、昨年5月以来の2度目の会場ですが、前回より聴きやすくはなっていたものの、やはり低音が出すぎてギター音の輪郭がつかみづらいように思いました。曲によってはギターの音が聞こえ易くなってはいたのですが。
あと、照明が暗めで、メンバーの表情などの細かいところがよく見えなかったのが残念です。演出上の理由で照明を暗めにしていたのでしょうか。照明そのものは、特に「人間失格」などで、楽曲に合わせたライティングが成功していたと思います。
そして何といっても、7階までの階段の昇降は疲れました…。2時間のライヴ後に階段を降りるのは、かなり辛かったです。

今回で私は今世紀、人間椅子のライヴの見納め(田舎館村のライヴに行ける方がうらやましい!)となるわけですが、来年も7月に新譜が出ることを確認できたことですし、2000年は前世紀と新世紀の架け橋の年だったかな、という気がしました。 この調子を維持して、21世紀もいいアルバム、いいライヴを聴かせ続けてほしいです。
以上

【チケット】

チケット

【セットリスト】

SEQ. 曲名 使用楽器
ギター ベース
<オープニング Tubular Bells>
幸福のねじ バット2 イーグル
遺言状放送
暁の断頭台
<MC>
怪人二十面相
みなしごのシャッフル
亜麻色のスカーフ
<MC> グレコ ミラージュ
胎内巡り
莫迦酔狂ひ
<MC>
少女地獄
10 人間失格
11 Welcome to Hell (VENOM)
12 東京ボンデージ
<MC> バット2 イーグル
13 宇宙遊泳
<MC> リッケンバッカー
14 天国に結ぶ恋
15 地獄
16 針の山
<アンコール1> グレコのセミアコ
(後藤氏所有)
17 名探偵登場
18 エキサイト
<アンコール2> バット2
19 地獄風景


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