高 館 の 歌
 

願わくば歌に託さむ我が思い高館景観永久にしあれと
 

皆さまからここに掲載する歌を募ります。祈りを込めた力ある歌を詠んでメールください。
僭越ながら佐藤が選させていただき、作品を掲載させていただきます。お持ち申し上げます。


      1. 高館に登れば見ゆる日高見の川の流れは滅びの絵巻
      2. 高館は悲しからずや日高見の流れに抗す堤となりて
      3. 蕉翁が涙こぼさむ高館に我一人来て草木触るゝ
      4. 蕉翁は藤原三代いかに見む栄華一瞬流星のごと
      5. 判官は小さき堂の中に居て木に刻まれて凛と坐すなり
      6. 高館に一人登りて目を瞑り判官自刃の一時(ひととせ)思う
      7. 判官の無念を思う高館に登りし人はいつの世なりと
      8. 風吹きて須川の山に雲往けば雨を呼ぶなり高館山に
      9. ふる里の高館山に登り来て山河を拝むただありがたき
      10. 日高見の国は在りなぬ何処何処に高館山に友と語らふ
      11. 安倍氏より清原氏より清衡は夢を紡いで爰に古都建つ
      12. 軍(いくさ)なき永久の都を夢想せる清衡眠る金色堂は
      13. 毛越(けごし)なる地に基衡は忽然と浄土の庭を出現せしむ
      14. 秀衡は我が後の世も奥州は平和であれと光の寺建つ
      15. いざ行かむ我がふる里の奥州の高館山に危機迫りなば
      16. おしなべて地元の人の関心は景観よりは便宜を取らむか
      17. 白雲の金色に染む夕暮れに枯葉踏みしめ金鶏の路
      18. 義臣なる泉三郎住む館は泉ケ城と申すなりけり
      19. 水神の機嫌を問はばまずは聞け北上川のその水音を
      20. 衣川桜川見む古の古都の栄華を偲ばむために
      21. いついつと定かにならぬ事なれど父と吾来しこの高館山に
      22. 夢跡を偲びても見む持仏堂掘りてまた見む心の裡に
      23. ひっそりと二人の御霊眠るらむ千手堂前くも糸払ふ
      24. 幾とせも幾とせも越へ伝わりし延年の舞い心沸き立つ
      25. 古は蝦夷の里と言われけり鼻の曲がりし鮭など喰らふ
      26. 滔々と流れ尽きせぬ悠久の時も流れむ日高見川は
      27. さもありと往時を忍ぶ面相の人に出会いし藤原祭り
      28. 夢あれば人は生くべき意味ありと芭蕉と曾良に諭さる心地す
      29. 古都焼けて原野となりて八百年年経ても尚原野変わらず
      30. 秀衡が浄き心を知りたくば無量光院礎石の間に間
      31. 幾年も幾百年も年を経し景観破壊見るに忍びず
      32. 奥州にディズニーランドでも造るように見えて「水の駅」構想
      33. 紅葉狩る人も見むとて光堂その眼射られむ眩しさ故に
      34. うつしゑの工事の進む高館の赤土眺むこれで良きかと
      35. 夢ならば夢と思はむ現実(うつつ)なる景観破壊に天罰なきや
      36. 悲しきは我関せずの無関心利便叶うて失せしものさて
      37. 高館はお國自慢そ奥州の道路欲しきはいったい誰そ
      38. 何気なく道路工事の人夫には知人居るかと横顔覗く
      39. 悶々と工事気になり目も冴えて歌に託さむ我が思いかな
      40. 白みゆく虚空の彼方巨星あり手を合わせつつ祈り捧げむ
      41. 悲しきは夢幻(ゆめまぼろし)のことで事でなく今も進みし景観破壊
      42. 高館の草木の衣踏みつぶすバイパス工事の愚かさを泣く
      43. 高館に上れば悲し文化の日文化国家は名ばかりなりや
      44. 魚住めぬ川となりしか北上は水底辺り蟹の住処そ
      45. 魚住めぬ川とは知らず水鳥の二三羽潜る大河の辺(ほとり)
      46. 秋暮れて人恋しきそ衣川彼方(あなた)の山に白きもの見ゆ
      47. 誰彼と文句言いたきことあれど山の薯蕷(とろろ)でくちびる痒し
      48. 高館に弓月懸かる暗き夜は義公の勇姿夢にとや見む
      49. みち野辺に名もなく花の咲くごとく凛と立つなり弁慶堂は
      50. 死して尚主君守りし弁慶の館も今は大河の底辺
      51. 兼房が主君の首級をかき抱き火焔の中に浄土を見むや
      52. 世の中に恋しきものは高館に上れば見ゆる景色なりけり
      53. さらさらと白き天使の舞い降りて高館山に冬は来にけり
      54. いずくより舞い降りて来む白雪の拝むわが手に触れて溶けなむ
      55. 白鳥は護岸工事を知らずして大河行き交う様ぞかなしき
      56. 冬来たり北の大地に陣を敷く冬将軍は判官ぞかし
      57. どうしても残し置きたき高館の景色目に沁む断崖に立つ
      58. 淡雪の溶けて赤土にしみ込めば水辺の葦の芽でも吹くらむ
      59. 無惨にも掘り起こされし葦原のその葦原の命の精は
      60. 正直に生きれぬ人は寂しけり明日に残すはバイパスなるか
      61. 止めどなく天の涙は溢れけむ慈悲の河なる日高見川に
      62. ふる里の大地かなしきその価値を解せぬ人に壊されゆくぞ
      63. 心ある人に伝えむふる里は未曾有の危機にありけることを
      64. 奢りたる人間どもに神罰のあるやなしやは説いて詮無し
      65. ともかくに嫌いなものは嫌いよと云える心 を持ちた きものぞ
      66. おめでたき事にはあらじ高館を通過すると ふバイパ ス道路
      67. 兵の生まれ替わりて死に替わり奧の高館ひ しと守護 せむ
      68. 夢ならば覚めざらましを近々に平泉なむ世 界遺産に
      69. 一瞬に我欲を捨てる覚悟して佐藤義清妻子 を捨てむ
      70. 途方なきブッダの道をとぼとぼと西行ひと り歌もて 行かむ
      71. 秀衡は昔懐かし西行をうれし涙で新都に迎 ふ
      72. 儚さをたんと知ったる西行が歌詠む先は山 河のみな り
      73. 西行は風に誘われ陸奥に命削りて向かひて 死なむ
      74. 人の道老いて知るなり歌の道仏の道も一味 なりけり
      75. 西行は武の神憑きたる判官に危うきものを 感じたる かも
      76. 都にて北の楽土の崩落を老西行の如何にと や聞かむ
      77. 花を見む西行は見む伽羅御所の炎の最期散 る花と見 む
      78. 心底に言葉にならぬ念い伏せ西行逝く成り 花の咲く 頃
      79. 悲しみは天より来るか高館は見渡す限り霧 に埋もれ
      80. 朝に来て夕には消へむ人の世の無常思ほゆ 無量院跡
      81. 消え残る石の間に間に秀衡が念ひ尽くせる 狩の絵想 ほゆ
      82. 秘仏なる一字大日拝みなば涙溢るゝ訳なら なくて
      83. あらたまる讃衡蔵の奥の院印を結びし秘仏 の大悲
      84. 寂しさは山より来るか烏啼く霞む束稲秋の 夕暮れ
      85. 楽しさは舞いより来るかあらたまの年の初 めの延年 舞い
      86. 金鶏の麓に人の珍しき忘れ去られし妻子の 塚は
      87. 空虚(むなしさ)は道より来るかコンクリ の高館バ イパス愚虚(おろか)の極み
      88. 時移り花の山とは言い難き束稲山に霜の花 咲く
      89. 柳御所掘られ埋められ又掘られただ一面の 土塊の原
      90. 西行も通り給ふや我もまた桜の山をとぼと ぼ登る
      91. 束稲の坂を登りて目にしたる古き塚にも心 和みぬ
      92. 誰植へし垂れ桜や高館の橋の袂に来る春を 待つ
      93. ふるき世に「糸の乱れ」と貞任が詠める處 はあの辺 りかも
      94. だらだらの月見坂ゆく歌枕衣の関を想い偲 びつ
      95. 木枯らしは御霊と思へ高館の残土巻き上げ 怒りて吹 かむ
      96. 月は冴え月は満ちゆく幾年も高館山の冬の 三日月
      97. 春を待ち西行法師束稲の桜花見て去る後影
      98. はらはらと雪の花舞ふ北上の大河飛び行く 白鳥一羽
      99. 文化など意には介さぬ策悲し高館瀕死の白 鳥となり
      100. 心期し旅にしあれば夜半時高館走る冬の稲 妻
      101. 朝露の命の草は剥ぎ取られ見へにし景はコ ンクリの 塊
      102. 定家なら西行ならば如何に詠む在るべき處 華なかり しを
      103. 朝霧や草の庵も葭葦(よしあし)も 何も見えずに冬の高館
      104. 涙せむ泣けばすむとは思えねど不稽の策に 涙溢ふる る
      105. 見渡せば水辺の淵の草むらは刈りて取られ て跡形も なし
      106. 幾年もこの古館を守る人の御霊嘆かむ詫び る術なし
      107. もののふの心の消えし今の世に心見せよと 言うが愚 かそ
      108. ざくざくと落葉踏みしめ束稲の西行歌碑に 進み詣ら む
      109. 冬なれば桜は咲かじ雪の花ちらほら舞ひて 束稲の山
      110. 閑かなり道の奥なる古都に立ち往時盛へし 面影辿る
      111. 吹雪く夜は白きものみな判官の都逃れの姿 と見ゆる
      112. 十五夜の月も見えずに吹雪く夜は大河も見 えず雪の 勢い
      113. 青臭きことを云うなという者の眼をしみじ みと見て は放さじ
      114. 開発の美名のもとに運ばれし古都の変貌誰 か糺さむ
      115. 長き夜や地方自治など夢のよで雪降り止ま ず熱き酒 飲む
      116. 今度をや県の役人町長に担がんとすらむ世 紀末冬
      117. 理不尽にノーの勇気の人なしや冬の高館無 言の判官
      118. 後の世に何を遺さむ遺伝子の二重螺旋の執 念思ふ
      119. ありんこの如くトラック行き交ひし河と大 地を分か つ企み
      120. 北上の大蛇のたうつその時に我が身を盾に 高館の立 つ
      121. 無惨にも皮を剥がされ草むらに白き兎の魂 遺る
      122. 高館に日高見國を死守せむと蝦夷俘囚の幻 を視る
      123. 霧深き北上川の水底に呑み込まれ行く吾が 想ひ哉
      124. 真冬日の束稲山の新雪の奧に分け入り歌碑 など探す
      125. 真冬日の高館山を吹く風は地吹雪(いか り)となり て原野を駈けむ
      126. 計画は列島改造凄まじき昭和48年立てら れしもの
      127. 観光ルートの確保もて田中の亡霊ブルで行 くなり平 泉
      128. 泣く者か悲しむ者が知らねども高館橋を雪 女の行く
      129. 自然(じねん)なる言葉そのまま自ずから 束稲山に 初陽昇りぬ
      130. 千年の幕開けなるや負の遺産抱えて明くる 古都平泉
      131. 除夜の鐘遠くに聞こゆ新世紀そこに来てい て暗き古 都
      132. 雪晴れて心も晴るる白雲の束稲山にぽかり と浮かぶ
      133. 春立ちて雪も解けなば高館のバイパス工事 始まる恐 怖
      134. 高館に春などいらぬ春来れば又始まらむバ イパス工 事
      135. 須川から吹き行く風は地吹雪となりて大河 は霞みて 見えず
      136. 夢覚めて春立つ野辺を義経堂登りて見れば 地吹雪渡 る
      137. 節分会鬼は誰なり降りしきる雪に交じりて 落花生飛 ぶ
      138. 中尊寺、老若男女ひしめきて鬼は語らず福 豆拾ふ
      139. 暖冬に馴れし我らの虚を突きて豪雪解けぬ 二月とな りぬ
      140. 春寒に花も蕾を固くして雪間手向けむ西行 忌には
      141. いざ春を待つとも言わずその訳は古都を貫 くバイパ ス工事
      142. 花に浮く心になれず此の春は西行翁の命日 近き
      143. 花に浮く心になれず高館の山に登りて「愚 か」と叫 び
      144. 為政者に何をか言はむ高館の哀しき景色ま ずは見る べし
      145. 変わりゆく高館悲し夢跡に頭を垂れてしば し祈らむ
      146. 歯がゆきぞ己の無力情けなき古都の自然の 消えゆく 姿
      147. 滅びには滅びしなりの訳在らむ奥州藤原氏 滅びし訳 はや
      148. この世には常なる物はなかりしに何執着す 己が心は
      149. 春の雪ただ芝草の野辺に降る在りし日其処 は観自在 王院
      150. 余寒する光堂にて思はれる政治家秀衡今に 在りせば
      151. 花の春春を待ちつつ西行は住処定めぬ命を 終えぬ
      152. 夏草は毟られけりな無惨にも高館山は裸の 兎
      153. 夏草と芭蕉が詠みし景色なく地団駄踏んで 高館を去 る
      154. 蕉翁も夏草茂る高館の雨中に立ちて咽びて 泣かむ
      155. 高館に桜花咲くとも若草の瑞々しきは何処 にありや
      156. 清衡は縄文の血に連なりし我が血の在処願 文に付し
      157. 雪解けの水溢れゐて北上は高館橋を攫(さ ら)わむ とす
      158. 清衡の思い知るべし奥州に咲かせむとした 大乗の華
      159. 花立の溜池遠く見下ろせば苑池に垂れる蜘 蛛の糸見 ゆ
      160. 雪消えて変わり果てたる高館を「しばしの 我慢」と 云うは鬼なり
      161. 春霞かすみ隠せよ蕉翁が夢の跡とぞ詠みけ る辺り
      162. 何見せるつもりか知らぬ誰知るや夢跡消え て平泉は て?
      163. 花見むと花の法師の御霊はや白河越えて陸 奥に入り
      164. ことごとく消え失せにけり高館の荒野に生 ふる露草 の群れ
      165. 高館は牛馬の如く屠殺場に牽かれつつあり 声上ぐる 者なし
      166. 冠に「史跡」とあれば高館を守る人ありや 文化行政
      167. じりじりと心の奥にやるせなき思い抱くも 流れ抗せ ず
      168. 誰守る地元の民の声なくて掛け替えのなき ふるさと の景色(けい)
      169. かりそめに芭蕉西行甦り高館問題問えば答 は?
      170. 故郷の訛りも消えて高館の景色も消えて平 泉の明日
      171. 悲しけり花は桜に藤原祭り華やぐ古都にな るはずの 春
      172. 遠ざかる汽車の汽笛も悲しけり幼き日見し 平泉はな く
      173. 早早に勝てぬ勝負と諦めて義公差し出す愚 行悲しむ
      174. みちのくの雪どけ水を大洋へ大河は運ぶ高 館掠めて
      175. 束稲山桜花は見えず歌碑読みて往時の栄華 想ひ馳せ る日
      176. 西行の歌碑にありける「聞きもせじ」なる 言葉ふと お世辞に聞こゆ
      177. 束稲の西行歌碑に我向かひ「聞こえます か」と問い かけてみる
      178. 北上川 葦葭(よしあし)茂る遊水の岸辺 在りけり 古はや
      179. 葦原はついぞ消へゆき一様に流れ速まり北 上川は
      180. 昔はや変化に富みし川なれば魚もさぞかし 住みよき ぞかし
      181. 奥州の「照井太郎」と誰云はむ日高見川は 阿弖流為 の川
      182. 照り映える朝陽眩しき北上の岸辺行き交ふ ユンボ悲 しき
      183. 治水なる言葉好かなき奢りたる人の科学の 愚かさを 問ふ
      184. 太田川高い堤防よそよそし暴れる獣檻入れ る如
      185. 魚住まぬ川になりけり太田川うなぎ針など 仕掛けし 昔
      186. 川淀みほどよきところの大石に小石を置き てうなぎ 針とす
      187. 北上の川の畔の柳御所誰が植しか枝垂れ桜 悲しも
      188. 一本の枝垂れ桜も悲しけり高館橋を砂利ト ラック急 ぐ
      189. 建都せる清衡公の思い知る手掛かりなりや 供養願文
      190. 埋れたる土器(かわらけ)拾い継ぎ接ぎて 往時の都 偲ばれるなり
      191. 海に出る湊なりけり平泉大河に浮かぶ帆船 思ほゆ
      192. 風まかせ海の道など行き交いて吉次運びし 奥州の黄 金(きん)
      193. 狭き道砂の煙りも もうもうと高館行き交 うダンプ カーの群れ
      194. 北上は母なる川そいつの世も慈母の仏の姿 映して
      195. 日高見川(きたかみ)は大 蛇(お ろち)となりて流れ来る蝦夷の郷土(くに)の奥の奥より
      196. 線細き山女は海に下り行き桜鱒とて川(く に)戻る なり
      197. 味気なき完成予想図指し示し未来へ繋ぐ景 観と云う 愚
      198. 味気なき完成予想図手に取りて風情を知ら ぬ「殺風 景」を笑ふ
      199. 味気なき完成予想図手に取りて俄に悲観込 み上げて 泣く
      200. 夢跡の素描悲しき夏草は跡形もなく剥ぎ取 られけり
      201. バーミアンの巨大石仏 高館と氏の描く景 色消えゆ くも悲し
      202. ユネスコの親善大使せる人の描きし古都は 消え失せ にけり
      203. 誰知るや緑溢れし高館の剥ぎ取られたる大 地の痛み
      204. いずくにもどこにもなきぞ高館にみゆる景 色の静な る風情
      205. 「東方に在り」を読みてしみじみと知るか けがえの なきもののこと
      206. 北上の岸辺無惨に削られて高館見ゆる泣け とごとく に
      207. 満々と雪解の水を湛えける北上川(き たか み)は海 高館は島
      208. 太田川鉄の欄干空しけり束稲霞む春のみ空 に
      209. 束稲山に花は咲けども山桜まばらしかなし 歌碑読み て泣く
      210. 野生をばまるごと奪い取られける百獣の王 に高館見 ゆる
      211. 囚われし束稲山は悲しけり涙の雲に抱かれ 眠る
      212. 浚渫に底は掘られて川岸は葦の一本残って おらず
      213. 黒雲の俄に湧きて高館に集まり来り遠雷の 音
      214. 高館に黒雲湧きて風起こり義心に篤き兵 (つわも の)怒らむ
      215. 弁慶の住まいし家は此処いらに確か在りけ り誰か知 るらむ
      216. 東より陽は昇りけり盛り土から判官見ゆる 光りの中に
      217. この盛り土誰の奥津城なるものか三代の御 霊光堂に在り
      218. 赤き土盛り土となりて川と町遮断せるかな 近代工法
      219. 古のギリシャの民の失策を学び尽くせよ陸 奥人は
      220. はげ山となりたるギリシャの神の山思い起 こさす束稲連山
      221. 永遠の都とすらむ平泉人死して尚かの地は 遺る
      222. 花立の池に散り染む桜花戦火絶えなき奥州 思ほゆ
      223. 秀衡の寺に詣でて何気にも散りながら咲く 桜(は な)在るを知る
      224. 散りながら咲く桜(はな)在りき秀衡の無 量光院知 る人なきや
      225. 花冷えの無量光院風吹けば礎石に桜花(は な)の降りかかりけり
      226. 秀衡が桜花(はな)は涙か 風吹けば 散りつつ咲けり無量光院
      227. 三代目秀衡公は悲しくも滅びの御館(み た ち)と呼ばれけるかな
      228. 北上の岸辺に花の舞い降りて高館橋を春た ちはゆく
      229. 花館の廃寺の跡の一隅の桜散り染む苑池悲 しも
      230. 悲しきそ高館橋に散る桜工事道路に無造作 に落つ
      231. 新しき高館橋の工事場にテトラポッドの群 れておぞ まし
      232. 里人にバイパス問えば「予算次第」と聞く も淋しき
      233. かにかくにカスリン台風強調す形振り構わ ぬ工事止 まらず
      234. ふと思ふ河川整備とバイパスは質違ふはず その意味を問ふ
      235. (つばくらめ)盛土を運 べ己が巣 に高館バイパス造れぬように
      236. 燕よくぞ今年も日高見の大河の里に舞い戻 りけり
      237. 見上げれば九郎の館は散り初むる桜花(は な)に埋もれ忌日に向ふ
      238. 束稲山桜は見えず傷つきし山肌悲し採掘の 跡
      239. 花吹雪消えゆく橋を憐れむや桜の衣となり て散りぬ る
      240. しみじみとこの十年の道騒動工事現場の岸 辺に思ふ
      241. 奥州の山河はここに比類なきこの風景を消 してはな らず
      242. 道とはな人歩むべき道にして未来に通ずる 道にしな くれば
      243. この道は未知にし道や人の息感じゑぬ道灰 色の
      244. 白き嶺彼方に聳え我が歩む工事道路の砂利 道の荒れ
      245. 高館に川の漁師の舟見えて魚影は見えず抉られし河
      246. 魚住まぬ川となりけり北上は川の漁師は何もて生きむ
      247. 高館の岸辺は日増し多摩川に似て来て個性 奪われ行 くぞ
      248. 非個性のテトラポッドの群れなして岸辺に 並ぶ姿認 めず
      249. 高館に1200個のコンクリのテトラポッ ドの群れ る異様さ
      250. 兵馬俑に似て非なるもの高館に1200個 の非個性(テ トラポット)並ぶ
      251. 兵馬俑造りし人の心知れ一体に盛る個性の 漲(み なぎ)
      252. 高館を守る家(や)の在りて千年の栄枯見 据えし岸 辺の旧家
      253. 血の色に夕日を映す北上は悲しかりけり忌 日迫れば
      254. 束稲山西行歌碑に夕日滲み涙溢れる佳日偲 べば
      255. まな板の鯉になりしか高館は切り刻まれて 誰に喰わ るゝ
      256. 悠久の古都にはいらぬ箱物の水辺プラザに 嫌悪覚ゑ ぬ
      257. 八百年の歴史に連なる己が立つ東物見に栄 華の跡見 ゆ
      258. 衣川西行もみしその川を今日みる不思議東 物見に
      259. 金色の光り眩しき堂にゐて漲る精気にここ ろ奮ゑぬ
      260. 皆金色光り眩しき御堂にて一際眩し泰衡が 蓮
      261. この蓮(はちす)よくぞ目 覚めて咲 き給ふ奥州人のこころ伝えて
      262. 泰衡の罪は罪なり罪深き仏弔ふにこの蓮添 ゑぬ
      263. 泰衡の枕辺添ゑし大輪の古代の蓮の蘇生す 不思議
      264. 敵味方老若男女なにせうぞ泰衡蓮の咲くや 嬉しき
      265. この蓮を泰衡の首に供ゑたる人の心のやさ しさ思ほ ゆ
      266. 蕉翁はこの大輪の蓮を見ず「奧の細道」残 し逝き給 ふ
      267. 平泉滅びたりとぞ思いきや念(お も)い は滅びず滅びの美得て
      268. 奥州の栄華の跡に草生いて山河は蘇生す健 気なるか な
      269. 歴史をば畏敬せぬかな縦割りの中央省庁考 えし古都
      270. 世界遺産とみるや早速に目敏き者の宅造の 痕見ゆ
      271. 朝敵とされたる人の無念をば偲びて遠く奥 州を見る
      272. 高館を攻略せんと非個性のテトラボッドの 兵士の集 結
      273. とにかくに世界広しと云ゑどテトラポッド 見ゆる世 界遺産なし
      274. 意思持たぬテトラポッドに囲まれて九郎の 館に危機 迫りくる
      275. 非個性のテトラポッドは悲しけれこれを造 りし人の 科学も
      276. 何もかも思い通りにすらむとす科学の奢り 高館バイ パス
      277. おぞましきこの非個性(テトラ ポッド)の 怪物を造形せし美意識を問ふ
      278. 物云わぬ山河の声を心ある人は聞くべし耳 を澄ませ て
      279. 奥州の山河を壊す諸行には清衡公の天罰あ らむ
      280. 利便よりあえて不便を選ぶのも歴史遺産を 受け継ぐ 道ぞ
      281. 高館の歴史景観目を瞑り利便の飴をなめる 愚かさ
      282. 平泉独り気高く凛として自然(じ ねん)貫 け中尊の地に
      283. 西行も芭蕉も見たりこの山河見ゆる景色の 奧の絶景
      284. 春の月束稲山の麓出で金鶏山の袂隠れむ
      285. 芭蕉はやこの高館の何もなき遊水の地に永 遠(と わ)を観しかも
      286. 夏草の北上川の弁慶の館に立ちて仁王立ちせむ
      287. 高館の主の声をいまぞ聞け風土にそぐわぬ工事中止し
      288. 北上川の水辺乾きて戸惑いぬ水鳥悲し餌も無くては
      289. 花を摘む幼女に貰う菜の花のその小さき手に返すものなき
      290. 桜花垂れ懸かれり義経堂主の生涯彩るよう に
      291. 西行の心揺すぶるこの山の彼方に見ゆる山 河愛(い と)をし
      292. さながらに毘沙門天の君なりきその鋭きを 敢えて畏 れむ
      293. 頼りとて君しかいなき妻ならば君住む都旅 し参らむ
      294. 郭公は遠くに在りて恋うる人呼びつつ啼か む束稲山 に
      295. これほどの夫(つま)などあらむ宿命(さ だめ)と てただひとしきり夕立の降る
      296. ふるさとを遠く離れて奥州のこの高館に君 と在りし に
      297. 幼子は泣くを仕事とするからに泣くだけ泣 けよ声を 限りに
      298. 君一人我と幼子奥州の山河在りせばこころ 安すけき
      299. 人の世の続くが限り我が君の武勲の譽れ語 り継がれ む
      300. 契りして短きながら幸多き君と生きけるこ とに悔い なき
      301. 衣川大河に注ぐどこまでも水清くして慎ま しきかな
      302. 遠ざかる雲は悲しき山際をちぎれちぎれに 流れ行き しも
      303. つばくらめただ一心に吾子のため餌を運ぶ も健気な るかな
      304. 君と生き君と暮らせる高館に見ゆる景色の ただ名残 惜し
      305. 悲しきはただ幼子の何知らず笑み浮かべけ る無邪気 なるかな
      306. いついかに死は訪れむ夏雲の俄に涌きて雷(い かずち)の鳴る
      307. 添い寝せば吾子の寝息に和まされ明日の力 を貰いけ るかな
      308. この上は太刀を一振り天の声静かに聞かむ この高館 に
      309. 青龍と玄武に白虎朱雀守(も)るその名相応し平泉とな
      310. 赤々と金鶏山に夕日落つ我一人見る廃墟の 趾に
      311. 年月は怖ろしきかな奥州の覇者住む館も土 塊となり
      312. 高館に蕉翁あはれ催して滅びし趾に涙零さ む
      313. どことなくあはれに見ゑし高館に桜しだ るゝ春の夕 暮れ
      314. 夕まぐれ工事に揺れし高館は次第に深き闇 に紛れぬ
      315. 判官の妻子に近き年頃の母子に出会ふ高館 橋に
      316. 束稲山に花は咲かねど西行の歌は残りて往 時伝ゑむ
      317. 日は退(の)きて月は微かに夕空にもの言いたげに懸かりてをれり
      318. この歌は風雅の歌にあらずして九郎の館を 守りし歌 ぞ
      319. 秀衡は富士に見立てしこの山に奥州鎮護の 思い込め しか
      320. 達谷の窟の辺り浮かぶ雲毘沙門天の怒りし み姿
      321. 奥州に芦屋はいらぬちょいの間の別荘気分 住まわず とよし
      322. さ緑の金鶏山の夏草の彼方に幽けき夢跡浮 かび
      323. なだらけき金鶏山を見下ろして天をも怖れ ぬ宅地造 成
      324. 夏の雲高館遙か風任せ流れてゆくも悲しか りけり
      325. 白き雲長閑に流れ奥州の山河の午後に漲り し夏
      326. 高館の草葉に雨の降りかかる梅雨になりけ む早今年 もや
      327. いにしゑは臣下住まいし跡なれど有無を言 はせぬ工 事傷まし
      328. 山肌の傷は深かくて悲しけり観音山の石切 り場跡
      329. 取り返しつかぬ工事は早々に止めるべきな り我が子 らのため
      330. 世界遺産となるべきは在りのままなる陸奥 の古都平 泉
      331. 水無月の浄土の庭にとりどりの菖蒲競いて 人の賑わ い
      332. かにかくに道を造れば便利とは短絡に過ぎ 歴史忘れ て
      333. 芭蕉はや西行辿りし月見坂息を弾ませ北方 を見む
      334. 平泉いまや日本の故郷の原風景となりしと 云ゑり
      335. 悔しきは京都文化の模倣とぞ云われ久しき 奥州の古 都
      336. 誇りもて奥州人の誇りもて高館景観守る人 となれ
      337. 守るべきは奥州人のふる里の原風景なる高 館景観
      338. 雨降れば水の溢るゝ北上の岸辺住まいし人 の文読む
      339. 住む人の心をとくと汲み上げて明日に禍根 を残して ならず
      340. 大水に流されたりし記憶をば忘れむとする 叔母の意 を聞く
      341. 道ならばひとつにあらず別の道造しことも 視野に入 るべき
      342. 道路(バイパス)は明日にも出来る文化は や返るこ となき覆水の盆
      343. 日高見の我が平泉日の本の故郷となり夏の 雲湧く
      344. 河童族日高見川の河上に暮らすと聞けり滅 びけると も
      345. 黄昏れの束稲山の麓から古都の彼方に霞む 駒形
      346. 思惑はそれぞれあれど核心は稀少な古都の 自己同一 性(アイデンティティ)
      347. 声高に自説を説くも聞く耳を持つ人なけば 悲しくも あり
      348. 正法を貫通せよと教わりし師の意を汲みて ひたすら に説く
      349. 判官を心の内に拝すれば炎巻かれし高館見 ゆる
      350. 「よそ者は口を出すな」と言う言辞吐く人 ありて少 し寂しき
      351. もはやもう世界遺産となる古都に狭き了見 通用すま じ
      352. 物言ゑぬ雰囲気あると聞き及ぶ町の良心何 処にあり や
      353. 言いたきを腹に飲み込み流されて気づきて みれば白 髪百丈
      354. 畏れしは正しき道を歩まずに最期に及び悔 いしこと のみ
      355. 心ある人は問うべし奥州の守るべき文化そ は何ぞや と
      356. 個々にある私心は捨てて大道の議論をすべ き佛弟子 我ら
      357. 寂しけり夏草落つる雨音も聞こゑぬままの 高館に居 て
      358. 炎天に盛り土の土は焼かれけり猛暑労し高 館の景
      359. 夏草は工事と称し剥ぎ取られ炎暑焼かるゝ 盛り土か なしき
      360. 懐かしき写真を見れば寄り添ゐし恋人憩ふ 東物見に
      361. 移りゆく景色悲しき平泉工事止めねばただ の鄙里
      362. 首桶に無念と眠る泰衡に誰が手向けしもの やこの蓮
      363. この蓮が八百年の眠りから醒めたる訳を我 は知り得 ず
      364. 奥州の心は蓮の華にあり泥に蘇生の泰衡が 蓮
      365. 敵味方老若男女なにせうぞ泰衡蓮の咲くは 目出度き
      366. 又夏に今年も咲けりいにしゑの奥州偲ばれ 中尊寺蓮
      367. この蓮を滅びし者に手向けしは如何なる人 ぞ涙零れ む
      368. 奥州の往時の栄華彷彿と首桶の蓮今日に咲 き初む
      369. 朝露の雫を誰の涙とてそれは問はまし泰衡 が蓮
      370. 月光の蒼き光りに誘われて滅びし者の花は 開きぬ
      371. ぬばたまの月なき夜に見し夢は花に埋もれ し泰衡の 相貌(かお)
      372. 大池に幼き将の面影が蓮の間に間にふと浮 かびくる
      373. 奥州の人の心の温かさ花と咲くなり泰衡が蓮
      374. 八百年の眠りを醒まし発芽せる一粒の蓮大池充てり
      375. 夏草に埋もれし大河高館を掠め静に海目指 しゆく
      376. てふてふが妖精の如く夏草の間に間飛び交 う大河の 畔
      377. 奥州の辛き歴史は水底に大河潜めて夏雲の 映
      378. 夏の河九郎判官義経が無念偲びつ銀河(ぎ んかわ)下る
      379. 箱石をそぞろに発す判官の御輿の舟に水鳥 の群れ
      380. 判官を見上げる少年(ひと)はいつのまに 八十五才 の翁となりぬ
      381. いざ行かむ義公の無念しみじみと舟遊びし て弔らは むとて
      382. 舟はゆく夏空映す北上の大河を銀の大道と して
      383. 衣川大河にそそぐその辺り水面に映る青葉ささめき
      384. 先達の御幣の先に神宿り九郎判官大河に遊 ぶ
      385. 高館の岸辺に来れば母の手に抱かれし心地 す不思議 なるかな
      386. 白旗のたなびく先に束稲の山は霞みて鎮め の雨呼ぶ
      387. 法螺貝の音はしみじみと北上の大河を渡り 心に沁み る
      388. もうじきに高館橋は壊されて親しみ深き景 色は消ゑ む
      389. 日盛りの高館橋の岸辺にて九郎は遊ぶ牛若 となり
      390. 見渡せば杉の木立のその先の稲穂の先に高 館の夏
      391. 高館の上空遙か入道の雲が沸き立ち雷怒り 来る
      392. 己が身を風雨に晒し金色の堂を守りて鞘堂 は立つ
      393. 鞘堂の前に佇む蕉翁の日焼け顔見ゆ新世紀 夏
      394. 炎天の鞘堂の如蕉翁を守る曾良在りて光堂 立つ
      395. 芭蕉像あるにはあれど曾良の像どこにもな くて少し 寂しき
      396. ふと曾良の影を見るかな夏草に埋もれし像 を振り向 きて見る
      397. 鞘堂は有難きかな今日もまた語らぬままに 本堂を守 り
      398. 階(きざはし)を光堂へと歩みつゝ老の夫 婦は何思 ふのか
      399. 夏木立誰が羽織りし千手院九郎の妻子労る ように
      400. 夏深き千手堂こそ悲しけれ蝉の慟哭我が内 の声
      401. 夏草の衣に守られ楚々と起つ妻子の塚に涙零れぬ
      402. 夕間暮れ蜩の声かなかなと悲しく響く妻子の塚に
      403. 己が名も遺さぬままに消ゑ逝きし妻子の塚に迫る夕暮れ
      404. 金鶏山の麓に在ると知る人も来る人もなし妻子の塚は
      405. 神仏は在るか無きか知らねども妻子の悲惨言葉に為らず
      406. もの云わぬ九郎義経扇子をば逆さに持つも返って悲し
      407. 解れ毛の御髪も直す素振りなく九郎臣下に何云わんとす
      408. 無念をば奧に仕舞って判官は悲運と対す覚悟語らず
      409. 九郎はや眩しき程の栄光を胸の奥にて偲びけるかも
      410. 小柄なるこの肖像の人にしてどこに鬼神は宿り給ふや
      411. 悲しきぞ畳一畳有り余し九郎義経気迫失せ見ゆ
      412. 歴史とは不思議なるかな面差しの優しき人に戦才与ふも
      413. 閉ざされし院の扉のその奧に42才の秀衡公坐し
      414. 月見坂行けば俄の雨さえも有り難きかな有露の我には
      415. この道に近き道無し昼暗き参道越えて光堂は在り
      416. 何処より何処へ向かふ者なりや月見坂行く巡礼二人
      417. 浄土とはかくも眩しき所(とこ)なりと池に悟され大泉が池
      418. 夕暮れの浄土の池に独り来てその静謐に浸る悦び
      419. 荒磯の岩を思わす立石は天を指さす仏の御手か
      420. 基衡の心伝ゑしこの池に蒼き空映り夏雲の行く
      421. 夕映えの水面に光る夏空に御仏坐(いま)し池の白雲
      422. この池に月を浮かべてまじまじと己が弱き心を見むや
      423. 歳月に朽ち果てゝけむ堂悲し唯この池の残りて嬉し
      424. 草深き淵に鉄柵廻らされ蜘蛛の住処ぞ千手 堂の池
      425. 歳月はかくも無惨に景色をば変えるものか と草の戸 叩き
      426. 二品をも唸らせけるか荘厳の極み盗めず大 長寿院
      427. 人の世は無常なるかな今しこの時を惜しみ つ光堂拝 み
      428. 草埋もる池を守るべき鉄柵は錆つき蜻蛉 (あきつ) 留まりて詫びし
      429. 母と子が石に身を代え草の戸に睦み給ふも 余りに悲 し
      430. 穢れなき瞳眩しき幼子も母に抱かれ茅の輪をくぐり
      431. 釈迦堂の木の根を釈迦の白毫と思って見れば足踏み込めず
      432. 年老いし清衡公は此の地から豊田の柵を偲びけるかな
      433. 白神に何を祈らむ丸き輪のこの輪に潜む霊力知らずや
      434. 夏暗き杉の木立の物見から草も深みて衣河見ゑず
      435. 一突きの鐘の音響き金色の堂の彼方に日は輝けり
      436. 束稲の山並み見ゆる雲間から滅びし里にまた秋は来て
      437. 風に舞ふすすきの華の一片を滅びし人に捧げ奉らむ
      438. 月の夜や汀流れる水音に妙に気に掛く衣河 の館
      439. 秋の田に稲木(ほにょ)も並べばしみじみと泉ガ城の栄華偲ばる
      440. 童(わらす)らも拾わぬ栗をただひとり秋の幸とぞ拾ふも可笑し
      441. 飽食の時代となりて牛喰ふ子らは栗などありがたがらず
      442. 世界遺産世界遺産と騒いでも登録の意味知る人はなし
      443. 秋陽射す衣の河の蜻蛉(かげろふ)は短き命おそらく知らず
      444. 黄金成すほにょ干す田んぼ少なくて余計寂しき秋の夕暮れ
      445. 金売りの長者の家は何処何処(どこどこ)と狭き古道を行き来してみる
      446. みちのくに熱き血を持つ蝦夷なる強き人在り紅葉は知るや
      447. 朱々と紅葉は燃ゆる秋暮れて我が陸奥に凩の吹く
      448. 無念をば衣の袖に押し隠し九郎の妻子野辺 に散るら む
      449. 人けなき浄土の池に独り来て物思ひつゝ滑 (なめ) る石見む
      450. 何やらに物言いたげに坐す石に耳を澄まし て深き祈 り聴く
      451. 池中に托鉢僧の如く立つ石に悟りを如何に 問はまし
      452. この小径かつて吉次が黄金積み京へ急ぎし 奧の大道
      453. 傾きし「衣の関道」の立札に何故か惹かれ て細き道 ゆく
      454. 古き良き奧の大道とぼとぼと衣川にぞもう すぐ出で き
      455. 細道のどこに稀少の遺産価値在りや無しや は旅人に 聞け
      456. 胸に沁む景色なりけりどこまでも奧の大道 歩いてい たき
      457. 古のままの古道を是非ともに歩いてみたき と、衣川 渡る
      458. 老子述ぶ「大道廃れ」の文言に砂利に躓く 我を戒む
      459. 降り積もる枯葉の中に埋もれて妙に寂しき 泉が城跡
      460. 知る人も語る人とて今はなく泰衡の首晒さ れし跡
      461. 木枯らしに吹きさらされし枯れ葉たち行き つ戻りつ 池を漂ふ
      462. 語るまい浄土の池の中島に若き日に来て願 を掛けし こと
      463. 「夏草や」と芭蕉が詠みし辺りをば「ただ の河川 敷」とは何抜かしける
      464. ある人の「河川敷」なる発言に腰はくだけ て悲しく もなる
      465. 素通りを意味する言葉「バイパス」の悲し き響き脳 裏離れず
      466. 日光の杉の並木も街道も世界遺産になり得 ぬ意味問 ふ
      467. 横殴り雪は衣の川を打ち汀の枯れ木健気に ぞ立つ
      468. 吹雪くとも西行翁の歌のまま衣の川の絶景 に泣く
      469. そこかしこ目には見えねど千年の往時偲び つ衣川往 く
      470. 衣川糸を辿りてみちのくの書かれぬ歴史雪 間に探す
      471. ひときわに目立つ墳墓の二基在りて何やら ゆかし並 木屋敷は
      472. かつてこの衣の川の周辺に安倍氏はおりぬ 黄金をも て
      473. 衣川かつて栄えし一族の栄華の跡に白雪の 降る
      474. 悲しきは汀の波に洗われて枯れゆく胡桃の 物言わぬ こと
      475. 風雪に堪えてもがいて胡桃の木命もなきに 汀にぞ立 つ
      476. 衣川の青き水面にくっきりと命を映す老木 は死に
      477. 世の中に恨み申さず去る人にどこか似てい る汀の胡 桃
      478. 枯れ死んだ胡桃の影は生き生きと雪撃つ水 面で蠢き て居り
      479. 風雪に皮は剥がされ命なき木の姿にぞ命の 光見む
      480. 窓を打つ吹雪の夜の厳しさは想像越えて恐 ろしきか な
      481. 衣川の厳しき冬の風音に敗れし人の絶唱を 聴き
      482. この河に命を賭けて対峙せるふたつの御霊 今ぞ偲ば る
      483. 雪深き一首坂をば上り来て碑の歌口ずさみ てけり
      484. この河を分けて隔てて並び立つ義家貞任勝 者などな き
      485. 衣川をヨルダン河と表したる菊地清氏熱き ぞ語る
      486. 世の中に戦なき世のなかりけり汀の際の死 闘思はる
      487. 古戦場千九百の御霊死すと語る人ありただ 怖ろしき
      488. この吹雪西行翁から戴きし数寄の風情と有 難く受く
      489. 吹雪をば良かったと言えば土地の人又良 かったと返 す嬉き
      490. たくあんも下ろし大根みな甘き衣川村の恵 み香ばし
      491. 金売の吉次が跡に降り積もる雪は真白き野 辺に一面
      492. 長者が原の菊地清氏母君の甘き大根の自慢 ひとしき り聞く
      493. 暖かく我を迎えて戴きて古き良き衣川など 炬燵にて 聞く
      494. 「夢」という地酒を酌みて「少し甘き」な どいう我 を許し給え友よ
      495. 我に取り衣川とは奥州の覇者の住まいし永 久なる都
      496. 凍てつきて朝は寒きに目覚めれば温きみそ 汁啜りて 嬉し
      497. 拍子木の音を空にて目覚めればはてあの音 は何の合 図や
      498. 風雪に耐えて安部氏の時代より攻めるに難 き衣川の 柵
      499. 眩しけり雪もあがりて白銀の光溢れて九郎 の城は
      500. 高館は只一望の雪景色、わが息白み夢跡に 伸ぶ
      501. 死にたくて死ぬはずもなき高館の主の思い 偲ばれて 泣く
      502. 雪を蹴り兵どもが高館に集まり来る幻想浮 かぶ
      503. 降る雪を白き衣に見立てなば館は花嫁義経 公の
      504. 雪掻きて段を昇れば言葉なし大河は凍りか すむ束稲
      505. 着々と工事のすすむ高館の前のバイパス雪 中に翳み
      506. 誰来たる今日の美雪に深々と足跡刻む人の 在りしは
      507. 衣川に架かる赤橋雪降りて母の紅さす少女(お ぼっこ)の口っこ
      508. 北上川をごう雪渡り小舟揺れ蝦夷の里を冬 将軍攻む
      509. 痛いほど雪が頬打つ奥州の寒さ凄まじ骨身 に沁みる
      510. やがて消ゆる定めを知らぬ古橋の雪に霞み し雄姿悲 しき
      511. 雪の日も愚痴も洩らさず黙々と我が身横た ゑ高館橋 生く
      512. 胸に沁む景色なるかな衣河、雪を衣に古城 真白き
      513. 年老いた西行翁の胸奧に如何なる思い在り てぞ陸奥
      514. 風狂に生涯賭けし西行の最後の旅は冬のみ ちのく
      515. 世の人の見つけぬ花を見ようとて佐藤義清 栄華を捨 てしか
      516. 西行の心に触るゝ旅ならば晴れより吹雪の 衣川見た き
      517. 雪晴れて西行翁の歌碑読めることの嬉しき 衣川今朝
      518. 雪國に生まれしことの幸せをつくづくと知 る衣川の 冬
      519. 胸に沁む雪の景色の衣川古城を廻りて大河 ゑそそぐ
      520. 雪深き関山下り西行は水面に自己(おも て)を映し て見しか
      521. 雪深き古城のほとり、歳晩の西行命を燃や し尽くせ り
      522. 雪衣羽織りて木々の若芽伸びこうして春は 衣川に来
      523. 衣川に浄土の使者が来ようとも翁の思いは 風雅一生
      524. 願文の清き魂(プシケ)を継げばこそ世界 遺産とか の地呼ばれむ
      525. 連なるや我らが遺伝子奥州に宿る魂(プシ ケ)の流 れに沿いて
      526. 奥州の清き魂(プシケ)に連なれる啄木賢 治に我ら 続かむ
      527. たとふなら我ら皆々奥州の清き魂(プシ ケ)の大河 の流れ
      528. 連綿と受け継がれたる清衡の建都の思い願 文に聞く
      529. 平泉、古き魂(プシケ)に連なりて世界遺 産と成る べくしなれ
      530. 嗚呼真白、浄土の池も降り積もる雪の衣に 覆われし 朝
      531. 中島の松の枝下仄かにぞ雪間に覗く浄土も 風情
      532. 一首坂、悲しかりけり勝者なくただ熱き血 の流れゆ く場所
      533. 冬も良き悪路の王の立て籠もる達谷窟の垂 れ桜は
      534. 古の都の跡のおちこちに墓の並びて吹雪に 向ふ
      535. 里人の小さき墓のその中に造り貴き石ふた つなぞ
      536. うつくしと云うに憚る凄まじき吹雪渦巻く 泉が城見 ゆ
      537. 泉が城、貞任篭り忠衡も己が命をここに尽 くせし
      538. 荒びける雪の猛威に霞みしも泉が城守る杉 の凛々し さ
      539. 雪凄き吹雪の中を奥州の覇者も母恋ひ室乃樹通ひ
      540. 肌を刺す吹雪の中を母思ふ清衡独り母屋訪ねし
      541. 重てべなあ、七日市場の栗っこはひと背の雪っこ背負(しょ)って春待ち
      542. 降る積もる雪の白さを知る人に是非観て貰いたき衣川の雪
      543. 見渡せば雪に霞みて朧なる白山月山我を見てをり
      544. はて何処に、清衡公が勧請と聞こゑし関の明神様はや
      545. 雪衣羽織て眠る関山をかすめて白き冬の月ゆく
      546. 冬にはなぁ仕事もすねでじっとして心の垢を落とすもいがべ
      547. 吹雪く夜は熱い酒などぐっと呑みあとは歌でも唸ればいいさ
      548. 浮雲を飛龍の見ゆと人言ゑば天馬と表す人いて可笑し
      549. 物言わぬ雲に何をか託せしか九郎の無念空涌きて泣く
      550. 物言わぬ雲に何かを語らせて九郎の無念空 湧きて消 ゆ
      551. 瑠璃色の空に白雲舞ふごとく静の初舞、高 館山に
      552. 命賭く恋に生き死に舞ふ女の姿と見ゑし今 日の白雲
      553. 寒けれど古き奥羽の覇者の趾、川は廻りて 淀みを知 らず
      554. 衣川に舟を浮かべて在りし日に九郎祈るや 戦なき世 を
      555. 鬩き合ふ安倍源の戦乱をせせらきに聞く衣 川の冬
      556. 雪晴れて古き奥羽の覇者の趾、川は廻りて 淀みを知 らず
      557. 無量なる希望溢るゝはずの寺、雪の枯れ松 無性にか なし
      558. 松たちよ雪折れ虫は喰わむとも秀衡公の祈 り忘るな
      559. 寒ければ温き甘酒供として浄土の池をあち こちと往 く
      560. 寒ければ喉を流れてほのぼのと五臓六腑に 甘酒の沁 む
      561. 許されよ池を見たいという母を憎まれ口で 連れざり し吾
      562. 幼くに母が作りし甘酒の味蘇る寒き朝の寺
      563. 甘酒を老いたる母に「熱き」など云い手渡 すもよき
      564. 山門に積まれし雪の白さをば寺守る人の心 と知れり
      565. 山門に世界遺産を願ふ板雪間に建ちて凛と こち見る
      566. こ ころ はや早極楽の父の元馳せると云へど吾子ら気にかく
      567. 我 ら見 るこの月光の高館を誰か名残りと後に偲びむ
      568. 衣 川の 水面に映る月影の朧に見えて武者をも泣かす
      569. 我 が友 よ私心を棄てし義に報ふ術無き吾を赦し給ふや
      570. 何 の 殿、君に仕ゑし幾年の苦節も今は面白き夢
      571. 誰とても往くに時あり今ここで時を失すること のなきよ う
      572. 衣 川今 にし見れば我がことをいつも気に掛く母の面影
      573. 刻 々と 時は迫りぬ東の束稲山の空も白みて
      574. こ み上 ぐる瞼に浮かぶ熱きもの覚らせぬまま高館を往く
      575. 滔 々と 流れる河の水音にそぞろ震ゑの訳ならなくに
      576. 暗き河照らし出したる金色の月に祈りの蓮華を 手向けむ
      577. 金色の月に祈らむ我が命天に抛つ覚悟決めつつ
      578. 奥州の山河に月の満てる景、我が生涯の思い出 にせむ
      579. ほろほろと今年限りで見納めの高館橋に桜散りゆき
      580. 儚きは戦後生まれの古橋に隠居せよとの時代のうねり
      581. 見納めと思えば悲し高館の古き橋にぞ花降りかゝり
      582. この場所を離れがたきは桜花より高館橋の見納めのせい
      583. 嘆くとも無常に時は過ぎゆきて二度と戻らぬ風情のありぬ
      584. 吾 ひと り高館に居てふり雪ぐ宙の気受けむ我孤に在らず
      585. 彼 の人 の目に何かしら光るもの見ゑきて我も心震ゑぬ
      586. 誰 か見 る景色なるかな今はなき高館の夜の永訣の月
      587. 彼 の人 の眼に月は照り映えてやがて涙の玉となるかも
      588. そ の昔 かの地に命捧げたる男子の思い花は知るらむ
      589. 花 咲けど 削り取られし北上の岸辺の傷はもはや隠せず
      590. 衣 川に架 かる鉄橋指させば手を振る人の乗る汽車の行く
      591. 若 草の萌 ゆる五月の衣川水清くして鮠泳ぎくる
      592. 北 上の岸 辺に生ゐし菜の花の主を誰と問ふ人のなき
      593. 満 々と水 を湛ゑし北上の彼方に霞む駒嶺の影
      594. 薫 風に五 月の雲の棚引きてしばし見とれる高館の空
      595. お し鳥の 長閑に浮かぶ北上の雪解け水の青さ冷たさ
      596. 数 知れぬ 鳥たちの棲む隠れ家の岸辺壊さぬ人でありたき
      597. 変 わり行 く兵どもが夢の跡見ぬようにする視線悲しき
      598. 若 人の明 日がよき世となるように天まであがれ鯉のぼり
      599. 堤 防を兼 ねるといゑど高館を串射す如き無礼許さじ
      600. 心 ある人 に見せばや稀少なる命のすみか北上の岸
      601. 春 の日を 浴びて眩しき波間飛ぶつばくらめ二羽巣を作りをり
      602. 舟 行かば 溢れるほどの鳥たちの命の営み目に眩しけり
      603. 我 らゆく 大河の先に何待つと言ゑどもしばしこの波に乗る
      604. 雪 解けの 水を湛えし北上の大河を上るアテルイを見に
      605. 薫 風の北 上川を高館へ小舟の我ら義経が使徒
      606. 古 都をほ ぼ串射すような道の町を世界遺産と誰が呼ぼうか
      607. ユ ネスコ の世界遺産となるからは相応しきかな高館バイパス
      608. 高 館に登 りて見ればみ堂はや花の衣に抱かれし春
      609. 花 に浮く 人にはなれず茫然と工事の進む高館に立つ
      610. 何 処にも 花は在れども花立の池に降り積む花を忘れじ
      611. 惜 しめど も花たちは皆潔く散り給ふなり花立の池
      612. 北 上の中 州飛び立つ鷺一羽母かも知れずふる里の河
      613. 北 上の中 州飛び立つ鷺一羽やがて真青な空に溶けゆく
      614. 何 故ここ に現れたるや義経の視線の先に高館の月
      615. 畏 れ見 よ露とも消ゆる命なり消してはならず高館の景
      616. こ の蓮 は母に手向けむ金色に光る月にぞ託してそっと
      617. 平 成の御 世に現る英傑の静かな御姿、時忘れ見る
      618. 遊 歩道も 自転車道も造らずに夏草茂る古道の古都に
      619. バ イパス は無いよりも在った方が良いという思考の意味が分からず
      620. 遊 歩道も 観光資源という一見の正論彼の地に合わず
      621. 消 されゆ く高館の景しみじみとこのままずっと眺めていたい
      622. 大 声で 「これはいかん」と云う人の以外になくて地元平泉
      623. 夕 暮れて 「永訣の月」の村山の祈り届くや高館の空
      624. 村 山の精 魂込めし一作は「永訣の月」、天をも泣かす
      625. ふ とふい に額のガラスに浮かびしは高館に消ゆ兵の影
      626. * 新しき 肖像に入る義経の御霊が降らす雨や一日
      627. 平 安の虚 妄の空気一撃に払いし武者は高館に消ゆ
      628. 智 慧あら ば岸辺を切れば鳥たちの棲家を奪う事を知るべし
      629. 衣 川哀れ なるかな水底をみれば敷き詰むコンクリの塊
      630. ひ と目に は良きとも見えて衣川魚目で見れば棲めぬ川かも
      631. 暴 れ川成 敗せむとする如く神も畏れぬ人族の業
      632. ふ る里の 岸辺に憩ふ鳥獣の声を聴きつゝ春の河ゆく
      633. 衣 川に光 は満ちてゆらゆらと萌ゆる命を映して揺れぬ
      634. 舟 ゆかば 命の河に命たち満ち溢れゐて我が春を生く
      635. 高 館に又 夏は来し主なき館は埋もる露草の中
      636. 戯 れに夏 の高館見上げては「義経見参」と声挙げてみる
      637. 北 上の川 面を伝い法螺貝の音は響きをり義経堂へ
      638. ひ らひら と散りし命の花びらを永遠(とわ)に繋ぎし人の優しさ
      639. ひ らひら と散りし命の花びらを繋ぎし人を神は探し
      640. ひ と目見 て村山義経「セクシー」と表す喜納氏の感性に唸る
      641. ま じまじ と飽かず星々見るように喜納昌吉氏九郎を眺む
      642. 訥 弁で語 る喜納氏の言の葉に沖縄人の魂(マブイ)を感ず
      643. と つとつ と文字の並びし色紙から沖縄の海の風波の聞ゆ
      644. 訥 々と己 が感ずるありたけを色紙に綴る喜納氏を待てり
      645. 訥 々と色 紙に綴るひと文字に「花」を感じる喜納氏の「花」を
      646. ば らばら に散りし木の葉も瀬を行けばやがて海にぞ会える日もあり
      647. 黒 櫃にみ 酒浸して奥大道運ばれ行きし「神の首」嗚呼
      648. 死 して尚 畏れる人の多くあり、それ故「御首」鎌倉入れず
      649. 首 と胴ふ たつになりしみ霊をばひとつにせむと発起せし人
      650. 「神 の 首」何処にあると思ふらむ相州藤沢白旗の地に
      651. 「神 の 首」御輿に担ぎ連綿と八百年の永き労り
      652. 「神 の 首」畏れかしこみ社を造り守りし人ら我ら讃ゑむ
      653. 九 郎なら 如何にバイパス思ふらむ歴史観なき国土開発
      654. 何 故文化 庁が入らむと云ふ菅原氏の弁なるほどと感ず
      655. 目 に見え ぬものしか信ぜぬ傾向文明病と喜納氏は断じ
      656. 歴 史なき エコ運動の欠陥を指摘す喜納氏に我賛同す
      657. 花 愛でる 心忘れし世の中を激しく打つや村山義経
      658. 名 もなき 人心ある人様々に村山義経何思ふらむ
      659. 立 ち止ま り又立ち止まり人の足しばし止めし名画生まれむ
      660. 孤 独では なく「孤高であらば救われる」と云ひし喜納氏の眼に涙浮く
      661. 孤 高とは 独り高みの青山に坐して月影眺めゐしこと
      662. 「こ の道 や」の芭蕉の絶句を云ゑば喜納氏の眉微かに動きぬ
      663. 未 踏峰、 重き荷を負い又一歩登りし人の孤高喜納氏にも
      664. 孤 独なる 重き荷を負ふ孤高の徒、天に乞われて九郎に集ひ
      665. こ の蓮は この絵の「花」と我云えば静に頷く喜納氏の頭
      666. 朝 に咲く 蓮は「ポン」とぞ音出して開くと云えば喜納氏笑いぬ
      667. 孤高に生く人は良きかな誰ひとりこの絵の前を去ろうともせず
      668. 損 得で生 きる時代に悠然と白旗の神に導かれゆく
      669. 北上に光り揺らめき奥州の短き夏は今生ま れ来し
      670. 侘び寂びと知った口利く者も見よ銀色に染 む日高見 の川
      671. アザマロやアテルイ見ゆる山の端に奥州人 の雄姿果 てなし
      672. この川をあの山こそを砦とし命燃やして散 りし勇者 よ
      673. 懐かしき故郷の川北上に生きる力を貰ふ気 のする
      674. 勇者とは己が欲をば振り払ひ人の為とぞ奮 い立つこ と
      675. 夏川に羽根を傷めし白鳥のぷかりぷかりと 漂ふもお かし
      676. 赤腹に鮎が舞ひ来る北上の彼方に霊峰駒峰 の夏
      677. 銀鱗をこれ見よがしにすり寄せて赤腹たち の恋の季 節よ
      678. 泰衡が蓮は咲くなり金色の種を宿しつ中尊 の地に
      679. 蓮よ蓮、判官を討つ泰衡の切なき思ひ君知 り給ふ
      680. 世のけがれ洗い流すや泰衡が科も妙音この 蓮に代ゑ
      681. 高館の変貌振りを天も観む茂れる青葉に慟 哭の雨
      682. 愚かさや変貌せらる夏草の景勝の地は観る ほど悲し
      683. 人の智慧愚かなるかな、かけかへの無き夢 跡に砂利 は積まれて
      684. 愚かさやかけかへのなき夢跡に砂利は積ま れて夏草 もなし
      685. あるがまま目を背けずに愚かなるバイパス 工事の顛 末を観む
      686. 笑わすな世界遺産の名の下に裏で進みし破 壊の企み
      687. 愚かさもここに極まりちらほらと景観破壊 に諦念の 声
      688. 高館の桜花の青葉うなだれて見ゆるは工事 進みし為 か
      689. 大池に泰衡が蓮咲きませば奥州は皆楽土となりぬ *
      690. 法螺の音が高館山に木霊して涙の如き雨そ強まる *
      691. 大河から高館見上げ偲ぶらむ花ある武者の最期の一夜を*
      692. 舟縁に思いの丈を「永訣の月」と描きし画家(ひと)が手を振る*
      693. 村山の義経肖像ふり仰ぎ言葉もなくて涙滔 々
      694. みな月の雨に艶めく経蔵は茂れる青葉に負けず若かり
      695. 幾たびか業火迫りし経蔵を守りし菩薩(ひと)の御恩に手合わす
      696. 霧雨にわが躯(く)を余計輝かせ蕉翁永久に奥州に在り
      697. 蕉翁の「ほそ道の旅」偲ばむとしばし一時鞘堂に入る
      698. この丸き桶の底には泥在りて泥の中より蓮華は生ひぬ
      699. 真ん丸き蓮桶(おけ)の 宇宙に天 よりか恵みの雨は零れて満てり
      700. 釈迦堂の木の根を見よや奥州の心根映し強く逞し
      701. 判官の妻子も共に眠るらし雲際寺なる古刹に詣で来(までく)
      702. 鞘堂の脇の軒先草分けて銅の蕉翁ぬっと顔出す
      703. 青々といろは紅葉は経蔵を労るように垂れかかれり
      704. 高館の前に置かれし土砂の山悲しかりけり山は崩せず
      705. この土砂もどの山崩し運ばれしものやも知れず妙に悲しき
      706. 心なきバイパス工事のショベルカー土砂を抱えて夢跡を踏む
      707. 消され行く夢跡見ればおそらくに世界遺産の精神は泣く
      708. 削られし大河を見れば余りにも痛々しくて涙溢るゝ
      709. 麗しき景色を見事に破壊して造る道とは驕りの道か
      710. 円かなる桶に眠りし泰衡が蓮は秘かに時節待ちをり
      711. 自刃後に妻子諸共運ばれて人皆泣けり判官 の寺 *
      712. 夏草の里はいつしか消え失せて木の判官は 何思ふら む *
      713. 葛の葉を夕立打ては高館に判官は来る鳴神となり
      714. もどかしき思いは消ゑず夏草の深き緑を目 に焼き付 けむ
      715. 生き逝きてまた蘇る一輪の蓮の如くに我も また生く
      716. 判官の館を仰ぎ見、ゆらゆらと夏の大河を 神輿舟ゆ く
      717. 朱の輿を飛び出さむかな判官の八艘飛びの 雄姿の浮 かぶ
      718. 泰衡が面に見えて仕方なき幼き蓮も明日な ら咲くや
      719. 大池の幼き蓮にどこからかあきづ舞い降り ささやく そぶり
      720. 大池の幼き蓮は泰衡が面に見ゑてどこか悲 しき
      721. 蓮咲けば思い出すかなその人の「良き思い 持て」と の諭しの言葉
      722. 団扇持つ手も止まりける記事のあり「藤里 貫主逝き 給うなり」と
      723. 大乗の心を今に伝ゑつつ師は旅立ちぬ夏の 盛りに
      724. 忘れ得ぬ師の面影を高館に偲びて泣かむ判 官像と
      725. 声明を唱える貫主(ひと)の一途さを我も 学ばむ灯 明として
      726. どしゃ降りの中で御神楽じっと見る貫主 (ひと)の 人柄永久に忘れず
      727. 法要の記念の「散華」取り出して今に偲ば む810 年祭を
      728. むらさきの菖蒲の花を奥州は浄土の池に根 付かせし 貫主(ひと)
      729. 師の思い浄土の池のおちこちに花と咲きな む菖蒲の 花と
      730. この蓮の謂はれを聞ゐてはらはらと涙を流 す妻を抱 けり
      731. 中尊の地に咲く蓮の眩しさに胸ときめくも やがて悲 しき
      732. 住民の悲願を知れと言うけれど合意形成何 処に在り き
      733. 正常な臓器取られる思いする高館直下工事 の喧騒
      734. おもちゃ箱をひっくり返したようにして工 事は進み 橋爆破さる
      735. 祈りある宗教都市こそ美しき町の基本と五 十嵐敬喜 氏
      736. 水害と洪水の区別知りもせず川を語るなと 天野女史 吠ゑ
      737. ささ波の起つ朝に来て初盆の浄土の池のか なたを見 つむ
      738. ささ波の池の木陰に何語り浄土の風を母た ちは受け
      739. 基衡公の思い再び再興す故人の大恩この本 堂に在り
      740. 大恩人藤島先生逝き給ふ後に残りし我ら継 ぐもの
      741. 毛越寺薬師如来の慈悲の風、吹き渡りけり 我が心ま で
      742. 「ただの河川敷」と誰か言えば、「ザワザ ワ」と柳 の御所の枝垂れ桜泣く
      743. 思わずに己が心臓くり抜かるゝイメージの して後ず さりする
      744. 平泉の工事現場に来て見しは己が心臓取ら れる悪夢
      745. 「時代による眺望変化は当然」と言ふ人あるも我「ノン」と云ふ
      746. どっかで見た景色に見えて官製のバイパス予想図色毒々し
      747. 船縁に手を振る人は川一途日本を見つむ天野礼子女
      748. 立ち並ぶ工事看板よく見れば完成期日来春と在り
      749. 河削る工事をじっと凝視せる御所跡に生ふ葛の葉の無言
      750. 文明のおごり高ぶりこの資金(カネ)は日本国民フトコロより出ず
      751. どのように代弁しても景勝地高館は消ゑ元に戻らず
      752. 置き去りにされし田舎の平泉ついにここにも公共工事
      753. 貫主逝き早三週の時過ぎて台風一過浄土の池見む
      754. 誰も見む景色を見むと本堂の横に回れば朱色眩しき
      755. 寄り添いし恋人たちは木漏れ日の浄土の池でフォト取り合ひし
      756. 何故かくも美しき蓮かの寺に清衡公の思い偲はる
      757. 雨風に打たれ揉まれてそれで尚、泰衡が蓮一隅に満つ
      758. 雨風に打たれ揉まれてそれでもに泰衡が蓮今年もここに
      759. この蓮の役目を問わば敵味方恩讐を越えて結びつけしこと
      760. よく見れば人と同じくとりどりの容貌(かたち)してをり泰衡が蓮
      761. ふる里の野生の川の(ワイルドリバー)北上は命育む大地の太母(グ レートマザー)
      762. 一粒の胤より出でて中尊の地に満つ蓮の命 の輝き
      763. アフリカのたったひとりの太母から人は地 に満つこ の蓮も又
      764. 花愛でし西行詠まぬ蓮の花艶やかすぎしそ の色故か
      765. 西行は光堂さゑ歌とせぬ意志の強さのよう なもの在 り
      766. 個性化の時代に何故か平準化、平泉らしさ 何処にあ りや
      767. その道(バイパス)はまるで川をば蝦夷と見て高き城にて防ぐと見えたり
      768. オシドリの憩いの岸辺コンクリとなればこ の二羽何 処に行かむ
      769. この道に景色もなけり山越えて万里の長城 伸びるが 如し
      770. 芭蕉曾良この場に立ちててしみじみと滅び し者の悲 運に泣かむ
      771. この景色胸にしまって常世まで語り継がむ と高館に 泣く
      772. 不可逆の卵の如き大河堕つ町民八千総意と 称し
      773. 物言はぬ平泉にそ大戦の流れ止め得ぬ心理 宿りぬ
      774. 奥に在る思ゐ語らぬ住民の心に潜む重石は 何か
      775. 日本人、只茫洋と散りゆきぬ花愛でし民と も思ゑず
      776. 秋風は水面を渡り稲田越え束稲山の我が頬 に触る
      777. 西行がもし現代に在るならば花の前にそ何 をか詠ま ぬ
      778. 夏は過ぎ芭蕉の嘆き聴けばとて奥の細道知 る人のな き
      779. ガリガリと河掻き削るショベルカー悲しか りけり生 きる為と云ゑ
      780. 考ゑず考ゑず思考停止のままで居る平泉に そ地獄は なきや
      781. 清衡の思ゐ虚しく古寺以外浄土の風情消さ れつつあ り
      782. 声潜め過ぎゆく時を眺めても解決策の湧き 上がるな し
      783. 平泉、袋小路の兎かも市町村合併の嫁と乞 はれて
      784. 平泉、世界遺産になったとて宿泊客の素通 る不安
      785. 遠浅の海にも見えし景色かな高館古写真ま ぼろしの 如し
      786. 古写真の傷跡もまた懐かしき束稲山の雄姿 眩しく
      787. 川光り北上川の川筋を俄に過ぎる夏鳥の群 れ
      788. 杉の根の薄暗き森分け出でて眼下に浮かぶ 安倍一族 の夢
      789. 下り行く東北本線この先で無量光院切り裂 きて行く
      790. 國衡の館の跡に聳えしは友が学舎平泉小
      791. バイパスを写らぬような構図取る無意識の 我ただ情 けなき
      792. 國破れ山河在りけり。その山河、危機に瀕 して秋暮 れなずむ
      793. 秋の日は早金色に輝きて金鶏山を炎(ほむ ら)の山 とす
      794. 物言わぬ山河に何か語らせてあかあかあか と秋の日 沈む
      795. 伽藍みな燃え尽きてなほ消ゑ遺る二代基衡 の夢ここ に在り
      796. うつせみを映す鏡とその池を覗きて見れば 浄土の門 見ゆ
      797. ゆく秋は奥の古寺で一休み紅葉の衣を池に 映して
      798. 誰名付くものやらいつかこの紅葉「奥の紅 葉」と云 ふ人のいて
      799. 時に燃ゑ時には泣きてうつせみの儚の夢や 紅葉見て 泣く
      800. 手を取りて中尊寺ゆく老夫婦止まりてしば し紅葉を 見詰む
      801. 役目終ふ旧鞘堂に降りかかる紅葉愛しき人 を守るよ ふ
      802. 儚きは浄土の池に映りゐて妖しく揺るる晩 秋の月
      803. 夕暮れの浄土の池に独り来て池に浮かびし 白き月観 む
      804. 蓮死せず文化も死せず奥州の心伝ふる蓮愛 しけり
      805. 奥州の心伝ふる泰衡が蓮眠りたる大池の秋
      806. 蓮枯れてうち滅びたる奥州の兵浮かぶ大池 の秋
      807. この蓮を我が奥州の誇りとし永久に伝えむ 未来の子 らに
      808. 高館の前に聳ゆるバイパスの異様な違和を 誰承知で き
      809. わするまじ、世界遺産を招致せし人らなし たる破壊 の跡を
      810. 物言ゑぬ橋の袂の桜とて物言いたげに橋見 詰めける
      811. 半世紀ともに彼の地に生き老いて遺される 木と壊さ れし橋
      812. 埋められて川埋められて2002年古都を 掠めて日 高見川ゆく
      813. 埋められて川埋められて歳の暮れ涙あつめ て川は流 れる
      814. 大切な父母を失ふあの時の悲しみ思ふ今の 高館
      815. 目の先の蠅を追うことすら出来ず何を言ふ かと言ふ 人のゐる
      816. 結局は蛇に巻かれる蛙ごと平泉バイパス工 事は進む
      817. 人民の人民のための政治説く政治リーダー 奥州に出 よ
      818. 現状を表現すればともかくに時代錯誤の計 画続行
      819. 人間の愚かをみせて奥州に不用の長城(バ イパス) いま甦る
      820. たて髪を剥ぎ取られたる獅子のごと高館山 の雑木林 は
      821. 神棲める奥羽の雪山目指すのか都市化の波 を止める 術なし
      822. 夢醒めて大切なものを無くしたと気づく日 はいつか 日本人
      823. 弁慶の館の跡も鳥獣の憩ひの藪も剥がれて 無惨
      824. 神の河の岸辺に立てばバイパスの工事道具 が凶器に 見ゆる
      825. 訪れる度に、かっとぞ胸打たる浄土の池の 摩訶不思 議かな
      826. 飽食の時代にありて夢跡に我願ふなり吾子 (あこ) 輝く未来(とき)
      827. 奥州の雪の白さよしんしんと降り積もりた りひと夜 明くれば
      828. ひと夜ふる雪もあがりて三峯の山はさしず め白蓮の 苑
      829. ふる雪の白き衣を纏ひ着し衣の関の跡尋ね ゆく
      830. 村山はこの寺に座す観音の声を聴きしと真 顔で言へ り
      831. 雲際寺再興せるは判官の奥方ならぬよくよ くと知れ
      832. 判官を守りて吉野北國と導く先達「頼然」 が寺
      833. おそらくに如意輪観音この像は思ひ残せし 人の美姿
      834. 雪埋もる寺に出で来て判官の想ひ偲べば木 枯らしも 泣く
      835. 判官は「永訣の月」と題されし画で甦り彼 の地に戻 りぬ
      836. 寒けれど夕日に染まる束稲の山に向かゑば 歌生まれ くる
      837. 寒ければレンズも霞む奥州の冬の夕映え息 止めて撮 る
      838. 夕空に枝垂れ桜の影映えて毛越の里に寒き 夜来ぬ
      839. ひゅーひゅーと木枯らし荒ぶ田畑の彼方に 浮かぶ関 山の影
      840. 宗任の血を引く人の建てし寺、観自在院雪 しかなけ り
      841. 池宿る鳥たちは今どこにゐて奥州の冬やり 過ごせし か
      842. 寒風は衣の河面射るよふにひゅーひゅー ひゅーと吹 き荒びたり
      843. 降り騒ぐ雪は安倍氏の往生のまだなきこと の証とも 思ふ
      844. 見る度に郷愁つのるこの蓮(は す)の どこに御霊(いのち)は宿り給ふや
      845. 誰撮りしものやも知れぬ古写真の古寺の風 情に酒進 む宵
      846. 奥州に皆金色の寺ありき富める不幸の美徴 (みしる し)として
      847. 何もなき無量光院礎石跡幻想視たと云ふ友 の真剣
      848. 遺されし宝物あはれ輝きて板東武者を惑は しけるも
      849. 戦なき世を希求せし清衡の曾孫泰衡戦はず 散る
      850. 中尊の寺に詣でて北方を望めば大河は青龍 の如し
      851. 「祈り」より尊きものはなきはずを寸断さ れし聖地 を悲しむ
      852. 聖域の聖地を分けて築かるゝ平泉バイパス に天罰はなき
      853. 沈黙の聖地となりてひそひそと「世界遺産」の声のみ聞ゆ
      854. 何方のことではなくてふる郷の祈りの聖地に危機迫り来ぬ
      855. 高館に春は来たれど霞たつ山河を遮るバイパスの陰
      856. 空をゆく雲さへ此地行く時はかしこまってぞ飛び行く見ゆる
      857. さりとてもこのバイパスをこさへつつ「世界遺産」とは片腹痛し
      858. 忘られる高館山の眺望を書き留めおかむと歌作りおく
      859. 北上の岸辺に立てば赤々と金鶏山に夕日は沈む
      860. 幾度となく戦火に焼かれし草むらの雑草たちの逞しさ見よ
      861. 判官と消ゑゆきたりし忠臣の心を汲めば大河とならむ
      862. 道行ば朝日に映ゑしつゆ草の玉の涙に往時偲ばむ
      863. 滔々と清水溢るる北上の流路を分けてユンボは進む
      864. この工事誰も良きとは思はねどそれでも止まず、公偉大なり
      865. この人も土塊ばかりの高館のブル往く様を記録し居たり
      866. 高館の旧橋消ゑて寂しげに袂の桜ぽつりと居れり
      867. 旧跡の袂に生きて半世紀人の愚かを桜見詰めゐし
      868. ふる里に春は来たれど寂しさは2003年ますます募る
      869. 霞たつ金鶏山に湧く虫も春の訪れ感じをるかな
      870. 華やぎの春を前にし池の辺に祈りたきこと念じつつ立つ
      871. 旅人や変貌凄き高館の景観記録す人の在りけり
      872. 「変わったね」と短き言葉残しつつ高館を去る人の思ひは・・・
      873. とうとうとここまで来たなといふ外はなし平泉バイパス
      874. もうじきに咲くと思ゑど桜たち何を思ふやむき出しの大地に
      875. 古き橋ここから伸びて向こう岸連なり居りし古きを思ふ
      876. 自然をば征服せんと奢る者君が信じる神何処なり
      877. 茫然と立ち尽くすなりこの景色余りに痛し桜に旧友(とも)なく
      878. 平泉わがふるさとの平泉羽をもがれし白鳥 のごと
      879. 夢跡の現実見れば悲しくて「これも悪夢 (ゆめ)」 とぞ思いたくなる
      880. 悪路王と呼ばれし人は誰なりと達谷窟の華 はまた咲 く
      881. 奥州にアザマロアテルイ生き変はり死に代 はりして この桜花生ふ
      882. 春来 れど芽ぶくものなき赤土の北上河畔ほろびの風吹く 詠み人知らず
      883. 物言わぬ柳の御所の桜花耳を押し当てその 声を待つ
      884. たいせつなもの皆捨てて何を得るつもりか 知らず沈 黙の春
      885. 奥州の浄土の池に春の日は空より青く天を 映せり
      886. 見慣れたる春の高館変わり果て桜花咲けど も来る人 やなし
      887. 何もなきこの草むらの何処かで清衡見たり 夢の楽土 を
      888. たんぽぽの可憐な花を踏まぬよふ強者ども が夢の跡 往く
      889. どきどきと鼓動響かせ蕉翁もこの石段を登 りしもの か
      890. 高館に勇み来たりし蕉翁の前に拡がる夢跡 は消ゆ
      891. 夕べ落つ天の涙や夢跡にあふれるほどの溜 まり水か な
      892. 夢跡が崩れ去る日の幻想が脳裏を過ぎりふ と怖くな る
      893. 奥州の個性も何もあるものか2003年春 の高館
      894. 未来へと命を紡ぐ北上の大河も今や水路に 等し
      895. 古池に桜花舞いたり花いかだ今年も浮きて 何故かか なしき
      896. ふる池に桜舞い散り金色の甍煌めく頃想ゐ たり
      897. 鈴懸の森ひき裂かれきり裂かれ哀れなるか な分譲地 なる
      898. 何をもて世界遺産と云うべきや清衡公の祈 りも知ら ず
      899. 金色の小函に込めし清衡の祈りはひとつ平 和奥州
      900. 崩されし鈴懸の森望みゐて泣かずにおれる 人おるも のか
      901. 誰がための工事なるかな生きる木を根こそ ぎ斬ると 公言せし国
      902. 「さくらさくら」と奥州の方角向きて斬る という発 想忌みて拳ふり挙く
      903. 桜の木無事で居てよと念じつつ柳の御所に たどり着 きたり
      904. 御所の石ひとつ拾いて桜の木なぜに伐るか と天ふり 仰ぐ
      905. 日々壊れ日々に不毛の地に落ちて高館直下 カラス群 れなす
      906. 何思ふ桜は独り凛として無言の抵抗続けて 立てり
      907. 責任は誰が取るかと問われれば横を向くの か関係者 たち
      908. 無遠慮なコンクリートの固まりに占拠され ゐてわが 平泉
      909. いつの日かバイパス工事の間違ひに気付く 日あらむ 誰何と云ふと
      910. 間違いは間違いと云をふ「平泉バイパス工 事負 の遺産なり」と
      911. 小舟乗り魚を釣りしふるさとの北上川にオ シドリ居 なく
      912. 無造作に伸びる堤防味気なく燕それでも空 飛び交ひ ぬ
      913. 健気なるツバメ我が子のために飛ぶ先で工 事のトラックの群れ
      914. 「桜伐る、許されぬこと・・・」どこから か清 衡公の声ぞ聞こゆる
      915. いつの日か清衡公の存念がコンクリの橋脚 (み ち)崩す日あらむ
      916. しずしずと暗き空より舞い降りる雨の滴は 大河 の嘆き
      917. 見渡せば暗き空よりしずしずと大河に天の 涙の 落つる
      918. 高館の直下を見れば奥州の山河刻々壊され ゆく 見ゆ
      919. しみじみと吾が無力知る工事場と化した夢 跡お ろおろ歩く
      920. 合併に揺れる町民ふるさとが壊されゆくに 意見 は持たず
      921. 滅びける奥州山河に往時咲く大輪の蓮甦り たり
      922. いつの日か閑かな静かな平泉の訪れる日を心待ちせむ
      923. 清衡の祈りも知らで高館にバイパス通す人の愚かさ
      924. 清衡 の建都の祈り知りたくば高館登れ芭蕉のごとく
      925. 突然 に降り出す雨を気にもせずやがて射す陽を蓮は待ちたり
      926. 八百 年の長き眠りを目覚むれば夏の嵐も蓮心地良き
      927. 艶や かに咲きたる蓮の大輪の横なる朽ち花黒く萎みぬ
      928. 朽ち るという刹那の中で観ればこそ花は美し中尊寺蓮
      929. 敗者 をば弔はむとて大輪の蓮を手向けむ奥州人は
      930. もの 云わぬ中尊寺蓮観ていると往時偲ばれ涙溢るる
      931. 泰衡を弔はむとす奥州の心の華か中尊寺蓮
      932. 生と死の幻影を覗(み)し奥州の古寺蘇る大輪の蓮に
      933. いつか見し中尊寺蓮ほつほつと甦りけり吾が胸肝に
      934. はらはらといろは紅葉の舞ふ朝に清衡公の塚詣でたり
      935. 花一輪花一輪に泰衡が無念浮かぶや中尊寺蓮
      936. 弁慶の屋敷の跡と伝へ聞く辺りに掛かる工事止め得ず
      937. 工事はや奥州四代強者が政務を執りし跡に来たりし
      938. 木々伐られ草はむしられ高館は地滑りの危機あると知るべし
      939. 「夢跡」はカラス群がるおぞましき工事現場となりにけるかも
      940. 岸辺から水鳥消へて今はもう烏以外に鳴く声のなし
      941. 百年に一度の洪水に耐へる」との見解あれどはて「千年」では
      942. ふと見れば観音山の中腹の採石の跡陽に光たり
      943. 秋暮れて変貌凄き御所跡の工事現場に桜木凛と
      944. バイパスの殺風巨大な盛り土を古都の守りと誰思ふべし
      945. 青々と秋空映す北上の大河もただの水路となりし
      946. 晩秋の柳の御所跡記さむと始発列車に飛び乗りし朝
      947. 文明を奢りし輩神領に足踏み出せり障り畏れず
      948. 奥州に山河の在りて古都消へて雲にかすみし清衡が夢
      949. 陸奥の空に瞬く金色の星を掠めて雁闇に消ゆ
      950. 晩秋の卯の花清水冷たくて胸しみ渡る曽良の悲しみ
      951. 赤や青、工事現場は雑然と資材積まれし高館の下
      952. 赤とんぼ冬近くして高館の工事現場に逆さに眠る
      953. かつてこの細道を越え芭蕉曽良衣川にぞいかんとぞする
      954. 平泉わが平泉古き良き平泉今夢跡消さる
      955. どんどんと島の如くに成長す衣の河の中州かな
      956. 高架線やけに気になる衣川、古歌に詠まれし面影のなし
      957. 関山に散りし紅葉の一葉を西行歌集の栞(しおり)とやせむ
      958. 束稲の山に流れる雪雲の雪は解けゐてわが頬を打つ
      959. 中尊寺東物見の景色にもバイパス見へて興ざめならむ
      960. 奥州の冬の厳しさそのままに流れに映る松の倒木
      961. 木枯らしの起こすさざ波古池に散りし紅葉を浄土へ運 ぶ
      962. 古池に散りし紅葉は木漏れ日に照り輝きて我に手を振 る
      963. 古池に散りし紅葉は幼子の「さよなら」と振る小さき 手かも
      964. 木も山の我もそなたも奥州の冬の真中に埋もれをりけ り
      965. 誰のやら冬の真中の奥州の関の明神辿る足跡
      966. 奥州の真冬の風に身を晒し「南無阿弥陀仏」と関山拝む
      967. 「なぜなの?」と、来る人誰も高 館の景観破壊に疑問投げかく
      968. 文明の利器、怪獣のごとくして夢跡に立つ桜かな
      969. 聖山 を見下ろす位置に住まいして恐くはなしや仏罰のこと
      970. 西 行はいかに渡らむこの大河束稲山の桜見むとて
      971. 衣川の水面に遊ぶ光たちは 光堂から出でし童か
      972. 衣川を三条吉次の帆船が風 を孕みて行き交ふ昔
      973. 西行が焦がれ尋ねし衣川我 も見むとて岸辺をありく
      974. 水溢れ水生き生きと流れた る水の都にして平泉
      975. 心もて寺僧ひたすら守り来 し久遠の祈りこの古寺にあり
      976. 月見坂歩き通して中尊の古 寺に祈らん幸多かれと
      977. 戦争の悲惨を語る願文の祈 り忘るな奥州の人
      978. 来て見よや奥州掠めし大盗 が腰を抜かしし大長寿院
      979. たふたふとたゆることなき 北上の流れをながめもの思ふ岸
      980. 白き月やがて黄金に輝きて 金色堂の上に掛くれば・・・
      981. この桜花義経公の献花とて 頭垂れればヒュルルーと鳶
      982. 海の青変わらずにして腰越 に無念残せし人の影視ゆ
      983. 誰がために建設したるもの なるや巨大バイパス醜かりけり
      984. 開発も世界遺産も欲しいと いう虫良き話通じるものか
      985. 花さけど花見の酒はバイパ スの土の裂け目に捨ててしまおう
      986. 雪解けの水の流れを水害と 言い切る人の肩錨けり
      987. 遣り水に流れされ行ける一 枚の花になりたや大泉が池
      988. 訥々と語る翁の人生のよう に胸染む大泉が池
      989. 奥州の厳しき冬をやり過ご し花の盛りに折るるも桜花
      990. 役割を終ゑし鞘堂花春に芭 蕉おきなと立ち話かな
      991. その昔秀衡さんは花の頃こ の中島に何を観せり
      992. 咲く花も鳥も魚も一心に自 然に生きるさて人間はや
      993. 奥州の山河に夏の草生ひて 815年の時過ぎ去りぬ
      994. 西行の歌こそ聞けよ束稲の 山荒れけるは奥州の恥
      995. 彫り深き達谷窟の大仏に平 和祈れば山鳥も啼く
      996. 奥州に倒れし命の御霊をば 浄土に送ると摩崖仏立つ
      997. 来てみれば龍頭鷁首の舟出でて浄土の池を早渡らんとす
      998. 寿命まで生きる術ありその極意「若女」の舞に諭され来たり
      999. 何をもて「平泉」となむ中尊寺供養願文その問いを解く
      1000. 「草」というお題一語を語り終ゑマドンナほっと曲水の宴
      1001. 延年の舞に秘されし延年の祈りがありて毛越寺建つ
      1002. 曲水の宴で聞きたる京訛り違和持ちながら受け入れむとす
      1003. さてもやは宴の主役誰なるや水辺の童子歌人焦らす
      1004. 我も又講師(こうじ)の和歌を聞きたきと青葉若葉もせり出して来ぬ
      1005. 終宴は寂しきものよマドンナの席立ち歩み舟乗る姿も
      1006. 宴終ゑて浄土の池を帰りゆく歌人の舟に薄日の褒美
      1007. 遣水の辺(ほとり)に集ふ人人の前を斎宮しめやかにゆく
      1008. 返盃は都忘れの花添へて宴も佳境と童駆けっこ
      1009. 平泉なる価値を知りせば路ひとつ造る際にも哲学は要る
      1010. お前など邪魔だとばかり扱われ柳の御所の花嘆きをり
      1011. 亡骸に花を手向けて涙した人の心や泰衡が蓮
      1012. 美しと云ふもの何故か儚くて明日は散るかも見よ花菖蒲
      1013. 花園に我埋もれいてしみじみと平和の意味を噛みしめていた
      1014. 池中の固き立石見詰めれば浄土にお座す慈母浮かびたり
      1015. 花園の花守る人を思いつつ花の向こうに浄土の池見む
      1016. 青龍が水呑む如き姿して夏草の首大河に伸びる
      1017. 夏草の衣を借りて高館の悲しき景色消ゆるものなら
      1018. 虫たちも蓮に集ゐてひと時を甘露の蜜に酔ひしれおるや
      1019. 忘れ得ぬ滅びの時を癒す如中尊寺秘めやかに咲く
      1020. ふるさとの浄土の池に生ふ蓮に仏の慈悲の神秘を視たり
      1021. 御所跡に百年生きる桜とて工事現場に見る人もなし
      1022. 注目も浴びぬ桜の悲しみを平泉の人誰か知るなり
      1023. 聞こゑぬか柳の御所の一隅に根を張る桜花の叫び幽かに
      1024. 北上の大河に寄せて歌一首捧げたきとて大橋に立つ
      1025. 一本の桜の古樹を守る心ありて平泉世界遺産なる
      1026. 誰知るや大河に行けぬ高館のしだれ桜の喉の乾きを
      1027. 秋風も吹かぬ葉月の盆の頃しだれ桜の葉は何故落ちぬ
      1028. 変わりゆく景色まざまざ見て来たるしだれ桜の150年
      1029. 物言わぬしだれ桜に耳当てて樹霊の叫び聞き取らんとす
      1030. 悲しくも男盛りの齢(よわひ)にて朽ち果てんとすかしだれ桜よ
      1031. 桜木の樹の一本も救ゑずになろうとするか世界遺産と
      1032. 願わくば枯死寸前のこの桜活かし給へとEM剤撒く
      1033. 一心に「サクラ・サクラ」とみんなして祈らば奇跡の蘇生ありなむ
      1034. 奥州の人よ尊きふるさとの山河に座して腹据ゑるべし
      1035. 北上の河面飛び交ふ燕らの風を捉える柔らかさかな
      1036. 生き生きよ桜生きよと木霊に気迫の祈り捧げたり今し
      1037. 一本の桜を守ると集い来る人も桜か柳の御所に
      1038. 御所跡の一隅に生ふ桜から夢幻(ゆめまぼろし)か慈悲の華ふる
      1039. いつの日か西行さんを驚かす桜の園に古里の山
      1040. 生き生きよ桜生きよと木霊に気迫の祈り捧げたり今し
      1041. ふるさとの山の峰々夕暮れて桜蘇生の神事を終ゑぬ
      1042. 百歳(ももとせ)を生きたる翁は祈り込め「千代に生きよ」と「君が世」捧ぐ
      1043. 御所跡に薄日射したり桜守る人の思ひの天に通じて
      1044. 御所に生ふ花の御霊を呼び出して永久に生きよと甦生の祈願
      1045. 枝しなり樹皮は湿りてほどほどに樹勢戻れば春待ち遠し
      1046. よくぞまあ桜の樹勢もどりたり春を待ちかね菰皆で巻く
      1047. 物言へぬしだれ桜に菰巻けばしなりと湿り戻りつつあり
      1048. 奥州の凍てつく大地にすくと立ち堪へたる桜の美しきかな
      1049. 声を揃え「世界遺産」と云うものの川の異変を気付けぬものか
      1050. 北上の川は壊れて砂州いでき世界遺産と云う気の知れず
      1051. 咲かぬのか・・・しだれ桜はただ独り工事現場の夢跡に佇(た)つ
      1052. 来てみれば柳の御所は荒果てて桜も咲かぬ荒野となりぬ
      1053. 誰も来ぬ柳の御所を悠然と工事車両の土埃かな
      1054. 「夢跡の桜咲かず」と絶句して後の記憶は消へ失せてけり
      1055. 花咲かぬしだれ桜をかき抱き零(こぼ)れる涙餞(はなむけ)とせむ
      1056. 手弱女の桜一片花立の池に舞散る春来たりけり
      1057. 花盛り奥の大道いそいそと西行法師の夢追いかけむ
      1058. 枝折れて心配もせり達谷の窟(いわや)の桜もう直に咲く
      1059. ようようと奥の大道凱旋す頼朝あはれ今にし思えば
      1060. 咲けば散る桜のごときものなるや勝者頼朝凱旋の道
      1061. 枝折れて心配せしも達谷の窟(いわや)の桜もう直に咲く
      1062. 花盛り奥の大道いそいそと西行法師の夢追いかけむ
      1063. 手弱女の桜一片花立の池に舞散る春来たりけり
      1064. 思慮深き初代清衡夢想せし水の都を我ら未来へ
      1065. ほつほつと泉(しみず)溢るる奥州に桜花咲きたり清衡が夢
      1066. 「あれなあに」と少女見つめる輿のこと哭き祭とていつ思ふらむ
      1067. 焼失をのがれし仏の前に立ち南無阿弥陀仏と哭き祭かな
      1068. 静寂の池の辺に佇みて流れる読経に身を任せけむ
      1069. 花立の山に向かひて奥州の母なる人の面影を観む
      1070. 花の春読経流れる池端の墓を拝みて哭き祭終ふ
      1071. 花筏浮かぶ古池ざわざわと寂しかりけり祭終へしも
      1072. 奇妙やな読経の声に揺蕩ふて浄土の池に無限覚るも
      1073. 鍵穴に宇宙を覗く気分してはっとため息大泉が池
      1074. 歌人(うたびと)は龍頭鷁首(りゅうとうげきしゅ)の舟に乗り遣り水目指す青龍のごと
      1075. 寂しさと安堵混じりし思ひもて歌人は還る大門が跡
      1076. 清衡の見果てぬ夢のその中に我ら失ふ宝の在りや
      1077. 償へば元に戻ると誰か云ふかけがえのなき山河消ゑても
      1078. 月見坂登りて北方見渡せば衣の館に掘削機(くせ者)の影
      1079. 二千五年東物見の景色はや見るも無惨な建設現場
      1080. 奥州の千年の古都見回せば見渡す限りの建設ラッシュ
      1081. バイパスに堤防工事重なりて世界遺産の面影はなし
      1082. いつ終ゆと問ふても無駄と知りつつも知事に問ひなむ工事の終焉
      1083. 平泉、もう終わったと言う人 のあり、いや終わらぬと我思ひたき
      1084. ともかくも世界遺産を云ふからは厳格であれ歴史文化に
      1085. 奥州の藤原文化の意義問へば平和の祈りと我は答ゑる
      1086. 殺生なきこの世にせむと祈念する清衡公の祈りこの地に
      1087. 戦なき世の有り様を夢に見て都造りし人の尊し
      1088. 戦なき戦後日本に生まれたる我ら唱える平和の軟弱
      1089. 戦なき世に生まれたる我らとて思ふべきなり願文の意趣
      1090. 金色の堂に詣でて三代の偉業偲びて南無阿弥陀
      1091. 讃衡蔵の 紅葉の下に集ひ来て老壮青の命輝く
      1092. この景色見慣れてしまう我ありてこれは如何と古写真を視る
      1093. せっかくの兵どもが夢跡と実感しうる何ものもなし
      1094. 遠ざかる世界遺産の足音を東北線の汽笛とぞ聞く
      1095. 神々もきっと見ている愚かなる景観破壊の工事現場を
      1096. 風をきり海山生死みな越ゑて天翔る武者夢に見し朝
      1097. 妙音の女神の池のもみじ葉のうす紅色は霜降りずして
      1098. 霜降らぬ今年の紅葉薄紅の乙女のやわき唇に似て
      1099. 遠き日に黄金の太刀を煌めかせ源義経光堂に来
      1100. 新年の凍てつく夜を越へて舞ふ「老女」愛ほし延年の 舞
      1101. 衣川朝食(あさげ)の前に厚着して白雪踏めば大地の声する
      1102. 白雪よ、このまま春の野辺に居て奥の原野を守り給ま はむ
      1103. 物言わぬ桜の枝に手を触れて一木の智慧伺ふてみる
      1104. 花芽なき桜木悲し喩うれば戦後日本の母たちのよふ
      1105. はせお(芭蕉)来し涼しき風の渡りゆく高館登るみな 月の夕
      1106. 東京の喧噪離れ五百キロ夏雲映す池静かなり
      1107. 曲水の宴もたけなわ歌人はや遣り水映る華となりたり
      1108. 木漏れ日の光のなかに微笑めるお地蔵さんの有り難さ かな
      1109. 母の手に抱かれたりし心地して大泉が池我廻り来ぬ
      1110. 奥州の古刹に開く大輪の蓮散り初めし炎天の午後
      1111. かなかなと誰を偲びつ蜩は泉が城の城址に啼く
      1112. ひとつ散りふたつ散りして萩の花秋風清(すが)し大 泉が池
      1113. みちのくの古寺咲く萩の散り際の儚きを愛で故郷の花
      1114. 夕暮れの茜の空に照り映ゑる浄土の池に萩の花咲く
      1115. 照り映える大泉ケ池の眩しさは浄土を映す鏡なりけり
      1116. みちのくの土ともならんゆくゆくは夢の都の一隅に居 て
      1117. 中尊の寺に詣でて堂に入り平和の意味など思念せむ今
      1118. ほの暗き金色堂の堂に入り三度唱ふる南無阿弥陀仏
      1119. 我もまたいつか旅立つ西方に在るてふ浄土思念してみ る
      1120. 霜月の金色堂は切なくて紅葉そぞろに足もとに降る
      1121. 形ある七宝運び去られてしも供養願文の思い盗めず
      1122. 鎌倉の政子の枕辺立ち給ふ武者は誰なり鞘堂の秋
      1123. たかだかに寿命百年ヒト族が「もみじ儚」と観るは逆 さま
      1124. 秋暮れて弁慶堂に詣ずれば小さき義経少年に見ゆ
      1125. 吾(あ)も汝(なれ)も人は錦の龍なるや月見坂行く 晩秋の頃
      1126. 竹林の奥に大堂見つけたる鎌倉武者は度肝抜かれし
      1127. 丈六の阿弥陀如来の御威光にすくみたりしは無理もな きこと
      1128. 大盗の末路思へば仏罰の逃れ難きを畏れつゝ知る
      1129. 赤々と西の空落つ日輪の赤きに泣きて祈りを捧ぐ
      1130. ありがたき浄土の池に佇みて行く秋の日の光と遊ぶ
      1131. 白銀の栗駒山を眺めつつ西行庵の跡尋ねゆく
      1132.  


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2000.11.9
2007.01.06 Hsato