（日経新聞より抜粋） ロック音楽家、佐野元春のホームページが三月十三日に
立ち上がった。佐野についての最新情報にはじまって、過去の活動記録や写真入
りの作品一覧表、歌詞、コンサートの全リスト。ここでしか読めない佐野の文章
もある。曲の一部が実際に聴けるのはもちろん、佐野がDJ をしていたFMの番組
でも語りや動く画像まで入っている。日本の音楽関係のページではもっとも充実
した内容として評判だ。
しかし、このホームページはいわゆるプロの手になるものではない。佐野元春
は「あれは僕の音や音楽を使って有志のかたが作ってくれたんです」と言う。佐
野本人と事務所は監修協力し、著作権関係はレコード会社が調整しているが、実
際に作業を進めたのは七人のファンだ。
昨秋、パソコン通信上の集まりで「佐野さんのホームページを僕たちで作ろう
」という話が出た。これに、以前からインターネットに興味を持っていた佐野本
人が強い関心を示し、事務所やレコード会社などを説得して、十二月から動き始
めた。目標は九十五年三月十三日、佐野元春の誕生日である。
画面作りに主導的な役割を果たしたのは米田道昭さん（33）。電機メーカー勤
務の傍ら、自宅にISDN回線を引き、パワーマックで自分のホームページを遊び半
分で作っていたため皆から推された。基本的な骨格づくりやデザイン、HTMLと呼
ばれる書式に沿った書き込みなどを担当。歌詞やギターのコード譜などの入力は
パソコン通信で募集した有志に頼み、電子メールでやりとりした。
レコード会社の協力を得たが、米田さんの手元にないレコードのジャケット写真
などは全国のファンに借りた。FM番組の中で佐野が必ず言っていた決まり文句、
「アイ・ウォナ・ビー・ウィズ・ユー・トュナイト」の録音もファンからの借り物。
連日、帰宅後午前二時ごろまで入力に追われ、週末も二日間ずっと自宅にこもりっ
きりだった。
「苦労したのは画像の処理。佐野さんからは（大容量の）専用線で速く見られる
人ではなく、自宅のパソコンから電話回線で接続している多くの人のことを考えて
作って下さい、と言われた。そのため、データ量をできるだけ小さくするように心
がけた」
その結果、専用線の利用者からは「これだけの内容なんだから、もっと凝った画
像にすれば良かったのに」という声も出たが、それは最初から承知の上での判断だ
ったわけだ。