標津サーモン科学館

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※入館



道内の旅行スポットにおいては、かなりマニア受けすると思われる「標津町」周辺をうろうろすること約15分。
町の中心から少しはずれた野原の端にその水族館はあった。
さっそく外観を眺めてみるも、本来の水族館が持つイメージとはかけ離れすぎているそれを前に少々困惑する。
特に右の尖塔の存在がその「ズレ」を多分に助長しているとみた。



そしてふと後ろを振り返れば、そこには途方も無く広大な原っぱが。その規格外な大きさにしばし圧倒される。
ついでにいうなら隣接している駐車場の広さもこれまたパない。要するに敷地面積自体がとんでもなくデカいのだ。
そのスケールが本土におけるそれとは何もかも根本的に違いすぎるのを目の当たりにし、
「北海道、デッカイドー」のキャッチが持つ重みを殊更に思い知らされたり。


※逆襲のチルドレン



本館入り口前の池にて、平和のイメージそのものを司る白鳥さんたちと
これからの未来を支える汚れなき子供達との交流を見て、しばしその場に足を止める。
そうか、白鳥にお菓子を投げてやっているんだね? なんとハートウォーミング極まる光景なのだ…
と思いきや、よくよく見たら「投げてやっている」ではなく、完璧に投げつけていた。
そのダイナミックなオーバースローから繰り出されるポテチ弾が容赦なく白鳥達を襲う。
だが敵もさるもの、ノーダメージ&ノーリアクションのスタンスで投げつけられた菓子を淡々と食べ続けている。

外から見ると非常に噛み合っているように見えて、その実はすれ違い。
セックスレス夫婦の内情をピーピングしたような苦々しい気分になり、
ミーはその親子に対するジャイアントスイング衝動を抑えきれなくなる前に、速やかにその場を立ち去った。


※何気ない優しさこそが



やたらと階段が多いその構造に配慮してだろうか、
入り口近くには車椅子ごと入れるような大型エレベーターがあった。
バリアフリー設計は今や公共施設のお約束だが、それをここまで徹底しているところもなかなかないと思う。
ちなみにこのエレベーター、昇降距離は1メートル程のようであり、少々その存在意義に首を捻るような点も
見受けられたが、そこに関してはスルーが大人というものなのだろう。


※見る者と視られるモノ



館内に入って最初に目にした水槽は「シロザケ」や「カラフトマス」などが優雅に泳ぐ大型のそれだった。
水槽前にひな壇を設置しての劇場観賞を模したような工夫がなかなか面白い。

早速そのひな壇の中央に陣取り、水槽内にて軽やかにステップを踏んでいる川魚達をしばし鑑賞してみる。
魚観賞による精神の癒しを徐々に感じつつ、ふと周りを見てみたら、ミーはいつの間にか一人になっていた。
いや、正しくはミー自身が最後部の通路を歩く人々からその単独観賞の様を存分に観賞されていた。
思わぬところで恥辱プレイに興じる羽目となり、世間は何事につけても単独行に厳しいことを再認識する。


※すれ違いの磯コーナー



実際の川から館内へ水路を引いて、それをディスプレイするという、
水槽の構造自体に工夫が見られる「魚道水槽」なる展示があった。

自然の川の生態系そのものを展示する水槽は非常に珍しく、全国でもここ「標津サーモンパーク」、
同北海道は千歳にある「サケのふるさと館」、新潟は「イヤボヤ館」の3つしかないらしい。
ただミーが訪問したのはシーズンオフの7月半ばにつき、ほぼ小魚レベルしか観賞出来なかったのが
悔やまれるところだ。ちなみに10月辺りに訪れると、標津川に回帰したシロザケの溯上の様子が
存分に観察できるとのことなので、道内にお住まいで興味ある方は訪れてみると良いかも。


※そこにある憩い



さきほどの「魚道水槽」の先には「川の広場」なる淡水魚コーナーがあった。
吹き抜けの天窓からさんさんとお日様がさしこむ中をゆっくりと散策してみる。
コーナーの所々に配置されたシカや熊などの剥製が、見るものの目を飽きさせない。

こういった形の、展示コーナーそのものを憩い場に直結させた「癒し」というのもまた工夫の一つであると思う。
ポイントはその空間における構造デザインとライティング、単調な通路では飽きがくるし、
あまりにも起伏が激しければ癒しの意義が薄れる。
その加減の調整に加え、柔らかな自然光で全体を包みこむことが、人々に安息を感じさせる空間造りに寄与
しているものと推測。そして人工の光では決してそれは得られないということを、ここのデザイナーはよく
理解しているものと思われる。

他に着目すべき点として、ここには「鯉」などに餌を与えることが可能な変則「磯コーナー」も設置されていた。
ただ餌そのものをガチャポンで販売していたのには少々驚いた。
後日、ネット上にてこのガチャポンの面白さを書いたレポートを発見したので参考までに転載してみよう。

 
あそこで一番衝撃だったのはガチャポンですねやっぱり。
 値段は50円なのに 「100円玉しか入りません」 とか書かれているし。
 買ってみたらお釣りは出てこないし…
 で、中を開けたら餌の中に50円玉が埋っているし… あれは笑った

 
しまった、このガチャポンはやっておくべきだった。
思わぬところに転がっているプチ驚き、それもまた水族館観賞の醍醐味の一つだと思う。


※いつかのメイン



こちらは先ほどの劇場型水槽の裏側上部。
煩雑この上ないが、こういったシーンにこそ水族館の本質としてのロマンがあるとミーは信じてやまない。
脱ぎ捨てられたウェットスーツや壁際に立てかけられたガスボンベ、用途不明な数々のチューブ、
これらオブジェクトは水族館運営におけるリアリティそのものだ。
生活感というものをおおよそ感じさせない水族館という施設に生々しい現実感が加わることにより、
そこで初めて「人による介在」という要素の裏側、その面白さを伺い知ることが出来るというものだろう。



メイン通路端の一角にて今度は「研究室」を発見。
扉に「入室は御遠慮ください」と書かれてあったので、
デジカメの望遠を駆使して、最たるリアリティでもある机上の様子を撮影してみた。

あとで写真を拡大してみたら、そのフロント部分のエンブレムには「EPSON」の文字が。
今やプレミア的価値が付いてもおかしくない伝説のNEC互換機にまさかこんなところで巡りあえるとは
思ってもみなかった。その傍らに置いてあるフロッピーもその大きさからよもやの5インチと推測、
しかも明らかに現役で使われているっぽいことに新鮮な感覚をおぼえる。
ウィンドウズ全盛期にしてこの物持ちの良さ、そういえば秋田の「男鹿水族館GAO」にあった
パソコンもこれと同じく旧石器時代の遺物だったような覚えが…
水族館業界においてはレトロPCの蒐集が流行っていたりするのだろうか、ひょっとして。


※酸味の昆虫王国



ちょうど夏休みの始まり時期ということもあってか、「サケ談話室」なる休憩所にて、
ガキ…いや子供達の寄せ餌的イベントの一環と思われる「昆虫展」が開催されていた。
正直、全体的に酸っぱい感一杯な印象ではある。
バックで淡々と流れる環境系音楽もその酸味混じりのシュール感に拍車をかけている。
かつてミーは友人に自部屋の印象を「あ、カブトムシっぽいスね」と評されて憤慨したことがあったが、
今ならその気持ち、分かるような気がしないでもない。

ちなみに右は「ヘラクレス・オオカブト」、いわずとしれたムシキングの一匹。
その堂々たる外殻を丹念に観察していたら、ガキ…いや、お子様達の集団が押し寄せてくるのが見えたので、
冒頭の投げつけ系チルドレンに少々トラウマっていたミーは、速やかにその場をあとにすることにした。


※「バルス!」と、そう叫びたい日があってもいい



最後に入館前から気になっていた尖塔に登ってみる。
やはり高いところからの景色はたいそう気持ちよい。
「あの地平線〜♪」的な鼻歌を思わず口ずさみたくなってしまうような、そんな好気分だ。

ふと下を見れば、そこには冒頭のハートフルもどきな白鳥さんの姿。
それを見た途端、唐突に涌き起こる唾爆弾投下リビドー。
この標津の雄大な景色を汚す蛮行に及んでしまう前に、その小学生マインドを意志の力で押さえこむ。
自分の内の中に潜む無軌道な衝動こそ真なる脅威、ムスカさんもこんな気持ちだったのだろうか。



※総合.

劇場型演出の「大水槽」、観察の楽しみを得られる「魚道水道」、
「川の広場」の太陽光による癒し、そして視覚的な癒しの最たるもの「展望塔」と、各設備ごとの
役割がしっかりと練られ、またその効果を連結的に高めていく為の順路設定もよく考えられている。
古き懐かしき水族館とは一線を画す、近代型水族館像の一つの解だと思う。
水平線が目立つ「標津」という雄大な土地柄に、このような近代的施設があることのギャップもまた、
その個性感を増幅させているものと思われる。

ファミリー ★★★☆☆ むしろ原っぱ目当て?
カップル度 ★★☆☆☆ 完全にピクニック気分
わびさび ★☆☆☆☆ 近代イメージ強い
学術度 ★★★☆☆ サケに特化
お得感 ★★★☆☆ 何故に半端な額?
建物装飾 ★★★★☆ きわめて科学館的
水槽装飾 ★★★★☆ 劇場スタイル、魚道水槽等、工夫あり
総合調和 ★★★☆☆ 各コーナーの魅力を惹きたてる順路設定にあり
憩い場所 ★★★☆☆ 尖塔から望む
磯コーナー ★★★☆☆ ガチャポン伝説
ペンギン度
レア度 ☆☆☆☆☆ 魚道水槽の性質ゆえ、季節によって左右。評価外。
総合 ★★★☆☆ あくまで私的観点と個人的意見から


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