ダハシュールのピラミッド異聞

階段式ピラミッドで有名なエジプトのサッカラから、さらに10キロばかり南下したところに、ダハシュールという場所があります。ここには3つのピラミッドがあります。屈折ピラミッドと真正ピラミッド、それに崩れかけた小さなピラミッドです。屈折ピラミッドと真正ピラミッドは、ギザのクフ王、カフラー王のピラミッドに続き、エジプトでは3番目と4番目に大きなものです。今では、旅行会社を通じて許可を取れば観光できるらしいのですが、僕がカイロに住んでいた頃には、このダハシュールは立ち入り禁止でした(ナンデモ軍の施設があるとかで)。
でもあるとき、ギザからサッカラに向かうサッカラ街道(途中で右に曲がるとサッカラです)を、そのまま真っ直ぐ南に走り、ダハシュールの二つのピラミッドが正面に見えるあたりで愛車(忘れもしない、メタリック・ブラウンのギャラン・シグマです)を道端に止めました。ちょっと写真を撮るつもりで、ハンド・ブレーキを引いて車を降り、いつものくせで、ちゃんとロックしてからドアを閉めました。ドアがバン、と景気のいい音を立てた瞬間、頭の中である言葉が弾けました。
「キー(鍵)」
我が愛車のキーは、ハンドルの脇にぶら下がったままで、エンジンは軽くうなりを伝えていました。こうして僕は、自分のアパートから数十キロ、ろくに車も通らないサッカラ街道で、愛車から締め出されてしまったのでした。(羽仁 礼)

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