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ゆきゆきて神軍.



<内容>
 神戸市で妻とバッテリー商を営む奥崎謙三は、たったひとりの「神軍平等兵」として、
 神軍の旗たなびくトヨタ・マーク2に乗り、今日も日本列島を疾駆する。
 そんな中、かつての所属部隊・独立工兵隊第36連隊のうち、ウェワク残留隊で隊長
 による部下射殺事件があったことを知り、奥崎は遺族とともに真相究明に乗りだした。
 なぜ、終戦後23日もたってから、二人の兵士は処刑されねばならなかったのか。
 執拗ともいえる奥崎の追求のもと、生き残った元兵士達の口から戦後36年にして
 はじめて、驚くべき事件の真実と戦争の実態が明かされる。〜公開資料より抜粋〜

<始めに>
 下記感想描写は、この映画の主人公である奥崎謙三という人物の言動・行動のみに
 焦点を当てたものであり、映画の骨格そのものである「戦争」を茶化すような意図など、
 微塵も含まれていないということを予めお断りしておきます。




※1:奥崎謙三氏、結婚式の仲人を努める.



知人の結婚式媒酌という、実に心暖まるシーンからこの映画は始まる。
顔に満面の笑顔をたたえつつ、粛々と媒酌の儀を執り行う奥崎さん。
が、その挨拶の内容は、通常のそれとはいささか異なっていたようだ。

「おめでとうございます」
「私はオオタガキ・トシカズさんと、サノ・キミコさんの、婚約を媒酌させていただきました、
 奥崎謙三でございます。オオタガキ・トシカズさんと、サノ・キミコさんのご結婚おめでとうございます。
 花婿のオオタガキさんは、神戸大学を卒業後、反体制活動をした咎により、前科一犯でございます



いきなり顔色が変わる新郎。
そんな彼の胸の内をまったく完全に考慮することなく、この挨拶はそのまま継続される。

媒酌人の私は、不動産業者を殺し、皇居で天(ピー)にパチンコを撃ち、銀座渋谷新宿の
 デパートの屋上から(ピー)皇ポルノビラをまいて、独房生活を13年9ヶ月おくりました、
 殺人暴行猥褻の前科三犯でございます。つまり今日の結婚式は、花婿と媒酌人が、ともに
 反体制活動をした前科者であるが故に実現いたしました、類い稀なる結婚式でございます」

セリフの端々が危なすぎて、もはや強調フォントの太字すら使用不可能。



上記挨拶を聞いて、
類い稀なのはお前の頭だけにしてくれよと言わんばかりに、
より一層の憮然ツラをする新郎。
そんな彼の心境をまったく完全に無視しつつ、奥崎氏の挨拶はまだまだ続く。

「ま、皆さんにとっては国家なんてものは、大切なもんでしょうけど、
 私の人生経験からいきますと、国家というものは、ま、日本だけじゃありませんよ、
 世界中の国家というものは、人間をですね、断絶させるもんだと。
 人類を一つにしない、一つの大きなね、障害だと思っています、国家というものは、一つの壁。
 ま、更に言えば、家庭もそうだと思っています

国家は人間を断絶させるものだと力強く宣う奥崎氏。
極めて極論ではあるが、世界中で起こってきた紛争の歴史を顧みるにつけ、
人間を団結させるのが国家ならば、断絶させるのもまた国家であるという
その考え自体は、あながち間違いではないのかもしれない。

でも最後の一言は完全に余計。
確かに「結婚は人生の墓場」とはよく聞くセリフだが、何もそれをわざわざ結婚式の席上で言わんでも。
が、自らの信念に基づいたその歯に衣着せぬ物言いこそが、奥崎氏を奥崎たらしめている重要な要素
であるとするならば、思いの丈をそのまま口にすることは氏にとって何よりも優先されるべき事項なの
かも知れない。



式終了後、屋外にて新郎新婦を祝って万歳三唱する人々。

が、そんなハートウォーミング溢れる空気も、バックに停車している奥崎カーの
圧倒的な存在感により瞬時にして崩壊、そのまま原子の塵へと回帰していった。合掌。


余談ではあるが、
この結婚式に対する奥崎氏の意図がライナーノートに掲載されていたので、
下記に抜粋してみた。

「私は人類全体のことを開けても暮れても考えているんです。
 結婚式の式場をキャメラに向かって喋らせていただく場として利用させていただく
 ことによってその結婚式が特別の結婚式になるんですね。
 結婚式というのは自分の幸福のため、言い換えますと私利私欲のためなんです。
 私は私利私欲のために行動したことはありません。いつも公利公欲のためなんです。
 ですから私が喋るということは「公利公欲」のためになるわけなんです。
 公利公欲のための結婚式なら仲人をやります。公利公欲のための結婚式なんて
 絶対ほかにはありませんよ


私利私欲のために行動したことはないと言いきり、自らを積極的に公人と位置づける奥崎氏。
ま、その公利公欲を旨とする史上初の結婚式も、結果的には新郎の顔をひん曲げただけに
終わってしまったようで、正直”利用させていただいた”新郎新婦の方からしてみればさぞかし
いい迷惑であったろう。

が、かなり無茶なことを言っているのを承知で言わせてもらうなら、ここ最近の税率改訂、
ネット規制案などを鑑みるにつけ、全てを「公利公欲」と言いきれる奥崎氏の百分の一でも
いいから、今日日の政治家にも同様の気概を持ってほしいものだと思わずにはいられない。




※2:奥崎専用カー仕様解明.

さて、見たもの全てを畏怖と混乱に陥れると言われる、あの奥崎カーのフォルムが
画面上にチラと出たところで、ここではその仕様について少し論じてみたいと思う。



何せ自宅のガレージからしてコレモンである。
「バッテリー中古車車検修理」と書かれたインダストリアル・テイスト満載な
第2次高度成長時代の名残りの下に、いきなり「田中(ピー)を殺」である。
並み大抵のセンスではないことが、この扉文字からも軽々と伺い知れる。

当然その愛車もノーマル塗装の筈がない。



まずは背面をご覧いただきたい。
初心者マークを装備するのみに留まらず、わざわざ逆にして装着している辺りに
早くも奥崎センスがほとばしる。この上なくパンキッシュだ。
更には、こういった突貫系車両に付きものの赤塗装「神軍」エンブレムを標準装備。
集中線がないぶん、フォントのデカさでその存在感をカバーと言ったところであろうか。

前面には、
「捨身」即「救身」 とペインティング。
「即」を接続詞代わりに、捨身・救身、という互いに相反する言葉を繋ぐことにより、
オールドタイプのゾッキー達が好んで使う「夜露死苦」的メタワードと一見趣きを同じに
しつつ、より得体の知れない何をその文字から迸らせることに成功している。
何せ「即」である。これほど強力な接続詞もそうはない。
例えば、「即」仕事、「即」排便、「即」オナニー、「即」セックス、
こんなにもフォルティシモに溢れている言葉もそうはない。

そういえば「即」でふと思いだしたが、場末の温泉街で
”インドネシア人と「即」セックス”を力強く約束してくれたあの友人は今でも元気であろうか。



このような車で皇居前に乗りつけると、大抵は寸刻立たずして上記のような事態になる。

が、流石は奥崎氏。我動ぜずとばかり、わらわらと迫りくる警官隊をものともせず、
ドア及び窓を完全ロックし、車内からスピーカーを通して、いきなり大演説をぶちあげる。

「立派な人間とは、どういう人間でありましょうか。金持ちでありましょうか、
 天皇でありましょうか、大統領でありましょうか、ローマ法皇でありましょうか、
 私にとって立派な人間とは、神の法に従って、人間が造った法律を恐れず、
 刑罰を恐れず、本当に正しきことを、永遠に正しいことを、実行することが、
 最高の人間だと思っとるんであります!」

上記演説からは奥崎氏の毅然とした倫理観、そして正義観が伺える。
その基本となっている「神の法」を、他ならぬ奥崎氏自身が全て定めていることが
唯一の問題ではあるが。




さて、今まで紹介してきたトヨタ・マーク2が帝都突撃用の突貫専用車両ならば、
上記バンは攻撃型というよりも奥崎イズムを宣伝する為のプロパガンダ専用仕様になっており、
「神軍」「悪霊」「捨身」といった攻撃的な戦闘用ペインティングが施されていない代わりに
「宇宙人の聖書!!」「サン書店」「¥900」などといった、電波なんだか俗っぽいんだか、
そのボーダーラインがまるで読めない実にファジーかつファニーな言語で埋め尽されている。



このような車で拘置所前に乗りつけると、寸刻立たずして上記のような事態に陥ることになる。




拘置所を訪れたその目的自体もそうとう酷い。
そら、怒られても致し方ない。



が、迎撃に出た看守自身が、何故か全員、奥崎氏から説教くらう羽目になる。

「何か出来たらやってみろ、お前等の判断で」
「君等、何か不満があったらやれ、その顔!」「何か文句あるのか、貴様!」
「君等、なんだってやれ!」「ええ、貴様、ええ」
「ロボットみたいなツラしやがって…!」
「人間の顔か、貴様等の面!」
「人間のツラしとらんじゃないか」
「天(ピー)ヒトと同じだ、ロボットと同じだ、貴様等!」
「命令か法律に従うだけだ!」
「悔しかったら何かやってみろ!」


 

参考までに、人間外であると断ぜられた看守の憮然ツラを、アップで晒しておく。
自らのツラが人としての基準を満たしているかのリトマス試験紙代わりに使って頂きたい。




※3:奥崎謙三氏、自らを誇示す.



奥崎氏が
帝銀事件主任弁護士である遠藤誠氏」を囲む回に出席して、
自らのことを大いに誇示した内容の演説をしているシーンがあったので、
下記に内容を一部抜粋してみた。

「私は、一般庶民よりも、法律の被害を多く受けてきましたので、日本人の中では、
 法律の恩恵をもっとも多く受けてきました無知無理無責任のシンボルである、
 天(ピー)ロヒトに対して、4個のパチンコ玉をパチンコで発射いたしまして、

 続いて、
(ピー)皇ポルノビラを、銀座渋谷新宿のデパート屋上からバラまき、
 その2つの刑事事件に関わった、法律家であるところの2名の判事と8名の検事の顔に、
 小便と唾をかけておもいきり罵倒いたしました」

「例えば、この法曹会館の横に並んでおります、東京高等裁判所の刑事法廷に
 おきましては、裁判長に向かって手錠をはめられたまま、
 「貴様は俺の前でそんな高いところに立っている資格はない、降りてきて土下座をしなさい!
 と怒鳴りました。そして退廷を命ぜられまして、今度は引き続いて午後に、今度は私は
 「俺の前で土下座をするのはもったいない、穴を掘って入れ!」と申しました」



その演説を聞いて唖然ツラする、主役の
遠藤誠氏。

ただでさえその内容がモスト・デンジャラス極まりないところへもってきて、
更には主役を差し置き、これだけ自分のことのみに終始したトークされたら
このような顔にもなるのも致し方なしといったところであろうか。

それにしても奥崎氏を前にした人々はみな唖然、もしくは憮然ツラをする。
実に面白い傾向である。



ちなみにこの会合で一番おいしいとこをを持っていったのは、
自分のことを一杯喋れてとにかく満悦ツラの奥崎氏でも、その武勇伝を延々と聞かされて

とにかく
唖然ツラの遠藤誠氏でもなかった。

奥崎氏演説シーンの写真左隅を御覧いただきたい。
ほぼザビエル状態になりつつも、僅かながらその頭頂部にヘラクレスオオカブト型の
毛髪痕を残し、幼少の頃のムシキングっぷりをさりげなく誇示する名も無いオッサンこそ
この会合の影の勝者であったと思われる。




※4:奥崎謙三氏、戦争のはらわたを暴く1 〜手加減した〜.

人間:奥崎謙三氏がいかなる人物であるか、ということを紹介する為の導入編も
終わりを告げ、物語はいよいよこの映画のメインテーマである「真相究明編」へと突入していく。



上記事件の真相を解明すべく、奥崎氏は当時の連隊生き残りを1人ひとりを訪ね歩く旅
へと出ることになる。



その1人目、元軍曹:妹尾氏、登場。
が、この妹尾氏。奥崎氏が真摯な態度を崩さず丁寧に質問しているにもかかわらず、
のらりくらりとその鉾先をかわし、明らかに氏の来訪を迷惑がっている様子を見せる。

その不遜な態度に対して、奥崎氏 遂にキれる。
「挨拶くらいしたらどうだ!貴様来い!」

いきなり土足で座敷にあがりこみ、組みついた勢いでそのままテイクダウンを奪おうとするも…



なんと妹尾氏、腰を落としてその攻撃を耐え凌ぎ、逆に腰払い一閃!
その見事な足技に奥崎氏、バランスを崩して畳の上に倒れかかる…!



が、倒れる途中で相手の背中に自らの体重を浴びせかけ、そのまま妹尾氏を押しつぶすことに成功。

馬乗り状態になったところで相手の両足を外側からフックし、そのままチョークスリーパー
の体勢に入るかと思いきや、なんとそこから相手の頭上にポカポカパンチの雨あられを浴びせ、
その憤怒度合を否応なく相手に知らしめる作戦に出る。



が、同居人(おそらく奥さん)がこの狂乱ファイトを黙って眺めているわけもなく、
その腕をガッとつかまれ、その妥協なき殴打の嵐を半強制的に停止させられることに。

それに対して慌てず動ぜず、警察に通報するよう相手に促す余裕まで見せつけるも、

「110番しなさい!」「やめてください」
「110番しなさい!」「もう、してます」
「奥さん、110番しなさい!」「してある!」

非常に残念ながら、その会話は最後まで噛み合うことがなかった。




あげく援軍を呼ばれ、ものの見事に形勢を逆転され、3人がかりでこれ以上ないというくらい
きっちり床にねじ伏せられる奥崎氏。つまみぐいしたニワトリばりの押さえられっぷりに柏手。
してやったりと氏を押さえつける妹尾氏のその勝ち誇りツラにも注目。



それに比べて、こちらは悲惨の一言。
惨め極まりない貧弱ツラとはまさにこのこと。

いくら何でもこらマズいとばかり、懐柔を図りはじめ、
 「名刺を渡したろう、名乗ったじゃないか」
 「手加減してやったじゃないか
と、わけのわからない戯言を口走り、当然のごとく完全黙殺される羽目に。

その惨々たる有り様の一切を、あますことなく撮り続けるカメラ。
 「やめろ!」
 「俺がやられているじゃないか!」
 「(撮るのを)やめろ!」
という奥崎氏の悲痛な叫びを軽々と無視しつつ、カメラはその後も延々と回り続けた。


かくして真相究明編、第1ラウンドは奥崎氏の圧倒的大敗に終わった。


ところでこの日の出来事は、氏にとってよっほどの屈辱であったらしい。
後日談がライナーノートに掲載されていたので、下記に一部抜粋してみた。

「原さん、この映画はもうやめましょう」
「私が妹尾にやられとっても平気で撮影なさってる方とは一緒に行動できません。
 私はあのとき本当に命が危なかったんですよ。
(そんなことはないと思う)
 原さんは人の命が危ない時にも撮影なさっていてキャメラマンとしては立派だな、
 と感心しました。しかしキャメラマンとしては立派でも人間としては駄目だと思うんです」
 
(いや、今回に限って言うなら奥崎氏の方がはるかに駄目だと思う)
「この映画の主人公は私ですよ、私がご本尊なんですよ、そのご本尊がやられてるシーン
 なんて格好悪くて映画を見る人は喜んでくれませんよ」
(いや、一番面白かった)

この数刻後、映画中止が決まってうなだれている監督の元へ再び奥崎氏が現れてこう宣い、
監督を心底唖然とさせたと言う。

「覆水盆にかえらず、という言葉がありますが、私は覆水盆にかえせる、と思うですね」

かくして撮影は続行されることになった。


この出来事に関しては後日も以下のようなやりとりがあったそうだ。

「私、妹尾を殺人未遂で告訴しようと思うんです。それであの映画のフィルムをコピー
 で結構なので、裁判所に証拠として出していただきたいんです」

監督絶句、即ことわる。奥崎、即発狂。

「映画はこれでもうやめます」

その数日後、再び電話。

「今まで撮影した分を島根殺人未遂事件(妹尾の住まいは島根)として編集して
 いただけませんか。そのフィルムを持って島根に行きたいんです」

監督ふたたび絶句。即ことわる。奥崎、ふたたび即発狂。
更に数日後。

「映画が駄目だったら芝居の劇団でもいいんです。
 私の車に「島根殺人未遂事件」と書いた看板を作ってですね、島根へ行きたいんです」

監督、三たび絶句したという。


それにしてもこの粘着っぷりはただ事ではない。
屈辱は倍返しにして返すべし、という氏のダイヤよりも硬い信念が伝わってくるかのようだ。




※5:奥崎謙三氏、戦争のはらわたを暴く2 〜呼ばれる前に呼べ!〜.

射殺事件に関わった元兵士達を訪ね歩く旅に、ここで2名の同行者が加わることになる。

両名とも殺された兵士の血縁のものであるが、そのうちの1人、崎本倫子なる人物は、
この映画の中で唯一、奥崎氏とタメをはれるだけの強烈なキャラクター性を持ち合わせていた。



土御門神道の巫女という肩書きだけならまだしも、その風貌までもがストライク。
その所行に至ってはもろビンゴ!という有り様。

「昨日ね、仏壇に一生懸命、手を合わせましてね」
「お兄ちゃんがどうして死んだのか教えてね、どんなこと聞いても驚かないから教えてね教えてね
 って、般若信教をあげて一生懸命お願いしたんですね」
「したら写真が動くんですね」
気のせいですか
「写真の顔が動くんですね」

更には
、奥崎氏から「(お兄さんは)不条理な死を遂げた疑いがある」との話しを聞かされた途端、
分かりました。私、神様にお願いしてみます」の一言を残してその場を立ち、一時間後、
再び戻ってきて、以下のような天啓を示したという。

「兄は処刑されたんです」
「食べ物のことです。兄たちが邪魔になったんです」




パーティに血縁者2名を加えた奥崎一行は、元
独立工兵隊の曹長:原利夫氏を訪問する。
が、この原氏がとにかく曲者。奥崎氏の超直線的な質問に対しても曖昧な言葉でお茶を濁す。
ちなみに口癖は「私の心にやましいところはなん〜にもない」

「貴男は銃殺の現場に居合わせた一人でしょう」
「それは…分かりませんね…」
「分かりませんて! ノーならノー、イエスならイエスと男らしく仰ったらいいじゃないですか」
「いや、分かりません」
「わかりませんて、そんな答弁ないですよ、貴男」
「私の心にやましいところはなん〜にもない」



後は、「真相を言え!」「言わない!」の永遠に勝負がつかない綱引きが続くのみ。
そのまま議論は膠着状態に陥ったかに見えた。
が、何とここで
崎本女史が突貫。慰霊写真をバンと原氏の前に叩きつけざま、一気にまくしたてた。

「原さん、この写真見てください、原さん!」
「兄が毎晩出てるんです」「出てるんです!
ここにも来てます!

この強力な援軍の登場に気を良くしたか、氏もその奥崎節を全開にして攻めに転ずる。

「私は日本の軍隊でね、誰よりも多く上官を殴ってきたわけです、私は」
「今日来るときはね、貴男を徹底的に痛い目にあわすって言ってきたわけです」
徹底的に

こんなセリフを一見冷静に、しかし確かなる狂気を伴って淡々と言われた日にゃ相手もたまらない。
H×Hのゲンスルーいわく、駆け引きのコツは「いかに冷静でイカれてるかを相手に理解させる」
ことらしいが、まさにこの時の奥崎氏はそれを無意識のうちに実行していたと言えよう。



こりゃ流石に旗色悪いと悟った原氏、何と泣き落とし作戦に出る。
崎本女史及びもう1人の関係者の手を半ばむりやり気味に握りつつ、

「私はお二人に言いたいことは」
「お二人の肉親は、何も悪い事してなかったってことだけは」
「それだけは言わしてください」
「後は黙って…ヒィ(泣きだす)」

もちろんこんなことで、奥崎氏が黙るわけがない。



黙るわけがないどころか、氏を監視していたと思われる県警の警部達を
自ら部屋に招きいれるという大胆極まりない行動に出て、この場を混乱の渦に陥れる。

先だっての「110番しなさい!」といいコレといい、どうやら奥崎氏
の得意技は「呼ばれる前に呼べ!」のようだ。

すかさず凍る場の空気。正直、呼ばれた警部の方も面くらい気味。

そんな空気をまったく意に介さず、警部達とにこやかに談笑し始める奥崎氏。



いざとなれば警察を呼べばいいとでも思っていたところが、先に呼ばれてしかも談笑?
(しかも「先生の今後の御予定は…」などと警部の方がへりくだっている)

流石に困惑を隠せない様子の原氏。

もはや彼はいないことにするしかない、と思ったかどうかは分からないが、
この後の会談において、原氏の顔が、奥崎氏の方を向くことは決してなかったと言う。




※6:奥崎謙三氏、戦争のはらわたを暴く3 〜でてるんです!〜.



独立工兵隊の衛生兵:浜口政一氏を訪ねて、舞台は大阪へと移る。

原氏がその重い口を多少なりとも開いたことにより、事件真相へと徐々に近づきつつ
あった奥崎一行は、この浜口氏から話しを聞くことにより、更に核心へと迫ることになる。

この場面で浜口氏の口からポツリポツリと語られるその凄惨極まる内容は、
他のどんな戦争ドキュメントとも一線を画す実に生々しいものになっており、
今まで断片的にしか語られてこなかった情報が一気に繋がって線となる部分と
合わせて、この映画最大の見どころになっている。

が、ここではあえてその内容には触れず、この場面で奥崎氏がかすむほどの
大活躍を果した崎本女史の方のみに焦点を当てていきたいと思う。



浜崎氏と話しているうちにすっかり熱くなってしまった崎本女史。

その
声のトーンがあがる毎に、只の推測の筈が、
彼女の脳内のみでまぎれもない断定的事実へと確実に進化を遂げていき、
テンションが上がる度に、その腕が指し示す角度は如実に深くなっていく。

 <45度>

「吉沢と野村がいなければ、みんな無事に日本に帰ってこられたんですよ」
「吉沢と野村が何か言うと、帰ってこられない、という邪魔者だったんですよ、ね!」

 <90度間近>

腕も折れよとまくしたてる。

「結局、食べたっていう人肉事件のことで、兄が凄く頑張ったんですよ」
「そして兄が邪魔になったんですよ、そうだってでてるんです!言ってるんですよ!

この問いに対して浜崎氏が至極冷静に突っ込みを入れる。

「それは、どなたが?」
「(間髪いれず)兄が!兄が言ってるんです!

もはや無敵である。

あの奥崎氏が、こんなにアクの強いキャラと共存できるものであろうか?
その答えは後日、下記のような形で我々の前に示されることとなる。


<数日後>




奥崎氏と遺族二人の決別については映画本編には記されていないが、
舞台裏によると、奥崎氏の知り合いの墓参りに付き合う付き合わないで意見の相違が起こり、
監督自身をも巻き込んで、相当険悪なところまでいったらしい、との事。
その際の話し合いで思わず激昂してしまった監督に対し、氏はそれを上回る勢いで発狂。

「今まで撮ったフィルム全部燃やしてしまえ!俺がこれから東京に行って火をつけてやる!」

と言い放ち、これを聞いた監督に、力で奥崎氏と張り合おうとすることの愚を悟らせたという。
(ちなみに奥崎氏の住居は神戸である)

さて、
奥崎氏いわく「私の感覚からいってもう一つ心得がけがよくない」ということで
供の行動を断然せざるをえなくなってしまった遺族両名だが、この事により問題が一つ発生。

ただでさえ原氏詰問のシーンで「そもそもあんたは一体全体何者なんだ」的疑惑の目を
向けられた末、自ら警察を呼んじゃうという奥崎式ファイバリット・ホールドを炸裂させちゃった
おかげで、ほぼ完璧にハブられるの憂き目にあってしまった彼である。
そもそも遺族が同行しなければ、この事件を調査することへの「大儀」そのものを失うという
重要な事実に気づき、すかさず偽装工作にでることに。



結果として、まったくの赤の他人を代役に立てるという暴挙が、ここに行われることに。

「じゃ、今日から貴女は、ただいまより私の妻ではなくして
 吉沢さん(射殺された兵士)のお姉さん役を演じてもらいたい。しっかりやってください。
 あまり喋らなくていい、もっぱら私が喋りますから

うわ、しかも自分の奥さんだ。更には喋らせない気満々だ。


かくして真相追求の旅は、何の問題もなく継続されることになった。




※7:奥崎謙三氏、戦争のはらわたを暴く4 〜大謝罪〜.

その後、氏が赴くところ全て、謝罪の嵐が吹き荒れることになる。



まずは生死に関わる程の致命的屈辱を奥崎氏に与えた、あの妹尾氏を再び訪ね、
あくまで冷静に、しかし容赦なく、徹底的に詰めたところ



妹尾氏、すかさず謝罪
何故かみかんを使用して、事が起こった際の配置を詳細に説明する献身っぷりまで見せる。

少し前まで ↓



だったのに、随分な変わりようである。




この妥協なき謝罪ストームはまったく治まる気配を見せず、
その暴風雨圏内に軽々と巻き込まれた元軍曹:高見氏も



すかさず謝罪

謝罪! 謝罪! 謝罪!



実際のところ、奥崎氏に謝っても意味ないような気もするのだが、
その複雑な心中に関しては、私のような戦争を知らない世代には到底伺いしれない、
重い重い何かがあるのであろう。


さて、物語は佳境に入り、ここでいよいよボス・キャラが出てくる。



実際に射殺を指示したと言われる元隊々長:村本政雄氏を前に、
奥崎氏、魂の断罪の鉈が容赦なくうなりをあげる。

「私は人を刺しても殺しても天(ピー)にパチンコ撃ってもね。
 警察から逃げも隠れもしません、さあ行きましょうと、ね、責任をとってくるわけですよ。
 ところが貴男はね。私は無責任な人間がもっとも嫌なんです
 貴男はご自分のなさったこと、少しも責任とっておられないわけです、ね」

「それは、貴男と私の考え方が違うわけだからモニョモニョ」

さすがボスキャラ、何を言ってもぬかに釘とはまさにこのこと。

とりあえず村本氏の鼻孔から微妙にまけ出ている鼻汁が、気になって仕方ない。




奥崎氏と村本氏、この両者が激しく火花を散らせていた頃、
その裏では、何故か村本氏の奥方とカメラマンがライトのコンセントを巡って
熾烈な戦いを繰りひろげていたと言う。

(カメラを回す為の)ライトをコンセントに差し込んで明るくなったかと思いきや奥さん抜く、
再び差し込んだら奥さんまた抜くという、器的にみてブドウ球菌レベルなこの攻防戦が
映画本編に収められていないことはまことに残念である。
この気丈な奥さんは、その後もカメラの前を無駄にうろつき、奥崎氏のその無法っぷりを
(証拠写真として)バシバシ撮りまくっていた。


結局、奥崎氏vsボスの話し合いは収束を見ることなく、
両者痛み分けの様相を呈したまま、この場はお開きとなった。

この決着は後日、意外な形でつけられることになる。




※8:奥崎謙三氏、戦争のはらわたを暴く5 〜山田!呼ぶんか!〜.




奥崎氏は、36連隊部下銃殺事件とはまた別の事件を、
アナーキスト:大島氏とともに追うことになる。




その事件の関係者、元軍曹、山田吉太郎氏、登場。

病気を患っているせいか、まともに立てないくらい体調がすぐれなそうな山田氏を前に、
それとこれとは別どころか、それを更に一歩押し進めて病気になったのは天罰だレベルで
容赦なく彼を詰めていく奥崎氏。

「病気になったのは天罰ですよ!」
「あなたが見てきた地獄を、事実を話してくださいと言っているんです、それが最高の供養になると言うんだ」

「俺は俺なりの供養している、奥崎さんは奥崎さんなりの供養をしているだろう、
 俺は俺なりの供養をしているんだよ、だから俺は靖国神社行ったって…」

この「靖国神社」発言がどうもよくなかったらしい

靖国神社いって英霊が救われると思うのか貴様!

そう言いざま、なんと半死半生の病人に対して、全力で飛びかかっていく。

(即、つぶされる山田氏)

「奥崎さん、病気だから、すみません、それだけは
という周囲の声も奥崎氏の耳にはもはや届かない模様。

なすすべなく氏に翻弄される哀れな山田氏。
それにしても「俺は靖国神社行ったって…」と一言発言しただけで
うわなんだおまえやめr を軽々と誘発してしまうとは、まさに奥崎、畏るべし、である。

と、ここで遂に山田氏がキれた!



無法の限りを尽す奥崎氏に向かって、何と下からアリキック!
なんか、爺さん、すっかり元気になっちゃったよ、



と思ったのもつかの間、激昂した奥崎氏にガチで蹴とばされ、
力で奥崎氏と張り合おうとすることの愚を監督と同じくほぼ強制的に悟らされる羽目になる。




病人に対してストンピング打ち放題というその余りの仕打ちに、
相手方のみならず、味方側全員からも取り抑えられる奥崎氏。

もう何もかもが滅茶苦茶だ。



味方側から造反くらって完全に仕上がってしまった奥崎氏、
テンパった挙句の果て、遂にはあの奥崎スペシャルとも言うべき「呼ばれる前に呼べ!」
を炸裂させる。

「警察呼べ、俺が呼んだるわ」
「何処に電話あるんだ」「呼ぶんだろ、110番を!」

「これ以上、暴力ふるわなきゃ呼ばないよ」
「あんただって苦労してる、俺も苦労してる」

(聞いてない)「山田!パトカー呼ぶんか!

「もう少し冷静になってくんなよ」

(聞いてない)山田!呼ぶんか!呼ばんか!



こりゃ何いってもアカンとばかり、奥崎氏を完全シカトして、
同席の大島氏と普通に語らいはじめる山田氏。



それを見て寂しくなったか、今度は山田氏を讃えはじめる奥崎氏。

「あんた、病気だけど元気いいじゃないか」
「あれだけ俺にかかってこられりゃたいしたもんだ」

互いにやりあった末、友情という名のほのかな火を灯らせて、ジャンプ的に大団円?
「友情!努力!勝利!」ならぬ「特攻!突撃!突貫!」三原則を旨とする奥崎氏ならぬ、
なかなかに綺麗な幕のたたみかたである。いや、ちょっと見直したわと思ったその5分後



何故か山田氏自身が、たたまれていってしまった。合掌。
(音楽:ドナドナドーナー)


最後に、この日における氏の締めの一言を抜粋しておく。

「暴力をふるっていい結果が出る暴力だったら、許されると」
「だから私は大いに今後生きてる限り、私の判断と責任によって、
 自分と、それから人類によい結果をもたらす暴力ならばね、大いに使うと」

よい暴力か、悪い暴力か、その質を判断するのは、もちろん他ならぬ奥崎氏自身である。




※9:我は神軍平等兵なり.

フィナーレを飾る前に、映画の舞台裏を少し。
撮影が決まった途端、奥崎氏から監督にかかってくるようになった執拗な電話責め
の話しを、ライナーノートから一部抜粋。


目覚めた途端にアイデアを閃かせた氏がゆくがままあるがまま思いつきのままかけてくる
この電話のことを監督らは「思いつきモーニングコール」と称し、その電話を取るたび、
その内容に怖れおののいたという。


「私の天(ピー)パチンコ事件はパロディだとある人物が私に言ってくださったんです。
 私、もう一度パロディをやりたいんです。皇居の前で(ピー)皇の写真を等身大に
 大きく伸ばした写真をつくって、その写真に、私、パチンコを撃ちたいんです
 その行動を撮っていただきたいんですがネ」

中核派と革マル派の委員長に、私、会いたいんです。対談したいんです。
 原さん、委員長に奥崎謙三と対談をするように説得してくれませんか?」

「ある子供の誘拐事件で、子供が犯人に殺され、母親が犯人を死刑にしてくれって
 言ってるのを新聞で読んだんですが、私、その母親に会って、言ってやりたいんです。
 犯人を死刑にしろって言うのは間違ってます、と。私には死刑という国家の暴力は
 認められないんですね。その母親に言ってやる面を撮っていただきたいんですけどね」

「私、文部大臣の車に私の車をぶつけようと思うんです
 原さん、文部大臣の車がいつどこを通るのか調べてくれませんかね?
 それで車をぶつける場面を撮っていただけませんか?」

「靖国神社で慰霊祭があるんです。私、その慰霊祭に殴りこみをしようと思うんです。
 私が自分で武器を初めから持っとったら近付けませんから、妻に花束を持たせといて、
 その中にドスを隠しといて、近づいたら妻からドスを受け取って一気に殴りこむんです
 その行動を撮っていただけませんかね」

「私の行動、判断は正しいんです。判断は私がしますから原さんはついてくればいいんです。
 私は行動者です。原さんは語り部でしょう。語り部は黙って行動者を撮ってくれればいいんです」


監督達がこれらの途方もないアイデアを必死に検討している頃には
既にそのアイデアは当の奥崎氏自身の頭の中からきれいさっぱり無くなっていたという。




※10:ああ、奥崎よ、永遠に.

ところで奥崎氏と唯一互角に渡りあったあのボスキャラ、
村本政雄氏との決着は
一体どうなったのであろうか?




ええー …ってことは、奥崎氏、遂にやったのか?
氏、自ら定めるところの神の法に従い、彼に正義の鉄槌を下したのか?



って、あれ? か顔、違うよ?




って、息子かよ!




いいのかよ!




鼻汁、拭けよ!




#「息子でもよかった」との見出しを呆然と眺めつつ、氏とのこれまでの関わりの中で
 否応なく体験させられてきた「唖然」という名の感覚を、
監督は心の底から味わされる
 ことになったという。



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