川村渇真の「知性の泉」

日本プロ野球への加盟料60億円の真の目的


当事者の本音は、分析で明らかにできる

 日本のプロ野球へ新しく加盟するのには、60億円もの多額のお金が必要となる。この加盟料は、新しく加盟するのを邪魔するために設けたものだと、多くの人が感じているだろう。ところが、加盟料を設定した側は、理由は別にあると説明している。短期間だけ加盟し、権利を高く売却するような行為を防止するためだと。
 外から見た感じと、当事者が説明する理由が異なる状況は、いろいろな分野で数多く起こっている。では、どちらが本当なのだろうか。また、もし当事者が悪い行為をしているとしたら、改善させられないのだろうか。
 実は、当事者の本音(真の目的)を明らかにする方法がある。対象となる行為や内容を分析すれば、かなりの程度で可能なのだ。さらに、その結果を突きつけて、当事者に改善を求める方法もある。そうした方法の基礎となる思考方法を、1つの例として紹介する。

まず先に、目的ごとの最適解を求めてみる

 今回の思考方法は、次のような考え方で成り立っている。考えられる目的ごとの最適解を求め、それらと現実を比べることで、現実が生じた真の目的を明らかにできる。現実の内容が、どの最適解に近いかで、隠れた目的を明らかにするのである。
 良くないことをしている人ほど、表向きに良い理由を挙げたがる。こうした表面的な理由だけを見ていても、本当の姿は明らかにできない。明らかにするためには、具体的な行動や規定内容を深く分析し、どんな意味や価値が込められているのか、判定するしかない。今回の思考例では、判定する方法の1つを用いている。目的ごとの最適解を用意し、そのどれと一番近いかを調べて、真の目的を明らかにする方法だ。
 この方法を用いると、相手の本音をある程度まで明らかにできる。場合によっては、驚くほど鮮明に見えてしまう。加えて、分析結果を当事者に突きつけ、改善を求める武器にもなり得る。使い方次第では、非常に有効な方法だ。
 今回の方法では、まず最初に、目的ごとの最適解を求める。考えられる目的としては「権利での金儲け防止」と「新規加盟の邪魔」の2つが挙がっている。これらの目的ごとに、加盟料に関する規定の最適解を求めてみよう。

権利での金儲け防止が目的だとしたら

 まず先に、加盟した権利を利用しての金儲け防止が目的なら、加盟料の規定をどうするのか考えてみる。加盟料以外の点も考慮すべきだが、説明を簡単にするために、ここでは加盟料だけ取り上げる。規定を作る際に考慮すべきなのは、主に次の3点となる。

・悪い加盟者への対処:金儲けに利用しようとしても、大きく損する
・良い加盟者への配慮:余計な損が発生しない
・加盟者の良し悪しを見分ける方法:恣意的影響を受けず、明確に判定可能

 防止目的を考えるときは、悪い側への対処ばかり考えがちだが、良い側への配慮も忘れてはならない。良い側が損しないように、規定内容を設計すべきだ。すべての加盟者に60億円も払わせるのなら、良い加盟者への配慮が欠けていると言わざるを得ない。
 当然ながら、良し悪しを見分ける方法も、明らかにする必要がある。今回の課題だと、もっとも分かりやすいのは加盟期間だろう。加盟期間が長いほど、権利での金儲けを目的とする加盟者の可能性が低くなるからだ。また、加盟期間で判断するのなら、誰かの恣意的な判断の入る余地もない。規定を作るためには、具体的な期間の値が必要だ。たとえば、最低でも10年間は加盟しないとダメで、5年以下なら完全に悪い加盟者だとしよう。この値から、加盟料の新しい規定を求めてみると、次のような内容が考えられる(加盟料の金額を同じにした理由は後述)。

・加盟期間が5年以下では、加盟料(罰金)が60億円
・加盟期間が6年以上では、1年ごとに加盟料が12億円減る
 (6年で48億円、7年で36億円、8年で24億円、9年で12億円)
・加盟期間が10年に達すると、加盟料を払わなくてよい

 加盟料を支払う時期も、よく考えて決めなければならない。良い加盟者の損が発生しないようにと。加盟するときに60億円を払うのであれば、良い加盟者への重い壁になり、新規参入を邪魔する規定だと思われかねない。普通に考えたら、脱退するときに払うべきであろう。
 別な考え方として、たとえば、60億円の一部だけを最初に支払ってもらい、10年後に返す規定を提案する人がいたとする。この場合は、支払った金額に十分な利子を付けて10年後に返し、借金して調達した場合でも損をしない配慮が必要となる。こうした損を生じさせないためには、多めの利子を払うしかなく、多めの分を誰かが負担しなければならない。こんな点まで考えると、脱退するときに支払う方法の方が、いろいろな点で問題が少なそうだ。

新規加盟の邪魔が目的だとしたら

 続いて、新規加盟を邪魔するのが目的の場合、加盟料の規定をどうするのか考えてみよう。思い付いた主な考慮点は、加盟を邪魔する方法と、その邪魔で得られたものの分配方法である。

・加盟の邪魔:新規加盟者の全員へ、大変な重荷を与える
・取得物の配分:邪魔する規定から得られたものを、自分たちが得する形で分配

 分配方法に関しては、少し説明が必要だと思われる。新規加盟を邪魔するような人々は、正義感のような志を持っていない。それだけに、邪魔で得られた取得物は、自分たちの都合の良いように配分しようとする。もっとも可能性が高いのは、自分たちで直接取ってしまう方法だ。既存の加盟者全員で平等に分けるというのが、可能性の高い方法となる。以上を整理すると、加盟料に関する規定としては、次のような内容が求められる。

・すべての新規加盟者に、加盟料60億円を払わせる。当然、1円も返さない
・得られた60億円は、既存の加盟者で平等に分ける

 この時点で、多くの人が気付いたに違いない。どこかで見たことがある規定内容だと。ここまでの説明で、現実の目的の判定結果は明らかだが、方法を説明する必要があるため、このまま続けるとしよう。
 実は、これほど目的が明確な例は他にないと思い、プロ野球の加盟料問題を取り上げたのである。もう1つ、今現在の大問題として話題になっていることも、取り上げた理由に含まれる。

それぞれの最適解と現実を比べたら、真の目的が分かる

 2つの異なる目的ごとに、それぞれの目的を達成するための最適解を求めた。次の作業は、現実の内容である加盟料規定が、どちらの目的にどれだけ近いか判定すること。今回の例では、どちらに近いどころか、新規加盟を邪魔する目的と完全に一致している。その結果、「加盟料規定の真の目的は、新規加入の邪魔」と判定できる。
 前述の最適解を求める際に、具体的な金額である60億円をそのまま用いたのは、最後の判定をやりやすくするためだ。金額などの具体的な数値を同じにすることで、異なる部分がより鮮明に見えてくる。こうした効果を狙って、具体的な数値はそのまま使うべきである。
 今回の例では、片方の最適解と完全に一致したが、そうでない場合は、もっと細かく比べなければならない。複数の要素に分け、要素ごとの近さを数値化する形で。少し面倒なので、今回は省略する。
 どの目的に近いかの判定に加え、どれだけ近いかも見逃してはならない点である。悪い方の目的に判定され、その目的の最適解に近いほど、判定対象が悪いことになる。最悪なのは、悪い目的の最適解と等しい状態だ。今回の加盟料のように。こうした規定自体も悪いが、それを決めた人々も同様に悪い。
 それと、今回の思考例では取り上げてない大事な点があるので、簡単に触れておこう。まずは、60億円という金額の根拠だ。これだけの大きな金額なので、その算出根拠を説明する責任がある。さらに、多額の金額を払わなければならない根拠も、合わせて説明する責任がある。実際には、どちらも説明されていない。おそらくは、真の目的が新規加盟の邪魔なので、説明できないのであろう。説明しようとすれば、悪い点を指摘され、真の目的がバレてしまうだろうから。

分析結果を当事者に突きつけ、改善を求める

 以上のような分析が終わると、当事者の真の目的が見えてくる。もし改善してもらいたいなら、途中の分析内容まで含めた分析結果を、当事者に突きつけるのが一番だ。
 当事者が良い人なら、分析結果を重く受け止めて、既存の規定を早急に改良するだろう。この場合、規定内容の悪さに当事者が気付かず、設定してしまった可能性が高い。だからこそ、既存規定の欠点を素直に認め、何の障害もなく改善へと進む。
 だが、現実はそう簡単に進まない。今回のように、邪魔が目的の規定を作るような人は、良い人の側には属さない場合が多い。おそらく、取って付けたような理由を言って、既存の規定を保持しようとするだろう。こうした行為も、悪い規定と同じく情けないものなのだが、本人達はなぜか気付かない。
 実は、この相手の対応というのが、“相手の真意を見極める上で”一番重要な要素となる。分析結果を知って改良するなら、良い目的の達成を目指していると分かる。逆に、改良をかたくなに拒む相手は、最初から悪い目的で作っていた可能性が極めて高い。こうした判定が出来るため、分析結果を当事者に突きつけることは、重要な意味を持つ。もちろん、最初は悪い目的で規定したものの、指摘されたことで改善する人もいるだろう。その場合は、改良という実利が得られたし、改良を決断したことで相手の反省を確認できたために、許してやって構わないと思う。ただし、改良すると言いながら、中身の伴わない改良だけは見逃してならない。
 当事者が改善しない場合は、世間に訴えるしかないだろう。今回の加盟料問題なら、プロ野球選手などの関係者、プロ野球ファン、マスメディア、世の中を良くしたい一般の人々などに。これらの人の力を結集して、当事者に圧力をかけるしか、改善させる方法はなさそうだ。
 これらのうち、マスメディアが一番重要な役割を持っている。それを強く認識して、圧力をかけ続けなければならない。日本のマスメディアの場合は、あまり期待できないが、こうした話題性の高い問題だけでも、何とか役割を果たしてほしい。

今回の方法:目的ごとの最適解を求め、それと現実を比較して判定する

 今回の思考方法は、いろいろな対象に適用できる。とくに、表向きは良いことを言っているのに、実際には正反対の行為を続けている人の、本当の姿や目的を明らかにするのに。今回のような思考方法を用いると、現実の姿が明らかになる。次のような相手の分析に利用するとよいだろう。

・言ってることと実際の行動が一致しない人
・表面(おもてづら)だけ良い感じさせる人
・いろいろな面でセコイと感じさせる人
・良い目的で作った仕組みやルールで、現実には機能していないもの
・本来の目的で役立っていない組織や人材

 最適解を求める際には、最適解を一気に出そうとせず、考慮すべき点を先に挙げて、それが適切なのか評価する。考慮点が整理できたら、考慮点ごとの最適な状態を求め、それを組み合わせて最終的な最適解に作り上げる。このように2段階で考えると、第三者がレビューすることも可能となり、悪い思考内容になりにくい。もし課題が難しい場合は、3段階以上に分けて考える。
 この思考方法の一番の良い点は、真の目的などが明らかになる点だ。明らかになった目的は、普段に何となく感じていることと一致している場合が多い。その意味で、感じていることを明確に示してくれる道具だともいえる。この方法を少し砕けた感じで言い表すと「口では良いことばっかり言ってても、本当の姿(目的)はこうだよと明らかにしてしまう方法」となる。その効果はかなり大きいため、悪いことをしている人にとっては、絶対に適用してほしくない方法の1つだ。

(2004年9月9日)


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