5380

SCSI規格は、インテリジェントな機器同士で比較的高速なデータ転送を実現することを目標にしていました。ケーブル長は不平衡型ドライブを用いた場合で最大6 m、非同期転送の場合で最大1.5 MByte/sのデータ転送速度となっています。
一般に、このくらいのケーブル長と速度でデータ伝送を行う場合、インピーダンスマッチングをしっかりと意識した回路構成にしないと、信号の反射で波形が乱れて正常な伝送が行えなくなってきます。というわけで、SCSIでは両端に終端抵抗を備えた110 ohmの伝送路で信号を伝えることになっています。
SCSIが使われ出した頃は最大データ転送速度でのデータ伝送を行えるデバイスなんてあまりありませんでしたし、最高性能を出さなくてよいなら、パラレルポートに多少TTL ICで補助的な回路を追加して、強力なドライバ・レシーバでバッファリングする程度の回路でSCSIを実装することができました。細かいハンドシェーク手順なんかはすべてソフトウェアで実装するわけですね。ただし、不平衡型インターフェースの場合で両端に220 ohmで5 Vにプルアップされた終端回路を備えた110 ohm伝送線路を駆動する都合上、各信号には48 mAの流れ込み電流を許容するドライバが絶対に必要でした。
SCSIとマイクロプロセッサの間に入って回路を簡単にするLSIというのはすぐに出てくるだろうと思いましたが、48 mAの駆動回路をLSIに同居させるのはつらいので、LSI 1個に2個のバイポーラドライバICを接続するような形になるかと思っていたら、なんとNCRはドライバ回路まで同じチップに入れてしまった5380を出していて、驚きました。
5380はn-MOSプロセスのLSIです。通常、この手のLSIの駆動能力というのは3.2 mAがいいところだと思っていたら、18本のSCSIの信号を直接接続できるのですから。ただし、SCSIの状態遷移に伴って、数百mAというか1 A弱といった方が近いくらいの電流をパルス状に吸い込んだりしなくてはならないため、ちょっとトラブルの原因になりがちだったのか、改良CMOS版の53C80ではGNDピンを多数増設して共通インピーダンスを下げています。
内部レジスタはR0からR7までの8アドレス分、読み書きで役目が違うものがあるので13種類あります。SCSIのデータ転送に用いられるハンドシェーク手順も、原則的にソフトウェアで実装しなくてはならない、原始的なインターフェースICです。

NCR 5380
これがオリジナルのNCR製の5380です。えーと、これは実はMacintosh Plusの基板に付いた状態のもの。

Zilog Z8530
ZilogのZ5380はCMOSプロセスだけれども5380互換であって53C80互換ではありません。

AMD Am53C80

で、CMOS化された5380が53C80で、これはAMD製のPLCCパッケージ。DIPでは48ピンになってGNDが強化されるなど回路的にも改良が行われて、5380とはピン配置レベルから互換性がありません。ソフトウェアから見た使い方はほとんど同一ですが。

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