高 館 の 歌
願わくば歌に託さむ我が思い高館景観永久にしあれと
皆さまからここに掲載する歌を募ります。祈りを込めた力ある歌を詠んでメールください。
僭越ながら佐藤が選させていただき、作品を掲載させていただきます。お持ち申し上げます。
- 高館に登れば見ゆる日高見の川の流れは滅びの絵巻
- 高館は悲しからずや日高見の流れに抗す堤となりて
- 蕉翁が涙こぼさむ高館に我一人来て草木触るゝ
- 蕉翁は藤原三代いかに見む栄華一瞬流星のごと
- 判官は小さき堂の中に居て木に刻まれて凛と坐すなり
- 高館に一人登りて目を瞑り判官自刃の一時(ひととせ)思う
- 判官の無念を思う高館に登りし人はいつの世なりと
- 風吹きて須川の山に雲往けば雨を呼ぶなり高館山に
- ふる里の高館山に登り来て山河を拝むただありがたき
- 日高見の国は在りなぬ何処何処に高館山に友と語らふ
- 安倍氏より清原氏より清衡は夢を紡いで爰に古都建つ
- 軍(いくさ)なき永久の都を夢想せる清衡眠る金色堂は
- 毛越(けごし)なる地に基衡は忽然と浄土の庭を出現せしむ
- 秀衡は我が後の世も奥州は平和であれと光の寺建つ
- いざ行かむ我がふる里の奥州の高館山に危機迫りなば
- おしなべて地元の人の関心は景観よりは便宜を取らむか
- 白雲の金色に染む夕暮れに枯葉踏みしめ金鶏の路
- 義臣なる泉三郎住む館は泉ケ城と申すなりけり
- 水神の機嫌を問はばまずは聞け北上川のその水音を
- 衣川桜川見む古の古都の栄華を偲ばむために
- いついつと定かにならぬ事なれど父と吾来しこの高館山に
- 夢跡を偲びても見む持仏堂掘りてまた見む心の裡に
- ひっそりと二人の御霊眠るらむ千手堂前くも糸払ふ
- 幾とせも幾とせも越へ伝わりし延年の舞い心沸き立つ
- 古は蝦夷の里と言われけり鼻の曲がりし鮭など喰らふ
- 滔々と流れ尽きせぬ悠久の時も流れむ日高見川は
- さもありと往時を忍ぶ面相の人に出会いし藤原祭り
- 夢あれば人は生くべき意味ありと芭蕉と曾良に諭さる心地す
- 古都焼けて原野となりて八百年年経ても尚原野変わらず
- 秀衡が浄き心を知りたくば無量光院礎石の間に間
- 幾年も幾百年も年を経し景観破壊見るに忍びず
- 奥州にディズニーランドでも造るように見えて「水の駅」構想
- 紅葉狩る人も見むとて光堂その眼射られむ眩しさ故に
- うつしゑの工事の進む高館の赤土眺むこれで良きかと
- 夢ならば夢と思はむ現実(うつつ)なる景観破壊に天罰なきや
- 悲しきは我関せずの無関心利便叶うて失せしものさて
- 高館はお國自慢そ奥州の道路欲しきはいったい誰そ
- 何気なく道路工事の人夫には知人居るかと横顔覗く
- 悶々と工事気になり目も冴えて歌に託さむ我が思いかな
- 白みゆく虚空の彼方巨星あり手を合わせつつ祈り捧げむ
- 悲しきは夢幻(ゆめまぼろし)のことで事でなく今も進みし景観破壊
- 高館の草木の衣踏みつぶすバイパス工事の愚かさを泣く
- 高館に上れば悲し文化の日文化国家は名ばかりなりや
- 魚住めぬ川となりしか北上は水底辺り蟹の住処そ
- 魚住めぬ川とは知らず水鳥の二三羽潜る大河の辺(ほとり)
- 秋暮れて人恋しきそ衣川彼方(あなた)の山に白きもの見ゆ
- 誰彼と文句言いたきことあれど山の薯蕷(とろろ)でくちびる痒し
- 高館に弓月懸かる暗き夜は義公の勇姿夢にとや見む
- みち野辺に名もなく花の咲くごとく凛と立つなり弁慶堂は
- 死して尚主君守りし弁慶の館も今は大河の底辺
- 兼房が主君の首級をかき抱き火焔の中に浄土を見むや
- 世の中に恋しきものは高館に上れば見ゆる景色なりけり
- さらさらと白き天使の舞い降りて高館山に冬は来にけり
- いずくより舞い降りて来む白雪の拝むわが手に触れて溶けなむ
- 白鳥は護岸工事を知らずして大河行き交う様ぞかなしき
- 冬来たり北の大地に陣を敷く冬将軍は判官ぞかし
- どうしても残し置きたき高館の景色目に沁む断崖に立つ
- 淡雪の溶けて赤土にしみ込めば水辺の葦の芽でも吹くらむ
- 無惨にも掘り起こされし葦原のその葦原の命の精は
- 正直に生きれぬ人は寂しけり明日に残すはバイパスなるか
- 止めどなく天の涙は溢れけむ慈悲の河なる日高見川に
- ふる里の大地かなしきその価値を解せぬ人に壊されゆくぞ
- 心ある人に伝えむふる里は未曾有の危機にありけることを
- 奢りたる人間どもに神罰のあるやなしやは説いて詮無し
- ともかくに嫌いなものは嫌いよと云える心
を持ちた きものぞ
- おめでたき事にはあらじ高館を通過すると
ふバイパ ス道路
- 兵の生まれ替わりて死に替わり奧の高館ひ
しと守護 せむ
- 夢ならば覚めざらましを近々に平泉なむ世
界遺産に
- 一瞬に我欲を捨てる覚悟して佐藤義清妻子
を捨てむ
- 途方なきブッダの道をとぼとぼと西行ひと
り歌もて 行かむ
- 秀衡は昔懐かし西行をうれし涙で新都に迎
ふ
- 儚さをたんと知ったる西行が歌詠む先は山
河のみな り
- 西行は風に誘われ陸奥に命削りて向かひて
死なむ
- 人の道老いて知るなり歌の道仏の道も一味
なりけり
- 西行は武の神憑きたる判官に危うきものを
感じたる かも
- 都にて北の楽土の崩落を老西行の如何にと
や聞かむ
- 花を見む西行は見む伽羅御所の炎の最期散
る花と見 む
- 心底に言葉にならぬ念い伏せ西行逝く成り
花の咲く 頃
- 悲しみは天より来るか高館は見渡す限り霧
に埋もれ
- 朝に来て夕には消へむ人の世の無常思ほゆ
無量院跡
- 消え残る石の間に間に秀衡が念ひ尽くせる
狩の絵想 ほゆ
- 秘仏なる一字大日拝みなば涙溢るゝ訳なら
なくて
- あらたまる讃衡蔵の奥の院印を結びし秘仏
の大悲
- 寂しさは山より来るか烏啼く霞む束稲秋の
夕暮れ
- 楽しさは舞いより来るかあらたまの年の初
めの延年 舞い
- 金鶏の麓に人の珍しき忘れ去られし妻子の
塚は
- 空虚(むなしさ)は道より来るかコンクリ
の高館バ イパス愚虚(おろか)の極み
- 時移り花の山とは言い難き束稲山に霜の花
咲く
- 柳御所掘られ埋められ又掘られただ一面の
土塊の原
- 西行も通り給ふや我もまた桜の山をとぼと
ぼ登る
- 束稲の坂を登りて目にしたる古き塚にも心
和みぬ
- 誰植へし垂れ桜や高館の橋の袂に来る春を
待つ
- ふるき世に「糸の乱れ」と貞任が詠める處
はあの辺 りかも
- だらだらの月見坂ゆく歌枕衣の関を想い偲
びつ
- 木枯らしは御霊と思へ高館の残土巻き上げ
怒りて吹 かむ
- 月は冴え月は満ちゆく幾年も高館山の冬の
三日月
- 春を待ち西行法師束稲の桜花見て去る後影
- はらはらと雪の花舞ふ北上の大河飛び行く
白鳥一羽
- 文化など意には介さぬ策悲し高館瀕死の白
鳥となり
- 心期し旅にしあれば夜半時高館走る冬の稲
妻
- 朝露の命の草は剥ぎ取られ見へにし景はコ
ンクリの 塊
- 定家なら西行ならば如何に詠む在るべき處
華なかり しを
- 朝霧や草の庵も葭葦(よしあし)も
何も見えずに冬の高館
- 涙せむ泣けばすむとは思えねど不稽の策に
涙溢ふる る
- 見渡せば水辺の淵の草むらは刈りて取られ
て跡形も なし
- 幾年もこの古館を守る人の御霊嘆かむ詫び
る術なし
- もののふの心の消えし今の世に心見せよと
言うが愚 かそ
- ざくざくと落葉踏みしめ束稲の西行歌碑に
進み詣ら む
- 冬なれば桜は咲かじ雪の花ちらほら舞ひて
束稲の山
- 閑かなり道の奥なる古都に立ち往時盛へし
面影辿る
- 吹雪く夜は白きものみな判官の都逃れの姿
と見ゆる
- 十五夜の月も見えずに吹雪く夜は大河も見
えず雪の 勢い
- 青臭きことを云うなという者の眼をしみじ
みと見て は放さじ
- 開発の美名のもとに運ばれし古都の変貌誰
か糺さむ
- 長き夜や地方自治など夢のよで雪降り止ま
ず熱き酒 飲む
- 今度をや県の役人町長に担がんとすらむ世
紀末冬
- 理不尽にノーの勇気の人なしや冬の高館無
言の判官
- 後の世に何を遺さむ遺伝子の二重螺旋の執
念思ふ
- ありんこの如くトラック行き交ひし河と大
地を分か つ企み
- 北上の大蛇のたうつその時に我が身を盾に
高館の立 つ
- 無惨にも皮を剥がされ草むらに白き兎の魂
遺る
- 高館に日高見國を死守せむと蝦夷俘囚の幻
を視る
- 霧深き北上川の水底に呑み込まれ行く吾が
想ひ哉
- 真冬日の束稲山の新雪の奧に分け入り歌碑
など探す
- 真冬日の高館山を吹く風は地吹雪(いか
り)となり て原野を駈けむ
- 計画は列島改造凄まじき昭和48年立てら
れしもの
- 観光ルートの確保もて田中の亡霊ブルで行
くなり平 泉
- 泣く者か悲しむ者が知らねども高館橋を雪
女の行く
- 自然(じねん)なる言葉そのまま自ずから
束稲山に 初陽昇りぬ
- 千年の幕開けなるや負の遺産抱えて明くる
古都平泉
- 除夜の鐘遠くに聞こゆ新世紀そこに来てい
て暗き古 都
- 雪晴れて心も晴るる白雲の束稲山にぽかり
と浮かぶ
- 春立ちて雪も解けなば高館のバイパス工事
始まる恐 怖
- 高館に春などいらぬ春来れば又始まらむバ
イパス工 事
- 須川から吹き行く風は地吹雪となりて大河
は霞みて 見えず
- 夢覚めて春立つ野辺を義経堂登りて見れば
地吹雪渡 る
- 節分会鬼は誰なり降りしきる雪に交じりて
落花生飛 ぶ
- 中尊寺、老若男女ひしめきて鬼は語らず福
豆拾ふ
- 暖冬に馴れし我らの虚を突きて豪雪解けぬ
二月とな りぬ
- 春寒に花も蕾を固くして雪間手向けむ西行
忌には
- いざ春を待つとも言わずその訳は古都を貫
くバイパ ス工事
- 花に浮く心になれず此の春は西行翁の命日
近き
- 花に浮く心になれず高館の山に登りて「愚
か」と叫 び
- 為政者に何をか言はむ高館の哀しき景色ま
ずは見る べし
- 変わりゆく高館悲し夢跡に頭を垂れてしば
し祈らむ
- 歯がゆきぞ己の無力情けなき古都の自然の
消えゆく 姿
- 滅びには滅びしなりの訳在らむ奥州藤原氏
滅びし訳 はや
- この世には常なる物はなかりしに何執着す
己が心は
- 春の雪ただ芝草の野辺に降る在りし日其処
は観自在 王院
- 余寒する光堂にて思はれる政治家秀衡今に
在りせば
- 花の春春を待ちつつ西行は住処定めぬ命を
終えぬ
- 夏草は毟られけりな無惨にも高館山は裸の
兎
- 夏草と芭蕉が詠みし景色なく地団駄踏んで
高館を去 る
- 蕉翁も夏草茂る高館の雨中に立ちて咽びて
泣かむ
- 高館に桜花咲くとも若草の瑞々しきは何処
にありや
- 清衡は縄文の血に連なりし我が血の在処願
文に付し
- 雪解けの水溢れゐて北上は高館橋を攫(さ
ら)わむ とす
- 清衡の思い知るべし奥州に咲かせむとした
大乗の華
- 花立の溜池遠く見下ろせば苑池に垂れる蜘
蛛の糸見 ゆ
- 雪消えて変わり果てたる高館を「しばしの
我慢」と 云うは鬼なり
- 春霞かすみ隠せよ蕉翁が夢の跡とぞ詠みけ
る辺り
- 何見せるつもりか知らぬ誰知るや夢跡消え
て平泉は て?
- 花見むと花の法師の御霊はや白河越えて陸
奥に入り
- ことごとく消え失せにけり高館の荒野に生
ふる露草 の群れ
- 高館は牛馬の如く屠殺場に牽かれつつあり
声上ぐる 者なし
- 冠に「史跡」とあれば高館を守る人ありや
文化行政
- じりじりと心の奥にやるせなき思い抱くも
流れ抗せ ず
- 誰守る地元の民の声なくて掛け替えのなき
ふるさと の景色(けい)
- かりそめに芭蕉西行甦り高館問題問えば答
は?
- 故郷の訛りも消えて高館の景色も消えて平
泉の明日
- 悲しけり花は桜に藤原祭り華やぐ古都にな
るはずの 春
- 遠ざかる汽車の汽笛も悲しけり幼き日見し
平泉はな く
- 早早に勝てぬ勝負と諦めて義公差し出す愚
行悲しむ
- みちのくの雪どけ水を大洋へ大河は運ぶ高
館掠めて
- 束稲山桜花は見えず歌碑読みて往時の栄華
想ひ馳せ る日
- 西行の歌碑にありける「聞きもせじ」なる
言葉ふと お世辞に聞こゆ
- 束稲の西行歌碑に我向かひ「聞こえます
か」と問い かけてみる
- 北上川 葦葭(よしあし)茂る遊水の岸辺
在りけり 古はや
- 葦原はついぞ消へゆき一様に流れ速まり北
上川は
- 昔はや変化に富みし川なれば魚もさぞかし
住みよき ぞかし
- 奥州の「照井太郎」と誰云はむ日高見川は
阿弖流為 の川
- 照り映える朝陽眩しき北上の岸辺行き交ふ
ユンボ悲 しき
- 治水なる言葉好かなき奢りたる人の科学の
愚かさを 問ふ
- 太田川高い堤防よそよそし暴れる獣檻入れ
る如
- 魚住まぬ川になりけり太田川うなぎ針など
仕掛けし 昔
- 川淀みほどよきところの大石に小石を置き
てうなぎ 針とす
- 北上の川の畔の柳御所誰が植しか枝垂れ桜
悲しも
- 一本の枝垂れ桜も悲しけり高館橋を砂利ト
ラック急 ぐ
- 建都せる清衡公の思い知る手掛かりなりや
供養願文
- 埋れたる土器(かわらけ)拾い継ぎ接ぎて
往時の都 偲ばれるなり
- 海に出る湊なりけり平泉大河に浮かぶ帆船
思ほゆ
- 風まかせ海の道など行き交いて吉次運びし
奥州の黄 金(きん)
- 狭き道砂の煙りも もうもうと高館行き交
うダンプ カーの群れ
- 北上は母なる川そいつの世も慈母の仏の姿
映して
- 日高見川(きたかみ)は大
蛇(お ろち)となりて流れ来る蝦夷の郷土(くに)の奥の奥より
- 線細き山女は海に下り行き桜鱒とて川(く
に)戻る なり
- 味気なき完成予想図指し示し未来へ繋ぐ景
観と云う 愚
- 味気なき完成予想図手に取りて風情を知ら
ぬ「殺風 景」を笑ふ
- 味気なき完成予想図手に取りて俄に悲観込
み上げて 泣く
- 夢跡の素描悲しき夏草は跡形もなく剥ぎ取
られけり
- バーミアンの巨大石仏 高館と氏の描く景
色消えゆ くも悲し
- ユネスコの親善大使せる人の描きし古都は
消え失せ にけり
- 誰知るや緑溢れし高館の剥ぎ取られたる大
地の痛み
- いずくにもどこにもなきぞ高館にみゆる景
色の静な る風情
- 「東方に在り」を読みてしみじみと知るか
けがえの なきもののこと
- 北上の岸辺無惨に削られて高館見ゆる泣け
とごとく に
- 満々と雪解の水を湛えける北上川(き
たか み)は海 高館は島
- 太田川鉄の欄干空しけり束稲霞む春のみ空
に
- 束稲山に花は咲けども山桜まばらしかなし
歌碑読み て泣く
- 野生をばまるごと奪い取られける百獣の王
に高館見 ゆる
- 囚われし束稲山は悲しけり涙の雲に抱かれ
眠る
- 浚渫に底は掘られて川岸は葦の一本残って
おらず
- 黒雲の俄に湧きて高館に集まり来り遠雷の
音
- 高館に黒雲湧きて風起こり義心に篤き兵
(つわも の)怒らむ
- 弁慶の住まいし家は此処いらに確か在りけ
り誰か知 るらむ
- 東より陽は昇りけり盛り土から判官見ゆる
光りの中に
- この盛り土誰の奥津城なるものか三代の御
霊光堂に在り
- 赤き土盛り土となりて川と町遮断せるかな
近代工法
- 古のギリシャの民の失策を学び尽くせよ陸
奥人は
- はげ山となりたるギリシャの神の山思い起
こさす束稲連山
- 永遠の都とすらむ平泉人死して尚かの地は
遺る
- 花立の池に散り染む桜花戦火絶えなき奥州
思ほゆ
- 秀衡の寺に詣でて何気にも散りながら咲く
桜(は な)在るを知る
- 散りながら咲く桜(はな)在りき秀衡の無
量光院知 る人なきや
- 花冷えの無量光院風吹けば礎石に桜花(は
な)の降りかかりけり
- 秀衡が桜花(はな)は涙か
風吹けば 散りつつ咲けり無量光院
- 三代目秀衡公は悲しくも滅びの御館(み
た ち)と呼ばれけるかな
- 北上の岸辺に花の舞い降りて高館橋を春た
ちはゆく
- 花館の廃寺の跡の一隅の桜散り染む苑池悲
しも
- 悲しきそ高館橋に散る桜工事道路に無造作
に落つ
- 新しき高館橋の工事場にテトラポッドの群
れておぞ まし
- 里人にバイパス問えば「予算次第」と聞く
も淋しき
- かにかくにカスリン台風強調す形振り構わ
ぬ工事止 まらず
- ふと思ふ河川整備とバイパスは質違ふはず
その意味を問ふ
- 燕(つばくらめ)盛土を運
べ己が巣 に高館バイパス造れぬように
- 燕よくぞ今年も日高見の大河の里に舞い戻
りけり
- 見上げれば九郎の館は散り初むる桜花(は
な)に埋もれ忌日に向ふ
- 束稲山桜は見えず傷つきし山肌悲し採掘の
跡
- 花吹雪消えゆく橋を憐れむや桜の衣となり
て散りぬ る
- しみじみとこの十年の道騒動工事現場の岸
辺に思ふ
- 奥州の山河はここに比類なきこの風景を消
してはな らず
- 道とはな人歩むべき道にして未来に通ずる
道にしな くれば
- この道は未知にし道や人の息感じゑぬ道灰
色の
- 白き嶺彼方に聳え我が歩む工事道路の砂利
道の荒れ
- 高館に川の漁師の舟見えて魚影は見えず抉られし河
- 魚住まぬ川となりけり北上は川の漁師は何もて生きむ
- 高館の岸辺は日増し多摩川に似て来て個性
奪われ行 くぞ
- 非個性のテトラポッドの群れなして岸辺に
並ぶ姿認 めず
- 高館に1200個のコンクリのテトラポッ
ドの群れ る異様さ
- 兵馬俑に似て非なるもの高館に1200個
の非個性(テ トラポット)並ぶ
- 兵馬俑造りし人の心知れ一体に盛る個性の
漲(み なぎ)り
- 高館を守る家(や)の在りて千年の栄枯見
据えし岸 辺の旧家
- 血の色に夕日を映す北上は悲しかりけり忌
日迫れば
- 束稲山西行歌碑に夕日滲み涙溢れる佳日偲
べば
- まな板の鯉になりしか高館は切り刻まれて
誰に喰わ るゝ
- 悠久の古都にはいらぬ箱物の水辺プラザに
嫌悪覚ゑ ぬ
- 八百年の歴史に連なる己が立つ東物見に栄
華の跡見 ゆ
- 衣川西行もみしその川を今日みる不思議東
物見に
- 金色の光り眩しき堂にゐて漲る精気にここ
ろ奮ゑぬ
- 皆金色光り眩しき御堂にて一際眩し泰衡が
蓮
- この蓮(はちす)よくぞ目
覚めて咲 き給ふ奥州人のこころ伝えて
- 泰衡の罪は罪なり罪深き仏弔ふにこの蓮添
ゑぬ
- 泰衡の枕辺添ゑし大輪の古代の蓮の蘇生す
不思議
- 敵味方老若男女なにせうぞ泰衡蓮の咲くや
嬉しき
- この蓮を泰衡の首に供ゑたる人の心のやさ
しさ思ほ ゆ
- 蕉翁はこの大輪の蓮を見ず「奧の細道」残
し逝き給 ふ
- 平泉滅びたりとぞ思いきや念(お
も)い は滅びず滅びの美得て
- 奥州の栄華の跡に草生いて山河は蘇生す健
気なるか な
- 歴史をば畏敬せぬかな縦割りの中央省庁考
えし古都
- 世界遺産とみるや早速に目敏き者の宅造の
痕見ゆ
- 朝敵とされたる人の無念をば偲びて遠く奥
州を見る
- 高館を攻略せんと非個性のテトラボッドの
兵士の集 結
- とにかくに世界広しと云ゑどテトラポッド
見ゆる世 界遺産なし
- 意思持たぬテトラポッドに囲まれて九郎の
館に危機 迫りくる
- 非個性のテトラポッドは悲しけれこれを造
りし人の 科学も
- 何もかも思い通りにすらむとす科学の奢り
高館バイ パス
- おぞましきこの非個性(テトラ
ポッド)の 怪物を造形せし美意識を問ふ
- 物云わぬ山河の声を心ある人は聞くべし耳
を澄ませ て
- 奥州の山河を壊す諸行には清衡公の天罰あ
らむ
- 利便よりあえて不便を選ぶのも歴史遺産を
受け継ぐ 道ぞ
- 高館の歴史景観目を瞑り利便の飴をなめる
愚かさ
- 平泉独り気高く凛として自然(じ
ねん)貫 け中尊の地に
- 西行も芭蕉も見たりこの山河見ゆる景色の
奧の絶景
- 春の月束稲山の麓出で金鶏山の袂隠れむ
- 芭蕉はやこの高館の何もなき遊水の地に永
遠(と わ)を観しかも
- 夏草の北上川の弁慶の館に立ちて仁王立ちせむ
- 高館の主の声をいまぞ聞け風土にそぐわぬ工事中止し
- 北上川の水辺乾きて戸惑いぬ水鳥悲し餌も無くては
- 花を摘む幼女に貰う菜の花のその小さき手に返すものなき
- 桜花垂れ懸かれり義経堂主の生涯彩るよう
に
- 西行の心揺すぶるこの山の彼方に見ゆる山
河愛(い と)をし
- さながらに毘沙門天の君なりきその鋭きを
敢えて畏 れむ
- 頼りとて君しかいなき妻ならば君住む都旅
し参らむ
- 郭公は遠くに在りて恋うる人呼びつつ啼か
む束稲山 に
- これほどの夫(つま)などあらむ宿命(さ
だめ)と てただひとしきり夕立の降る
- ふるさとを遠く離れて奥州のこの高館に君
と在りし に
- 幼子は泣くを仕事とするからに泣くだけ泣
けよ声を 限りに
- 君一人我と幼子奥州の山河在りせばこころ
安すけき
- 人の世の続くが限り我が君の武勲の譽れ語
り継がれ む
- 契りして短きながら幸多き君と生きけるこ
とに悔い なき
- 衣川大河に注ぐどこまでも水清くして慎ま
しきかな
- 遠ざかる雲は悲しき山際をちぎれちぎれに
流れ行き しも
- つばくらめただ一心に吾子のため餌を運ぶ
も健気な るかな
- 君と生き君と暮らせる高館に見ゆる景色の
ただ名残 惜し
- 悲しきはただ幼子の何知らず笑み浮かべけ
る無邪気 なるかな
- いついかに死は訪れむ夏雲の俄に涌きて雷(い
かずち)の鳴る
- 添い寝せば吾子の寝息に和まされ明日の力
を貰いけ るかな
- この上は太刀を一振り天の声静かに聞かむ
この高館 に
- 青龍と玄武に白虎朱雀守(も)るその名相応し平泉とな
- 赤々と金鶏山に夕日落つ我一人見る廃墟の
趾に
- 年月は怖ろしきかな奥州の覇者住む館も土
塊となり
- 高館に蕉翁あはれ催して滅びし趾に涙零さ
む
- どことなくあはれに見ゑし高館に桜しだ
るゝ春の夕 暮れ
- 夕まぐれ工事に揺れし高館は次第に深き闇
に紛れぬ
- 判官の妻子に近き年頃の母子に出会ふ高館
橋に
- 束稲山に花は咲かねど西行の歌は残りて往
時伝ゑむ
- 日は退(の)きて月は微かに夕空にもの言いたげに懸かりてをれり
- この歌は風雅の歌にあらずして九郎の館を
守りし歌 ぞ
- 秀衡は富士に見立てしこの山に奥州鎮護の
思い込め しか
- 達谷の窟の辺り浮かぶ雲毘沙門天の怒りし
み姿
- 奥州に芦屋はいらぬちょいの間の別荘気分
住まわず とよし
- さ緑の金鶏山の夏草の彼方に幽けき夢跡浮
かび
- なだらけき金鶏山を見下ろして天をも怖れ
ぬ宅地造 成
- 夏の雲高館遙か風任せ流れてゆくも悲しか
りけり
- 白き雲長閑に流れ奥州の山河の午後に漲り
し夏
- 高館の草葉に雨の降りかかる梅雨になりけ
む早今年 もや
- いにしゑは臣下住まいし跡なれど有無を言
はせぬ工 事傷まし
- 山肌の傷は深かくて悲しけり観音山の石切
り場跡
- 取り返しつかぬ工事は早々に止めるべきな
り我が子 らのため
- 世界遺産となるべきは在りのままなる陸奥
の古都平 泉
- 水無月の浄土の庭にとりどりの菖蒲競いて
人の賑わ い
- かにかくに道を造れば便利とは短絡に過ぎ
歴史忘れ て
- 芭蕉はや西行辿りし月見坂息を弾ませ北方
を見む
- 平泉いまや日本の故郷の原風景となりしと
云ゑり
- 悔しきは京都文化の模倣とぞ云われ久しき
奥州の古 都
- 誇りもて奥州人の誇りもて高館景観守る人
となれ
- 守るべきは奥州人のふる里の原風景なる高
館景観
- 雨降れば水の溢るゝ北上の岸辺住まいし人
の文読む
- 住む人の心をとくと汲み上げて明日に禍根
を残して ならず
- 大水に流されたりし記憶をば忘れむとする
叔母の意 を聞く
- 道ならばひとつにあらず別の道造しことも
視野に入 るべき
- 道路(バイパス)は明日にも出来る文化は
や返るこ となき覆水の盆
- 日高見の我が平泉日の本の故郷となり夏の
雲湧く
- 河童族日高見川の河上に暮らすと聞けり滅
びけると も
- 黄昏れの束稲山の麓から古都の彼方に霞む
駒形
- 思惑はそれぞれあれど核心は稀少な古都の
自己同一 性(アイデンティティ)
- 声高に自説を説くも聞く耳を持つ人なけば
悲しくも あり
- 正法を貫通せよと教わりし師の意を汲みて
ひたすら に説く
- 判官を心の内に拝すれば炎巻かれし高館見
ゆる
- 「よそ者は口を出すな」と言う言辞吐く人
ありて少 し寂しき
- もはやもう世界遺産となる古都に狭き了見
通用すま じ
- 物言ゑぬ雰囲気あると聞き及ぶ町の良心何
処にあり や
- 言いたきを腹に飲み込み流されて気づきて
みれば白 髪百丈
- 畏れしは正しき道を歩まずに最期に及び悔
いしこと のみ
- 心ある人は問うべし奥州の守るべき文化そ
は何ぞや と
- 個々にある私心は捨てて大道の議論をすべ
き佛弟子 我ら
- 寂しけり夏草落つる雨音も聞こゑぬままの
高館に居 て
- 炎天に盛り土の土は焼かれけり猛暑労し高
館の景
- 夏草は工事と称し剥ぎ取られ炎暑焼かるゝ
盛り土か なしき
- 懐かしき写真を見れば寄り添ゐし恋人憩ふ
東物見に
- 移りゆく景色悲しき平泉工事止めねばただ
の鄙里
- 首桶に無念と眠る泰衡に誰が手向けしもの
やこの蓮
- この蓮が八百年の眠りから醒めたる訳を我
は知り得 ず
- 奥州の心は蓮の華にあり泥に蘇生の泰衡が
蓮
- 敵味方老若男女なにせうぞ泰衡蓮の咲くは
目出度き
- 又夏に今年も咲けりいにしゑの奥州偲ばれ
中尊寺蓮
- この蓮を滅びし者に手向けしは如何なる人
ぞ涙零れ む
- 奥州の往時の栄華彷彿と首桶の蓮今日に咲
き初む
- 朝露の雫を誰の涙とてそれは問はまし泰衡
が蓮
- 月光の蒼き光りに誘われて滅びし者の花は
開きぬ
- ぬばたまの月なき夜に見し夢は花に埋もれ
し泰衡の 相貌(かお)
- 大池に幼き将の面影が蓮の間に間にふと浮
かびくる
- 奥州の人の心の温かさ花と咲くなり泰衡が蓮
- 八百年の眠りを醒まし発芽せる一粒の蓮大池充てり
- 夏草に埋もれし大河高館を掠め静に海目指
しゆく
- てふてふが妖精の如く夏草の間に間飛び交
う大河の 畔
- 奥州の辛き歴史は水底に大河潜めて夏雲の
映
- 夏の河九郎判官義経が無念偲びつ銀河(ぎ
んかわ)下る
- 箱石をそぞろに発す判官の御輿の舟に水鳥
の群れ
- 判官を見上げる少年(ひと)はいつのまに
八十五才 の翁となりぬ
- いざ行かむ義公の無念しみじみと舟遊びし
て弔らは むとて
- 舟はゆく夏空映す北上の大河を銀の大道と
して
- 衣川大河にそそぐその辺り水面に映る青葉ささめき
- 先達の御幣の先に神宿り九郎判官大河に遊
ぶ
- 高館の岸辺に来れば母の手に抱かれし心地
す不思議 なるかな
- 白旗のたなびく先に束稲の山は霞みて鎮め
の雨呼ぶ
- 法螺貝の音はしみじみと北上の大河を渡り
心に沁み る
- もうじきに高館橋は壊されて親しみ深き景
色は消ゑ む
- 日盛りの高館橋の岸辺にて九郎は遊ぶ牛若
となり
- 見渡せば杉の木立のその先の稲穂の先に高
館の夏
- 高館の上空遙か入道の雲が沸き立ち雷怒り
来る
- 己が身を風雨に晒し金色の堂を守りて鞘堂
は立つ
- 鞘堂の前に佇む蕉翁の日焼け顔見ゆ新世紀
夏
- 炎天の鞘堂の如蕉翁を守る曾良在りて光堂
立つ
- 芭蕉像あるにはあれど曾良の像どこにもな
くて少し 寂しき
- ふと曾良の影を見るかな夏草に埋もれし像
を振り向 きて見る
- 鞘堂は有難きかな今日もまた語らぬままに
本堂を守 り
- 階(きざはし)を光堂へと歩みつゝ老の夫
婦は何思 ふのか
- 夏木立誰が羽織りし千手院九郎の妻子労る
ように
- 夏深き千手堂こそ悲しけれ蝉の慟哭我が内
の声
- 夏草の衣に守られ楚々と起つ妻子の塚に涙零れぬ
- 夕間暮れ蜩の声かなかなと悲しく響く妻子の塚に
- 己が名も遺さぬままに消ゑ逝きし妻子の塚に迫る夕暮れ
- 金鶏山の麓に在ると知る人も来る人もなし妻子の塚は
- 神仏は在るか無きか知らねども妻子の悲惨言葉に為らず
- もの云わぬ九郎義経扇子をば逆さに持つも返って悲し
- 解れ毛の御髪も直す素振りなく九郎臣下に何云わんとす
- 無念をば奧に仕舞って判官は悲運と対す覚悟語らず
- 九郎はや眩しき程の栄光を胸の奥にて偲びけるかも
- 小柄なるこの肖像の人にしてどこに鬼神は宿り給ふや
- 悲しきぞ畳一畳有り余し九郎義経気迫失せ見ゆ
- 歴史とは不思議なるかな面差しの優しき人に戦才与ふも
- 閉ざされし院の扉のその奧に42才の秀衡公坐し
- 月見坂行けば俄の雨さえも有り難きかな有露の我には
- この道に近き道無し昼暗き参道越えて光堂は在り
- 何処より何処へ向かふ者なりや月見坂行く巡礼二人
- 浄土とはかくも眩しき所(とこ)なりと池に悟され大泉が池
- 夕暮れの浄土の池に独り来てその静謐に浸る悦び
- 荒磯の岩を思わす立石は天を指さす仏の御手か
- 基衡の心伝ゑしこの池に蒼き空映り夏雲の行く
- 夕映えの水面に光る夏空に御仏坐(いま)し池の白雲
- この池に月を浮かべてまじまじと己が弱き心を見むや
- 歳月に朽ち果てゝけむ堂悲し唯この池の残りて嬉し
- 草深き淵に鉄柵廻らされ蜘蛛の住処ぞ千手
堂の池
- 歳月はかくも無惨に景色をば変えるものか
と草の戸 叩き
- 二品をも唸らせけるか荘厳の極み盗めず大
長寿院
- 人の世は無常なるかな今しこの時を惜しみ
つ光堂拝 み
- 草埋もる池を守るべき鉄柵は錆つき蜻蛉
(あきつ) 留まりて詫びし
- 母と子が石に身を代え草の戸に睦み給ふも
余りに悲 し
- 穢れなき瞳眩しき幼子も母に抱かれ茅の輪をくぐり
- 釈迦堂の木の根を釈迦の白毫と思って見れば足踏み込めず
- 年老いし清衡公は此の地から豊田の柵を偲びけるかな
- 白神に何を祈らむ丸き輪のこの輪に潜む霊力知らずや
- 夏暗き杉の木立の物見から草も深みて衣河見ゑず
- 一突きの鐘の音響き金色の堂の彼方に日は輝けり
- 束稲の山並み見ゆる雲間から滅びし里にまた秋は来て
- 風に舞ふすすきの華の一片を滅びし人に捧げ奉らむ
- 月の夜や汀流れる水音に妙に気に掛く衣河
の館
- 秋の田に稲木(ほにょ)も並べばしみじみと泉ガ城の栄華偲ばる
- 童(わらす)らも拾わぬ栗をただひとり秋の幸とぞ拾ふも可笑し
- 飽食の時代となりて牛喰ふ子らは栗などありがたがらず
- 世界遺産世界遺産と騒いでも登録の意味知る人はなし
- 秋陽射す衣の河の蜻蛉(かげろふ)は短き命おそらく知らず
- 黄金成すほにょ干す田んぼ少なくて余計寂しき秋の夕暮れ
- 金売りの長者の家は何処何処(どこどこ)と狭き古道を行き来してみる
- みちのくに熱き血を持つ蝦夷なる強き人在り紅葉は知るや
- 朱々と紅葉は燃ゆる秋暮れて我が陸奥に凩の吹く
- 無念をば衣の袖に押し隠し九郎の妻子野辺
に散るら む
- 人けなき浄土の池に独り来て物思ひつゝ滑
(なめ) る石見む
- 何やらに物言いたげに坐す石に耳を澄まし
て深き祈 り聴く
- 池中に托鉢僧の如く立つ石に悟りを如何に
問はまし
- この小径かつて吉次が黄金積み京へ急ぎし
奧の大道
- 傾きし「衣の関道」の立札に何故か惹かれ
て細き道 ゆく
- 古き良き奧の大道とぼとぼと衣川にぞもう
すぐ出で き
- 細道のどこに稀少の遺産価値在りや無しや
は旅人に 聞け
- 胸に沁む景色なりけりどこまでも奧の大道
歩いてい たき
- 古のままの古道を是非ともに歩いてみたき
と、衣川 渡る
- 老子述ぶ「大道廃れ」の文言に砂利に躓く
我を戒む
- 降り積もる枯葉の中に埋もれて妙に寂しき
泉が城跡
- 知る人も語る人とて今はなく泰衡の首晒さ
れし跡
- 木枯らしに吹きさらされし枯れ葉たち行き
つ戻りつ 池を漂ふ
- 語るまい浄土の池の中島に若き日に来て願
を掛けし こと
- 「夏草や」と芭蕉が詠みし辺りをば「ただ
の河川 敷」とは何抜かしける
- ある人の「河川敷」なる発言に腰はくだけ
て悲しく もなる
- 素通りを意味する言葉「バイパス」の悲し
き響き脳 裏離れず
- 日光の杉の並木も街道も世界遺産になり得
ぬ意味問 ふ
- 横殴り雪は衣の川を打ち汀の枯れ木健気に
ぞ立つ
- 吹雪くとも西行翁の歌のまま衣の川の絶景
に泣く
- そこかしこ目には見えねど千年の往時偲び
つ衣川往 く
- 衣川糸を辿りてみちのくの書かれぬ歴史雪
間に探す
- ひときわに目立つ墳墓の二基在りて何やら
ゆかし並 木屋敷は
- かつてこの衣の川の周辺に安倍氏はおりぬ
黄金をも て
- 衣川かつて栄えし一族の栄華の跡に白雪の
降る
- 悲しきは汀の波に洗われて枯れゆく胡桃の
物言わぬ こと
- 風雪に堪えてもがいて胡桃の木命もなきに
汀にぞ立 つ
- 衣川の青き水面にくっきりと命を映す老木
は死に
- 世の中に恨み申さず去る人にどこか似てい
る汀の胡 桃
- 枯れ死んだ胡桃の影は生き生きと雪撃つ水
面で蠢き て居り
- 風雪に皮は剥がされ命なき木の姿にぞ命の
光見む
- 窓を打つ吹雪の夜の厳しさは想像越えて恐
ろしきか な
- 衣川の厳しき冬の風音に敗れし人の絶唱を
聴き
- この河に命を賭けて対峙せるふたつの御霊
今ぞ偲ば る
- 雪深き一首坂をば上り来て碑の歌口ずさみ
てけり
- この河を分けて隔てて並び立つ義家貞任勝
者などな き
- 衣川をヨルダン河と表したる菊地清氏熱き
ぞ語る
- 世の中に戦なき世のなかりけり汀の際の死
闘思はる
- 古戦場千九百の御霊死すと語る人ありただ
怖ろしき
- この吹雪西行翁から戴きし数寄の風情と有
難く受く
- 吹雪をば良かったと言えば土地の人又良
かったと返 す嬉き
- たくあんも下ろし大根みな甘き衣川村の恵
み香ばし
- 金売の吉次が跡に降り積もる雪は真白き野
辺に一面
- 長者が原の菊地清氏母君の甘き大根の自慢
ひとしき り聞く
- 暖かく我を迎えて戴きて古き良き衣川など
炬燵にて 聞く
- 「夢」という地酒を酌みて「少し甘き」な
どいう我 を許し給え友よ
- 我に取り衣川とは奥州の覇者の住まいし永
久なる都
- 凍てつきて朝は寒きに目覚めれば温きみそ
汁啜りて 嬉し
- 拍子木の音を空にて目覚めればはてあの音
は何の合 図や
- 風雪に耐えて安部氏の時代より攻めるに難
き衣川の 柵
- 眩しけり雪もあがりて白銀の光溢れて九郎
の城は
- 高館は只一望の雪景色、わが息白み夢跡に
伸ぶ
- 死にたくて死ぬはずもなき高館の主の思い
偲ばれて 泣く
- 雪を蹴り兵どもが高館に集まり来る幻想浮
かぶ
- 降る雪を白き衣に見立てなば館は花嫁義経
公の
- 雪掻きて段を昇れば言葉なし大河は凍りか
すむ束稲
- 着々と工事のすすむ高館の前のバイパス雪
中に翳み
- 誰来たる今日の美雪に深々と足跡刻む人の
在りしは
- 衣川に架かる赤橋雪降りて母の紅さす少女(お
ぼっこ)の口っこ
- 北上川をごう雪渡り小舟揺れ蝦夷の里を冬
将軍攻む
- 痛いほど雪が頬打つ奥州の寒さ凄まじ骨身
に沁みる
- やがて消ゆる定めを知らぬ古橋の雪に霞み
し雄姿悲 しき
- 雪の日も愚痴も洩らさず黙々と我が身横た
ゑ高館橋 生く
- 胸に沁む景色なるかな衣河、雪を衣に古城
真白き
- 年老いた西行翁の胸奧に如何なる思い在り
てぞ陸奥
- 風狂に生涯賭けし西行の最後の旅は冬のみ
ちのく
- 世の人の見つけぬ花を見ようとて佐藤義清
栄華を捨 てしか
- 西行の心に触るゝ旅ならば晴れより吹雪の
衣川見た き
- 雪晴れて西行翁の歌碑読めることの嬉しき
衣川今朝
- 雪國に生まれしことの幸せをつくづくと知
る衣川の 冬
- 胸に沁む雪の景色の衣川古城を廻りて大河
ゑそそぐ
- 雪深き関山下り西行は水面に自己(おも
て)を映し て見しか
- 雪深き古城のほとり、歳晩の西行命を燃や
し尽くせ り
- 雪衣羽織りて木々の若芽伸びこうして春は
衣川に来
- 衣川に浄土の使者が来ようとも翁の思いは
風雅一生
- 願文の清き魂(プシケ)を継げばこそ世界
遺産とか の地呼ばれむ
- 連なるや我らが遺伝子奥州に宿る魂(プシ
ケ)の流 れに沿いて
- 奥州の清き魂(プシケ)に連なれる啄木賢
治に我ら 続かむ
- たとふなら我ら皆々奥州の清き魂(プシ
ケ)の大河 の流れ
- 連綿と受け継がれたる清衡の建都の思い願
文に聞く
- 平泉、古き魂(プシケ)に連なりて世界遺
産と成る べくしなれ
- 嗚呼真白、浄土の池も降り積もる雪の衣に
覆われし 朝
- 中島の松の枝下仄かにぞ雪間に覗く浄土も
風情
- 一首坂、悲しかりけり勝者なくただ熱き血
の流れゆ く場所
- 冬も良き悪路の王の立て籠もる達谷窟の垂
れ桜は
- 古の都の跡のおちこちに墓の並びて吹雪に
向ふ
- 里人の小さき墓のその中に造り貴き石ふた
つなぞ
- うつくしと云うに憚る凄まじき吹雪渦巻く
泉が城見 ゆ
- 泉が城、貞任篭り忠衡も己が命をここに尽
くせし
- 荒びける雪の猛威に霞みしも泉が城守る杉
の凛々し さ
- 雪凄き吹雪の中を奥州の覇者も母恋ひ室乃樹通ひ
- 肌を刺す吹雪の中を母思ふ清衡独り母屋訪ねし
- 重てべなあ、七日市場の栗っこはひと背の雪っこ背負(しょ)って春待ち
- 降る積もる雪の白さを知る人に是非観て貰いたき衣川の雪
- 見渡せば雪に霞みて朧なる白山月山我を見てをり
- はて何処に、清衡公が勧請と聞こゑし関の明神様はや
- 雪衣羽織て眠る関山をかすめて白き冬の月ゆく
- 冬にはなぁ仕事もすねでじっとして心の垢を落とすもいがべ
- 吹雪く夜は熱い酒などぐっと呑みあとは歌でも唸ればいいさ
- 浮雲を飛龍の見ゆと人言ゑば天馬と表す人いて可笑し
- 物言わぬ雲に何をか託せしか九郎の無念空涌きて泣く
- 物言わぬ雲に何かを語らせて九郎の無念空
湧きて消 ゆ
- 瑠璃色の空に白雲舞ふごとく静の初舞、高
館山に
- 命賭く恋に生き死に舞ふ女の姿と見ゑし今
日の白雲
- 寒けれど古き奥羽の覇者の趾、川は廻りて
淀みを知 らず
- 衣川に舟を浮かべて在りし日に九郎祈るや
戦なき世 を
- 鬩き合ふ安倍源の戦乱をせせらきに聞く衣
川の冬
- 雪晴れて古き奥羽の覇者の趾、川は廻りて
淀みを知 らず
- 無量なる希望溢るゝはずの寺、雪の枯れ松
無性にか なし
- 松たちよ雪折れ虫は喰わむとも秀衡公の祈
り忘るな
- 寒ければ温き甘酒供として浄土の池をあち
こちと往 く
- 寒ければ喉を流れてほのぼのと五臓六腑に
甘酒の沁 む
- 許されよ池を見たいという母を憎まれ口で
連れざり し吾
- 幼くに母が作りし甘酒の味蘇る寒き朝の寺
- 甘酒を老いたる母に「熱き」など云い手渡
すもよき
- 山門に積まれし雪の白さをば寺守る人の心
と知れり
- 山門に世界遺産を願ふ板雪間に建ちて凛と
こち見る
- こ
ころ
はや早極楽の父の元馳せると云へど吾子ら気にかく
- 我
ら見
るこの月光の高館を誰か名残りと後に偲びむ
- 衣
川の
水面に映る月影の朧に見えて武者をも泣かす
- 我
が友
よ私心を棄てし義に報ふ術無き吾を赦し給ふや
- 何
の
殿、君に仕ゑし幾年の苦節も今は面白き夢
- 誰とても往くに時あり今ここで時を失すること
のなきよ う
- 衣
川今
にし見れば我がことをいつも気に掛く母の面影
- 刻
々と
時は迫りぬ東の束稲山の空も白みて
- こ
み上
ぐる瞼に浮かぶ熱きもの覚らせぬまま高館を往く
- 滔
々と
流れる河の水音にそぞろ震ゑの訳ならなくに
- 暗き河照らし出したる金色の月に祈りの蓮華を
手向けむ
- 金色の月に祈らむ我が命天に抛つ覚悟決めつつ
- 奥州の山河に月の満てる景、我が生涯の思い出
にせむ
- ほろほろと今年限りで見納めの高館橋に桜散りゆき
- 儚きは戦後生まれの古橋に隠居せよとの時代のうねり
- 見納めと思えば悲し高館の古き橋にぞ花降りかゝり
- この場所を離れがたきは桜花より高館橋の見納めのせい
- 嘆くとも無常に時は過ぎゆきて二度と戻らぬ風情のありぬ
- 吾
ひと
り高館に居てふり雪ぐ宙の気受けむ我孤に在らず
- 彼
の人
の目に何かしら光るもの見ゑきて我も心震ゑぬ
- 誰
か見
る景色なるかな今はなき高館の夜の永訣の月
- 彼
の人
の眼に月は照り映えてやがて涙の玉となるかも
- そ
の昔
かの地に命捧げたる男子の思い花は知るらむ
- 花
咲けど
削り取られし北上の岸辺の傷はもはや隠せず
- 衣
川に架
かる鉄橋指させば手を振る人の乗る汽車の行く
- 若
草の萌
ゆる五月の衣川水清くして鮠泳ぎくる
- 北
上の岸
辺に生ゐし菜の花の主を誰と問ふ人のなき
- 満
々と水
を湛ゑし北上の彼方に霞む駒嶺の影
- 薫
風に五
月の雲の棚引きてしばし見とれる高館の空
- お
し鳥の
長閑に浮かぶ北上の雪解け水の青さ冷たさ
- 数
知れぬ
鳥たちの棲む隠れ家の岸辺壊さぬ人でありたき
- 変
わり行
く兵どもが夢の跡見ぬようにする視線悲しき
- 若
人の明
日がよき世となるように天まであがれ鯉のぼり
- 堤
防を兼
ねるといゑど高館を串射す如き無礼許さじ
- 心
ある人
に見せばや稀少なる命のすみか北上の岸
- 春
の日を
浴びて眩しき波間飛ぶつばくらめ二羽巣を作りをり
- 舟
行かば
溢れるほどの鳥たちの命の営み目に眩しけり
- 我
らゆく
大河の先に何待つと言ゑどもしばしこの波に乗る
- 雪
解けの
水を湛えし北上の大河を上るアテルイを見に
- 薫
風の北
上川を高館へ小舟の我ら義経が使徒
- 古
都をほ
ぼ串射すような道の町を世界遺産と誰が呼ぼうか
- ユ
ネスコ
の世界遺産となるからは相応しきかな高館バイパス
- 高
館に登
りて見ればみ堂はや花の衣に抱かれし春
- 花
に浮く
人にはなれず茫然と工事の進む高館に立つ
- 何
処にも
花は在れども花立の池に降り積む花を忘れじ
- 惜
しめど
も花たちは皆潔く散り給ふなり花立の池
- 北
上の中
州飛び立つ鷺一羽母かも知れずふる里の河
- 北
上の中
州飛び立つ鷺一羽やがて真青な空に溶けゆく
- 何
故ここ
に現れたるや義経の視線の先に高館の月
- 畏
れ見
よ露とも消ゆる命なり消してはならず高館の景
- こ
の蓮
は母に手向けむ金色に光る月にぞ託してそっと
- 平
成の御
世に現る英傑の静かな御姿、時忘れ見る
- 遊
歩道も
自転車道も造らずに夏草茂る古道の古都に
- バ
イパス
は無いよりも在った方が良いという思考の意味が分からず
- 遊
歩道も
観光資源という一見の正論彼の地に合わず
- 消
されゆ
く高館の景しみじみとこのままずっと眺めていたい
- 大
声で 「これはいかん」と云う人の以外になくて地元平泉
- 夕
暮れて
「永訣の月」の村山の祈り届くや高館の空
- 村
山の精
魂込めし一作は「永訣の月」、天をも泣かす
- ふ
とふい
に額のガラスに浮かびしは高館に消ゆ兵の影
- *
新しき
肖像に入る義経の御霊が降らす雨や一日
- 平
安の虚
妄の空気一撃に払いし武者は高館に消ゆ
- 智
慧あら
ば岸辺を切れば鳥たちの棲家を奪う事を知るべし
- 衣
川哀れ
なるかな水底をみれば敷き詰むコンクリの塊
- ひ
と目に
は良きとも見えて衣川魚目で見れば棲めぬ川かも
- 暴
れ川成
敗せむとする如く神も畏れぬ人族の業
- ふ
る里の
岸辺に憩ふ鳥獣の声を聴きつゝ春の河ゆく
- 衣
川に光
は満ちてゆらゆらと萌ゆる命を映して揺れぬ
- 舟
ゆかば
命の河に命たち満ち溢れゐて我が春を生く
- 高
館に又
夏は来し主なき館は埋もる露草の中
- 戯
れに夏
の高館見上げては「義経見参」と声挙げてみる
- 北
上の川
面を伝い法螺貝の音は響きをり義経堂へ
- ひ
らひら
と散りし命の花びらを永遠(とわ)に繋ぎし人の優しさ
- ひ
らひら
と散りし命の花びらを繋ぎし人を神は探し
- ひ
と目見
て村山義経「セクシー」と表す喜納氏の感性に唸る
- ま
じまじ
と飽かず星々見るように喜納昌吉氏九郎を眺む
- 訥
弁で語
る喜納氏の言の葉に沖縄人の魂(マブイ)を感ず
- と
つとつ
と文字の並びし色紙から沖縄の海の風波の聞ゆ
- 訥
々と己
が感ずるありたけを色紙に綴る喜納氏を待てり
- 訥
々と色
紙に綴るひと文字に「花」を感じる喜納氏の「花」を
- ば
らばら
に散りし木の葉も瀬を行けばやがて海にぞ会える日もあり
- 黒
櫃にみ
酒浸して奥大道運ばれ行きし「神の首」嗚呼
- 死
して尚
畏れる人の多くあり、それ故「御首」鎌倉入れず
- 首
と胴ふ
たつになりしみ霊をばひとつにせむと発起せし人
- 「神
の 首」何処にあると思ふらむ相州藤沢白旗の地に
- 「神
の 首」御輿に担ぎ連綿と八百年の永き労り
- 「神
の 首」畏れかしこみ社を造り守りし人ら我ら讃ゑむ
- 九
郎なら
如何にバイパス思ふらむ歴史観なき国土開発
- 何
故文化
庁が入らむと云ふ菅原氏の弁なるほどと感ず
- 目
に見え
ぬものしか信ぜぬ傾向文明病と喜納氏は断じ
- 歴
史なき
エコ運動の欠陥を指摘す喜納氏に我賛同す
- 花
愛でる
心忘れし世の中を激しく打つや村山義経
- 名
もなき
人心ある人様々に村山義経何思ふらむ
- 立
ち止ま
り又立ち止まり人の足しばし止めし名画生まれむ
- 孤
独では
なく「孤高であらば救われる」と云ひし喜納氏の眼に涙浮く
- 孤
高とは
独り高みの青山に坐して月影眺めゐしこと
- 「こ
の道
や」の芭蕉の絶句を云ゑば喜納氏の眉微かに動きぬ
- 未
踏峰、
重き荷を負い又一歩登りし人の孤高喜納氏にも
- 孤
独なる
重き荷を負ふ孤高の徒、天に乞われて九郎に集ひ
- こ
の蓮は
この絵の「花」と我云えば静に頷く喜納氏の頭
- 朝
に咲く
蓮は「ポン」とぞ音出して開くと云えば喜納氏笑いぬ
- 孤高に生く人は良きかな誰ひとりこの絵の前を去ろうともせず
- 損
得で生
きる時代に悠然と白旗の神に導かれゆく
- 北上に光り揺らめき奥州の短き夏は今生ま
れ来し
- 侘び寂びと知った口利く者も見よ銀色に染
む日高見 の川
- アザマロやアテルイ見ゆる山の端に奥州人
の雄姿果 てなし
- この川をあの山こそを砦とし命燃やして散
りし勇者 よ
- 懐かしき故郷の川北上に生きる力を貰ふ気
のする
- 勇者とは己が欲をば振り払ひ人の為とぞ奮
い立つこ と
- 夏川に羽根を傷めし白鳥のぷかりぷかりと
漂ふもお かし
- 赤腹に鮎が舞ひ来る北上の彼方に霊峰駒峰
の夏
- 銀鱗をこれ見よがしにすり寄せて赤腹たち
の恋の季 節よ
- 泰衡が蓮は咲くなり金色の種を宿しつ中尊
の地に
- 蓮よ蓮、判官を討つ泰衡の切なき思ひ君知
り給ふ
- 世のけがれ洗い流すや泰衡が科も妙音この
蓮に代ゑ
- 高館の変貌振りを天も観む茂れる青葉に慟
哭の雨
- 愚かさや変貌せらる夏草の景勝の地は観る
ほど悲し
- 人の智慧愚かなるかな、かけかへの無き夢
跡に砂利 は積まれて
- 愚かさやかけかへのなき夢跡に砂利は積ま
れて夏草 もなし
- あるがまま目を背けずに愚かなるバイパス
工事の顛 末を観む
- 笑わすな世界遺産の名の下に裏で進みし破
壊の企み
- 愚かさもここに極まりちらほらと景観破壊
に諦念の 声
- 高館の桜花の青葉うなだれて見ゆるは工事
進みし為 か
- 大池に泰衡が蓮咲きませば奥州は皆楽土となりぬ *
- 法螺の音が高館山に木霊して涙の如き雨そ強まる *
- 大河から高館見上げ偲ぶらむ花ある武者の最期の一夜を*
- 舟縁に思いの丈を「永訣の月」と描きし画家(ひと)が手を振る*
- 村山の義経肖像ふり仰ぎ言葉もなくて涙滔
々
- みな月の雨に艶めく経蔵は茂れる青葉に負けず若かり
- 幾たびか業火迫りし経蔵を守りし菩薩(ひと)の御恩に手合わす
- 霧雨にわが躯(く)を余計輝かせ蕉翁永久に奥州に在り
- 蕉翁の「ほそ道の旅」偲ばむとしばし一時鞘堂に入る
- この丸き桶の底には泥在りて泥の中より蓮華は生ひぬ
- 真ん丸き蓮桶(おけ)の
宇宙に天
よりか恵みの雨は零れて満てり
- 釈迦堂の木の根を見よや奥州の心根映し強く逞し
- 判官の妻子も共に眠るらし雲際寺なる古刹に詣で来(までく)
- 鞘堂の脇の軒先草分けて銅の蕉翁ぬっと顔出す
- 青々といろは紅葉は経蔵を労るように垂れかかれり
- 高館の前に置かれし土砂の山悲しかりけり山は崩せず
- この土砂もどの山崩し運ばれしものやも知れず妙に悲しき
- 心なきバイパス工事のショベルカー土砂を抱えて夢跡を踏む
- 消され行く夢跡見ればおそらくに世界遺産の精神は泣く
- 削られし大河を見れば余りにも痛々しくて涙溢るゝ
- 麗しき景色を見事に破壊して造る道とは驕りの道か
- 円かなる桶に眠りし泰衡が蓮は秘かに時節待ちをり
- 自刃後に妻子諸共運ばれて人皆泣けり判官
の寺 *
- 夏草の里はいつしか消え失せて木の判官は
何思ふら む *
- 葛の葉を夕立打ては高館に判官は来る鳴神となり
- もどかしき思いは消ゑず夏草の深き緑を目
に焼き付 けむ
- 生き逝きてまた蘇る一輪の蓮の如くに我も
また生く
- 判官の館を仰ぎ見、ゆらゆらと夏の大河を
神輿舟ゆ く
- 朱の輿を飛び出さむかな判官の八艘飛びの
雄姿の浮 かぶ
- 泰衡が面に見えて仕方なき幼き蓮も明日な
ら咲くや
- 大池の幼き蓮にどこからかあきづ舞い降り
ささやく そぶり
- 大池の幼き蓮は泰衡が面に見ゑてどこか悲
しき
- 蓮咲けば思い出すかなその人の「良き思い
持て」と の諭しの言葉
- 団扇持つ手も止まりける記事のあり「藤里
貫主逝き 給うなり」と
- 大乗の心を今に伝ゑつつ師は旅立ちぬ夏の
盛りに
- 忘れ得ぬ師の面影を高館に偲びて泣かむ判
官像と
- 声明を唱える貫主(ひと)の一途さを我も
学ばむ灯 明として
- どしゃ降りの中で御神楽じっと見る貫主
(ひと)の 人柄永久に忘れず
- 法要の記念の「散華」取り出して今に偲ば
む810 年祭を
- むらさきの菖蒲の花を奥州は浄土の池に根
付かせし 貫主(ひと)
- 師の思い浄土の池のおちこちに花と咲きな
む菖蒲の 花と
- この蓮の謂はれを聞ゐてはらはらと涙を流
す妻を抱 けり
- 中尊の地に咲く蓮の眩しさに胸ときめくも
やがて悲 しき
- 住民の悲願を知れと言うけれど合意形成何
処に在り き
- 正常な臓器取られる思いする高館直下工事
の喧騒
- おもちゃ箱をひっくり返したようにして工
事は進み 橋爆破さる
- 祈りある宗教都市こそ美しき町の基本と五
十嵐敬喜 氏
- 水害と洪水の区別知りもせず川を語るなと
天野女史 吠ゑ
- ささ波の起つ朝に来て初盆の浄土の池のか
なたを見 つむ
- ささ波の池の木陰に何語り浄土の風を母た
ちは受け
- 基衡公の思い再び再興す故人の大恩この本
堂に在り
- 大恩人藤島先生逝き給ふ後に残りし我ら継
ぐもの
- 毛越寺薬師如来の慈悲の風、吹き渡りけり
我が心ま で
- 「ただの河川敷」と誰か言えば、「ザワザ
ワ」と柳 の御所の枝垂れ桜泣く
- 思わずに己が心臓くり抜かるゝイメージの
して後ず さりする
- 平泉の工事現場に来て見しは己が心臓取ら
れる悪夢
- 「時代による眺望変化は当然」と言ふ人あるも我「ノン」と云ふ
- どっかで見た景色に見えて官製のバイパス予想図色毒々し
- 船縁に手を振る人は川一途日本を見つむ天野礼子女
- 立ち並ぶ工事看板よく見れば完成期日来春と在り
- 河削る工事をじっと凝視せる御所跡に生ふ葛の葉の無言
- 文明のおごり高ぶりこの資金(カネ)は日本国民フトコロより出ず
- どのように代弁しても景勝地高館は消ゑ元に戻らず
- 置き去りにされし田舎の平泉ついにここにも公共工事
- 貫主逝き早三週の時過ぎて台風一過浄土の池見む
- 誰も見む景色を見むと本堂の横に回れば朱色眩しき
- 寄り添いし恋人たちは木漏れ日の浄土の池でフォト取り合ひし
- 何故かくも美しき蓮かの寺に清衡公の思い偲はる
- 雨風に打たれ揉まれてそれで尚、泰衡が蓮一隅に満つ
- 雨風に打たれ揉まれてそれでもに泰衡が蓮今年もここに
- この蓮の役目を問わば敵味方恩讐を越えて結びつけしこと
- よく見れば人と同じくとりどりの容貌(かたち)してをり泰衡が蓮
- ふる里の野生の川の(ワイルドリバー)北上は命育む大地の太母(グ
レートマザー)
- 一粒の胤より出でて中尊の地に満つ蓮の命
の輝き
- アフリカのたったひとりの太母から人は地
に満つこ の蓮も又
- 花愛でし西行詠まぬ蓮の花艶やかすぎしそ
の色故か
- 西行は光堂さゑ歌とせぬ意志の強さのよう
なもの在 り
- 個性化の時代に何故か平準化、平泉らしさ
何処にあ りや
- その道(バイパス)はまるで川をば蝦夷と見て高き城にて防ぐと見えたり
- オシドリの憩いの岸辺コンクリとなればこ
の二羽何 処に行かむ
- この道に景色もなけり山越えて万里の長城
伸びるが 如し
- 芭蕉曾良この場に立ちててしみじみと滅び
し者の悲 運に泣かむ
- この景色胸にしまって常世まで語り継がむ
と高館に 泣く
- 不可逆の卵の如き大河堕つ町民八千総意と
称し
- 物言はぬ平泉にそ大戦の流れ止め得ぬ心理
宿りぬ
- 奥に在る思ゐ語らぬ住民の心に潜む重石は
何か
- 日本人、只茫洋と散りゆきぬ花愛でし民と
も思ゑず
- 秋風は水面を渡り稲田越え束稲山の我が頬
に触る
- 西行がもし現代に在るならば花の前にそ何
をか詠ま ぬ
- 夏は過ぎ芭蕉の嘆き聴けばとて奥の細道知
る人のな き
- ガリガリと河掻き削るショベルカー悲しか
りけり生 きる為と云ゑ
- 考ゑず考ゑず思考停止のままで居る平泉に
そ地獄は なきや
- 清衡の思ゐ虚しく古寺以外浄土の風情消さ
れつつあ り
- 声潜め過ぎゆく時を眺めても解決策の湧き
上がるな し
- 平泉、袋小路の兎かも市町村合併の嫁と乞
はれて
- 平泉、世界遺産になったとて宿泊客の素通
る不安
- 遠浅の海にも見えし景色かな高館古写真ま
ぼろしの 如し
- 古写真の傷跡もまた懐かしき束稲山の雄姿
眩しく
- 川光り北上川の川筋を俄に過ぎる夏鳥の群
れ
- 杉の根の薄暗き森分け出でて眼下に浮かぶ
安倍一族 の夢
- 下り行く東北本線この先で無量光院切り裂
きて行く
- 國衡の館の跡に聳えしは友が学舎平泉小
- バイパスを写らぬような構図取る無意識の
我ただ情 けなき
- 國破れ山河在りけり。その山河、危機に瀕
して秋暮 れなずむ
- 秋の日は早金色に輝きて金鶏山を炎(ほむ
ら)の山 とす
- 物言わぬ山河に何か語らせてあかあかあか
と秋の日 沈む
- 伽藍みな燃え尽きてなほ消ゑ遺る二代基衡
の夢ここ に在り
- うつせみを映す鏡とその池を覗きて見れば
浄土の門 見ゆ
- ゆく秋は奥の古寺で一休み紅葉の衣を池に
映して
- 誰名付くものやらいつかこの紅葉「奥の紅
葉」と云 ふ人のいて
- 時に燃ゑ時には泣きてうつせみの儚の夢や
紅葉見て 泣く
- 手を取りて中尊寺ゆく老夫婦止まりてしば
し紅葉を 見詰む
- 役目終ふ旧鞘堂に降りかかる紅葉愛しき人
を守るよ ふ
- 儚きは浄土の池に映りゐて妖しく揺るる晩
秋の月
- 夕暮れの浄土の池に独り来て池に浮かびし
白き月観 む
- 蓮死せず文化も死せず奥州の心伝ふる蓮愛
しけり
- 奥州の心伝ふる泰衡が蓮眠りたる大池の秋
- 蓮枯れてうち滅びたる奥州の兵浮かぶ大池
の秋
- この蓮を我が奥州の誇りとし永久に伝えむ
未来の子 らに
- 高館の前に聳ゆるバイパスの異様な違和を
誰承知で き
- わするまじ、世界遺産を招致せし人らなし
たる破壊 の跡を
- 物言ゑぬ橋の袂の桜とて物言いたげに橋見
詰めける
- 半世紀ともに彼の地に生き老いて遺される
木と壊さ れし橋
- 埋められて川埋められて2002年古都を
掠めて日 高見川ゆく
- 埋められて川埋められて歳の暮れ涙あつめ
て川は流 れる
- 大切な父母を失ふあの時の悲しみ思ふ今の
高館
- 目の先の蠅を追うことすら出来ず何を言ふ
かと言ふ 人のゐる
- 結局は蛇に巻かれる蛙ごと平泉バイパス工
事は進む
- 人民の人民のための政治説く政治リーダー
奥州に出 よ
- 現状を表現すればともかくに時代錯誤の計
画続行
- 人間の愚かをみせて奥州に不用の長城(バ
イパス) いま甦る
- たて髪を剥ぎ取られたる獅子のごと高館山
の雑木林 は
- 神棲める奥羽の雪山目指すのか都市化の波
を止める 術なし
- 夢醒めて大切なものを無くしたと気づく日
はいつか 日本人
- 弁慶の館の跡も鳥獣の憩ひの藪も剥がれて
無惨
- 神の河の岸辺に立てばバイパスの工事道具
が凶器に 見ゆる
- 訪れる度に、かっとぞ胸打たる浄土の池の
摩訶不思 議かな
- 飽食の時代にありて夢跡に我願ふなり吾子
(あこ) 輝く未来(とき)
- 奥州の雪の白さよしんしんと降り積もりた
りひと夜 明くれば
- ひと夜ふる雪もあがりて三峯の山はさしず
め白蓮の 苑
- ふる雪の白き衣を纏ひ着し衣の関の跡尋ね
ゆく
- 村山はこの寺に座す観音の声を聴きしと真
顔で言へ り
- 雲際寺再興せるは判官の奥方ならぬよくよ
くと知れ
- 判官を守りて吉野北國と導く先達「頼然」
が寺
- おそらくに如意輪観音この像は思ひ残せし
人の美姿
- 雪埋もる寺に出で来て判官の想ひ偲べば木
枯らしも 泣く
- 判官は「永訣の月」と題されし画で甦り彼
の地に戻 りぬ
- 寒けれど夕日に染まる束稲の山に向かゑば
歌生まれ くる
- 寒ければレンズも霞む奥州の冬の夕映え息
止めて撮 る
- 夕空に枝垂れ桜の影映えて毛越の里に寒き
夜来ぬ
- ひゅーひゅーと木枯らし荒ぶ田畑の彼方に
浮かぶ関 山の影
- 宗任の血を引く人の建てし寺、観自在院雪
しかなけ り
- 池宿る鳥たちは今どこにゐて奥州の冬やり
過ごせし か
- 寒風は衣の河面射るよふにひゅーひゅー
ひゅーと吹 き荒びたり
- 降り騒ぐ雪は安倍氏の往生のまだなきこと
の証とも 思ふ
- 見る度に郷愁つのるこの蓮(は
す)の どこに御霊(いのち)は宿り給ふや
- 誰撮りしものやも知れぬ古写真の古寺の風
情に酒進 む宵
- 奥州に皆金色の寺ありき富める不幸の美徴
(みしる し)として
- 何もなき無量光院礎石跡幻想視たと云ふ友
の真剣
- 遺されし宝物あはれ輝きて板東武者を惑は
しけるも
- 戦なき世を希求せし清衡の曾孫泰衡戦はず
散る
- 中尊の寺に詣でて北方を望めば大河は青龍
の如し
- 「祈り」より尊きものはなきはずを寸断さ
れし聖地 を悲しむ
- 聖域の聖地を分けて築かるゝ平泉バイパス
に天罰はなき
- 沈黙の聖地となりてひそひそと「世界遺産」の声のみ聞ゆ
- 何方のことではなくてふる郷の祈りの聖地に危機迫り来ぬ
- 高館に春は来たれど霞たつ山河を遮るバイパスの陰
- 空をゆく雲さへ此地行く時はかしこまってぞ飛び行く見ゆる
- さりとてもこのバイパスをこさへつつ「世界遺産」とは片腹痛し
- 忘られる高館山の眺望を書き留めおかむと歌作りおく
- 北上の岸辺に立てば赤々と金鶏山に夕日は沈む
- 幾度となく戦火に焼かれし草むらの雑草たちの逞しさ見よ
- 判官と消ゑゆきたりし忠臣の心を汲めば大河とならむ
- 道行ば朝日に映ゑしつゆ草の玉の涙に往時偲ばむ
- 滔々と清水溢るる北上の流路を分けてユンボは進む
- この工事誰も良きとは思はねどそれでも止まず、公偉大なり
- この人も土塊ばかりの高館のブル往く様を記録し居たり
- 高館の旧橋消ゑて寂しげに袂の桜ぽつりと居れり
- 旧跡の袂に生きて半世紀人の愚かを桜見詰めゐし
- ふる里に春は来たれど寂しさは2003年ますます募る
- 霞たつ金鶏山に湧く虫も春の訪れ感じをるかな
- 華やぎの春を前にし池の辺に祈りたきこと念じつつ立つ
- 旅人や変貌凄き高館の景観記録す人の在りけり
- 「変わったね」と短き言葉残しつつ高館を去る人の思ひは・・・
- とうとうとここまで来たなといふ外はなし平泉バイパス
- もうじきに咲くと思ゑど桜たち何を思ふやむき出しの大地に
- 古き橋ここから伸びて向こう岸連なり居りし古きを思ふ
- 自然をば征服せんと奢る者君が信じる神何処なり
- 茫然と立ち尽くすなりこの景色余りに痛し桜に旧友(とも)なく
- 平泉わがふるさとの平泉羽をもがれし白鳥
のごと
- 夢跡の現実見れば悲しくて「これも悪夢
(ゆめ)」 とぞ思いたくなる
- 悪路王と呼ばれし人は誰なりと達谷窟の華
はまた咲 く
- 奥州にアザマロアテルイ生き変はり死に代
はりして この桜花生ふ
- 春来
れど芽ぶくものなき赤土の北上河畔ほろびの風吹く 詠み人知らず
- 物言わぬ柳の御所の桜花耳を押し当てその
声を待つ
- たいせつなもの皆捨てて何を得るつもりか
知らず沈 黙の春
- 奥州の浄土の池に春の日は空より青く天を
映せり
- 見慣れたる春の高館変わり果て桜花咲けど
も来る人 やなし
- 何もなきこの草むらの何処かで清衡見たり
夢の楽土 を
- たんぽぽの可憐な花を踏まぬよふ強者ども
が夢の跡 往く
- どきどきと鼓動響かせ蕉翁もこの石段を登
りしもの か
- 高館に勇み来たりし蕉翁の前に拡がる夢跡
は消ゆ
- 夕べ落つ天の涙や夢跡にあふれるほどの溜
まり水か な
- 夢跡が崩れ去る日の幻想が脳裏を過ぎりふ
と怖くな る
- 奥州の個性も何もあるものか2003年春
の高館
- 未来へと命を紡ぐ北上の大河も今や水路に
等し
- 古池に桜花舞いたり花いかだ今年も浮きて
何故かか なしき
- ふる池に桜舞い散り金色の甍煌めく頃想ゐ
たり
- 鈴懸の森ひき裂かれきり裂かれ哀れなるか
な分譲地 なる
- 何をもて世界遺産と云うべきや清衡公の祈
りも知ら ず
- 金色の小函に込めし清衡の祈りはひとつ平
和奥州
- 崩されし鈴懸の森望みゐて泣かずにおれる
人おるも のか
- 誰がための工事なるかな生きる木を根こそ
ぎ斬ると 公言せし国
- 「さくらさくら」と奥州の方角向きて斬る
という発 想忌みて拳ふり挙く
- 桜の木無事で居てよと念じつつ柳の御所に
たどり着 きたり
- 御所の石ひとつ拾いて桜の木なぜに伐るか
と天ふり 仰ぐ
- 日々壊れ日々に不毛の地に落ちて高館直下
カラス群 れなす
- 何思ふ桜は独り凛として無言の抵抗続けて
立てり
- 責任は誰が取るかと問われれば横を向くの
か関係者 たち
- 無遠慮なコンクリートの固まりに占拠され
ゐてわが 平泉
- いつの日かバイパス工事の間違ひに気付く
日あらむ 誰何と云ふと
- 間違いは間違いと云をふ「平泉バイパス工
事負 の遺産なり」と
- 小舟乗り魚を釣りしふるさとの北上川にオ
シドリ居 なく
- 無造作に伸びる堤防味気なく燕それでも空
飛び交ひ ぬ
- 健気なるツバメ我が子のために飛ぶ先で工
事のトラックの群れ
- 「桜伐る、許されぬこと・・・」どこから
か清 衡公の声ぞ聞こゆる
- いつの日か清衡公の存念がコンクリの橋脚
(み ち)崩す日あらむ
- しずしずと暗き空より舞い降りる雨の滴は
大河 の嘆き
- 見渡せば暗き空よりしずしずと大河に天の
涙の 落つる
- 高館の直下を見れば奥州の山河刻々壊され
ゆく 見ゆ
- しみじみと吾が無力知る工事場と化した夢
跡お ろおろ歩く
- 合併に揺れる町民ふるさとが壊されゆくに
意見 は持たず
- 滅びける奥州山河に往時咲く大輪の蓮甦り
たり
- いつの日か閑かな静かな平泉の訪れる日を心待ちせむ
- 清衡の祈りも知らで高館にバイパス通す人の愚かさ
- 清衡 の建都の祈り知りたくば高館登れ芭蕉のごとく
- 突然 に降り出す雨を気にもせずやがて射す陽を蓮は待ちたり
- 八百 年の長き眠りを目覚むれば夏の嵐も蓮心地良き
- 艶や かに咲きたる蓮の大輪の横なる朽ち花黒く萎みぬ
- 朽ち るという刹那の中で観ればこそ花は美し中尊寺蓮
- 敗者 をば弔はむとて大輪の蓮を手向けむ奥州人は
- もの 云わぬ中尊寺蓮観ていると往時偲ばれ涙溢るる
- 泰衡を弔はむとす奥州の心の華か中尊寺蓮
- 生と死の幻影を覗(み)し奥州の古寺蘇る大輪の蓮に
- いつか見し中尊寺蓮ほつほつと甦りけり吾が胸肝に
- はらはらといろは紅葉の舞ふ朝に清衡公の塚詣でたり
- 花一輪花一輪に泰衡が無念浮かぶや中尊寺蓮
- 弁慶の屋敷の跡と伝へ聞く辺りに掛かる工事止め得ず
- 工事はや奥州四代強者が政務を執りし跡に来たりし
- 木々伐られ草はむしられ高館は地滑りの危機あると知るべし
- 「夢跡」はカラス群がるおぞましき工事現場となりにけるかも
- 岸辺から水鳥消へて今はもう烏以外に鳴く声のなし
- 百年に一度の洪水に耐へる」との見解あれどはて「千年」では
- ふと見れば観音山の中腹の採石の跡陽に光たり
- 秋暮れて変貌凄き御所跡の工事現場に桜木凛と
- バイパスの殺風巨大な盛り土を古都の守りと誰思ふべし
- 青々と秋空映す北上の大河もただの水路となりし
- 晩秋の柳の御所跡記さむと始発列車に飛び乗りし朝
- 文明を奢りし輩神領に足踏み出せり障り畏れず
- 奥州に山河の在りて古都消へて雲にかすみし清衡が夢
- 陸奥の空に瞬く金色の星を掠めて雁闇に消ゆ
- 晩秋の卯の花清水冷たくて胸しみ渡る曽良の悲しみ
- 赤や青、工事現場は雑然と資材積まれし高館の下
- 赤とんぼ冬近くして高館の工事現場に逆さに眠る
- かつてこの細道を越え芭蕉曽良衣川にぞいかんとぞする
- 平泉わが平泉古き良き平泉今夢跡消さる
- どんどんと島の如くに成長す衣の河の中州かな
- 高架線やけに気になる衣川、古歌に詠まれし面影のなし
- 関山に散りし紅葉の一葉を西行歌集の栞(しおり)とやせむ
- 束稲の山に流れる雪雲の雪は解けゐてわが頬を打つ
- 中尊寺東物見の景色にもバイパス見へて興ざめならむ
- 奥州の冬の厳しさそのままに流れに映る松の倒木
- 木枯らしの起こすさざ波古池に散りし紅葉を浄土へ運 ぶ
- 古池に散りし紅葉は木漏れ日に照り輝きて我に手を振 る
- 古池に散りし紅葉は幼子の「さよなら」と振る小さき 手かも
- 木も山の我もそなたも奥州の冬の真中に埋もれをりけ り
- 誰のやら冬の真中の奥州の関の明神辿る足跡
- 奥州の真冬の風に身を晒し「南無阿弥陀仏」と関山拝む
- 「なぜなの?」と、来る人誰も高 館の景観破壊に疑問投げかく
- 文明の利器、怪獣のごとくして夢跡に立つ桜かな
- 聖山
を見下ろす位置に住まいして恐くはなしや仏罰のこと
- 西
行はいかに渡らむこの大河束稲山の桜見むとて
- 衣川の水面に遊ぶ光たちは
光堂から出でし童か
- 衣川を三条吉次の帆船が風
を孕みて行き交ふ昔
- 西行が焦がれ尋ねし衣川我
も見むとて岸辺をありく
- 水溢れ水生き生きと流れた
る水の都にして平泉
- 心もて寺僧ひたすら守り来
し久遠の祈りこの古寺にあり
- 月見坂歩き通して中尊の古
寺に祈らん幸多かれと
- 戦争の悲惨を語る願文の祈
り忘るな奥州の人
- 来て見よや奥州掠めし大盗
が腰を抜かしし大長寿院
- たふたふとたゆることなき
北上の流れをながめもの思ふ岸
- 白き月やがて黄金に輝きて
金色堂の上に掛くれば・・・
- この桜花義経公の献花とて
頭垂れればヒュルルーと鳶
- 海の青変わらずにして腰越
に無念残せし人の影視ゆ
- 誰がために建設したるもの
なるや巨大バイパス醜かりけり
- 開発も世界遺産も欲しいと
いう虫良き話通じるものか
- 花さけど花見の酒はバイパ
スの土の裂け目に捨ててしまおう
- 雪解けの水の流れを水害と
言い切る人の肩錨けり
- 遣り水に流れされ行ける一
枚の花になりたや大泉が池
- 訥々と語る翁の人生のよう
に胸染む大泉が池
- 奥州の厳しき冬をやり過ご
し花の盛りに折るるも桜花
- 役割を終ゑし鞘堂花春に芭
蕉おきなと立ち話かな
- その昔秀衡さんは花の頃こ
の中島に何を観せり
- 咲く花も鳥も魚も一心に自
然に生きるさて人間はや
- 奥州の山河に夏の草生ひて
815年の時過ぎ去りぬ
- 西行の歌こそ聞けよ束稲の
山荒れけるは奥州の恥
- 彫り深き達谷窟の大仏に平
和祈れば山鳥も啼く
- 奥州に倒れし命の御霊をば
浄土に送ると摩崖仏立つ
- 来てみれば龍頭鷁首の舟出でて浄土の池を早渡らんとす
- 寿命まで生きる術ありその極意「若女」の舞に諭され来たり
- 何をもて「平泉」となむ中尊寺供養願文その問いを解く
- 「草」というお題一語を語り終ゑマドンナほっと曲水の宴
- 延年の舞に秘されし延年の祈りがありて毛越寺建つ
- 曲水の宴で聞きたる京訛り違和持ちながら受け入れむとす
- さてもやは宴の主役誰なるや水辺の童子歌人焦らす
- 我も又講師(こうじ)の和歌を聞きたきと青葉若葉もせり出して来ぬ
- 終宴は寂しきものよマドンナの席立ち歩み舟乗る姿も
- 宴終ゑて浄土の池を帰りゆく歌人の舟に薄日の褒美
- 遣水の辺(ほとり)に集ふ人人の前を斎宮しめやかにゆく
- 返盃は都忘れの花添へて宴も佳境と童駆けっこ
- 平泉なる価値を知りせば路ひとつ造る際にも哲学は要る
- お前など邪魔だとばかり扱われ柳の御所の花嘆きをり
- 亡骸に花を手向けて涙した人の心や泰衡が蓮
- 美しと云ふもの何故か儚くて明日は散るかも見よ花菖蒲
- 花園に我埋もれいてしみじみと平和の意味を噛みしめていた
- 池中の固き立石見詰めれば浄土にお座す慈母浮かびたり
- 花園の花守る人を思いつつ花の向こうに浄土の池見む
- 青龍が水呑む如き姿して夏草の首大河に伸びる
- 夏草の衣を借りて高館の悲しき景色消ゆるものなら
- 虫たちも蓮に集ゐてひと時を甘露の蜜に酔ひしれおるや
- 忘れ得ぬ滅びの時を癒す如中尊寺秘めやかに咲く
- ふるさとの浄土の池に生ふ蓮に仏の慈悲の神秘を視たり
- 御所跡に百年生きる桜とて工事現場に見る人もなし
- 注目も浴びぬ桜の悲しみを平泉の人誰か知るなり
- 聞こゑぬか柳の御所の一隅に根を張る桜花の叫び幽かに
- 北上の大河に寄せて歌一首捧げたきとて大橋に立つ
- 一本の桜の古樹を守る心ありて平泉世界遺産なる
- 誰知るや大河に行けぬ高館のしだれ桜の喉の乾きを
- 秋風も吹かぬ葉月の盆の頃しだれ桜の葉は何故落ちぬ
- 変わりゆく景色まざまざ見て来たるしだれ桜の150年
- 物言わぬしだれ桜に耳当てて樹霊の叫び聞き取らんとす
- 悲しくも男盛りの齢(よわひ)にて朽ち果てんとすかしだれ桜よ
- 桜木の樹の一本も救ゑずになろうとするか世界遺産と
- 願わくば枯死寸前のこの桜活かし給へとEM剤撒く
- 一心に「サクラ・サクラ」とみんなして祈らば奇跡の蘇生ありなむ
- 奥州の人よ尊きふるさとの山河に座して腹据ゑるべし
- 北上の河面飛び交ふ燕らの風を捉える柔らかさかな
- 生き生きよ桜生きよと木霊に気迫の祈り捧げたり今し
- 一本の桜を守ると集い来る人も桜か柳の御所に
- 御所跡の一隅に生ふ桜から夢幻(ゆめまぼろし)か慈悲の華ふる
- いつの日か西行さんを驚かす桜の園に古里の山
- 生き生きよ桜生きよと木霊に気迫の祈り捧げたり今し
- ふるさとの山の峰々夕暮れて桜蘇生の神事を終ゑぬ
- 百歳(ももとせ)を生きたる翁は祈り込め「千代に生きよ」と「君が世」捧ぐ
- 御所跡に薄日射したり桜守る人の思ひの天に通じて
- 御所に生ふ花の御霊を呼び出して永久に生きよと甦生の祈願
- 枝しなり樹皮は湿りてほどほどに樹勢戻れば春待ち遠し
- よくぞまあ桜の樹勢もどりたり春を待ちかね菰皆で巻く
- 物言へぬしだれ桜に菰巻けばしなりと湿り戻りつつあり
- 奥州の凍てつく大地にすくと立ち堪へたる桜の美しきかな
- 声を揃え「世界遺産」と云うものの川の異変を気付けぬものか
- 北上の川は壊れて砂州いでき世界遺産と云う気の知れず
- 咲かぬのか・・・しだれ桜はただ独り工事現場の夢跡に佇(た)つ
- 来てみれば柳の御所は荒果てて桜も咲かぬ荒野となりぬ
- 誰も来ぬ柳の御所を悠然と工事車両の土埃かな
- 「夢跡の桜咲かず」と絶句して後の記憶は消へ失せてけり
- 花咲かぬしだれ桜をかき抱き零(こぼ)れる涙餞(はなむけ)とせむ
- 手弱女の桜一片花立の池に舞散る春来たりけり
- 花盛り奥の大道いそいそと西行法師の夢追いかけむ
- 枝折れて心配もせり達谷の窟(いわや)の桜もう直に咲く
- ようようと奥の大道凱旋す頼朝あはれ今にし思えば
- 咲けば散る桜のごときものなるや勝者頼朝凱旋の道
- 枝折れて心配せしも達谷の窟(いわや)の桜もう直に咲く
- 花盛り奥の大道いそいそと西行法師の夢追いかけむ
- 手弱女の桜一片花立の池に舞散る春来たりけり
- 思慮深き初代清衡夢想せし水の都を我ら未来へ
- ほつほつと泉(しみず)溢るる奥州に桜花咲きたり清衡が夢
- 「あれなあに」と少女見つめる輿のこと哭き祭とていつ思ふらむ
- 焼失をのがれし仏の前に立ち南無阿弥陀仏と哭き祭かな
- 静寂の池の辺に佇みて流れる読経に身を任せけむ
- 花立の山に向かひて奥州の母なる人の面影を観む
- 花の春読経流れる池端の墓を拝みて哭き祭終ふ
- 花筏浮かぶ古池ざわざわと寂しかりけり祭終へしも
- 奇妙やな読経の声に揺蕩ふて浄土の池に無限覚るも
- 鍵穴に宇宙を覗く気分してはっとため息大泉が池
- 歌人(うたびと)は龍頭鷁首(りゅうとうげきしゅ)の舟に乗り遣り水目指す青龍のごと
- 寂しさと安堵混じりし思ひもて歌人は還る大門が跡
- 清衡の見果てぬ夢のその中に我ら失ふ宝の在りや
- 償へば元に戻ると誰か云ふかけがえのなき山河消ゑても
- 月見坂登りて北方見渡せば衣の館に掘削機(くせ者)の影
- 二千五年東物見の景色はや見るも無惨な建設現場
- 奥州の千年の古都見回せば見渡す限りの建設ラッシュ
- バイパスに堤防工事重なりて世界遺産の面影はなし
- いつ終ゆと問ふても無駄と知りつつも知事に問ひなむ工事の終焉
- 平泉、もう終わったと言う人
のあり、いや終わらぬと我思ひたき
- ともかくも世界遺産を云ふからは厳格であれ歴史文化に
- 奥州の藤原文化の意義問へば平和の祈りと我は答ゑる
- 殺生なきこの世にせむと祈念する清衡公の祈りこの地に
- 戦なき世の有り様を夢に見て都造りし人の尊し
- 戦なき戦後日本に生まれたる我ら唱える平和の軟弱
- 戦なき世に生まれたる我らとて思ふべきなり願文の意趣
- 金色の堂に詣でて三代の偉業偲びて南無阿弥陀
- 讃衡蔵の
紅葉の下に集ひ来て老壮青の命輝く
- この景色見慣れてしまう我ありてこれは如何と古写真を視る
- せっかくの兵どもが夢跡と実感しうる何ものもなし
- 遠ざかる世界遺産の足音を東北線の汽笛とぞ聞く
- 神々もきっと見ている愚かなる景観破壊の工事現場を
- 風をきり海山生死みな越ゑて天翔る武者夢に見し朝
- 妙音の女神の池のもみじ葉のうす紅色は霜降りずして
- 霜降らぬ今年の紅葉薄紅の乙女のやわき唇に似て
- 遠き日に黄金の太刀を煌めかせ源義経光堂に来
- 新年の凍てつく夜を越へて舞ふ「老女」愛ほし延年の
舞
- 衣川朝食(あさげ)の前に厚着して白雪踏めば大地の声する
- 白雪よ、このまま春の野辺に居て奥の原野を守り給ま
はむ
- 物言わぬ桜の枝に手を触れて一木の智慧伺ふてみる
- 花芽なき桜木悲し喩うれば戦後日本の母たちのよふ
- はせお(芭蕉)来し涼しき風の渡りゆく高館登るみな
月の夕
- 東京の喧噪離れ五百キロ夏雲映す池静かなり
- 曲水の宴もたけなわ歌人はや遣り水映る華となりたり
- 木漏れ日の光のなかに微笑めるお地蔵さんの有り難さ
かな
- 母の手に抱かれたりし心地して大泉が池我廻り来ぬ
- 奥州の古刹に開く大輪の蓮散り初めし炎天の午後
- かなかなと誰を偲びつ蜩は泉が城の城址に啼く
- ひとつ散りふたつ散りして萩の花秋風清(すが)し大
泉が池
- みちのくの古寺咲く萩の散り際の儚きを愛で故郷の花
- 夕暮れの茜の空に照り映ゑる浄土の池に萩の花咲く
- 照り映える大泉ケ池の眩しさは浄土を映す鏡なりけり
- みちのくの土ともならんゆくゆくは夢の都の一隅に居
て
- 中尊の寺に詣でて堂に入り平和の意味など思念せむ今
- ほの暗き金色堂の堂に入り三度唱ふる南無阿弥陀仏
- 我もまたいつか旅立つ西方に在るてふ浄土思念してみ
る
- 霜月の金色堂は切なくて紅葉そぞろに足もとに降る
- 形ある七宝運び去られてしも供養願文の思い盗めず
- 鎌倉の政子の枕辺立ち給ふ武者は誰なり鞘堂の秋
- たかだかに寿命百年ヒト族が「もみじ儚」と観るは逆
さま
- 秋暮れて弁慶堂に詣ずれば小さき義経少年に見ゆ
- 吾(あ)も汝(なれ)も人は錦の龍なるや月見坂行く
晩秋の頃
- 竹林の奥に大堂見つけたる鎌倉武者は度肝抜かれし
- 丈六の阿弥陀如来の御威光にすくみたりしは無理もな
きこと
- 大盗の末路思へば仏罰の逃れ難きを畏れつゝ知る
- 赤々と西の空落つ日輪の赤きに泣きて祈りを捧ぐ
- ありがたき浄土の池に佇みて行く秋の日の光と遊ぶ
- 白銀の栗駒山を眺めつつ西行庵の跡尋ねゆく
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2000.11.9
2007.01.06 Hsato